塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Asia

2007/03/10

AsiaのオリジナルメンバーによるNYライブが好評であったというニュースを聴いたのは、昨年の秋のこと。さらに10月には原宿でWetton/Downes名義でのライブを聴き、John Wettonの復活を確信しました。そうなれば、やはり日本でもオリジナルAsiaを聴きたい!と思うのは自然な成り行きで、その願いは思いの外に早くかなうことになりました。それがこの「All Four Original Members of Asia Japan Tour 2007」。右のプログラム表紙にある「XXV」はもちろん、結成25周年を示しています。あの衝撃のスーパーグループ結成から、もう25年もたつのか。道理で皆(とりわけSteve Howeが)老けこんでいるわけだ。それなのに、ツアー日程は4日が名古屋、5日が大阪、7日から11日までは東京で5日連続というかなりの強行軍。John Wettonの声は最後までもつでしょうか?

10日の朝、iPodにAsiaの曲を入れて1時間ほどジョギング。うらうらと暖かい日差しの中を気分よく走りましたが、はたから見たらずいぶんアブナイ光景だったかもしれません。何しろイヤホンで耳を塞いだ男が、腕を振り回したり(←エアドラミング)奇声を発したり(←本人は歌っているつもり)しながら町中を駆け抜けていくのですから。そうした近隣住民の危惧をものともせず予習を終えて、斎戒沐浴してから夕方に渋谷C.C.Lemonホールへ。

この日は2階席の左寄りで、多少遠くはありますが、ピンクとブルーのライトに照らし出されたステージ全体が見渡せます。メンバーの並びは、中央がもちろんJohn Wetton、やや下手奥がCarl Palmer、そして両翼は下手Steve Howeと上手Geoff Downes。2階席に上がる前にステージ前に寄って機材を眺めましたが、Carlはラディックのツーバスキット、GeoffはRolandのシンセを8台(うち7台をコの字に並べて要塞状態、メインはFantom X8の模様。残る1台は椅子とともに前方)。Johnの足元には、フットペダルがありました。

定刻の17時にブザーが鳴って、派手な交響曲の後にエルガーの「威風堂々」。そしてメンバーが登場すると、1階席は早くも総立ち。「威風堂々」の途中からヘヴィなベースとギターが入って、「Time Again」に突入しました。

