Gizmodrome

2018/04/09

Bunkamura オーチャードホールで、Gizmodromeのライブ。

The PoliceのドラマーStewart Copelandは、Premiata Forneria Marconi(PFM)に在籍したこともあるキーボードプレイヤーVittorio Cosmaのサポートを得、ワールドミュージックの色彩が強いライブ活動をセッション・プロジェクトGizmoとして2005年以降夏ごとに展開していたのですが、その発展系としてKing CrimsonのギタリストAdrian BelewとLevel42のベーシストMark Kingという強力なミュージシャンをプロジェクトに加え、その名も「Gizmodrome」として2017年にバンドとしてのアルバムを制作・発表し、Level42のPete Ray Bigginをサポートドラマーに加えてヨーロッパで3公演をこなした上で来日したものです。

音楽性の中核にあるのはやはりStewart CopelandとVittorio Cosmaで、マテリアルもGizmo時代のものを活用しているようですが、アルバムを聴いたときの第一印象は「なんじゃ、こりゃ?」。Stewartの遊びに近い奔放な音楽(レゲエとパンクのテイスト)を超絶技巧の持ち主であるミュージシャンたちが自由自在に膨らませつつ要所要所を引き締めたものという感じで、さらに、それぞれの母体バンドでリード・ヴォーカルも担当してきたAdrianとMarkをさしおいてStewartがメインヴォーカルを担当しています。率直に言うと私にとってはあまり食指が動かないタイプの音楽ですが、それでもライブに期待したのは、第一にStewartのキレの良いドラミング、第二にAdrianの変態ギターを再び見たかったからで、残るMarkはスラップの名手としてその名を知ってはいたもののこのバンドでは低音演奏に徹しているというし、Vittorioは初めて知った名前なのでとりあえずお手並み拝見くらいに考えていました。ところが、徐々に情報が入ってきてみると、ライブでは曲によってStewartが肝心のドラム演奏をサポートドラマーに任せ自分は前に出てギターを弾きながら歌う場面もあるとの話が伝わってきて「え、そうなのか?」と困惑半分でライブ当日を迎えることになりました。しかしTwitterで情報収集してみると、前日の大阪での演奏は絶賛されており、この日の期待も高まりました。

ステージ上は、下手にVittorio Cosmaのキーボード、上手にStewart Copelandのドラムセット。フロントは上手ドラムセットの前にギタリストとしてのStewartのスペースを確保して、ほぼ中央がベースのMark King、向かって左寄りがAdrian Belewの立ち位置で、中央奥にサポートのPete Ray Bigginのドラムセット。Pete Ray Bigginのドラムは種々のパーカッションを組み込んでありました。

しかし、これほどのメンバーが集まってもオーチャードホールを一杯にすることは無理だったようで、一階席でおよそ8割くらいの埋まり具合だったのではないでしょうか。ともあれ、ほぼ定刻に照明が落ち、歓声に迎えられたメンバーがそれぞれのポジションについて、このバンドを象徴するようなアヴァンギャルドなこの曲からライブが始まりました。

