塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

鸚鵡小町 / 蟹山伏 / 烏帽子折

2011/06/19

観世能楽堂(松濤)で「正門別会」。能を観るのは一カ月半ぶりですが、なんだかもの凄く久しぶりという感じがします。

鸚鵡小町

小野小町を登場人物とする曲には「草紙洗小町」「通小町」「鸚鵡小町」「関寺小町」「卒都婆小町」などがあり七小町と呼ばれていますが、それらの中で「関寺小町」「卒都婆小町」と共に老女となった小野小町の境遇をとりあげる曲の一つがこの「鸚鵡小町」で、この日は観世恭秀師の披キとなります。

歌道に深く心を寄せる陽成天皇が、往年の歌の名手・小野小町のもとへ、新大納言行家を御使にやり、御慰めの歌を下されるところが発端で、かつてはワキツレ/太刀持ちやアイ/従者を伴う演出もあったそうですが、今ではワキ/新大納言行家とシテ/小野小町の二人だけが舞台上に現れます。

静かな笛の入りで茶色の狩衣姿のワキ(森常好師)が登場し〈名ノリ〉の後に脇座へ。すると震えるような不思議な音色の笛に大小の鼓がひっそりと合わせて、やがて笛がしっとりした音色に変わりしばらくしたところで幕の内から深くひそやかな「おマーク」の声。黒地の笠、くすんだ金色の唐織壺折、手には杖。三ノ松で杖を突いたシテ(観世恭秀師)が息を継ぐ姿を見せた後、わずかに顔をあげて歩みを進めると二ノ松と一ノ松との間で見所を向き、消え入りそうな、しかしそれにもかかわらず通る声で身は一人……と〈一セイ〉を謡いだしました。変わり果てた老いの身の悲しさをひとしきり謡いつつ常座に進んだところでワキに呼び止められます。地謡の〈上歌〉で閑居している関寺辺の情景が謡われ、ついでシテが都の恋しいときには杖に縋って都路に出て物を乞うが、乞い得ぬときは涙の関寺に帰るのだと謡ったところで、シテは膝を突いて笠をとりました。現れた面は姥、深い老いの印を刻んだ面に白い姥鬘、すぼまった肩が哀れを誘います。いかに小町、さて今も歌を詠み候べきかとのワキの問いにシテはもはや浮世に長らえるばかりだと答えると、ワキは帝から御憐みの御歌が下されたのでご覧なさいとシテに歌の書かれた懐紙を渡しました。シテはあらありがたや候と浮き立つ気持ちで懐紙を押し戴き開きますが、老いの眼のために読むことができず、ワキにそちらで読んで下さいと頼みます。御製。

雲の上はありし昔に変らねど 見し玉簾の内やゆかしき

この歌にじっと聞き入っていたシテは顔を上げてあら面白の御歌や候。ただ、もう歌を詠うこともできない、といって返歌を返さないのも恐れ多い(このとき絶句があり、すかさず後見の坂井音重師が「また申さぬ」とフォロー)と言って唯一字にて申さうとワキに告げます。三十一字を重ねても心の足らぬ歌もあるのに、といぶかるワキにシテは「ぞ」の一文字を返歌とします。すなわち、

雲の上はありし昔に変らねど 見し玉簾の内ぞゆかしき

「内ゆかしき」は「(貴女は)知りたく思うでしょうね」、「内ゆかしき」なら「(私は)懐かしく思われることです」。これを鸚鵡返しという、というところから歌の様を語り始めるシテでしたが、過去の華やかなりし頃を思い出すにつけても今の憔悴して落ちぶれた姿が哀しいと嘆き、感極まって前に崩れ落ちるとゆっくりシオります。この劇的な感情表現には、見ているこちらも強く揺さぶられるものがありました。

そこでワキが気持ちを引き立てようといかに小町、業平玉津島にて法楽の舞を擬び候へと呼び掛けて、ここでシテは後見座での物着。黒風折烏帽子に緑の長絹を付けて在原業平の姿になるとさても業平と常座で謡い出し、地謡に引き継いだところでとぼとぼと橋掛リに進んで木賊色の狩衣にで袖を見込み、風折烏帽子召されつつで扇を持つ右袖を掲げました。ここで廻って舞台に戻り、舞となります。小書《杖三段之舞》により〔序ノ舞〕がイロエ掛リの三段之舞となるため、最初に舞台を一回りする〔イロエ〕の後、扇を開いて優美な舞を正中で一段目、角で二段目。そしてここでよろよろと後ずさり、杖にすがってしゃがみ込みしばし休息。後見が捨てられた杖を引き、シテは扇を持ち替えて眠り込むような型を示すと、やがて顔を上げてゆっくり立ち上がり、正先で舞を続けます。この一連の舞は、老女の舞とはいいながらも大きく美しいものでしたし、休息の態もむしろ命の限りを尽くしての舞という感じが出て引き込まれました。そしてそのままワカに入り感情を高ぶらせながらの舞が続きますが、ついにあら恋しの昔やなでシオリとなって舞は終わりました。

