第15回世界バレエフェスティバル

2018/08/08

第15回世界バレエフェスティバルのBプロを、東京文化会館大ホールで観ました。18時開演、終演は22時20分。三年に一度のこのイベントを前回はシャモニー行きのために見逃しているので、今回観るのは2012年以来六年ぶりということになります。

台風が近づく中、会場へ。予報ではこの日の深夜に台風の影響が強まることになっていますが、果たして終演後に帰宅できるのでしょうか?

会場には、白鳥をかたどった彫り物とフラワーアレンジメント。そして、この日の演目は以下の通り。

演目 ダンサー 振付
「眠れる森の美女」 オレシア・ノヴィコワ
デヴィッド・ホールバーグ
マリウス・プティパ
「ムニェコス(人形)」 ヴィエングセイ・ヴァルデス
ダニエル・カマルゴ
アルベルト・メンデス
「ソナチネ」 レオノール・ボラック
ジェルマン・ルーヴェ
ジョージ・バランシン
「オルフェウス」 シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ
ジョン・ノイマイヤー
ローラン・プティの「コッペリア」 アリーナ・コジョカル
セザール・コラレス
ローラン・プティ
「シンデレラ」 ドロテ・ジルベール
マチュー・ガニオ
ルドルフ・ヌレエフ
「HETのための二つの小品」 タマラ・ロホ
イサック・エルナンデス
ハンス・ファン・マーネン
「白鳥の湖」
  第三幕のパ・ド・ドゥ
アシュレイ・ボーダー
レオニード・サラファーノフ
マリウス・プティパ
「椿姫」
 第二幕のパ・ド・ドゥ
アリシア・アマトリアン
フリーデマン・フォーゲル
ジョン・ノイマイヤー
「ロミオとジュリエット」
 第一幕のパ・ド・ドゥ
メリッサ・ハミルトン
ロベルト・ボッレ
ケネス・マクミラン
「ジュエルズ」
 ダイヤモンド
ミリアム・ウルド=ブラーム
マチアス・エイマン
ジョージ・バランシン
「マノン」
 第三幕のパ・ド・ドゥ
アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー
ケネス・マクミラン
「アポロ」 サラ・ラム
フェデリコ・ボネッリ
ジョージ・バランシン
「椿姫」
 第三幕のパ・ド・ドゥ
アンナ・ラウデール
エドウィン・レヴァツォフ
ジョン・ノイマイヤー
「じゃじゃ馬馴らし」 エリサ・バデネス
ダニエル・カマルゴ
ジョン・クランコ
「ヌレエフ」
 パ・ド・ドゥ
マリーヤ・アレクサンドロワ
ウラディスラフ・ラントラー
ユーリー・ポソホフ
「アダージェット」 マリア・アイシュヴァルト
アレクサンドル・リアブコ
ジョン・ノイマイヤー
「オネーギン」
  第三幕のパ・ド・ドゥ
アレッサンドラ・フェリ
マルセロ・ゴメス
ジョン・クランコ
「ドン・キホーテ」 マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン
マリウス・プティパ

指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス / 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 / ピアノ:フレデリック・ヴァイセ=クニッテル(「ソナチネ」「椿姫」)

自分のいる三階正面席から見ると両翼の三階席以上が空席がちなのが若干気になりますが、定刻になってホール内の照明が落ち、ジャコモ・マイアベーアの『戴冠式行進』(オペラ『預言者』より)の演奏が始まると浮き立つ気分が場内に満ちてきます。以下、例によって備忘がわりの一言コメント。

眠れる森の美女

6年前は「ドンキ」を踊ったマリインスキー・バレエのオレシア・ノヴィコワが、ABTのデヴィッド・ホールバーグのサポートを受けて今回は「眠り」。柔らかいアームスが綺麗でしたが、オケとはテンポ感が合わせにくそうだったような?

