塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

杉田川

日程:2005/10/15

概要:安達太良山の杉田川を安達太良温泉の奥の遠藤ヶ滝から最後まで遡行。奥岳登山口へ下山。

山頂:---

同行:かっしい / デチ / まっきー / ナカジ / オグ / てっしー

山行寸描

▲下流の美しいナメ。上の画像をクリックすると、杉田川の遡行の概要が見られます。(2005/10/15撮影)
▲美しい2条滝。右から回り込むように簡単に登れる。(2005/10/15撮影)
▲終盤の10m滝。こことこの直後のちょっとシビアな3m滝で滝場は終了。(2005/10/15撮影)

職場のクライミング仲間と10月中旬に紅葉の沢へ行こうという計画はかなり前からあったのですが、当初予定していた白毛門沢は雨模様では鉄砲水が怖いし予想外に多くなった人数ではリスクが大きいので、交通費はかかりますがいろいろな点で安全と思われる安達太良山の杉田川に行くことにしました。始発のやまびこに乗って郡山へ、さらに在来線で二本松に降り立って、タクシー2台で安達太良温泉の奥の遠藤ヶ滝を目指しました。

2005/10/15

△08:45 遠藤ヶ滝駐車場 → △09:35 遠藤ヶ滝 → △12:10-45 2条の滝の上 → △13:30 二俣 → △15:35-16:00 登山道 → △16:15 分岐 → △16:40-50 ロープウェイ山頂駅 → △18:00 奥岳登山口

1台も駐車していない遠藤ヶ滝駐車場に降り立ち、女性陣はトイレも使って簡単に身繕い。そこからしっかりした道を歩いてしばらく行ったところで沢筋に下りギアを身に着けて遡行開始となりましたが、そこは遠藤ヶ滝のずいぶん手前で、実際にはすぐに道に合流し石室や遠藤ヶ滝まで普通に歩いていけました。

橋を渡ったところの上流側にきれいなナメが広がっており、そこから改めて入渓です。しばらくナメの感触を楽しんだ後、ゴーロ、ナメ、樋状の滝、またゴーロときて、やがてはっきりとした落差をもった5m滝が現れました。ここは左の階段状を難なく登ることができ、抜けたところには意味不明の短い鎖が据え付けられています。続いて釜をへつったりしながら先に進むと7m滝。これも左からですが、こちらはちょっと手応えがありそうなのでロープを出すことにしました。経験豊富なてっしーにビレイを頼み、出だし下半身を水につけてから水流沿いに左側を登ると、途中に残置ピンがあってランナーをとることができました。そのままさして難しいところもなく上に抜けましたが、後続を確保するための支点がなく、手持ちのハーケンを気休め程度に1枚打ち込んでてっしーに合図を送りました。システムは毎度おなじみの、ロープの真ん中に小さいループを作りそこに安全環付きカラビナをかけてハーネスにとめ、1人が登ったらこれを外して下からロープを引き戻すというやつですが、この滝では持参した40mロープがぎりぎりの距離だったようです。ともあれこの仕組みでわいわい言いながら7人が抜けましたが、この間、誰も追いついてきません。どうやら天気予報が悪かったこともあって、今日この沢は我々の貸し切りのようです。

この滝を越えて皆には先行してもらい、私はロープを畳みハーケンを回収していましたが、見ると一同は次の滝のガレた左岸を巻き上がろうとしたものの、スラブ壁にぶつかって行き詰まり戻ってきます。では、というわけで左側のバンド状を私が先行してみましたが、外傾したバンドが微妙にヌメっている上に脆いところもあり、いったん戻ってロープを結び、先ほどと同じシステムで突破しました。リード中は1、2歩気合を要する場所もありましたが、てっしーを除けば沢登りが初めて〜3回目程度の皆も、多少ひきつりながらちゃんと抜けてきてくれました。さらにしばしの歩きでまたしても滝。今度の滝は落差10mほどですが、左壁の階段状をトラバース気味に登ると、落ち口の近くに鉄梯子がぶら下がっています。この「ぶら下がって」というのがくせもので見るからに不安にさせられるのですが、ここも皆に勇気を出してもらって無事に突破。中でもオグは梯子の上を通りながら梯子には手足をかけずに抜ける巧みなラインどりを見せてくれていました。