こうして日は暮れてワキは都へと帰り行き、シテはよろめきながらワキを寂しげに見送ってシオり、そのまま脇正の方を向いて立ち尽くすうちにしみじみと終曲を迎えました。

1時間55分、舞台上には二人だけ、そしてあくまでも淡々と進行する舞台でしたが、それでも少しも長いとは感じません。この曲は鸚鵡返しの歌を読むところから構想された曲であろうと言われていますが、この日の舞台の上では、小野小町の姿が示す哀れに終始感情移入させられ、老残のシテの心の動きに寄り添うような穏やかな囃子と地謡にも引き込まれ続けました。

「内やゆかしき」「内ぞゆかしき」は、文楽・歌舞伎ファンならよく知っているでしょう。『義経千本桜』の「すし屋」で梶原景時から下された頼朝の陣羽織の裏に書かれていたのがこれらの下の句。そこから陣羽織の内に隠されていた袈裟念珠を見つけた維盛は頼朝の報恩の気持を知るのですが、そのときの維盛の言葉は次の通りです。

鸚鵡返しか、恩返しか。ハア敵ながらも頼朝はあつぱれの大将、見し玉簾の内よりも心の内の床しや。

お昼はおなじみ松濤弁当。「お茶はいかがですか?」の声に合わせて買い求めたら、ご覧のLOTUS Teaでした。ポイントは、イラストの『ブッダ』で、手塚治虫の『ブッダ』をアニメ映画化したものですが、父王スッドーダナの声を観世宗家の清和師が担当しているのでした。私はこの映画を見ていないのですが、伝え聞くところによると、勝手の違うアテレコに台本棒読みとなった宗家は、演出家にキレられて(?)いたそうです。

蟹山伏

仕舞四曲の後、狂言「蟹山伏」。囃子抜きで山伏が〈次第〉大峰かけて葛城や、我が本山に帰らんと謡うと、供の強力が帰らんと地取。二人の会話は、山伏が生き不動と呼ばれている、ならば強力は脇士である矜羯羅こんがら・制吒迦せいたかだろうなどと自慢たらたら。ところが、やがて山が深くなるとどうどうと鳴る音がする……と二人が訝しんでいると幕の内からどんどんと床を踏み鳴らす音が聞こえてきて、やがて幕の中から突然異形の者が飛び出してきました。グレーの身体の上に明るい法被を着て、ふさふさの長い黒髪の下には若い感じの面。親指と人差し指でハサミの形を作った左右の手を交互に振りながら横走りに舞台へ進んだ化け物は、正中でゆったりとハサミを左右に振りながら二眼天に有り、一甲地に着かず、少足八足大足二足、右行左行して遊ぶものの精にてあるとぞよと山伏達に謎をかけます。これを聞いて山伏はすぐに蟹の精だと気付き、強力もそれなら恐れるに足りずと金剛杖で打ちかかりましたが、逆に耳を挟まれてしまいました。痛い痛いと助けを求める強力を救おうと山伏は祈りを始めますが、一向に効果がありません。いろはにほへと、ボーロンボロン、ちりぬるをわか、ボーロンボロンと祈っているうちに山伏も耳を挟まれてしまい、二人して「アーいたいたいた!」。とうとう投げ出されてしまった山伏と強力は、あっという間に幕の内へ逃げた蟹の精を「やるまいぞ」と追って舞台から消えました。

偉ぶっている山伏の祈りに全然効験がないことを物笑いの種にする山伏物の曲ですが、蟹の精のハサミの動きが大阪道頓堀のかに道楽を連想させて(アレよりはずっと動きが速いですが)それだけでもおかしくなってしまう一番でした。

この後にさらに仕舞八番。さすがにこれはきつく、途中で意識を失いかけてしまいましたが、なんとかこらえて休憩の後、いよいよこの日のメインイベントである「烏帽子折」です。

烏帽子折

この曲は、子方が舞台上で元服を行い、これをもって子方を卒業する節目の演目。この日の子方は観世宗家の跡取りである三郎太くんで、烏帽子親となるシテはもちろん、宗家清和師です。

