廓三番叟 / 加賀見山旧錦絵

2005/10/08

観劇仲間うっちゃまん女史と、歌舞伎座十月昼の部を観ました。今月は「女忠臣蔵」と呼ばれる人気狂言「加賀見山旧錦絵」の通しが目玉です。

廓三番叟

まずは、三番叟を廓に移した趣向で見せる「廓三番叟」から。翁・千歳・三番叟の三役を傾城・新造・太鼓持に置き換えていて、厳かさと華やかさが共存します。傾城の芝雀の艶やかさもさることながら、新造の亀治郎丈が明るい動きできれいでしたが、ついつい7月の「十二夜」での麻阿(マライア)の怪演を思い出してしまい、ここで突如くだけてくれたら面白いだろうな、などと祝祭舞踊にあるまじき不謹慎(?)な期待をしてしまいました。

加賀見山旧錦絵

前半描かれるドロドロした女社会の嫉妬とイジメ、中盤での主従の情愛と悲痛な嘆きを、最後に仇討ちですかっと晴らすつくりが、舞台の身近さとあいまって宿下がりの奥女中たちに受けたそうです。当月は菊五郎丈の岩藤、玉三郎丈の尾上、菊之助丈のお初というわくわくするような組み合わせがポイント。

まずは序幕、営中試合の場。桃の節句の華やかな屋敷内、舞台下手に尾上方の腰元たちが美しく居並びますが、ここへ現れた局の岩藤がまず見るからに憎々しく、さらに上手側にぞろぞろと現れた岩藤方の置く女中たちは揃いも揃って雲助連中がそのままのメイクで女中姿になったような不気味な姿で、うっちゃまん女史も「こ、怖い……」と怯えています。岩藤が尾上に武術の心得を問う場面で現れたお初が颯爽として美しく、岩藤方の奥女中たちを打ち据えるあたり、あるいは岩藤にだまし討ちのように打たれた身を「あぁ、痛いなぁ」とさすりながら、岩藤の意地の悪さをかこちつつ花道を下がるあたりの愛嬌が、何とも言えません。

そして二幕目、尾上が岩藤と剣沢弾正の奸計にかかって岩藤に草履でさんざんに打ち据えられ、泣き伏したまま舞台にひとり残された尾上が、草履を袂に入れて花道を自分の部屋へと引っ込む場面の玉三郎丈の抑制された演技!演技といっても何か変わったことをしているわけではないのですが、花道を七三から揚幕までしずしずと下がる尾上の歩みに、無念や恥辱や覚悟や、その他もろもろの感情が静かにこめられていて、場内はその長い引っ込みの間、水を打ったようにしんとしていました。自分としては、この場面がこの演目の最大の見どころになり、かつ一階に座っていて花道を見通すことができて本当によかったと思いました。

10分の休憩をはさんで三幕目、舞台上ではお初が尾上の帰りを待ちわびてやきもきしているところへ、いつの間にか音もなく尾上が揚幕から出て花道の上を舞台に向かっており、まるで休憩前の歩みがそのまま続いているような錯覚を覚えます。尾上とお初の互いを思いやるやりとりから、一転してお初に使いを命じるきつい口調での緊迫、死を決意しながら親からの手紙を読み返して泣き、そして自害のために仏間に向かいつつ、舞台が回ります。ここまで、すっかり感情移入させられて見入ってしまいました。

大詰は、お初が見事に仇討ちを遂げて二代目尾上を相続することになるのですが、最後の方は岩藤もお初もふっきれた感じで女には見えず、まぁこれはこれでありなのかなと思いながら幕引きまでを見守りました。

配役

廓三番叟 傾城千歳太夫 中村芝雀
新造梅里 市川亀治郎
太鼓持藤中 中村翫雀
 
加賀見山旧錦絵 中老尾上 坂東玉三郎
召使お初 尾上菊之助
奴伊達平 河原崎権十郎
牛島主税 坂東薪車
息女大姫 中村隼人
庵崎求女 尾上松也
剣沢弾正 市川左團次
局岩藤 尾上菊五郎

あらすじ

加賀見山旧錦絵

多賀百万石の大名家転覆を企む局の岩藤にとって、多賀大領の息女大姫の信頼が厚い中老の尾上は、誰よりも目障りな存在。尾上が町人の娘で武術のたしなみがないことを知って、わざと立ち会いを迫る。窮する尾上のために試合の相手に名乗り出たのは、召使お初。お初は奥女中たちを打ち負かすが、逆に岩藤の怒りを募らせてしまう。

岩藤の兄で共犯者でもある剣沢弾正が、上使として尾上が預かる蘭奢待の香木を受け取りに訪れる。ところが、蘭奢待が入っているはずの箱の中には、草履の片方が。岩藤は尾上を責め、満座の中、その草履で尾上を打ち据える。屈辱に耐えかねた尾上は、お初を遣いに出している間に自害。お初は虫の知らせを感じて引き返すが、時既に遅く、悲嘆に暮れる。

お初は尾上の無念を晴らすべく、岩藤の悪事を暴いて斬り捨て、恨みの草履で打ち据える。