次の滝は釜をもった低い滝。見渡せば左の笹の斜面から簡単に巻き上がることができるのですが、ここで何を思ったかてっしーがいきなり釜にダイブ!そのまま平泳ぎで釜の奥まで達し、一気に登るのかな?と思いきや、これもなぜだかこちらに戻って来てしまいました。この意味不明のパフォーマンスに皆はあっけにとられつつも、こりゃ泳ぐしかないな、いや泳いでみたい、という前向きの空気が漂い始めます。とりあえず最年長(というか他の全員よりひと回り以上年上……)の私は野蛮に釜に飛び込むことはせず、右側から腰の上までつかってへつるように回り込み、アンダーのホールドをつかってスラブにじわじわと乗り上がって抜けました。ところが続くかっしいは手本におかまいなしに釜の対角線を泳ぎ、そのまま水が落ちているあたりのガバホールドをむんずとつかんで強引に身体を引き上げてきました。「冷たい〜!」と大騒ぎしながら上がってくるかっしいに大笑いした後、てっしー・まっきー・オグの順に次々に釜に身を投げてきましたが、さすがに上品な(?)ナカジとデチは「(こっちから登ってもいい?)」と巻き道を指差しているので優しく許可。

さらに出てくる2条滝は明るいブナ林と笹に囲まれた開けた釜に右上から水流を落とし、この沢でも最も美しい滝かもしれません。この滝を右から上がって簡単に落ち口へトラバースして抜けたところで時刻は12時すぎ。気が付けば3時間余りもノンストップ(といってもロープを出したところでは登っている者以外は休んでいることにはなるのですが)で行動しているので、大休止をとることにしました。ツェルトを出して女性陣の膝掛けがわりに使ってもらい、お湯を沸かしてインスタントコーヒーを回し、各自持参の行動食でエネルギーを補給。事前の天気予報では終日弱い雨模様ということでしたが、どうやらここまでほとんど雨には降られずにすんでいるのはラッキーです。

遡行再開。ここから先は二俣まで大きな滝はありませんが、釜をもった小さな滝が連続します。夏なら積極的に水に飛び込んでいくところかもしれないし、だからこそこの沢は夏向きということが言えるのかもしれませんが、水を避けて釜の左右にラインを探しながらへつるのもなかなか楽しく、いずれの釜も落ちてもどうということもないので皆に適当に先頭を受け持ってもらいながらどんどん進みました。それぞれ、人が辿ったラインではなく自分の五感でホールドを探し、適度のスリルを味わいながら前進する面白さにどんどんはまっていくのを見ると、この沢に連れてきた甲斐があったというものです。

ひたすらへつりで滝を越えていきようやく顕著な二俣に到着しましたが、ペースが遅いのでここは休むことなく右へ進みます。さらに2段になったS字状の滝を、下段は右から、上段は左からと水流に沿うようにして登ると、長いゴーロ地帯になりました。さすがに皆も疲れてきたらしく口数が少なくなってきたので地形図に記されている仙女平へのエスケープ道に逃げることを考えましたが、どうやらいつの間にかその印を見逃したらしく、結局当初の予定通り最後まで詰め上がることになってしまいました。

周囲のブナ林が明るいのを心の支えにしながら、体力を奪うゴーロ帯、赤い川床、白い崖などを経て二俣から1時間で右上から高さのある滝が落ちてくる場所に到着しました。この10m滝は右の笹の斜面から簡単に巻き上がれますが、次の3mほどの滝がちょっと曲者。巻くとすれば10m滝に引き続いて右斜面のトラバースか、いったん沢に降りて左の密笹を漕ぎ上がるかですが、正面の左壁中段におあつらえ向きのバンドが横に走っていてチャレンジ精神をくすぐります。リュックサックを背負ったまま左端からフリーで1mあまり上がり、そこから右に狭いバンドをトラバースして落ち口に近づいてみると、どうやら手を掛けるところはあるものの中継するフットホールドが外傾ヌメヌメでイヤな感じ。せめて空身になっておけばよかったと思いましたが後の祭りで、しばらく逡巡した上で意を決してえいやで越えました。すぐ上の倒木にスリングをかけてエイト環で確保の態勢を作り、上からロープを投げ下ろして皆にも登ってきてもらいましたが、おそらくここが遡行中最もスリリングな場所だったでしょう。

