塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Simon Phillips

2009/03/13

STB139(六本木)で、Simon Phillipsのバンドのライブ。このライブスポットへは昨年来、アンドフォレスト・ミュージックのプロモートによってTerry BozzioAllan Holdsworthと足を運んで練達の技に魅了されてきましたが、いずれもどちらかと言うと腕組みして聞き込むような演奏だったのに対し、今回はSimonの超絶かつエモーショナルなドラミングに心底興奮しました。

売れっ子セッションドラマーとしてハードロック系からジャズ系まで、幅広いミュージシャンと共演してきたSimon Phillipsの演奏を初めてじかに聴いたのは、1980年のJeff Beckの「There and Back Tour」でした。1997年にはソロ名義でのライブを聴き、さらにTotoのメンバーとして1999年2002年2006年の3回。そして今回は1997年と同様にジャズロック系の楽曲で固められた彼のリーダーアルバムから選曲され、演奏されることになります。

開演はほぼ定刻通りの19時30分。主催者のMCに沿ってバンドメンバーが1人ずつ登場し、最後にSimonそのひとが現れて、演奏は彼のハードヒットからラウドに始まりました。楽曲に関しては、彼のソロ作品をそれほど追いかけているわけではないので基本的にはほとんどなじみのない曲が続くのですが、Simonの極めて冗舌なドラミングに、しっかりとグルーヴするベース(Simonがメンバー紹介のときにちょっとお茶目なMelvin Lee Daviの7弦ベースを「世界で最も広いネック」と言っていました)、ツボを押さえたバッキングのキーボード、そしてメインフレーズをユニゾンしたりソロを交互にとったりと息の合ったところを見せたギターとサックスのコンビネーションが素晴らしく、どの曲にもぐいぐいひきこまれていきます。最初のうち私はドラムにしか目が行っていなかったのですが、徐々にギターとサックスの2人の力量がわかるようになり、それぞれのソロが終わったときには熱い拍手を送るようになりました。

Simonは途中でときどき前に出てきてマイクを持ちMCをするのですが、カンペを手にしてたどたどしい日本語を使う姿が微笑ましく、そしてそのほっそりと小柄な身体は、筋肉質でプロレスラー並みに体格の良いサックス奏者のEverette Harpに比べると体積が半分くらいに見えました。この小柄な身体からどうしてあれほどパワフルな音が叩きだされてくるのかいまだに不思議ですが、それにしても、Simonのドラミングはやはり最高です。強烈に手数の多いタム回しや、オクタバンとハイハット、スネア、タムを巧妙に組み合わせた複雑なパターン、一方で随所に見られるきめ細かなスネアワーク。席が前の方であることもありますが、とにかくドラムの生音がびしびしと響いてきて、フルパワーでのタム回しでは音の壁が眼前に立ち上がり、一方細かいプレスロールが続いたときにはスネアのスナッピーのテンションまで感じられたほど、豊かなダイナミクスを味わうことができました。変拍子も多く、「Kumi Na Moja」の6/8+5/8や「Biplane To Bermuda」の7/8が、まったく不自然さを感じさせないグルーヴィーなリズムで演奏されていきます。そして、最後の「Indian Summer」がまさしく圧巻。8/8+7/8の基本リズムの上でさまざまなフレーズを叩きながらも余裕の笑顔を見せ合っていたSimonたちでしたが、途中からSimon以外のメンバーが同一パターンでこのリズムをキープする上に、Simonがドラムソロ状態でありとあらゆる手技・足技を見せつけ、ほとんど神業としか思えないそのプレイに、演奏が終了した途端、熱狂的な拍手と歓声が上がりました。

終了したのは21時50分。正味2時間の演奏はこのうえもなく充実していて、これでもし翌日も同じ会場で彼らの演奏の予定が入っていたら間違いなく帰り際にチケットを買い求めたことでしょうが、東京2daysの今日が2日目で、この後バンドは西へと旅立つことになっています。残念なような、健全財政のためにはこれでよかったような……。

なお、例によってアンドフォレスト・ミュージックでチケットを購入した客には、下の写真のプレゼントがありました。この写真ではわかりにくいですが、Simonのドラムセットは基本的にはTotoなどでのキットと同じ構成。つまり、ドラマー側から見て左手にオクタバン4発とスネア、正面にツーバス、スネア、タム4発、右手側にフロアタムとゴングバスで、オープンハンド奏法の彼は左手側にライドを置き、両サイドにチャイナ、正面から右手にかけてスプラッシュやクラッシュです。ただし、右手側のハイハットは外され、代わりにフロアタムが一つ増やされていました。

ミュージシャン

Simon Phillips drums
Mike Miller guitars
Everette Harp saxophone
Melvin Lee Davis bass
Mitch Forman keyboards