NHK交響楽団 / アリス=紗良・オット(ラヴェル / プロコフィエフ)

2018/11/09

NHKホールで、NHK交響楽団の定期演奏会。指揮:ジャナンドレア・ノセダ、ピアノ:アリス=紗良・オット。指揮者のノセダ氏は1964年ミラノ生まれ。ワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督の地位にあるほか、オペラでも実績があり、N響とは2005年以来の共演歴があるそうです。

NHKホールに足を運ぶのは、かなり久しぶり。9月25日のアリス=紗良・オットのリサイタルからのつながりでこの演奏会のチケットを購入したのですが、もちろんプロコフィエフの方もバレエつながりでなじみがあり、この日は二曲とも期待のプログラムでした。

まずはラヴェル晩年の作品である「ピアノ協奏曲 ト長調」から。ステージ上の正面にはピアノが置かれ、やがて登場したオーケストラも比較的小編成です。そしてアリス=紗良・オットも、すらりとした薄茶色のドレス姿で下手から姿を現しました

ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
急緩急の3楽章形式で20分余りの短い作品。打楽器奏者による鞭のような音から始まる第1楽章は、「アレグラメンテ(=明るく、楽しげに)」とされるようにキラキラと賑やかな冒頭の描写が、どことなくストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を連想させます。その後いったん落ち着いてからピアノの軽快な動きにオーケストラが追随しますが、アリス=紗良・オットが裾からにゅっと出した素足をぱたぱたさせたり肩を上下させながらリズムをとるのが見た目にも躍動的。何やら映画音楽によく出てきそうな金管の主題が繰り返しあちこちに出てくるのがポップな感じです。一転して第2楽章はしっとりとしたピアノの独奏から始まる緩徐楽章。効果音的に高音域で行き来するピアノの向こう側で柔らかな旋律を奏でるイングリッシュ・ホルンのソロと、これらを包み込む弦が綺麗。そして金管楽器の力強い和音と小太鼓により開始されるスピーディーな第3楽章では、管楽器がユーモラスなポルタメントを聞かせ、打楽器も積極的に参加しておもちゃ箱をひっくり返したような躍動が感じられます。最後に「ゴジラ」のテーマを連想させる動機が繰り返されてドン!と終わり。指揮者もピアノもオーケストラも演奏を楽しんでいるような、生き生きとした演奏でした。
鳴り止まない拍手に導かれてピアノのアンコールは、まずサティの「グノシエンヌ第1番」。緩急と強弱のコントラストがとりわけ強調されており、ある意味サティらしくない演奏かも。それでも鳴り止まない拍手にアリス=紗良・オットは、コンサートマスターにひと声かけてから再びピアノに向かい、指先を合わせて「ちょっとだけね」という仕草を客席に向けるとショパンのワルツを弾いてくれました。

休憩時間中にロビーに出て、あらためて物販を確認。これがなかなか面白く、軽食にサンドイッチは普通ですが、「助六寿司」と「うなぎ巻き」というのはあまりないパターンでは?さらにお菓子コーナーでは巨大ボンタンアメをはじめとするアメ類が売られていましたが、演奏前に舐めるだけならほんの一粒二粒あれば足りるのになぜ大人買いをさせようとするのか、不思議です。その異形の姿に首をひねっているうちにNHKホール名物のウルトラQを思わせる不気味な予鈴が鳴ったため、謎は謎のままに座席に戻りました。ステージ上ではピアノが引き続き下手側に置かれているほか、チェレステと各種打楽器群が左手後方に展開し、弦も管も先ほどの倍以上の人数に増えています。

プロコフィエフ:バレエ組曲「ロメオとジュリエット」(抜粋)
バレエ用に作曲した52曲の楽曲群をもとにプロコフィエフ自身が演奏会用にまとめた組曲は第1番から第3番までありますが、この日の演奏は指揮者による抜粋で曲順も物語の進行とは異なるもの。プログラムの記載によれば選曲は次の通りで、演奏時間は56分と作曲者による組曲よりも長めですが、バレエファンとって一番なじみのある「バルコニー」は含まれていません。
モンタギュー家とキャピュレット家 / 少女ジュリエット / メヌエット / 仮面 / 踊り / 朝の歌 / 修道士ロレンス / ロメオとジュリエットの別れ / 群衆の踊り / 朝の踊り / アンティル諸島から来た娘たちの踊り / タイボルトの死 / ジュリエットの墓の前のロメオ / ジュリエットの死
金管による不穏な不協和音とその合間を埋める沈み込むような弦。そして大編成のパワーを全開にした有名な旋律(騎士たちの踊り)にのっけから別世界へ引き込まれます。しかしその後しばらくは、少女らしい性格描写の「少女ジュリエット」、華麗な「メヌエット」、ユーモラスなフレーズが印象的な「仮面」など明るい雰囲気の曲が続き、指揮者はそれぞれのリズムに応じて大きく身体を動かし、あるいは次に主役となる楽器群を指差したりしてオーケストラを牽引します。やがて低音の管と弦が緩やかに主題を奏する「修道士ロレンス」が曲の流れに落ち着きを与えた後、「ロメオとジュリエットの別れ」が初めは静かに、中間部では激情を垣間見せて、再びしんみり。一転して気分を引き立てるようにアップテンポな舞曲を二曲続けてからムーディーな「アンティル諸島」が短く演奏された後、急転直下の「タイボルトの死」で打楽器活躍の剣戟がぐいぐいと展開し、タイボルトの葬送の場面が息を飲むほどの強烈なリズムと最大音量で演奏されて、その迫力に圧倒されました。そして最後は、悲痛な「ジュリエットの墓の前のロメオ」から弦の響きがどこまでも美しい「ジュリエットの死」へつながって、魂がゆっくりと天上へ昇ってゆくように静かな終曲。

とにもかくにも、素晴らしい演奏でした。N響の演奏力には定評がありますが、指揮者の力も高かったのかな?普段オーケストラの演奏を聴く機会があまりないためにこの日の演奏の良し悪しを判断することができないのですが、私の前の列に座っていたご夫婦も「弦がかっこいい!」「この二週間で三つオーケストラを聴いたが今日が一番いい」と興奮気味でしたから、やはりよい演奏だったのでしょう。もちろん自分としても十分に満足。アリス=紗良・オットのピアノもエネルギッシュで素敵でしたが、大編成の楽器群がぐいぐい(あるいは切々と)迫るプロコフィエフの演奏には強い感銘を受けました。

なお、これを機にN響のコンサートのスケジュールを見てみると、いずれの公演も意外にリーズナブルなお値段ですし、なじみのある曲もプログラムによく顔を出している様子なので、今後は折々にN響も聴いてみようと思った次第です。