ムニェコス(人形)

床に落ちる四角い白色光に格子の影があるので、これは窓から差し込む月光。その光を浴びる女の子の人形がまさに人形振りでコミカルなダンスを踊った後、そこに立ち尽くしていた制服姿の男性の人形を月光の中に押しやると、こちらも命を得たように高速回転を始め、ついでピアノ曲に乗って一緒に情愛に満ちたダンスを踊るものの、やがて上手奥からオレンジ色の光(太陽)が斜めに差し込み、月光が消えてゆくにつれて二人の儚い恋も命も失われてゆくという悲しいストーリー。2006年の「ドンキ」での圧倒的なテクニックが印象的だったヴィエングセイ・ヴァルデスの一味違う面を見たような気がします。

ソナチネ

舞台下手で演奏されるモーリス・ラヴェルの「ピアノのためのソナチネ」に乗って、シンプルながらゆったりした衣装の男女が、曲の進行につれて伸びやかに、軽やかに、さらには速さと熱気を加えて舞台上を風のように踊り続ける美しい作品。特に最後の第三曲でははっとするような回転が混じり、最後は二人が逆方向に回りながらマネージュして両袖へ消えてゆくと大きな拍手が湧きました。バランシンの作品には苦手意識が強くあるのですが、もともとラヴェルのピアノ曲が好きなせいもあってか、この「ソナチネ」は例外的に楽しめました。

オルフェウス

暗い舞台の中央に白色光、ヴァイオリンを持つ黒服の男=アレクサンドル・リアブコ。内省的なダンスが続くうちに背景の幕が半分上がり、そこから放たれる白い逆光の中から妻=シルヴィア・アッツオーニが現れて、冥界に囚われた妻を追うオルフェウスの物語が始まります。途中でオルフェウスがサングラスをかけるのは、妻を見てはならないということを示しているのか?多様な音楽、照明の効果的な活用、一瞬たりとも緊迫が解けることのない、いかにもノイマイヤーらしい深刻な演劇性をもったバレエ。

コッペリア

「ローラン・プティの」と冠されている通り、パリの下町を舞台にしたかのような洒落た感じのコッペリア。芝居心が感じられて、それでいてアリーナ・コジョカルのフェッテはキレキレ、セザール・コラレスの跳躍は力強く、サポーテッド・ピルエットの回転の速さに目がくらみます。

シンデレラ

ヌレエフ版。映画界に憧れる少女と銀幕スターの物語という設定だそうですが、ドロテ・ジルベールのかわいい髪飾りと途中で吹き込まれる長いショールのような布がわずかにそうした雰囲気を示す程度で、プロコフィエフのたおやかな音楽に乗って流れるようなリフトや軽やかなステップが素敵に美しい作品。

HETのための二つの小品

「HET」とはオランダ国立バレエ団のこと。共に薄い黒衣を着用した迫力あるタマラ・ロホと負けじと対峙するイサック・エルナンデス。エルナンデスがスピーディーなダンスを誇示する間ロホは腕組みして睨みつけていますが、自分の番になると負けじと回り出し、弦の速い動きの上で戦っているよう。しかし、途中から触れ合いが生じ、一進一退の距離感の最後に、二人はようやく抱き合ってエンド。タマラ姐さんの貫禄がぴたりとマッチしていました。

白鳥の湖

おなじみの第三幕のパ・ド・ドゥ。アシュレイ・ボーダーの黒鳥はいかにも悪の存在感があり、グラン・フェッテでは1-1-2の「2」のところで両腕を頭上に差し上げる大技、レオニード・サラファーノフはグランド・ピルエットの代わりにマネージュで大きな跳躍を見せてくれました。

椿姫 第二幕

舞台上には白く小さい丸テーブルと二脚の白い椅子。二人の衣装もピアノの鍵盤のようにモノトーンで、アリシア・アマトリアンの金髪がひときわ豊かに引き立ちます。ショパンの曲に乗って、全編これ恋する男女の情愛を歌い上げるダンスになっており、ここでのマルグリットは娼婦の中の聖性が抽出されて純粋に恋する乙女という感じ。そのどこかに悲劇の結末への予感を織り込んでいたのかどうか、三階席からでは遠くてわかりませんでした。

ロミオとジュリエット

ここまで装置らしい装置はありませんでしたが、さすがにこの場ではバルコニーあり。超有名な場面ですが、ロベルト・ボッレの身体がデカすぎ、メリッサ・ハミルトンも官能性が強くて、なんだか自分が思っているロミジュリの世界観と違うような気がします。扇風機のような回転、ビシッと決まる片手リフト、アスレチックのような二人の演技に煽られたのか、その逆なのか、オケの演奏も少々テンポが速かったように思いました。

ジュエルズ

銀ラメきらきらのミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマン。先日の「ドン・キホーテ」のコンビですが、この二人が完璧に踊っても見せ場らしい見せ場が見出せず、やはり「ジュエルズ」(というよりバランシン)は苦手。