力強い囃子に乗って、ワキ/三條吉次(福王茂十郎師)とワキツレ/三條吉六が登場。三條吉次は、源義経の奥州下りを助けた「金売り吉次」として有名な伝説上の人物です。〈次第〉末も東の旅衣、日も遥々と急ぐらんに続いて〈名ノリ〉、そして二人が東へ下ろうとするところへ幕の内からよく通る声でなうなうあれなる旅人、奥へ御下り候はば御供申し候はんと子方の声が呼び掛けてきました。一度は断ったワキでしたが、重ねて同行を求める子方にそれならばと笠を渡すと、子方は地謡の〈下歌〉のうちに手際よく笠をかぶります。〈上歌〉のうちに三人は舞台を回り、日が傾く頃に「鏡の宿」(現在の滋賀県竜王町あたり)に到着。ここで三人は後見座に移り、アイ/早打が逐電した牛若丸を見つけたら注進するようにと触れ回ります。アイが幕の内に下がったのを見届けた後見が、その前に座っている子方に「はい」と小さく声を掛けて子方は立ち上がり、常座でこのままでは捕らえられてしまうので、急いで髪を切り烏帽子を着て東男に身をやつそうと語ると、幕に向かって案内を乞います。これを受けて幕の内から出てきたのは父王スッドーダナ……ではなくて、直面の前シテ/烏帽子屋ノ亭主(宗家清和師)。急いで烏帽子を折ってほしい、それも源氏の左折りにしてほしいという子方の求めに不思議に思いながらも、自らの先祖が八幡太郎義家に左折りの烏帽子を折った嘉例を〈語リ〉で聞かせ、地謡が程なく烏帽子折り立ててと謡う間に後見から烏帽子を受け取ると、掛緒を整えてささっと子方に駆け寄り、烏帽子を着けてやりました。ここが、子方の元服の瞬間。後ろに下がって日本一烏帽子が似合ひ申して候と扇をふるって打ち眺めるシテの様子は、何やら役を忘れて(?)うっとりしているようにも見えました。

金子を持ち合わせない子方は短刀をシテに渡して地謡の前に下居し、一方シテは一ノ松から前ツレ/烏帽子屋ノ妻を呼びました。幕の前に出てきた曲見面・紅無唐織姿の妻に、幼い人に烏帽子を折ったところこの短刀を代金として賜った、見事なものではないか、とシテは短刀を渡しましたが、すると前ツレは短刀をじっと見て、なぜかシオリ。不思議に思ったシテの問いに妻は、自分は源義朝の最期のときに共に尾張国野間で死んだ鎌田兵衛正清の妹で、牛若丸が生まれたときに義朝から御守刀として常盤御前に下されたこの短刀を運んだのが自分であると打ち明けました。これを聞いて驚いたシテは、ただちに妻を伴って牛若のもとに向かい、短刀を返します。不審に思う子方でしたが、前ツレとの会話で合点がいった様子。このとき子方は前ツレを阿古屋の前かと呼んだので驚いたのですが、浄瑠璃でおなじみの「阿古屋」は京都清水坂の遊女で平家の残党景清の愛人ということになっていますから、ま、関係ないんでしょう。そうこうするうちに夜明けとなり、子方の腰に短刀を強いてさしてやったシテと前ツレは退場、子方は後見座から脇座に戻ってきていたワキ・ワキツレと共に旅を続ける態となって舞台上を一周。美濃国赤坂宿に着いたところでワキ・ワキツレは脇座へ、子方は後見座へ再び移って中入となります。

ここからは、ワキツレとアイ/宿ノ亭主との問答。ワキツレが狂言座に控えているアイに宿泊を頼みアイも承諾するのですが、突然緊張した様子になったアイが悪党の夜襲の話を聞きつけ、ワキツレへその旨を告げました。これはどうしたものか、と困惑するワキ・ワキツレに面々は何事を仰せ候ぞと子方は不思議そうに聞き、夜討ちの話に対して「五十騎ばかり斬り伏せれば退くでしょう」と恐ろしく強気!これを聞いたワキは、これは頼もしい、よろしく頼みますとあっさり信用してしまうのですが、元服したての実質子供の言うことをそこまで信用していいのか?という見所の疑問をよそに、自分は大手に向かいましょうと正中に立って足拍子を踏み勇壮に舞ってみせる子方を残して、ワキ・ワキツレは切戸口から下がっていきました。