Time Again
イントロのベースとギターのリフに、Carlが銅鑼を高らかに鳴らすと場内大歓声。そしてシャッフルパートに入ると、Carlのドラミングが炸裂します。Johnのボーカルも絶好調で、ほぼ完璧な演奏。
Wildest Dreams
出だしの呼吸もぴったりで、Geoffの派手なシンセリフの上でSteveのギターの金属質なシングルトーンが流麗。この曲の核心部はCarlのドラムソロっぽくなるところで、私は彼がリズムを見失って思い切り走りまくった映像を見たことがあり緊張しながら(?)見守りましたが、ブレイクを入れることで上手にリズムをキープできていました。
One Step Closer
Steveと共作した、初期の曲だというJohnのMCに続いてこの曲。CDで聴くとこの曲でははっきりとSteveの声が聞き取れますが、このライブでもJohnとSteveの二声によるコーラスがメインで、サビでGeoffが加わった三声となります。AメロでSteveが歌いながら弾く澄んだ硬い音でのギターのアルペジオも印象的ですが、終わりの方でドラムがタムをドタタタと入れるフレーズをCarlが右手だけで叩いていることに気付いて驚きました。それにしてもこの曲、こうして聴くと本当に良質のポップスという感じでよくできており、認識を改めました。
Roundabout
CarlによるMCで「Roundabout!」と紹介されると場内騒然。そしてレコード通りのフェードインとアコギによるイントロ。どうやらこのフェードインはレコードからサンプリングしたもののようで、Geoffはフットペダルでコントロールしていました。これは実は翌日のライブを見ていて気付いたことですが、Geoffはキーボードを弾くだけでなく、かなり頻繁にサンプラーを足で操作しており、分厚いコーラスや効果音的なフレーズもペダルを踏んで出していました。それはさておき曲の方は、スタンドにセットしたギターでアコースティック・イントロをこなしてから、肩から下げたエレクトリックギターでのハーモニクスパターンに入ると、かなりゆっくりのリズムで展開。JohnがChris Squireのベースパターンを弾きながら、Jon Andersonのかわりに歌うというシチュエーションが何とも不思議で、それもかなり様になっているのがうれしく、しかもオリジナルに忠実なフルコーラスを演奏したのには驚かされました。また、Johnは通常のピックではなくサムピックで弾いていて、それでけっこう速いフレーズも弾きこなしていました。しかし、途中の二拍三連のパートはさすがにきついものがあって、Carlはタムをどかどか叩いているのですが、もう少しハイハットを左足でしっかり刻むなどしてくれないと、8分のリズムを感じることができません。
Without You
これは大好きな曲。レコード「Asia」は、A面がポップサイド、B面がプログレサイドとなっていますが、そのB面の中でもとりわけ印象の深い曲です。Carlの、彼にしては手数が多い訳ではないもののツボを押さえた饒舌なドラミングも素晴らしいですが、この曲の聴きどころは途中の長いギターソロからギターとシンセのユニゾンフレーズに移った後にグイ〜ンとシンセがポルタメントアップしてくる場面。そして、このポルタメントアップがしっかりライブで再現されたことに心底感動しましたが、ここもペダル操作によるサンプリングの再生のようです。
Cutting It Fine
この曲は、終盤のキーボードによるボレロパートが特徴ですが、Geoffはここもオリジナルの音源からのサンプリングを再現し、その上でピアノやシンセを弾いていました。
Steve Howe Solo
ステージ中央にパイプ椅子が置かれて、アコギを抱えた細身の爺さん……もとい、Steveがソロ曲を披露。このパートは日によって曲目が違うようですが、この日は『Asia in Asia』でも聴けた「Sketches in the Sun」。低音弦でのアルペジオの上にリリカルな高音のフレーズを重ねる匠の技です。
Fanfare for the Common Man
「コープランドの曲」とアナウンスがあって、まさかのこの曲。冒頭のトランペットはまさにKeith Emersonの再現だし、リズムに入るとCarlがスネアに細かいゴーストノートを入れながらテンポをキープしているのが、やはりEmerson, Lake & Palmerそのまま。そのリズムに乗ってJohnが短いながらもベースソロっぽい数小節を弾いてギターとキーボードの掛け合いに引き継いだのには驚かされました。全体を通してかなりスリリングな、よい演奏でした。
The Smile Has Left Your Eyes
Geoffが客席側に1台だけ孤立したキーボードの前に座ってピアノのイントロを弾いたところで、アコギに持ち替えて前に出てきたJohnが毎度の(しかも日本だけの)ファンサービス、「キミタチサイコダヨ」を披露!そしてSteveも椅子に座り、膝の上に置いたアコースティックギターをスライドギターとして使用。Carlはブラシプレイを見せて、しっとり穏やかな「The Smile Has Left Your Eyes」を聴かせてくれました。『Alpha』に収録されたこの曲や「Never in a Million Years」などは、もともとこうしたアコースティックセットで歌うのにふさわしい曲調と歌詞を持っており、この演奏が本来の(作曲者の意図した)姿なのでしょう。
Don't Cry
Steveがギターをマンドリンに持ち替えたので「?」と思ったら、『Alpha』とは異なるバージョンの「Don't Cry」だ、とのアナウンスがあって、これまた静かな「Don't Cry」。Carlも前に出てきてタンバリンで参加しましたが、このアレンジも悪くありません。
The Court of the Crimson King
この曲が演奏されたことには驚いたオーディエンスが多かったことでしょう。言わずと知れたKing Crimsonの名曲ですが、John在籍時の曲ではありません。ただし、Steve Hackettのバンドの一員として来日したときにJohnがこの曲を朗々と歌い上げたのを覚えており、そこからのつながりかもしれないし、ショウとしてのウケを考えた選曲でもあるでしょう。私としてはせっかくこれだけのメンバーなのですから、「Easy Money」か「The Night Watch」を演ってほしかったのですが……。
Here Comes the Feeling
これも大好きな曲。イントロのシンセフレーズだけで元気が出てきます。実はこの日の昼に、自宅でこの曲のキーボードパートをCDに合わせて弾いていたところでした(が、やっぱり速いシンセソロは追従できませんでした)。ところで、この辺りでギターの音量レベルがアコースティックセット前に比べて上がっていることに気付きました。「The Smile Has Left Your Eyes」の途中でSteveがしきりに「もっとギターの音量を上げてくれ」というジェスチャーを見せていたのですが、そのせいではないにしてもバランスが悪くなっているのは事実。以後、ボーカルを上げてほしいなと思いながら聞き続けることになりました。
Video Killed the Radio Star
Geoffが舞台袖に引っ込んだので何をしているのかな?と不思議に思っていたら、戻ってきた彼は銀色に輝くジャケットを羽織り、細いサングラスをかけてポーズ。そしてあの印象的な美しいピアノとストリングスに続いて、何とJohnが拡声器を通して歌い出したのが、バグルスの「ラジオスターの悲劇」。これには場内大ウケで、サビの女性コーラスももちろん大合唱となりました。背後のスクリーンに映し出されたTrevor Hornの姿も懐かしいものがあります。しかしこの演奏は決して色モノではなく、SteveのギターもCarlのドラムも非常に引き締まっていて、実はこの日一番の演奏だったように思います。こうして古い曲にミュージシャンが新しい生命を吹き込む瞬間に立ち会えるというのは、本当に幸せなことです。
The Heat Goes On
こちらはオリジナルに忠実な演奏。中間のオルガンソロで、Geoffがしきりに左手をキーボード上でひらひらさせて音色をコントロールしていましたが、これはRolandのシンセ独特のD-BEAM(赤外線コントローラー)でしょう。そしてCarlのドラムソロ。これはウケました。個々のフレーズはこれまで何種類も聴いてきた彼のソロの域をさほど出ないのですが、とにかくスティックの動きが視覚効果を十分に計算したものになっており、その中でも仏壇で鳴るチーン!みたいな音を織り込んで日本人の琴線に触れたり(?)、シンバルの上にスティックを横置きして泳がせようとしたり(2本くらいしくじってとり落としていたが)、ショーマンシップに溢れるソロでした。
Only Time Will Tell / Sole Survivor
本編最後の2曲はファーストアルバムから、いずれもオリジナル通りの演奏。しっかりした、ロックとしての演奏でした。
Ride Easy
ここからアンコール。「Ride Easy」はシングル「Heat of the Moment」のB面の曲。アコースティックバージョンでの演奏でした。
Heat of the Moment
『Asia』で唯一残っていたこの曲が、この日最後の曲。Steveのハードなイントロで聴衆は拳を突き上げ大喜び。中間のキーボードの聴かせどころではGeoffが両手で4台の鍵盤をとっかえひっかえ弾き、ギターソロが始まると当時業界騒然となったというバスドラとスネアのみのドラムフレーズが再現されて、そこへGeoffがショルダーキーボードを下げて登場。JohnやSteveと絡んでみせました。最後は聴衆にサビを合唱させて、エンディングもしっかり決め、2時間ぴったりのショウを終了。

