Tony Kaye and Billy Sherwood

2011/04/23

STB139(六本木)で、Tony Kaye and Billy Sherwoodのライブ。

Tony Kayeはもちろん、Yesのオリジナルキーボードプレイヤー。3枚のアルバムを発表後、Rick Wakemanと入れ替わって1971年にYesを離れたのですが、Yesが活動を停止した後の1983年にChris Squire、Alan White、Tony Rabinと共にCinemaを結成。このCinemaがJon Andersonを迎えて再びYesになるときに一時あのEddie Jobsonと交代させられかけたものの、「Yes」名義を使用するためにやはりTonyが必要ということになって復帰したといういきさつがあります(Tonyには申し訳ないですが、このときEddie JobsonがYesのキーボードプレイヤーに納まっていたらどんな音楽を作っていたかと想像すると、非常に残念)。このいわゆる90125Yesは、1994年の作品『Talk』(実態はTrevorのソロ作品)で終焉を迎え、TonyとYesとのかかわりもここまでとなりました。

一方、1980年代に活動を始めたマルチプレイヤーBilly Sherwoodは、90125Yesの2作目『Big Generator』発表後にJon AndersonがABWHでの活動を選択したときに、その後任ヴォーカリスト候補としてChris Squireに呼ばれたのがYesとの直接の関係の始まり。Billyが作曲や演奏に関わった曲は『Union』でも聞かれ、さらに『Talk』のツアーにサポートミュージシャンとして参加した後、1997年の『Open Your Eyes』(実態はChrisとBillyのデュオ作)で作曲に加えギターとキーボードを担当しています。私は「Talkツアー」を大阪で観に行く予定にしていたのですが、そのときは台風のために公演中止……。このため、初めてBillyの姿を見たのは「Open Your Eyesツアー」のときということになります。そして1999年の『The Ladder』発表後に、BillyもYesを離れました。

こんな2人がどういういきさつで一緒に活動を続けることになったのかは不明ですが、ここ数年はAllan Whiteも加わったCirca:、あるいはTotoのBobby Kimballを迎えたYosoといったバンドでアルバムのリリースとツアーを精力的にこなしており、そして今回はデュオとしての来日です。

雨の六本木、STB139に入ってみるとステージ上はいたってシンプルで、中央のやや左寄りにTonyのキーボードが2台=上はRoland Fantom-X7、下はCMEのMIDIコントローラー(UKZの来日時にEddie Jobsonも使っていたものと思われます)。さらに左手側にノートPCが2台(たぶんソフトシンセ用とBGM用)、ミキサー。Billyにいたっては、ミキサー、足元にフットスイッチとセットリストを書いた紙、そして上手に離れたところに赤いシングルカッタウェイのCarvinギターが1本。狭いSTB139のステージが、異様に広く見えます。

やがて開演のアナウンスがあり、BGMの中に登場したTonyとBilly。Tonyは高々と手を挙げて「よっ!」といった感じ、Billyはにこやかに合掌のポーズで入場。2人ともゆったりとしたシャツを着てリラックスした雰囲気です。Billyがギターをとりあげて、ひとしきりチューニングを確かめてから顔を見合わせて始めた曲は、BillyとChris Squireのデュオ作品である『Conspiracy』から「Confess」。おぉー、これはかっこいい。音はこの会場では異例なほどラウドで、打ち込みとは思えないダイナミックなドラム音やベース音をBGMに、BillyもTonyもソロを弾きまくり、Billyのボーカルもやや線が細いものの客席によく届いてきます。特にTonyはのっけからアクション全開で、オルガンソロ(CME MIDIコントローラーはオルガン専用として使用)では大きなアクションで客席に視線を送りながらぐりぐりとグリッサンドを決めてきます。このオヤジ、侮りがたし。思いがけないパワフルな演奏に客席も大喜びで、以下Circa:の曲が2曲続いた後に、Yesのセカンドからタイトル曲「Time and a Word」。改めて聞いてみると、しみじみといい曲だ……。続いてかかったファンキーなノリのいい曲は、演奏前にBillyが「Yesの『The Ladder』で「Finally」になった曲だ」と紹介していましたが、なるほどハネるようなリフ、コード進行、中間部でテンポダウンするところなど、ボーカルラインの違いに目をつぶればまさに「Finally」。

Tonyのソロコーナー。ストリングスの重ねられたピアノ音を元気よく弾きだしたのはいいのですが、すぐに「That's not good.」と一言つぶやいてFantomの後ろ側へ回ると、なぜか抜けていた(シールド?ダンパーペダル?の)プラグを挿し直して、悠然とキーボードの前に戻りました。Billyからの「なんだなんだ?」にTony「誰かが抜いてしまったようだね」と動じる様子もないのは、さすがベテランの味でしょうか。演奏はクラシカルで広がりのあるものでしたが、その中に「Heart」や「Changes」のモチーフを織り交ぜてありました。

