塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

トマティート&ホアキン・グリロ

2004/05/25

先日アイーダ・ゴメスの「サロメ」を観て、あれはあれでよかったのですが、もっとどっぷりフラメンコというのに久しぶりに浸ってみたいと思ったことから、フラメンコギタリスト、トマティートを聴きに行くことにしました。会場は、新宿文化センターです。

トマティートは1958年生まれ、フラメンコ歌手カマロンの伴奏者として著名になり、カルロス・サウラ監督の映画『サロメ』の音楽も担当している、今最も注目を集めているギタリストのひとりです。この公演では当初フラメンコダンサーのファルキートとのジョイントが予定されていたのですが、事故によってファルキートが来日できなくなり、代わってホアキン・グリロがアサインされていました。

トマティート

この日の公演の第1部は、トマティートのグループ。会場が暗転し、ステージ中央に静かに歩み寄ったトマティートは、まずソロ演奏でアレグリアスの「ラ・アルディア」から入ります。流麗な指の動きから紡ぎ出される張りと艶のある弦と胴の響きは、まさにフラメンコギターの魅力そのもの。以下、バンドメンバーを加えてソレアやブレリアス、タンゴス、ルンバなどさまざまな曲調の曲が次々に演奏されていきます。ソレア「アルキミア」はパルマ2人+パーカッションを加えて軽快なリズムとメロディ。カポタストをはめて演奏されたブレリアス「パセオ・デ・ロス・カスターニョス」はギターのカッティングとカホンの響きが印象的で、聴く者を不安にさせるような曲調です。続くタンゴス「カミニージョ・ビエホ」でヴァイオリンとエレクトリックベースが加わるのが変わっていますが、ヴァイオリンはかすれた音色で音量控えめ、ベースもギターの邪魔にならないように小さめの音ながら高音域でけっこう面白いフレージングでした。そのベーシストがリュート風の姿をした金属質の高音が出る複弦楽器(長い説明……なんという名前の楽器だろう?)に持ち替えて「ドゥルセ・マナンティアル」(ミネラ・ポル・ブレリアス)。ギター・ヴァイオリン・パーカッションの組み合わせで速い下降フレーズの繰り返しが特徴的な「アイレス・デ・タンゴ」。そして最後に全員で演奏された「ソレア・ポル・ブレリナ」では、パルマが中央に進み出て短調の旋律に乗ってムードある静かなダンスを披露し、曲がアップテンポに変わると派手なサパテアードも見せて盛り上がりました。いったん立ち上がって挨拶した後、そのままアンコール風に演奏されたのはルンバ「ラ・バシロナ」。楽しいような哀しいようなこれも不思議な曲調で、最後はハイテンポに盛り上がって終わりました。

ここでいったん幕が下りて休憩。いずれの演奏も高度で存分に楽しめたのですが、曲間のチューニングにことごとく時間をかけ過ぎで客席のノリが途切れるようだったのだけは、ちょっと(かなり?)いただけませんでした。

ホアキン・グリロ

彼については、以前パコ・デ・ルシアのグループで来日しているのを観ています。「イントロダクション」は4人の男女に囲まれたホアキン・グリロとパストーラ・ガルバンが、パルマに乗っていきなりもの凄いサパテアードを見せて客席を圧倒!そのまま4人は後方に下がって主役2人が前に残り、これも強烈にキレのいい回転や高速サパテアードを見せる「シギリージャ」でこれでもかと技巧を見せてくれました。フラメンコはこうでなくては!カンテオーラのパワフルな歌に続いて、アレグリアスに乗ってパストーラ・ガルバンが白くて長い裳裾をぶんぶん振り回しながら陽気なダンス。代わってソレアはホアキン・グリロの見せ場で、後方の壇上の靴音が高く響くテラスで激しいサパテアードを見せて喝采を浴び、さらに舞台中央で汗を飛び散らせながらのダンスが続きます。最後は全員が前に出て手拍子に乗って輪の中で交互に踊り、そのままゆっくりと下手に消えていくフラメンコの王道の終わり方で幕となりました。

終わってみれば、当初楽しみにしていたトマティートよりもホアキン・グリロの妙技の方が心に残った公演。うーん、これでよかったのだろうか?