塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Jeff Beck

2005/07/03

「凄い凄い!かっこいい〜!」隣の席の女性が感極まって叫んでいます。東京国際フォーラムのステージ上には、とても還暦とは信じられない若々しい姿(後掲写真を見よ)のままのJeff Beck。その通り、彼を形容する言葉は「かっこいい!」でしかあり得ません。

Jeff Beckの今回のライブが彼のキャリアの集大成的なものになるという情報はあらかじめ仕入れていましたが、実際にこの日演奏されたのは、1968年の『Truth』から2001年の『You Had It Coming』まで、彼のソロ名義でのほとんどの作品からまんべんなくセレクトされた充実の2時間でした。

演奏された曲目は後述のセットリストに委ねることにしてミュージシャンの様子について触れると、まずその配置は中央奥にドラムのVinnie Colaiuta(眼鏡が知的でとてもハンサム)。その上手寄りにベースのPino Palladino(凄い長身)、さらに右側前方にキーボードのJason Rebello。Jeff Beckは舞台やや下手に位置を占め、中央のマイクには曲によってボーカルのJimmy Hallが立ちます。特にVinnie Colaiutaのドラミングは特筆もので、凄いパワードラミングに見えながら、実はかなり緻密にグルーブを作っており、JeffとVinnieの2人がアイコンタクトで曲をぐいぐいと進めている様子も見てとれ、ベースとキーボードはサポートに回った感じでした。また、「Two Rivers」ではTerry Bozzioの4ウェイハイハットフレーズを繊細なシンバルワークで再現したり、「Nadia」ではエレクトロニック・パーカッションを指先で叩いてタブラ風の音を出したり、「Brush with the Blues」では自在のブラシワークを見せたり。一方、ベースのPino Palladinoはシュアな演奏でしたが本来の凄腕からするとおとなしめ、キーボードのJason Rebelloも存在感がいまひとつ。ソロのフレーズではどうしてもあのJan Hammerと比較されてしまうので気の毒なパートではありますが、エレピの音をギターにかぶせてしまったり、インタープレイでもJeff Beckとの意思疎通に難があったり。ボーカルのJimmy Hallは声質も声量もよかったし、ナイスパフォーマンスであったとは思うものの、出番が全部で5曲(しかもうち2曲がJimi Hendrixのカバー)では気の毒で、いっそボーカル抜きで構成してもらった方がいいように思いました。

……などと欲を言えばきりがありませんが、Jeff Beckの自在なギターワークが聴ければ聴衆は十分に満足。それほど彼のギターは常識を超越した音を出していました。Stratocasterをフィンガーピッキングで鳴らす独自のスタイルで、タッピングも多用しながら、あるときはハードに、あるところでは繊細に。「Angel」の高音域でのボトルネックのソロ、「Goodbye Pork Pie Hat」での超高速フレーズ、ラストの「Over the Rainbow」でのハーモニクスのアームによるフレージング。さらに爆音からピアニシモまでを、ほとんど手元のボリューム操作とピッキングだけで使い分けていて、観ている方は毎度のことながら目が点になります。そのJeff Beckはいつにも増してごきげんで演奏していて、しばしば笑顔で両手を広げるポーズを見せ、スライドバーを客席に投げ込み、画期的なことにMCも数回!また、ランニングシャツの上にベストを着て演奏していたのですが、たびたびベストの前がギターの上にかかるのが気になったらしく、とうとう「Blue Wind」の途中でギターを肩からおろすと股の間にはさみ(もちろん他のメンバーの演奏は続いています)ベストを脱ぎ捨ててしまったのも微笑ましく映りました。

曲によってはミスタッチやフランジャーのノイズが気になりましたし、ショウとしては最後が若干盛り上がりに欠ける部分もないではなかった(「Over the Rainbow」はキーボードとギターでしんみり終わる)のですが、それでも聴衆は最初から最後までオールスタンディングで、Jeff Beckに熱い拍手を送っていました。

よーし、こうなったら次は古稀記念ライブだ。

ミュージシャン

Jeff Beck guitar
Jason Rebello keyboards
Pino Palladino bass
Vinnie Colaiuta drums
Jimmy Hall vocals

なお「Beck's Bolero」のみ、下手の舞台袖でスタッフがアコースティック12弦ギターを弾いていました。

セットリスト

  1. Earthquake
  2. Stratus(Billy Cobham)
  3. You Never Know
  4. 'Cause We've Ended as Lovers
  5. Rollin' and Tumblin'
  6. Morning Dew
  7. Behind the Veil
  8. Two Rivers
  9. Star Cycle
  10. Big Block
  11. Scatterbrain
    -
  12. Beck's Bolero
  13. Nadia
  14. Angel
  15. Led Boots
  16. Diamond Dust
  17. Hey Joe(Jimi Hendrix)
  18. Manic Depression(Jimi Hendrix)
  19. Goodbye Pork Pie Hat
  20. Brush with the Blues
  21. Blue Wind
    -
  22. People Get Ready
  23. Over the Rainbow