塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Ultimate Zero Project

2010/06/17

渋谷O-EASTで、Eddie Jobsonのライブ。Eddieの演奏を聴くのは昨年のUKZ以来ですが、そのときと同じメンバーはドラムのMarco Minnemannだけで、新たに次のミュージシャンがこのUltimate Zero Project(EddieはMCの中で「U-Z Project」と呼んでいました)に加わっています。

  • Marc Bonilla:2008年のKeith Emersonの来日公演のときにそのプレイを見たギタリスト兼ヴォーカリスト。
  • T.J. Helmerich:今回初めて聴く、エイトフィンガータッピングが特徴のギタリスト。
  • Billy Sheehan:泣く子も黙る(?)Mr. Bigのベーシスト。
  • Mike Mangini:これも今まで知りませんでしたが、Steve Vaiなどとも共演している高速ドラマー。

会場に着いたのは開演予定時刻である19時半の15分ほど前で、その頃会場内にはBGMとしてAsiaの『Aura』から私の大好きな曲「Awake」が流れていました。1階の前半分はパイプ椅子を並べた指定席、後半分は立ち見席。2階にも指摘席があるようです。そして、1階指定席はほぼ満員でしたが、定刻を過ぎてもなかなか開演せず、空しくJohn Payneの歌声がこだまするばかり。ステージ上は上手側の一段高い位置にMarco Minnemannのドラムセット、その向かって左隣にMike Manginiのドラムセット。Billy Sheehanの立ち位置をはさんで下手側にキーボードが2台。その手前、ステージ下手のマイクはEddieのMC用のもので、Marcのボーカル用のマイクはドラムセットの前。T.J. Helmerichのポジションは一番上手寄りです。結局、20分遅れで場内が暗くなり、歓声の中、Eddieが1年前と変わらない姿で下手から登場しました。

