塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Toto

2016/03/07

日本武道館でTotoのライブ。彼らのライブを観るのは2011年以来ですが、そのことに気が付いて「もう5年も間が空いていたのか?」と驚くくらい、前回のライブの印象は鮮明です。しかし、その間にTotoの歴史には新たな1ページが加えられていました。

2008年の無期限活動停止宣言のあと、筋萎縮性側索硬化症(ALS)にかかったベーシストMike Porcaroの支援のために2010年に演奏活動を再開したTotoは、自分の活動に専念したいという理由で2014年に脱退したSimon Phillipsの後任にKeith Carlockを迎えてツアーを継続しながら、2006年の『Falling In Between』以来となる新作『XIV』を2015年に発表しました。

今回のライブは、この『XIV』を中心とするツアーの一環で、メンバーはギタリストのSteve Lukather、ボーカルのJoseph Williams、キーボードのDavid PaichとSteve Porcaroの4人と、Steely Danの契約の関係でTotoのツアーに参加できないKeith Carlockの代わりにドラムにShannon Forrest、ベースには2008年の来日時にもサポートで参加した練達のLeland Sklar。また、名盤『IV』に参加して印象的なパーカッションを聞かせたLenny Castroがツアーメンバーに加わっているのも話題です。

19時8分、客電が消えるとアリーナは早くも総立ち(こちらは1階席でゆったり座ったまま)。重低音から緊迫感のあるストリングスへと移行するイントロSEが鳴り響く中、ステージを覆う幕にブルーやレッドの灯りに照らされ、水玉模様が踊り閃光が明滅し、メンバーのシルエットが踊って、そして幕が切って落とされ『XIV』のオープニングナンバーからこの日のステージが開始されました。

Running Out of Time
Lukeの刺激的なギターのフレーズから入る、ノリのいいロックナンバー。のっけからJoseph Williamsのボーカルが絶好調。サビのコーラスも最高です。特徴的な形状をしたLeland Sklarのブルーのベースがステージに映え、ドラムとパーカッションがぐいぐいと曲を牽引していきますが、まだ音の分離が悪く個々のプレイヤーの音を聴き分けるのは難しい状態。
I'll Supply the Love
日本人の盆踊り的リズム感に優しい頭打ち4拍のリズムで手拍子大会となりましたが、Joseph Williamsが高音をまったく苦にせず歌っていることに驚嘆。後半リズムが変わってからは、Steve PorcaroのシンセサイザーとDavid Paichのピアノという2人のキーボードプレイヤーの特色が早くも発揮されました。
Burn
David Paichの哀愁を帯びたピアノのイントロに深いバスドラとタムのパターンが加わって、傷ついた心に寄り添い励まそうとする歌詞を持つ『XIV』からの曲。曲が熱を帯びるパートではコーラスの2人がサウンドに厚みを加えて劇的な効果をあげていました。
Stranger in Town
シルクハットに黒づくめの衣装のDavid Paichがヘタウマボーカルを聴かせてくれる、『Isolation』からの曲。ピアノに寄りかかるようにして歌い出したかと思えば、マイクを持ってふらふらとステージ上を歩き回り、ピアノの上の新聞を小道具(歌詞はGot the morning paper and the headlines read)として見せびらかしたり、ストレンジャーとしてLukeやJoseph Williamsの影にあの巨体を隠したり。ボーカルも随所にフェイクを入れたりして、本来は不安をかきたてる曲なのにDavid Paichのショウマンシップに笑いが止まらない演奏でした。

ここでLukeのMC。コンバンワ TOKYO、Budokan。パーカッションのLenny Castro、ドラムのShannon Forrest、ベースのLeland Sklarという3人のゲストミュージシャンを紹介してから、この日唯一のバラードをLukeが歌いました。