橋掛リにまずやってきたのは、松明を持った三人組(火振)。装束からみて一人が親方、残りの二人がヒラのようですが、偵察を互いに譲り合って案外小心な様子です。シテ柱に手をかけ欄干に立って様子を伺っている親方を残りの二人が後ろから脅かして親方がひっくり返ったりしているうちに、脇座で後見の手を借りて、悠々とピンクの鉢巻を締め太刀を手にする子方。その落ち着き払った様子は、やはり格が違います。覚悟を決めた親方は、欄干の上からシテ柱の見所側を跳んで常座に着地し、暗がりの中をそろそろと進む形。ところが闇を通して脇座を見透かすと、子方が仁王立ちしているので仰天し、逃げ帰ってしまいます。二人目の火振もジャンプ、今度は松明を無言のうちに太刀で払い落とされ、三人目はこわごわ投げ入れた松明を踏み消されてしまいました。これでは埒が明かないと再び乗り込んだ親方でしたが、松明をむんずとつかみ捨てられ、後ろからばっさと刀で斬られてしまいました。残る二人の火振に、傷は浅いぞと励まされながら這々の体で退散していく哀れな親方……。

いよいよ、熊坂長範本隊の出動です。幕から頭巾の下に長霊癋見面、法被半切姿の後シテ/熊坂長範と、てんでに打ち物を持ち白鉢巻(一人は角帽子)に法被半切姿の後ツレたちが驚くほどの人数ぞろぞろと登場して橋掛狭しと並びます。〈一セイ〉寄せかけて、打つ白波の音高く、鬨を作つて騒ぎけりは、後ツレたちの斉唱ととぐろを巻くような動きとで凄い迫力でした。後シテは火振の三人による松明の占手が不吉であることから盗みも命のありてこそと一度は帰ろうとしたものの、いやまて、熊坂長範ともあろうものが12、3歳の幼い者を相手にそんなことでよいものかと考え直し、ただ攻め入れや若者どもと後ツレたちに突入を命じます。鞘を捨てて太刀を構えた子方と、舞台上になだれ込む後ツレたち。ここから、これまで観たこともないような激しい斬組(立ち回り)となりました。鞘を捨てるガチャガチャという音をやかましくたてながら舞台に進んだ後ツレたちは、子方と太刀を打合せ、あるいは暗闇の中で相打ちになりつつ、一度は横薙ぎの刀を跳んでかわすものの、ついに斬られて前方宙返りや仏倒れ、飛安座などさまざまな大技で次々に死んでいきます。それも、一人一人順番に斬られるだけではなく、舞台上で一度に三人が前方宙返りと仏倒れとをいっぺんに見せたり、舞台上と橋掛リの上で同時に打ち合ったり、三人で鍔迫り合ったり。長刀を持つ若者頭に至っては前方宙返りの直後に立ち上がって、今度はうーんと身体を海老反りにしてから仏倒れへ持ち込んだりと歌舞伎俳優にもできないシビアな死に様を見せてくれました。凄過ぎる……。

〔カケリ〕が終わって最後に残った後シテは、熊坂長範六十三、今宵最期の夜討せんと悲愴感を漂わせながら一ノ松で大太刀を抜き放ち、舞台中央で子方とにらみ合います。ついに刃を打ち合わせた子方は、跳躍して大太刀をかわし、鎬を削って回ると、後シテが横に構えた大太刀に何度も太刀を打ち込んでいきます。その勢いにとうとう力が尽きた後シテは、大太刀を捧げた形のまま座り込んでしまいました。打物業ではかなわないと見た後シテは大太刀を捨てて大手を広げ、狂言座に移った子方に組みつこうとしたものの諸膝を薙ぎ払われてしまいます。なんとか幕の前まで進んだ後シテでしたが、そこで膝を突いて後ろに倒れてしまい、再び起き上がったところで後ろから斬りつけられ幕の中へ。最後は、刀を肩に担いだ子方が常座にて見事に留めました。

この曲では、前シテと後シテはまったくの別人格ですが、前シテ/烏帽子屋ノ亭主は子方の元服を手伝い、後シテ/熊坂長範も敗者が勝者に道を譲ることでこれを祝福するという点では、同じ役割を担っていると言えます。つまり、真の主役は子方ということになります。そして、この曲の主役である三郎太くんが橋掛リを下がっていき、幕の内に入る前、つまりは附祝言が謡われ始める前に盛大な拍手が湧きましたが、この日ばかりはこれもありだろうと思いました。それほど、三郎太くんの義経は見事で、85分間出ずっぱり、尋常ではないセリフの量、複雑な立ち回りを全て堂々とこなした彼の子方卒業を、見所の誰もが心から祝福したのに違いありません。