Amaka Pipa
ギターを弾きながら歌うStewart、のっけからテンションが高い!曲名は「American People」を意味しているらしいもののなんと歌っているのかいまいち聴き取れませんが、この音楽をシラフでできるというのはある意味すごいです。演奏が終わったところでStewartは、スタンドに置いたギターがノイズを出していたのでこれを足で止めようとして、Markにたしなめられ、Adrianからは「Ladies and gentlemen, Mr. Jimi Hendrix!」と紹介されていました。
Man In The Mountain
一転してゆるいレゲエ調の曲。アルバムでリードヴォーカルをとっていたStewartはドラムに専念し、ここではAdrianがその真似をして歌いました。Stewartのドラムセットは真横を向いているのでそのスティックさばきがよく見えるのですが、トラディショナル・グリップから叩き出される硬質な前のりスネアがいかにも彼らしいものでした。なお、Stewartがドラムに向かうときはPete Ray Bigginはパーカッションを叩く役割を担うようでした。
Stay Ready
Adrianによるメンバー紹介に続いて、新譜からミディアムテンポのナンバー。Vittorioも加えた三声の「Stay Ready〜」というコーラスの上で歌っていたStewartは、途中でギターを置きドラムセットに向かいました。そしてAdrianのくねくねギターソロが登場。
Miss Gradenko
The Policeの名盤『Synchronicity』に収録されていたStewartの曲を、Adrianのヴォーカルで。曲の構成がしっかり頭に入っていないような歌い方でしたが、珍妙なラインのギターソロとキレのいいドラムにスラップベースが聴かせるエネルギッシュな演奏でした。
Summer's Coming
駄々っ子のように両腕を広げた状態で、スタッフの手でギターを肩に掛けてもらったStewart。一種ラテンを思わせるゆる〜い雰囲気で、なんだかいい感じ。町から町へと旅を続ける情景を歌う中で「London Town」とあるところを「Tokyo Town」と歌っていました。そして気がつけば、Markの赤いベースのネックに仕込まれたたくさんのLEDが赤い光を妖しく放っています。
Sweet Angels (Rule the World)
ピアノによるイントロから、Stewartのヴォーカルが相変わらず独特のクセをもって入ってきて、それだけなら空中分解しそうなところに、Markの見た目通りにどっしりしたヴォーカルが横から入って曲を引き締めます。曲はやがてStewartのドラムとMarkのベースとの掛け合いとなり、ついでAdrianの鶏が首を絞められているような音のギターソロへ。
Elephant Talk
King Crimsonの超有名曲。スティックによるトリルのイントロをピアノとベースが合わせ技で再現した後に、この曲を特徴づけるスティックのリフがベースの両手タッピングで演奏されて、Adrianの自由自在なヴォーカルワークと擬音ギター。ただし象のパオ〜!という鳴き声は、原曲ほどには強調されていませんでした。またこうして聴いてみると、前に突っ込み気味のStewartのドラムに対し、Bill Brufordのドラムがいかにかっちりと正確に叩かれていたかということがよくわかります。
Does Everyone Stare
これもThe Policeの曲(『Reggatta de Blanc』収録)ですが、冒頭の呟きをStewartがドラムに向かいつつ歌った後に、ハイハットないしシンバルによるシャッフル系の基本リズムを感じつつ二拍四拍をバスドラで刻む独特の気持ちの良いリズムの上で、ピアノのコード四つ打ちが入ると共にメインヴォーカル(Stingのパート)がMarkに渡り、暇なAdrianはふらふらと踊っています。そして原曲にはないドラムとベースのユニゾンによるリズムの強調があり、このバトルがカオスとなりかけたところへピアノが割って入って曲を収束させました。
Zombies In The Mall
Adrianの軽快なギターリフから、彼とMarkのコーラス、そしてStewartがドラムを叩きながらメインヴォーカルを歌います。この曲も『Gizmodrome』の中で親しみやすいメロディーとリズムを持つ曲ですが、ズシンと響くバスドラはライブならではのもの。これがあれば、Adrianのくねくねギターも安心して聴いていられます。最後にVittorioの見事なピアノが入って、一気に終了。
Ride Your Life
原曲ではギターを重ねていた妖しげなイントロをこのライブではピアノが再現して、不穏なメロディーに乗ってStewartの自暴自棄系ヴォーカルが展開。苦悩を訴えるようなギターソロの後の美しいピアノパートが聴衆に救済の手を差し伸べてくれているよう。
Excesses
Stewart CopelandがKlark Kent名義で1980年に発表したセルフタイトルEPの中の一曲(ちなみに「Stay Ready」もKlark Kentとして発表した曲のセルフカバーのようです)。ギターを肩に掛けてフロントに出てきたStewartのヴォーカルにMarkがコーラスをつけて歌われる、珍しくストレートなロックナンバーで、気分爽快。Adrianのギターソロも、この曲に限ってはまとも(?)というか、Chuck Berry風というか。
この曲が終わってギターをスタンドに置いたStewartは、ギターに向かって指をさし「Stay!」(犬に「待て」と命じる言葉)
I Know Too Much
短いピアノソロから入り、リズムが始まって木琴系の印象的な鍵盤フレーズ、Adrianのリードヴォーカル。ベースの重低音が気持ちいいと思っていたら、途中でスラップやハーモニクスを用いたベースソロ。やがてキーボードのウォールサウンドが空間を埋め尽くしていきます。これまで縁の下の力持ち的だったVittorioが気合いを見せた感じ。
Darkness
これまたThe Policeの曲(『Ghost In The Machine』収録)。シンセサイザーによる薄いパッド系の白玉の上にベースのハーモニクス、Adrianの空間系ギター、そして繊細なドラム演奏が静かに重なり、四方八方からのスポットライトを浴びたMarkがStingのヴォーカルを再現しましたが、比較的単調な(それが味となっていた)原曲に対し、ここでは自由なスペースを各演奏者に与えている様子で、それでいてデリケートな美しさが際立っていました。
Zubatta Cheve
Stewartのジャングルビート、そしてVittorioがジャングルにこだまする獣の声のような発声を聴かせた後に、四人のヴォーカルのコラージュによるイタリア語(?)の歌詞が不思議な響きを聴かせ、短いベースソロでいったん曲調が落ち着いたと思ったら、Adrianのディストーションギターが動物が走り込むような単音リフを奏で始めました。
Young Lions
曲はそのままシームレスにAdrianの「Young Lions」へ。ひとしきり歌ったAdrianは、ドラムとベースにリズムをキープさせた上で意味不明なぐねぐねギターソロを憑かれたように展開し、客席は困惑して見守るばかり……。
Strange Things Happen
久しぶりにレゲエ調。「Young Lions」の最後のギターとヴォーカルの爆発に疲れた身も心も、この曲のゆらゆらと気持ち良く揺れるリズムとライティングと早口言葉のような楽しいコーラスとに癒されます。
Don't Box Me In
フランシス・コッポラ監督の『ランブルフィッシュ』のサウンドトラックに収められた曲。 Stewart Copeland とStan Ridgwayの共作で、Stan RidgwayのハーモニカがVittorioにより再現されました。フロントに立って芝居っ気たっぷりに歌うStewartの姿がユーモラス。曲が進むにつれ演奏はどんどんエネルギッシュになっていって、彼らのスタミナに圧倒されました。
Spin This
Markのスラップベースが炸裂。続いてスネアの頭打ちによる強靭なリズムが迫ってきます。これは快感!Stewartのラップ調のヴォーカルもMarkとAdrianの鉄壁のコーラスも見事ですが、何と言ってもMarkのベースが曲をぐいぐいと牽引して客席は座ったままでもノリノリ。最後にStewartのドラムが加わって、カオスのうちに本編が終了しました。
Thela Hun Ginjeet
アンコール一曲目は、King Crimsonの「Thela Hun Ginjeet」(「Heat In The Jungle」のアナグラム)。Adrianの激しいカッティング、そこへ切れ込んでくるベース。曲は途中から作詞者であるAdrianの原体験となった職務質問の「語り」が強調されて訳が分からなくなりかけましたが、Markのベースが曲をこちらの世界に引き戻してくれて、最後は音の洪水が客席を圧倒し尽くしました。
Bombs Away
最後はThe Policeのこの曲(『Zenyatta Mondatta』収録)でほっこり。歌詞は「爆弾投下」ですが、スカっぽいリラックスした演奏で楽しく締めくくられました。