Violin Solo, bass Solo / Indiscipline
妖しげなSEが流れる中、下手からヴァイオリンを指先でカタカタと鳴らしながらEddie登場。背後からの強く黄色い光にシルエットとなって、クリスタルのヴァイオリンを歪み系を中心にさまざまな音色で弾きまくります。特に、ディストーションとオクターバーで生み出す重低音が凄い迫力。ついでキャップをかぶったBillyがEddieに呼び出され、ハーモニクスプレイや速弾きプレイをひとしきり。その後、EddieとBillyがシンプルなリズムパターンを延々と繰り返す上で、3人目の登場人物であるMikeが自分のドラムセットに座り、フリーな演奏をパワフルに叩きだしましたが、もしやこれは、King Crimsonの「Indiscipline」?まさかこの曲を1週間のうちに2回もライブで聴くことになろうとは、夢にも思っていませんでした。Mikeの、Terry Bozzioを彷彿とさせる瞬間移動的な腕の動きの速さに驚いているうちに、今度はMarcoが参戦。昨年のUKZでも来日しているMarcoへの歓声はひときわ高く、Marcoも笑顔で会釈してから、派手な手足のコンビネーションやクロススティッキングで「見せる」プレイを繰り出してきました。さらに、上手からヘッドレスのギターを肩から提げたTJが現れ、トレードマークのエイトフィンガータッピングを披露します。最後にそのギターのロングトーンが伸びている間に、Eddieはキーボードの前へ。そして、聞きなれたようなそうでもないような変奏されたフレーズが流れてきて「あれれ?」と思ったら、「Presto Vivace」へなだれ込んでいました。
Presto Vivace / In the Dead of Night
ツインドラムでのダイナミックな「Presto Vivace」、そしてあの特徴的なリズムパターンの中で最後のメンバーMarcがMarcoの前に立ち、「In the Dead of Night」。ところが、ツーコーラス終わって高速アルペジオから分散和音を経てギターソロに移る場面で、Eddieが高速アルペジオを引っ張り過ぎるミス!ギターソロがあるのを忘れてエンディングに持ち込もうとしてしまったようですが、なんとか曲に回帰して事なきを得ました。TJのギターソロは、レガートな奏法が流麗ではあるものの、なんだか音を外しまくっている感じでイマイチ。ともあれ今度こそちゃんと曲が終わって、Eddieは隣のBillyに「いやー、間違えちゃったよ」といった苦笑いの表情を見せていました。
Bitches Crystal
Eddieから、このU-Zプロジェクトは世界的なプレイヤーを集めてプログレッシブロックのクラシックな曲をライブで再現することを目的とすること、そして次はEmerson, Lake & Palmerの曲を演奏することが告げられて、何をやるのかな?と待ち構えていたら、予想外の「Bitches Crystal」に会場も意表を突かれた感じ。確かにこの曲は、Keith Emerson自身も自分のバンドでとりあげていて、ピアノトリオのための曲でありながら意外にロックテイストが強いのですが、ここでもツインドラムの音の壁が突如眼前に立ち上がって、原曲でのCarl Palmerの細かいスネアワークとは別世界のド迫力の好演となりました。はねるリズムを持つこの曲をツインドラムで合わせるのは難しそうですが、2人のドラマーは時折目線を合わせながら、実に楽しそうに叩いています。
Starless
続いて、Eddieのカウントで流れてきたのは、あのひんやりとしたメロトロンサウンド。King Crimsonの名曲「Starless」です。プログレ界の演歌とも言うべき(?)前半のメロトロンパートを終えて、ギターの単音とベースの印象的なパターンにやがてドラムが加わるところからEddieも歪み系ヴァイオリンで音を重ねて、徐々にヒートアップ。ついにドラムが炸裂して全力疾走を始めてからは、Eddieのディストーションヴァイオリンも全開になります。あまりに気合が入り過ぎたためか、ラストパートでのメロトロンに復帰するところが危うく出遅れかけましたが、最後は壮大な大団円へ。
Carrying No Cross
これはU.K.の名曲中の名曲。前半のボーカルパートの後ろでドラムがメロディックにタムを回すところは、MarcoとMikeが交互に音を入れていました。中間のキーボードソロパートで、シンセのリード音が伸び始めるところでEddieは音色の選択を誤り、あわてて修正。ピアノの上行フレーズも正確さを欠き、さらに最後のボーカルパートに入る前、ピアノがマーチ風に雄大なテーマを奏でる場所も、Eddieはひとりタイミングを見失ってしまっていました。どうも今日のEddieは不調です。がんばれ!
Keyboard Solo
ソロ作品『Theme of Secrets』からお約束の「Inner Secrets」のビー玉音も織り交ぜつつ、前半はピアノ、後半は「Theme of Secrets」を中心に組み立てたソロ。この曲は、本当に美しいですね。
Alaska
オーロラが照らす極北の大地が震えるような重低音。この荘厳なイントロを聴くといつも、こちらの心も震えてきます。そしてキャラキャラと装飾音が入り、ダイナミックなオルガンのグリッサンドからインテンポ。その後原曲は「Time to Kill」ですが、予想をいい意味で裏切って「Danger Money」へつなぎました。このアレンジは、グッド・アイデアです!
Danger Money
原曲は、U.K.のセカンドのオープニング・ナンバー。私にとってはTerry Bozzioを聴いた初めての曲だったのですが、この曲の重厚な展開も、Bill Brufordがいたファーストアルバムでの軽やかなリズムを持つU.K.ソングとは違った魅力があります。そのTerryを伴ったU.K.唯一の来日ライブ(1979年)では、この曲のメインボーカルをJohn WettonがTerryと分け合い、さらにコーラスにはEddieも加わって三声になっていましたが、この日の演奏ではMarcが孤軍奮闘。せめて、BillyかTJがコーラスに加わってあげればいいのに。しかし、その点を除けば堂々たる演奏でした。
Drums Duo
「Danger Money」のフェードアウトの中でMarcoのシンバルロールが残り、そこからドラマー2人の競演。それぞれのソロと、2人が息を合わせるパートとが交互にやってくる構成で、Marcoはトリッキーなスティックワークも見せつつ聴衆ウケする派手なドラミング。かたやMikeは片手高速ロールをはじめ、手数の多さ・速さを売り物にした演奏でしたが、ひきだしの多さという点でMarcoに軍配があがったかも。20分弱にも及ぶ長〜いドラム・デュオが終わって、2人はハイタッチ、聴衆も拍手喝采。
Nevermore
EddieがMCで、前日までライブでfull lengthで演奏したことがなかった曲という紹介をしたのが、この「Nevermore」です。原曲の冒頭ではAllan Holdsworthがアコースティックギターによる超絶技巧ソロを聴かせるのですが、これをコードはMarc、流麗ソロはTJと分担。ただ、ここでもTJのギターは思い切りがないというか、音が間引かれているというか、曲を把握しきれていないというか、とにかく煮え切らない印象……。ともあれ、Marcoによるリズムが入ってきてボーカル、そしてこの曲の最大の魅力であるキーボードとギターの掛け合い部に移りますが、Eddieはサンプリングと直弾きとを組み合わせて原曲のソロを巧みに再現していました。ちなみにサンプリングによる音だったのは、ソロの最初の方(原曲で言うと3分23-27秒あたり)でワンポイント出てくる変わった音色のテクニカルなフレーズと、その後(4分16-22秒あたり)の、VCOにかぶせた矩形波の波長が揺れ動くようなフレーズ(←なんのこっちゃ……)。最後に、この曲の終わりの穏やかなパートでEddieがメンバー紹介をしてから曲が締めくくられると、それまで座っていた観客もみな総立ちになって、ステージ上のミュージシャンたちに盛大な拍手を送りました。ここでいったんバックステージに引っ込むのかな、という予想を覆して、Eddieは特徴的な5拍子の手拍子を観客に求めます。そして始まったのは……。
Caesar's Palace Blues
Eddieのヴァイオリンがフル稼働するこの曲。この曲も大好きなんですが、ただ、もともとヴァイオリントリオ用に書かれた曲なのに、ステージ上にはギタリスト2人、ドラマー2人。ことにギタリストたちは、明らかに手持ち無沙汰という感じです。
The Sahara of Snow, Part 2
「Caesar's」の終わりのキメがびしっと決まった後、引き続き四つ打ちと手拍子に乗ってこの曲。これこそTJの華麗な指さばきが見られるかと期待したのですが、どうもギターの音量が小さくてよく聞き取れませんでした。残念。