マノン

大量のスモークの中で始まったアリーナ・コジョカルとヨハン・コボーのペアによる「沼地のパ・ド・ドゥ」。ヨハン・コボー、大丈夫なのか?と心配していたのですが、信頼感抜群のカップルだけに飛び込んだマノンを投げ上げて空中で回転させる大技もそつなくこなされて、短い時間の中でしたが、強く胸に迫る悲劇を作り上げました。

アポロ

竪琴を手にしたサラ・ラムと気だるげに椅子に座るフェデリコ・ボネッリ、これもバランシン……と思ったものの、ボネッリの力強く、それでいてバネのある動きは見応えあり。アントルシャの速さには驚きました。異次元の神話世界。

椿姫 第三幕

ショパンの「バラード」の演奏に沿って、既に死に至る病を患っているマルグリットと、そうとは知らずマルグリットの「裏切り」に傷つくアルマンとの狂おしい感情のぶつかり合い。アンナ・ラウデール(マダム・ムシュカート!)とエドウィン・レヴァツォフ(天国の門番)のハンブルグ・コンビでしたが、一本調子に過ぎた気もします。それにしても、先ほどの「椿姫」第二幕もそうでしたが、どうしてピアノを下手の袖に隠してしまうのか。

じゃじゃ馬馴らし

エリサ・バデネスとダニエル・カマルゴの、理屈抜きに楽しい一幕。のっけから好戦的に威嚇するバデネスと、彼女にひっぱたかれたり一本背負いをくらったりしながらも明るさを失わずにちょっかいを出し続けるカマルゴ。合間に飛びだすカマルゴの跳躍や回転の大きさ・速さで観衆の拍手を集めながら、徐々にバデネスが構える拳の力が抜けてきて二人の身体が接近してゆき、曲調が優しいものになる中で親密なリフトへ。最後はそれぞれ短いソロを見せてから、一緒に踊ってハッピーに終わります。

ヌレエフ

元はルドルフ・ヌレエフの生涯を描く全二幕のバレエから、パ・ド・ドゥ。どういう場面を描いたものかはわかりませんでしたが、一組のダンサーたちがひたすら緊迫したダンスを踊り続け、最後に二つのスポットライトに分けられて女性が男性に手を差し伸べて終わる、なんとも凄い作品でした。

アダージェット

マリア・アイシュヴァルトとアレクサンドル・リアブコ、振付はノイマイヤー。マーラーの交響曲第五番第四楽章を用いたバレエと言えばやはりモーリス・ベジャールのそれが思い起こされてしまいますが、どこまでも内省的なあちらと異なり、こちらは二人であることで得るものと失うもののそれぞれの重みを考えさせる作品。弦とハープに編成を絞ったオーケストラによる生演奏での「アダージェット」に乗り、暗い舞台上に白い男女のダンスが流れるように続くさまは美しいものでした。

オネーギン

今回のフェスティバルのキラーコンテンツは、まさかのアレッサンドラ・フェリ(55歳)。2007年に一度引退したものの2013年に舞台に復帰し、世界バレエフェスティバルには12年ぶりの参加だそうです。遠目に見てもさすがに妖精というわけにはもういかないけれど、高い演劇性と一貫して美しい足の甲に魅了されました。踊り終えた後にリスペクトの拍手が鳴り止まず、唯一、二度カーテンの前に出てきました。

ドン・キホーテ

最後はマリア・コチェトコワとダニール・シムキンのペアで「ドンキ」。二人とも元気溌剌でホール内をヒートアップさせたところで、シムキンが背面跳躍マネージュから540の2連続。軸がまったくブレないグラン・フェッテと速さのあるグランドピルエットの応酬で締めくくってくれました。ま、本当はシムキン自身もこの飛び道具的な扱いは終わらせたいと思っているのではないかと思うのですが、どうなんでしょうか。

これも毎度おなじみ、豪華絢爛の「アポテオーズ」で終演となって、満足感に包まれながら会場を後にしましたが、それにしても今年は怪我のために予定を変更したダンサーが多かったことが残念。スティーブン・マックレーとマライン・ラドメーカーは負傷欠場、セザール・コラレスは怪我のため全幕特別プロの「ドンキ」を代役に委ねた上に、本編もBプロのみ。マチアス・エイマンも6月の負傷の影響でABプロ入替、そして最後にミリアム・ウルド=ブラームはA・Bプロ出演中に足を痛めてガラを欠場とたいへんな状態です。どうしてこういうことになってしまうのでしょうか?

なお、会場を出た時点では風雨はたいしたことがなく、おかげで無事に帰宅することができました。やれやれ。