塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Journey

2017/02/07

日本武道館でJourneyのライブ。2013年にも彼らの公演を観ていて、満足度は高かったものの「もういいかな」という感じがしていたのですが、昨年の11月29日のYes公演の際に「歴史的名盤『エスケイプ』『フロンティアーズ』完全再現ライブ」のフライヤーを受け取って、これは行かねばとチケットをゲットしていたものでした。

長いJurneyの歴史の中でも、この2枚を創り出した5人の組み合わせは奇跡のようなもの。残念ながら不世出のヴォーカリストSteve PerryはもはやJourneyの一員ではありませんが、ドラムにはDV騒動でバンドを離れたDeen Castronovoに代わってSteve Smithが加わっているのが大きなポイント。ちなみにDeen解雇直後のピンチヒッターにはあのWeather Reportにも在籍したOmar Hakimがツアーに参加したそうで、産業ロックの代表格のようなJourneyがドラマーにはジャズ、フュージョン寄りの人材を採用するというのはなんだか不思議に思えます。

武道館のアリーナ席は久しぶり(2008年のDream Theater以来)で、寒さ対策としてエスケイプ仕様の携帯用カイロが配布されていました。ステージ上の楽器の配置はいつもの通り、上手側がギター、中央にドラム、下手側にキーボードで、Jonathan Cainのキーボードはピアノの上にRoland Jupiter-80、左手側は上段がKORG、下段がHammond。目を引くのはSteve Smithのドラムセットで、かつては高い位置にシンバルを置いて両腕を派手に動かしていたのに、いまステージ上にあるセットはすべてのタムとシンバルがドラマーの肩より低い位置に配置されていて、唯一背後の巨大なドラだけが存在感を示しています。そしてステージ後方には8基のライティングタワー、大きな白いスカラベのマーク。ステージの左右にカメラのクレーンが待機しているのは、この日の演奏が収録されて3月12日にWOWOWで放送されることになっているからです。

