翁 / 養老 / 末広

2017/01/03

新年最初の観能は、観世会定期能で「翁」。脇能「養老」と狂言「末広」とのセットです。この日のプログラムはその後に仕舞五番と祝言能「岩船」が続くのですが、「岩船」は前にも観たことがあるのでパス。

ところで、松濤にあった観世能楽堂は老朽化のために取り壊され、今年4月に銀座にリニューアルオープン予定です。それまでの間借り(?)として、この日の公演は東中野の梅若能楽学院会館で開催されました。

そこで、梅若能楽学院会館のすぐ近くにある氷川神社へ初詣に出かけましたが、こじんまりとしてはいるもののなかなかよき雰囲気でした。

肝心の能楽堂の方は、なんとも小さい。それでもお正月らしい注連飾りがなされていて、華やかさも漂っていました。

宗家による「翁」。その深い声色による天下泰平、国土安穏、今日の御祈禱なりを聞いて新年を迎えられるというのは、日本人としてなんとも幸せなことです。今年もよき一年となりますように。若々しい千歳は観世三郎太師(もう「くん」と呼ぶのは失礼でしょう)、そしておそるべき迫力で大地を踏みしめ、稲穂(鈴)を振って舞った三番三は山本泰太郎師。その後見に伯父の山本東次郎がついて、隣の凛太郎師(泰太郎師の子息)にこまごまと指導をしていたのが目を引きました。こうして世代から世代へと様式が受け継がれていくさまを見られるのも「翁」ならでは。

養老

世阿弥作の脇能。小書《水波之伝》によって間語リがなくなり、後ツレ / 天女の舞が加わるなど華やかさが増していました。

真ノ次第でワキ / 勅使(福王和幸師)が颯爽と登場。紺地の狩衣に白大口のノーブルな大臣姿で、オレンジ色の狩衣姿の二人のワキツレを伴っています。次第、道行となって美濃の国に到着。続いて真ノ一声と共に緑色の水衣に白大口、直面の前ツレ / 樵夫(坂井音隆師)が柴を背負い右手に水桶をもって登場し、その後から黄色系の水衣で大口尉出立の前シテ / 樵翁(浅見重好師)が現れました。脇能の定番としては前場の老翁が後場で神の本体を現すところ、この曲では樵翁と樵夫は普通の人間で、後場の神の化身ではないというところが特徴的です。それでも前シテは老人らしからぬ生き生きとした立居振舞いをしていて、これは養老の滝の霊水の御利益なのでしょう。ワキの問掛けに答えてシテとツレとが掛合いで養老の滝をツレが見つけた仔細を述べ、ワキを霊泉へと案内しつつ君の徳を讃えます。ワキ / シテ / ツレの三人が見やる階の先には滝が現出し、ワキが感激する内にシテとツレは中入となりますが、ここでのツレの中入が来序と共に独特の重い雰囲気を漂わせ、さらなる奇瑞の予兆を感じさせました。

入れ替わりに登場した後ツレ / 天女(武田友志)は、月輪の天冠を戴き、白の舞衣に緋大口姿で一ノ松まで進むと、天女ノ舞を舞いながら舞台に入りました。神々しくも華やかな天女ノ舞に続いては、袷狩衣に半切、そしてピンクの芍薬の花をあしらった冠を戴いた後シテ / 山神の登場となります。囃子方のエネルギッシュな演奏と共に舞われた神舞は実に生き生きとしたもので、力強い足拍子、盤渉調に移っての高揚など見応えあり。一ノ松で左袖を返してから舞台へ戻ったシテは、舞台を巡った後に常座で留拍子を踏みました。

養老の滝の奇跡を描き長寿の喜びを謳い上げる前場と、勅使の眼前に奇瑞を表し泰平の御代の末永かれと天女と山神が寿ぐ後場からなり、めでたい祝祭の雰囲気を盛り上げる華やかな脇能でした。

末広

泰平の世、宴会の贈り物として扇を求めようと思った主人(山本則俊師)から「末広がり」を買ってまいれと命じられた太郎冠者(山本則重師)が、都の悪人(山本則秀師)にだまされて唐傘を買わされ、主人から怒られてしまうものの、悪人に教わった囃子物を囃すとその面白さに主人も釣り込まれてしまい、一緒にめでたく舞うという曲。山本則俊師の独特のぼそっとした味わいは相変わらずのおかしみですが、山本則重師も、悪人が説明したとおりに紙質や骨の磨き、さらには戯れ絵ならぬ柄の講釈を得々と垂れたり、主人から末広とは扇のことだと教えられて「扇なら扇と初めから言ってくれ」とクレームをつけるあたりがなんとも笑えます。そして、追い出された太郎冠者が謡う傘を差すなる春日山、これもかみのちかいとて、人が傘を差すなら、われも傘を差そうよは、賑やかに楽しい中にも、春日大明神が人々を守ろうという神聖な誓いが詠み込まれていて、祝言曲としてのめでたさ・ありがたさが横溢していました。

この日の観能はここまでとしましたが、年の始めにあたり厳粛な祈りと祝祭の能・狂言に接して、よい一年になりそうな予感を得ることができました。

配役

能「翁」 観世清和
三番三 山本泰太郎
千歳 観世三郎太
面箱 山本則孝
能「養老 水波之伝 前シテ / 樵翁
後シテ / 山神
浅見重好
前ツレ / 樵夫 坂井音隆
後ツレ / 天女 武田友志
ワキ / 勅使 福王和幸
松田弘之
小鼓 鵜沢洋太郎
脇鼓 古賀裕己
脇鼓 飯富孔明
大鼓 柿原弘和
太鼓 小寺真佐人
主後見 木月孚行
地頭 武田志房
狂言「末広」 シテ / 果報者 山本則俊
アド / 太郎冠者 山本則重
アド / 売り手 山本則秀

あらすじ

養老

雄略天皇の御代。美濃国養老の滝で、不思議な泉が湧いたとの報告があり、確認のために勅使が下向した。そこに、この地に住む老人とその息子が現れ、この泉はその息子が親を養うため薪を採っている途中で発見したということ、この水を飲めば身も心も癒え、老いの身も健やかになることを述べる。老人は水を汲んで飲み、この薬の水の霊力を讃える。奇瑞を目の当たりにした勅使が感激の涙を流していると、大地が震動して花が降り音楽が聞こえ、この山の神が出現した。山の神は、霊水のように澄んだ御代を讃え、祝福の舞を舞う。

末広

ある果報者が、目上の人に「末広がり」というものを贈るため、太郎冠者を呼びつけ都へ買いに行くよう命じる。都に着いた太郎冠者は、末広がりとは何か、どこにあるのかを聞かなかったことに気づいて困った挙げ句、物売りを真似て「末広がりを買おう」と呼び歩く。そこにすっぱが現れ、言葉巧みに古傘を売りつける。帰宅した太郎冠者が得意げに報告すると、あきれた主人は太郎冠者を追い出す。思案した太郎冠者は、すっぱに教わった囃し物を謡い足で拍子をとると、主人も吊り込まれて機嫌を直す。