配役

鸚鵡小町
杖三段之舞
シテ/小野小町 観世恭秀
ワキ/新大納言行家 森常好
一噌庸二
小鼓 大倉源次郎
大鼓 亀井忠雄
主後見 坂井音重
地頭 野村四郎
仕舞 道明寺 武田宗和
松風 高橋弘
隅田川 木月孚行
藤戸 谷村一太郎
狂言 蟹山伏 シテ/山伏 三宅右近
アド/強力 三宅近成
アド/蟹ノ精 金田弘明
仕舞 歌占 山階彌右衛門
実盛 野村四郎
定家 関根祥六
鵜之段 寺井栄
弱法師 坂井音重
網之段 岡久廣
鐘之段 角寛次朗
山姥 武田志房
烏帽子折 前シテ/烏帽子屋ノ亭主 観世清和
後シテ/熊坂長範
前ツレ/烏帽子屋ノ妻 観世芳伸
子方/牛若丸 観世三郎太
ワキ/三條吉次 福王茂十郎
ワキツレ/三條吉六 福王知登
アイ/火振 三宅右近
アイ/火振 三宅近成
アイ/火振 高澤祐介
アイ/宿ノ亭主 三宅右矩
アイ/早打 前田晃一
後ツレ/長範ノ郎等若者頭 角幸二郎
後ツレ/長範ノ郎等 清水義也
後ツレ/長範ノ郎等 野村昌司
後ツレ/長範ノ郎等 坂井音雅
後ツレ/長範ノ郎等 武田祥照
後ツレ/長範ノ郎等 林宗一郎
後ツレ/長範ノ郎等 武田宗典
後ツレ/長範ノ郎等 関根祥丸
後ツレ/長範ノ郎等 武田文志
後ツレ/長範ノ郎等 木月宣行
後ツレ/長範ノ郎等 津田和岳
後ツレ/長範ノ郎等 坂井音隆
後ツレ/長範ノ郎等 坂口貴信
後ツレ/長範ノ郎等 武田友志
後ツレ/長範ノ郎等 坂井音晴
一噌隆之
小鼓 観世新九郎
大鼓 亀井広忠
太鼓 金春國和
主後見 木月孚行
地頭 関根祥六

あらすじ

鸚鵡小町

かつては美貌と才能をうたわれた小野小町も、今は年老いて一人さびしく関寺の辺りに暮らしている。そのことを伝え聞いた帝は、小町を不憫に思う心を和歌に詠み、新大納言行家に託す。行家は小町と会い、帝の歌を示すが、目の衰えた小町は自分で読むこともかなわない。そこで行家がかわりに「雲の上はありし昔に変わらねど見し玉簾の内やゆかしき」と詠みあげると、小町は返歌として「ぞ」の一文字だけを告げる。いぶかる行家に小町は、「内やゆかしき」を「内ぞゆかしき」と一文字だけ変えて返したもので、これは「鸚鵡返し」という返歌の仕方なのだと述べる。やがて小町は行家に乞われるままに、かつて在原業平が舞ったという法楽の舞を舞い、夕暮れとともに都へ帰る行家を見送ると、ふたたび老女のさみしい境遇が身に迫り涙を流す。

蟹山伏

修行を終えた山伏が強力を供に連れ帰郷する途中、江州蟹が沢で「二眼天に有り……」と謎かけをする異様なものに出会う。山伏はこれを蟹の精であると悟り、強力が「晩のお泊まりのお肴」確保のため金剛杖で打ちかかるが、蟹の精に耳を挟まれてしまう。山伏が祈って放させようとするが、呪文の効果はなく、山伏自身も耳を挟まれる。

烏帽子折

奥州へ旅していた商人・三條吉次は、途中、ひとりの少年から同道をたのまれる。その少年は、鞍馬山から逃れて来た牛若丸だった。近江の鏡の宿というところで追手が迫っていることを聞いた牛若は元服を思い立ち、源氏様の左折烏帽子をもとめて烏帽子屋を訪ねる。源氏にゆかりの深い烏帽子屋の亭主夫妻は牛若を温かくもてなし、祝福する。夫妻から餞別の刀を受け取った牛若一行は東国に下り、やがて美濃国・赤坂に着いた一行は盗賊・熊坂長範とその配下達から夜襲をかけられる。しかし牛若は冷静に迎え撃ち、たった一人で全ての敵を撃退する。