定刻を過ぎてしばらくして客電が落ちてSEと共にメンバーが登場し、アリーナは早くも総立ち。そして……。

Don't Stop Believin'
『Escape』(1981年)の冒頭に置かれた、ピアノのリフで始まるこの名曲からライブがスタート。Arnel Pinedaのボーカルは往年のSteve Perryを彷彿とさせるもので、その声にただちに歓声が湧き上がりました。Steve Smithのドラムもジャズ畑らしいソフトなタッチなのにロックドラマー顔負けの存在感のある音を出しています。Neal SchonのギターソロのときにベースとユニゾンのフレーズをJonathan Cainがそのときだけ持ち込まれたスタンドに立てたギターでなぞっていましたが、このとき初めてJonathanのキーボードとSteveのドラムの間にサポートキーボード兼コーラスがいることに気付きました。
Stone in Love
「Don't Stop Believin'」のコーダから引き続いてギターのハードなリフが入り、Jonathanも12弦エレクトリックギターを抱えて2曲目へ。なにしろ曲順があらかじめわかっているのですから、聴く方も実に安心感があります。『Escape』リリース時に音楽雑誌でJonathanがギターを弾いているのを見て、Journeyの新しいキーボードプレイヤーは多才なんだなと感心したことを思い出しました。
Who's Crying Now
Jonathanのピアノリフが印象的なこの曲、『Escape』や『Frontiers』のツアーでは後半のギターソロでのピアノのオブリガート部でSteve Perryがシンセサイザーを弾いていましたが、この日は最初から最後までJonathanはピアノに専念し、サポートメンバーがシンセサイザーを担当していました。
Keep on Runnin'
ツインギターになってアップテンポのハードナンバー。楽器陣の演奏は最高でしたが、ボーカルは難あり。以前なら卓越したヴォーカリストでもあるDeenに歌わせていた曲ですが、Arnelは高音が出ずはっきりフラットしていた上に途中でリズムを見失うなど、お世辞にも上出来とは言えませんでした。
Still They Ride
Neal SchonがMCでMr. UDOへの謝辞を述べた後に始まった、Arnelの特性が活かされるバラード。美しい……。
Escape
雰囲気をがらりと変えるRoss ValoryによるMCに続いて、ハードなギターのリフから威風堂々と行進するようなリズムと神々しいギターソロを持つこの曲。これは燃える!
Lay It Down
ツインギターになってのハードロックナンバーで、ここでサポートキーボードのTravis Thibodauxが紹介されたと思ったら、この曲では彼がリードボーカルをとりました。声質には深みはないものの高音域にArnelよりもゆとりがあって、確かに曲によってはフィットしそう。しかしArnelは休憩しているのかな?と思っていたら、上手の袖奥でコーラスに加わっていました。
Dead or Alive
ギターとベースがユニゾンで高速リフを繰り出すハードナンバーですが、Escapeツアーでの来日ステージの映像をテレビで見たときにSteveが左手でハイハット連打、右手でスネアを叩いていて驚いたことを記憶していて、この日もSteveがオープンハンドで叩いていることに妙な安心を覚えました。
Mother, Father
シンセサイザーの持続音の上に妖しくヘヴィーなギターソロを乗せたイントロを置いて、名曲「母父」。この曲は歌詞を覚えているファンが多いらしく、Don't you know that I'm alive for you以下のサビは会場も一体になっての合唱になりました。そしてNealのテクニカルかつ印象的なギターソロに続き、この曲のハイライトと言えるドラムフレーズが炸裂。これを聴けただけで、この日のチケットを買った甲斐があったというものです。
Open Arms
Jonathanのディープなストリングスとリリカルなピアノのイントロ付きで演奏された、『Escape』最後の曲。客席にはキャンドルの代わりにスマホの光の海ができました。
今でこそロック・ミュージックきってのラブ・バラードと認識されているこの曲、『Escape』制作時はJourneyの音楽性に合わないとしてあやうくアルバムから外されそうになったそうです。ちなみにその歌詞の内容は、Wikipediaによればan empowering plea to a lover to forgive past wrongdoings and agree to start anewでありますので、披露宴でのBGMとして使うことは推奨されません!
Separate Ways
ここからは『Frontiers』(1983年)の世界。前作ではピアノ中心だったJonathanがシンセサイザーを大量導入したアルバムです。幻想的なシンセサイザーとギターのイントロを前に置いて、ロックシンセを代表するイントロフレーズが鳴りだすと客席から手拍子が湧き、サビのコーラスでは大合唱。
Send Her My Love
続いて印象的なハイハットとリムショット、バスドラのドラムフレーズに乗って穏やかに入ってくるイントロ、しみじみとしたボーカル。これも隠れた名曲と言えるでしょう。この曲も前の曲もそうですが、ギターソロが弾きまくり系から明瞭なメロディを持つものに変わっているのが『Frontiers』の特徴です。
Chain Reaction
ツインギターになって演奏されたこの曲は、直訳すれば「連鎖反応」。安定したリズムの上でリードボーカルとコーラスとが追いかけ合うように連なるさまがまさにChain Reactionのようです。この曲でのギターソロは、レコードでのそれに比べてかなり音の揺らぎを強調したフレーズになっていて、聴く者の不安をあえてかき立てるものでした。
After the Fall
Steveの4カウントから、Travisのリードボーカルでミドルテンポのドラミングが心地よいこの曲。サビの三声のコーラスではコード進行からすると一番上の声部がメインのメロディになりそうですが、リードボーカルが歌うのは内声のパートで、したがって私が蛮声を張り上げて歌ったのもこのライン。
Faithfully
またしてもJonathan節全開のラブ・バラード。演奏の前にJonathanのMCがあって、そこでこの曲をツアー途上のホテルの一室で書き上げたこと、初めてライブで演奏したのが日本だったことなどが披露されたました。情感のこもった歌い上げ系の曲は表現力豊かなArnelにマッチしており、I'm forever yoursのロングトーンには感動しました。
Edge of the Blade
その名の通り、エッジの効いたギターがドライヴする曲。Arnelはエネルギッシュにステージ上を動いていましたが、ところにより高音が苦しい箇所あり。こういう曲こそサポートボーカルの使いどころではないのか?
Troubled Child
3/4拍子のこの曲はライブでめったに演奏されないのか、まさしくトラブルに見舞われました。まず出だしでドラム、ギター、キーボードが合わずにカウントし直し。NealもSteveの近くに寄ってリズムを確認して、やっとどうにか本線に乗ったと思ったら今度はArnelがリズムを見失って四分音符1拍分後ろにずれて最初の静かなパートを通してしまい、バスドラが入ってリズムが明瞭になるところでようやく本来のタイミングに復帰することができました。うーん、上述の通りこのライブは映像化されるはずですが、ここはいったいどうなるんだろう?
〔追記:この曲はやはり「技術的な問題により」オンエアされませんでした。〕
Back Talk
マーチングドラムから始まるSteveの短いドラムソロをイントロとして、彼も作曲者の1人としてクレジットされているジャングルビートとラップ系ボーカルの曲。「Back Talk」とは「口ごたえ」の意。お前のその物言いはもう聞きたくない!とイライラしながらわめき散らす様子を、ツインギターでの音の壁を背中にArnelが見事に歌ってみせました。
Frontiers
アルバムのタイトルチューンながら摩訶不思議なリズムとリフを持つ、Journeyの楽曲の中でも異色の曲。あまりに変わっているのでプログレDJイベントで私がとりあげたこともあるほどですが、その奇怪なドラムパターンからもわかるようにこの曲の作曲にもSteveが貢献していて、当時のSteve Smithが創作面でいかに充実していたかがわかります。
ボーカルはTravisがとりましたが、ラストのツインボーカル部分はアルバムではSteve Perryの多重録音であったところをこのライブではTravisとArnelが分担して効果をあげていました。
Rubicon
極め付けに前向きな曲。何度聴いてもMake a move across the rubicon. Futures knockin' at your door. Take your time and choose the road you want. Opportunity is yours.という歌詞には勇気付けられます。最後はSteveがドラをジャーンと鳴らし、紙吹雪が激しく舞い散って本編が終わりました。
La Raza del Sol
アンコール1曲目は、1981年に『Escape』からシングルカットされた「Still They Ride」のB面に収録された曲。カリフォルニアを開拓したヒスパニックの歴史に言及した歌詞を持ち、NealがMCで語っていたようにSantanaでの経験からラテン系のアレンジを施したものですが、この曲がこの日のコンサートの白眉となったのですからライブというのはわからないものです。凝ったリズムパターンをドラムとギターがキープする上で情熱的なオルガンソロが展開し、さらにその温度感をギターが引き継いでオルガンとのソロの応酬からNealのギターソロへと長大なインストパートが続きましたが、気が付けばSteveのドラミングがすべてを飲み込んでドラムソロ状態に突入しており、客席からは大きな歓声が上がりました。
Lovin' Touchin' Squeezin'
「La Raza del Sol」から間髪入れずに3拍子パターンのリズムに移り、この曲で締めくくられました。最後は「Wheel in the Sky」か「Any Way You Want It」で終わってほしかったようにも思いますが、そこまで言ったら贅沢というものでしょう。

