NHK交響楽団〔チャイコフスキー〕

2018/12/12

NHKホールでNHK交響楽団の定期演奏会。指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ。クリスマスも間近とあって、ホールの前のアーク・カラヤン広場には大きなクリスマスツリーが飾られていました。

その季節感通り、この日の曲目はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」です。この曲の調性の構造については以前『永遠の「白鳥の湖」』という本で学習したことがありますが、そこまで深く意識しながら聴くのは率直に言って私には無理です。ここはあれこれ考えずに、バレエの進行を脳裏に浮かべながら鑑賞することにしました。

チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71

あの気分を浮き立たせる「序曲」のメロディーが始まると、そこはもう「くるみ割り人形」の世界。パーティーがある館へ向かう人々の姿が目に浮かぶようです。

第1幕はジルバーハウス家の客間が舞台。うきうきした気分の「クリスマスツリー」〜管楽器のフレーズがおなじみの「行進曲」〜「こどものギャロップ」〜怪しい雰囲気の「ドロッセルマイヤーの登場」……と続きます。やがて時計が鳴って(時報は黒いコイル状の金属を金槌で叩いたもの)日付が変わると、くるみ割り人形とねずみの王様の戦いになり、ここでは特に打楽器が大活躍。最初の小太鼓は下手一番前に孤立して置かれており、太鼓奏者ではなくシンバル奏者がわざわざ出てきて叩いていましたが、そのほかにもティンパニ、小太鼓兼鉄琴、大太鼓兼ドラ兼効果音(板を打ち合わせる鉄砲やラチェットによるギリギリ音)、シンバルといった具合に打楽器奏者がずらりと並んで強靭なアクセントを繰り出していました。

人形が王子になってからのパ・ド・ドゥの場面で用いられる「情景(松林)」の弦が、ゆったりしたリズムでとりわけ美しく、続いてNHK東京児童合唱団の44人の少女たち(若干名男子)による「雪のワルツ」の合唱がすてき。ここで前半の演奏が終わり、休憩に入ります。

第2幕はクララが魔法の城へ入っていく場面を思わせるワルツ「砂糖の山の魔法の城で」。以下、それぞれに異国情緒豊かな曲が次々に繰り出されるディヴェルティスマンが続きます。スペイン、アラビア、お茶とどの曲も好きなのですが、とりわけ「トレパック」はオーケストラ自身が踊っているような躍動感を感じました。さらにモーリス・ベジャール版のフェリックスのソロを思い出す「あし笛の踊り」に続いて、素晴らしい疾走感を伴う「ジゴーニュおばさんとピエロ」。おやこれは聴いたことがないぞ?と思ったのは勘違いで、ABTによるアレクセイ・ラトマンスキー版で「ジンジャーおばさん」として聴いていたようです。その後、「花のワルツ」から「パ・ド・ドゥ」(チェレスタの音色が可愛い「こんぺいと糖の精の踊り」を含む)まで一気呵成に聴かせて、「終わりのワルツと大詰め」の最後に第2幕冒頭の「砂糖の山の魔法の城で」のメロディーを遠く回想するように(解説のオルゴールのような響きという表現が秀逸)再現して、美しい余韻を残しながらも堂々と演奏を終えました。

「くるみ割り人形」はこれまでバレエの公演で何度も聴いているのですが、こうして演奏会形式で聴くのは初めて。どれも特徴的な旋律をもつ曲ばかりなので、それぞれの曲が用いられる場面を思い浮かべることは容易でしたが、さすが大編成のオーケストラによる演奏だけに音の広がり・膨らみが違い、楽曲そのものの素晴らしさを再認識しました。一方、たとえば第2幕のグラン・パ・ド・ドゥのパートで、バレエ公演だったらここで拍手喝采が湧き上がるところなのに!と思いつつ曲間を静かに過ごす場面もあって、これはこれで少々フラストレーションを感じます。

ともあれ、今年はバレエの「くるみ割り人形」を年末に観る機会を作れなかったので、こうしてチャイコフスキーの曲をじっくり聴けたのは幸福なことでした。