I Won't Hold You Back
ボーカルのピッチの不安定さが少し気になりましたが、Lukeのバラードと泣きのギターはやはり絶品です。
Hold the Line
スネア一発、そしてあのピアノ連打の三連系イントロから聞き慣れたギターのリフへ。この曲では直前に紹介されたゲストシンガーのJenny Douglas-FooteがJoseph Williamsとボーカルを分け合います。そしてこの曲あたりから、ベースの音の分離が良くなってきました。
Georgy Porgy
Jenny Douglas-Footeと、さらにもう1人のシンガーMabvuto CarpenterをフィーチュアしたR&Bナンバー。曲の前にLukeがMCで今年の2月に亡くなったMorris Whiteに言及していましたが、なるほど曲の冒頭と最後にEarth, Wind & Fireの「Can’t Hide Love」の冒頭の裏打ちホーンフレーズを取り入れていました。演奏はかなりゆったりしたテンポで、サビでシンガーが曲名のもとになったマザーグースを歌う間、ロボットダンスを踊るSteve Porcaroが不思議。
Afraid of Love
『IV』B面1曲目のノリノリのロックナンバー。エアギターをかましながらステージ上をぴょんぴょん跳び回るDavid Paichがすてき。レコード通りに「Lovers in the Night」へなだれ込むかと思いましたが、アウトロをつけて曲は終わって、ステージ上が静かになりました。
Bend
シェイカーのリズムキープの上にSteve Porcaroのシンセサイザーがハンマー・ダルシマーっぽい音を奏で、Steveの柔らかいボーカルが内省的な歌詞をしみじみと歌う、日本版の『XIV』のボーナス曲。曲が終わった後にSteve Porcaroが1982年の初めての日本武道館を懐古して、「あの頃は自分の髪もずいぶん違っていた」と笑いをとってから、この曲を(昨年亡くなった)Mikeと皆に捧げる、とアナウンスしました。
Pamela
気分を変えるようにJoseph Williamsが明るい声を張り上げ、一緒に歌うように求めてから『Seventh One』からのスタイリッシュなこの曲。この曲はJosephのキャラクターにぴったりマッチしていて、ホーンセクションを再現するSteve PorcaroのシンセサイザーもDavid Paichの短いピアノソロもおしゃれです。後半にはDavid Paichのフリーな長いピアノソロがあり、その背後でLeland Sklarがベースを自在に歌わせていました。
David Paich Solo
リリカルなピアノに徐々にストリングスが重なる短いソロ。この後にDavid PaichのMCが入り、「コスチュームを変える時間だ」と野球帽とシルクハットとを交互にかぶってみせて客席に感想を求めました。これに対し聴衆は、野球帽にはブーイング、シルクハットに拍手喝采。
Great Expectations
未来の子供たちへの希望のためにというMCに続いて、『XIV』の最後に収録された複雑な構成の曲。I have great expectations for you and meと自らに言い聞かせるような前向きの歌詞から入り、David PaichからJoseph Williamsへとボーカルが引き継がれて曲調が目まぐるしく変わります。彼らのルーツの中に含まれているプログレッシブな要素が前面に出た曲と言えますが、現代において彼らがこのフォーマットに取り組んだ意図は不明です。
Without Your Love / Bridge of Sighs / Steve Lukather Solo
「Without Your Love」は、グルーヴィーなベースパターンに上にLukeのボーカルを乗せた失恋ソング。考えてみるとTotoの曲には、こうしたちょっと女々しい系が少なくないかも。「Without Your Love」を短く終えてそのまま、ギター、ベース、ドラムの3ピースになってRobin Trowerの「Bridge of Sighs」をカバーする重々しくブルージーな演奏。彼はライブでは往々にしてこのようにブルースに耽溺する時間を作ることがあります。さらに、そのままLukeの弾きまくりギターソロへ。赤い光に照らされて、かなり忙しくフットスイッチを操作しながら狂おしいほどにエモーショナルで長大なソロが展開しました。
Holy War
これも『XIV』からの曲。素晴らしいリフを持っていながら曲全体としてはやや単調に感じてしまうのは『XIV』の楽曲の多くに共通する特徴ですが、それにしてもこの日は『XIV』比率高し。予習しておいて良かった!
The Road Goes On
エレクトリックギターを背中に回し、アコースティックギターを構えたLukeは、40年前のハイスクール時代からDavid PaichやPorcaro兄弟たちと共にバンドを始めて、以来今日までずっと家族同然の仲で活動を続けてきたことを紹介した後に、故人となってしまったMikeとJeffの2人のバンドメイトへ言及。さらに「Song for you, song for us」とアナウンスして演奏を始めたのは『Tambu』のラストソングで、途中からエレクトリックギターに切り替えられて、壮大な雰囲気を漂わせて終わります。ところで、ギター交換のたびに登場するギターテクが遠目には忍者ルックっぽく見えましたが、これは気のせい?
Orphan
コーラス系のエフェクトがかかったギターのアルペジオによるイントロからJoseph Williamsの力強いボーカルへ。コーラスの2人も前に出て、孤児(orphan)を励ますようにYou're never alone in the worldと歌い上げながらJoseph Williamsと握手したりグータッチしたり。そして客席は大手拍子大会へ。
Rosanna
本編最後は、あのドラムのイントロからハーフタイムシャッフルによる彼らの代表曲。間奏のSteve Porcaroのシンセサイザーが輝かしく、Lukeのギターソロはレコードに完全に忠実。アウトロは、David Paichの強靭なピアノソロからLukeのギターソロへ、さらにピアノの遊びをはさんでドカドカと短いドラムソロ。最後に全楽器でキメて、本編終了となりました。