曲によってArnelのボーカルに出来不出来はありましたが、質の高い楽曲と確実な演奏力にライティングの美しさもあいまってJourneyらしい楽しいライブでした。とりわけ、Steve Smithのドラミングは圧巻です。2バス、3スネア、3タム、3フロアタムながら機能的にまとまったセットを駆使し、オープンハンドを多用しマッチドグリップとレギュラーグリップを頻繁に使い分ける独特のスタイル。繊細なスティックワークから信じられないほどパワフルなサウンドを叩き出していたSteveの、背筋をぴんと伸ばした細身の姿には、求道者の風格すら漂っていました。『Escape』『Frontiers』の後、Journeyを離れてジャズ寄りに舵を切りそちらの世界でもリスペクトを集める存在となったSteveが果たしてロック一筋のJourneyにしっくりはまるか疑問だったのですが、それは杞憂だったようです。

Steveはこのツアーではあくまでサポートという位置づけだそうですが、Arnelが最後に告げていた「See you next year!」という次の機会にもSteveが参加するのなら、その客席に足を運んでもいいかもしれません。とは言うものの、1週間前のJeff Beckのライブが72歳で新曲を7曲もつぎ込んできたのに対し、こちらJourneyはすべてほぼ四半世紀前の曲でのステージ。演奏力は相変わらず現役ですが、果たしてこれでいいのかどうか……。

ミュージシャン

Arnel Pineda vocals
Neal Schon guitar, vocals
Jonathan Cain keyboards, guitar, vocals
Ross Valory bass, vocals
Steve Smith drums
Travis Thibodaux keyboards, vocals

セットリスト

  1. Don't Stop Believin'
  2. Stone in Love
  3. Who's Crying Now
  4. Keep on Runnin'
  5. Still They Ride
  6. Escape
  7. Lay It Down
  8. Dead or Alive
  9. Mother, Father
  10. Open Arms
  11. Separate Ways
  12. Send Her My Love
  13. Chain Reaction
  14. After the Fall
  15. Faithfully
  16. Edge of the Blade
  17. Troubled Child
  18. Back Talk
  19. Frontiers
  20. Rubicon
    -
  21. La Raza del Sol
  22. Lovin' Touchin' Squeezin'