この滝を越えればもう滝はありません。地形図でも等高線の間隔が開いてきている通り傾斜はどんどん緩んでいき、廊下のような箇所を経て水が涸れ樹林帯の下の薮漕ぎに突入ですが、笹は極めて薄く歩行にはほとんど支障がありません。それよりも最後尾を歩いていた私がぎょっとしたのは我々の隊列の20mほど右手の笹が不自然に揺れていることで、その揺れの大きさや移動の速さからしてけっこう大型の動物が笹の下にいるのは間違いありません。そいつは我々の後方に回り込もうとしている様子ですが、猿ならともかく熊だったら困ります。内心ビビリモードに入りながら、巧みに進路を選んでゆく先頭のてっしーから隊列があまり伸び過ぎないよう声を励ましてしんがりをつとめました。

ほとんど平坦になったところでコンパスを見て右寄りに軌道修正するよう指示を出すと、ややあって登山道に合流。薮漕ぎは15分ほどだったと思いますが、幸いくだんの動物は我々に向かってくることはなく、最後は90度の角度で道にぶつかったからほぼ完璧なルートファインディングだったと言えそうです。ここで大休止をとって沢装備を解除し、行動食を口に入れてからいったん登山道を上へと上がります。するとその先、トラバースするように道がつけられた箇所からは紅黄葉に染まる斜面を見下ろすことができて一同から歓声が上がりました。

それにしても気になるのはゴンドラリフトの最終運転時刻です。さすがにこの人数で3回もロープを出したので想定以上の時間がかかっており、登山道に出た時点で安達太良山頂へのピストンは諦めていましたが、分岐点についてそこに書かれた案内を見てみるとゴンドラリフトの最終便は16時30分。あと15分しかないのにコースタイムは25分……。

それでもがんばってスピードを上げて下ってはみましたが、やはりゴンドラリフトには間に合いませんでした。仕方なく山頂駅の前で小休止の後、登山道の1時間の道のりをてくてく下ることにしましたが、途中からヘッデン歩行になるのは必定です。まぁ、貸し借り含めて全員分のヘッドランプがあることは確認済みだし、ここまでくればそれも楽しい経験になることでしょう。

途中の展望台からは勢至平方面の雄大な展望の広がりに目を奪われたものの、その先の下降路はぬかるんでいるところもあって若干歩きにくく、スキー場のゲレンデに入るあたりからヘッドランプのお世話になりました。それでも最後は全員無事に奥岳登山口に下り着き、真っ暗な中、お互いの健闘を讃え合って握手を交わしました。

この後、あだたら高原富士急ホテルの風呂に入ってさっぱりしてからタクシーを呼んで二本松駅に出て、駅前の居酒屋で打ち上げました。郡山からは新幹線に乗り継ぎましたが、車中で全員爆睡したのは言うまでもありません。

今回、直前まで悩んだのが天気予報が告げる天気の悪さ。どうやら雨模様とのご託宣に関係者の間で次のようなやりとりが交わされました。

て「雨女はだれだ……」(←自分を棚にあげて他人に振る人)
ナ「雨女は私ではありません」(←きっぱり断言)
デ「案外と私かも、10日は雨の中でリンゴ狩りしてきました」(←弱気)
か「いいえ、おそらく私が雨女でしょう。てっしー、そう言いたいんでしょう?」(←逆ギレ)

しかし、そんな中で次のような回答が。

オ「おいらかも。ちなみに過去の北海道旅行では、移動中に限り雨が降っていたっけな〜。そして目的の場所に着くたびに、雨は止んでいた。きっと、現地に着くと晴れるんだ」

そして結果は、見事に遡行中は天気が回復して青空すら広がり、下山してひと風呂浴びて外に出てみるとしっかり雨が降っているという魔法のような成り行き。これには一同心底驚きオグに感謝したのでした。