Billyが戻って来て、彼のソロ作品から「Fireworks」を演奏した後に、トリッキーなギターのリフからYesの「I've Seen All Good People」。これも幻想的な美しいアレンジが施されていましたが、先ほどの「Time and a Word」といいこの曲といい、Billyのアレンジセンスは抜群です。一方、曲は途中でリズムが入ってくるところから「Owner of a Lonely Heart」に変わり、こちらの方は原曲に近いアレンジになっていました(もちろんオーケストラヒットも)が、Trevor RabinのソロをBillyがなぞった後にテーマが入って、そこからTonyのシンセソロ、Billyのギターソロ、最後はオーケストラヒットががんがん上がって終了。

続いてTotoの『Kingdom of Desire』から「The Other Side」が演奏されて「なんで?」と思いましたが、調べてみるとこの曲はBillyが提供した楽曲でした。この曲が終わったところで、Billyは右手に持ったガジェットでギターに持続音を出させオリエンタルな雰囲気のフレーズを弾き始め、そこからYesの『Talk』から「I Am Waiting」を、ボーカルもBGMもなしの純粋に2人だけのインストゥルメンタル曲として演奏しました。美しい……。美しいと言えば、続く「Wonderous Stories」も、リズムを多少強調したアレンジになっていましたが、そこに乗るエレクトリックギターの伸びやかなフレーズやRick Wakemanを模したキラキラシンセは原曲に負けず劣らず美しいものでした。

4拍と6拍をスムーズに行き来する佳曲「Man Overbored」、そしてそうか、これもBillyとChrisの曲だったかと気付かされた「More We Live」。2人の間にマジックが起きてできた曲だとBillyは説明していましたが、確かにマジカルなムードの不思議な曲で、おそらくYesの『Union』ではBillyのパートをJon Andersonに差し替えたのでしょう。Chrisとの『Conspiracy』ではBillyがメインボーカルのバージョンが聞けるそうです。そして『Open Your Eyes』に収められた能天気なムードの「No Way We Can Loose」、さらにBillyがそのキャリアの初期に所属していたWorld Tradeの、印象的なギターのキメフレーズを持つ「Say Goodbye」で本編終了。

総立ちになってアンコールを求める聴衆の前にまず現れたのは、プロモーターのアンドフォレストミュージック代表の中村氏。最初から聞かれていた迫力あるBGM音源は2人が3週間をかけて実際に各種楽器を演奏して制作したスペシャルなものであることを紹介した上で、今回のツアーで回る予定だったものの震災のために行けなくなったいわきと仙台のためにも再び2人を招聘したいと語ってくれました。そういえば今回のツアーでは、名古屋での演奏をUstreamで配信していて、この異例の措置も東北地方の人たちのために演奏を披露したいからという心配りからだそうです。ただ、実は東京へ来るまでの西日本各地での集客はかなり厳しかったようで、名古屋ですら聴衆は20名程度しかいなかった模様。したがってプロモーター側としては、大票田である東京での最終公演の集客を後押しするためのプロモーションの必要性も感じてはいたことでしょう。

アンコールは2曲。震災に遭った方々のためにということでこの日2曲目に演奏した「Together We Are」をなんとミラーボール付きでもう一度、そしてBillyの「ドーモ、ドーモ、ドーモアリガトー!」とのMCを経て、最後は凄いハイテンポでの「Roundabout」。聴衆は大盛り上がりで頭上で手拍子を繰り返し、熱狂のうちにライブを終了しました。全ての演奏を終えて前に出てきた2人。Tonyはモニター用のインイヤーフォーンを外したところで初めて歓声の大きさに気付いた!といった表情を浮かべていましたが、彼一流のジョークでしょう。

ともあれ、とてもよいライブでした。実は事前に「Tony Kaye and Billy Sherwood」名義でのライブの模様をYouTubeで見たところでは、Billyはアコースティックギターを使用しており、Tonyも淡々と弾いている印象だった上にドラムトラックもはっきりと機械的なもので、とにかくなんだかぱっとしない演奏だったためにがっかりしてしまっていたのですが、この日の演奏は2人とも実に熱のこもったまさしく「ライブ」と呼ぶにふさわしいもので、すっかり感動してしまいました。

そして、もちろん2人のアレンジ能力の高さが奏功しているのは間違いないのですが、それにしても、どんなアレンジがなされていても時代を超えて胸を打つYesの音楽の魅力もまた、再確認したライブでもありました。

ミュージシャン

Tony Kaye keyboards
Billy Sherwood vocals, guitar

セットリスト

  1. Confess(Conspiracy)
  2. Together We Are(Circa:)
  3. Cut the Ties(Circa:)
  4. Time and a Word(Yes)
  5. I Could / Red Light(Conspiracy)
  6. Tony Kaye Solo
  7. Fireworks(Billy)
  8. I've Seen All Good People(Yes)
  9. Owner of a Lonely Heart(Yes)
  10. The Other Side(Toto)
  11. I Am Waiting(Yes)
  12. Wonderous Stories(Yes)
  13. Man Overbored(Billy)
  14. More We Live(Yes)
  15. No Way We Can Loose(Yes)
  16. Say Goodbye(World Trade)
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  17. Together We Are(Circa:)
  18. Roundabout(Yes)