終演後のメンバーは、客席最前列の聴衆たちと積極的に握手を交わして、にこやかに上手に引き上げて行きました。1時間半と短い時間でしたが、充実度は十分。足を運ぶ価値のあるライブでした。全20曲中13曲で聴かれたStewart Copelandのドラミングの切れ味はやはり唯一無二のものでしたし、Adrian Belewのギターは相変わらずの変態ぶり。Vittorio Cosmaのキーボードは音楽の全体を包み込み、Mark Kingのベースとヴォーカルの存在感が演奏にしっかりとした芯を与えていました。

しかし、彼らはこのバンドでパーマネントに活動を続けていくのでしょうか?一人一人が練達のミュージシャンである彼らには、なんとなくそれは似合わないようにも思えます。これを最初で最後の機会として思い出の中に封じ込めておきたいような気がする、そんな不思議なライブでした。

ミュージシャン

Stewart Copeland Drums / Vocals
Adrian Belew Guitar / Vocals
Mark King Bass / Vocals
Vittorio Cosma Keyboards / Vocals
Pete Ray Biggin Drums

セットリスト

  1. Amaka Pipa
  2. Man In The Mountain
  3. Stay Ready
  4. Miss Gradenko (The Police song)
  5. Summer's Coming
  6. Sweet Angels (Rule the World)
  7. Elephant Talk (King Crimson song)
  8. Does Everyone Stare (The Police song)
  9. Zombies In The Mall
  10. Ride Your Life
  11. Excesses (Klark Kent song)
  12. I Know Too Much
  13. Darkness (The Police song)
  14. Zubatta Cheve
  15. Young Lions (Adrian Belew song)
  16. Strange Things Happen
  17. Don't Box Me In (Stewart Copeland song)
  18. Spin This
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  19. Thela Hun Ginjeet (King Crimson song)
  20. Bombs Away (The Police song)