ここからアンコールとなります。

on the Run / Goodbye Elenore
ドラムのジャングルビート、刺激的なギターのリフ、唐突に差し込まれる「Child's Anthem」のフレーズ。カオスのようなイントロから『TOTO XX』にライブ録音が収録された実にかっこいいシャッフル系の曲。そしてシャッフルつながりで「Goodbye Elenore」のラストヴァースへ接続しましたが、これはちょっと強引だったような……。
Africa
最後はもちろん、リズムの仕掛けが楽しいこの曲。David Paichのボーカルを聞きながら彼のシルクハットをかぶったJoseph Williamsが踊り、アリーナの聴衆も踊る。民族楽器風の音色のキーボードソロはDavid Paich、さらに、いかにもこの曲にふさわしい長大で楽しいパーカッションソロがLenny Castroによって披露され、かたやJoseph Williamsはステージと客席とでスキャットの掛合い。コーラスの2人とDavid Paichもシェイカーを手にフロントへ出てきて聴衆を盛り上げ、最後はパーパラッパッパラッパッパーと大合唱になったところへ楽器群が覆いかぶさってきて終曲となりました。

Totoのライブは毎度そうですが、この日もまた演奏、楽曲、演出のどれもが素晴らしい、楽しいライブでした。今日のステージを見る限り、彼らの演奏力には衰えというものが感じられず、まだまだいくらでもフレッシュなライブを展開してくれそうに思えます。

サポートメンバーも、特にLeland SklarとLenny Castroの2人の貢献度は素晴らしいものがありました。Shannon Forrestはツボを押さえたドラミングでしたが、あまり遊びがなく控えめだったような?ともあれここ数年、若い頃にファンだったバンドのライブのクオリティが下がり、あるいはその主要メンバーが鬼籍に入るということが続いて、もうこうした巨大なシステムを駆使したレジェンドバンドによるライブへの参戦からは足を洗おうかと思い始めていたのですが、まだ早いぞ、と思わせてもらえたように思います。

ミュージシャン

Steve Lukather guitar, vocals
David Paich keyboards, vocals
Steve Porcaro keyboards, vocals
Joseph Williams vocals
Leland Sklar bass
Shannon Forrest drums
Lenny Castro percussion
Jenny Douglas-Foote vocals
Mabvuto Carpenter vocals

セットリスト

  1. Running Out of Time
  2. I'll Supply the Love
  3. Burn
  4. Stranger in Town
  5. I Won't Hold You Back
  6. Hold the Line
  7. Georgy Porgy
  8. Afraid of Love
  9. Bend
  10. Pamela
  11. David Paich Solo
  12. Great Expectations
  13. Without Your Love / Bridge of Sighs / Steve Lukather Solo
  14. Holy War
  15. The Road Goes On
  16. Orphan
  17. Rosanna
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  18. On the Run / Goodbye Elenore
  19. Africa