上記の通り、『Asia』から全曲、『Alpha』から3曲、各メンバーのルーツが1曲ずつとSteveのソロ1曲という充実した選曲。「Open Your Eyes」が演奏されなかったのが心残りではありますが、ウェットなこの曲は今日のセットリストには似つかわしくないということだったのでしょうか。それでも十分に満足できる演奏で、正直ここまでのパフォーマンスを見せてくれるとは思っていなかっただけにうれしい驚きでしたし、帰途に着く他の聴衆からも「スゴいねー」「楽しかったー」という声が聞こえてきて、自分がほめられたみたいに喜んでしまいました。

2007/03/11

この日は、ジャパンツアーの最終日。前日は2階席でどっかと椅子に腰掛け、腕組みをして聴く「正しいプログレの聴き方」を実践していましたが、今日は1階席中央のPA卓の少し後ろで、最初からスタンディングで「正しいロックの聴き方」。

Steveのソロ曲が変わっていたこと以外は前日と同じセットリストでしたが、最終日ということで少し気が緩んだのか、アンサンブルにはところどころ破綻も見られました。Carlは隙あらば走ろうとするし、Steveは唯我独尊で自分のテンポを守り続けるしで、JohnとGeoffがちょっと気の毒な場面もありましたが、かたやJohnも例によって歌詞忘れをやらかすし、Geoffは演奏しながら機材を操作しているうちにペダルを踏むタイミングをずらしてしまったりとそれぞれにミスがあって、実に民主的なバンドだと思いました。しかし、もちろん決めるべきところは決めて、終わってみれば前夜に引き続き聴衆大満足。この辺りがベテランのベテランたる所以です。

全ての演奏を終えてミュージシャンたちが上手袖に引き揚げるときに、Geoffが「See you next time!」と言っていましたが、本当に「next time」を実現してほしいと心から思いました。

ミュージシャン

John Wetton vocals, bass, guitar
Geoff Downes keyboards, vocals
Steve Howe guitar, vocals
Carl Palmer drums

セットリスト

  1. Time Again
  2. Wildest Dreams
  3. One Step Closer
  4. Rounabout (Yes)
  5. Without You
  6. Cutting It Fine
  7. Steve Howe Solo
  8. Fanfare for the Common Man (Emerson,Lake & Palmer)
  9. The Smile Has Left Your Eyes
  10. Don't Cry
  11. The Court of the Crimson King (King Crimson)
  12. Here Comes the Feeling
  13. Video Killed the Radio Star (The Buggles)
  14. The Heat Goes On
  15. Only Time Will Tell
  16. Sole Survivor
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  17. Ride Easy
  18. Heat of the Moment