ここでメンバーはいったん下がり、会場はアンコールを求める拍手が渦巻きます。やがて出てきたEddieたちに、盛大な拍手と歓声。そして「You might know this one.」というEddieの予告通り……。

Red
ステージ上は赤い光に妖しく照らされ、その中でEddieのヴァイオリンが背後からの白色光に鮮明に浮かび上がって、メタルクリムゾン宣言とも言うべき「Red」。この曲も先日のStick Menのライブで聴いたばかりですが、こちらの6人がかり「Red」の迫力がさすがにStick Menを上回っていました。しかし、ここでもディストーションヴァイオリンの音圧がギターを圧倒しており、TJたちはなんだかかわいそう。
The Only Thing She Needs
ラストは、ツインドラムによる特徴的なイントロからカコカコとオルガンが入って「The Only Thing She Needs」。これもドラムのパワーが存分に発揮される曲で、キーボードからヴァイオリンへスイッチするところでEddieが暢気に手拍子なんかしていたためにソロの出だしが遅れてしまいましたが、そんなことをものともしない2人のドラマーに押し出されるようにしてEddieのブルーのヴァイオリンが咆哮しました。

終演は22時近く。開演がかなり押したのでほぼ2時間の演奏ですが、Eddieの言葉の通り、クラシックなプログレッシブロックの名曲の数々を堪能できたステージでした。7拍子でヘッドバンギングするのは、本当に楽しいですね!Eddieが上述の通りあちこちでミスをしたのは、この際大目に見ることにしましょう(←ファンの贔屓目)。バンドとしてのまとまりが欠ける部分があった(特にTJ)のも、彼らがヘッドライナーをつとめるNEARfestの前哨戦として、日本での3回のギグでクオリティを上げていくということだったすれば頷けます。

ただ、正直に言ってそもそもこのU-Z Projectのあり方には、素直にうなずけないものがあります。

UKZと並行して行われるソロプロジェクトであるとUKZのサイトではアナウンスされていて、ゲストにはこれまでGreg Howe(g)、Simon Phillips(ds)、Tony Levin(b)といった実力者が入れ替わり立ち替わり参加し、さらにポーランドでのステージではあのJohn Wettonも加わって大懐メロ大会を展開したのですが、こうした過去の遺産をこれほどの豪華メンバーで、それもほとんどアレンジを変えることなく単なる原曲再現スタイルで演奏することにどれほどの価値があるのでしょう?この日のステージを見ても、Billyがベースを弾く必然性もなければ、ギタリストが2人いる意味もわからず(ボーカル中心だったMarcはギタリストとしても一流ですし、逆にTJもかなり歌えると聞いています)、さらにツインドラムというスタイルをあえて採用した意図も見えてきません。つまり、現役の音楽家としてのEddie Jobsonが、どちらを向いて何をしたいと考えているのかがさっぱりわからないライブだったということです。もっと絞り込んだ緊密なバンド編成で、今のEddieを表現する尖った楽曲と演奏を、次回の来日では彼に期待したいと思います。

ミュージシャン

Eddie Jobson keyboards, violin
Marc Bonilla guitar, vocals
T.J. Helmerich guitar
Billy Sheehan bass
Marco Minnemann drums
Mike Mangini drums

セットリスト

  1. Violin Solo, bass Solo / Indiscipline
  2. Presto Vivace / In the Dead of Night
  3. Bitches Crystal
  4. Starless
  5. Carrying No Cross
  6. Keyboard Solo
  7. Alaska
  8. Danger Money
  9. Drums Duo
  10. Nevermore
  11. Caesar's Palace Blues
  12. The Sahara of Snow, Part 2
    -
  13. Red
  14. The Only Thing She Needs

こちらがEddieの使用機材。Infinite Response社のMIDIコントローラーVax77です。