天一坊大岡政談

2001/06/16

久しぶりの歌舞伎座は、幕見席で河竹黙阿弥の通し狂言「天一坊大岡政談」全五幕。八代将軍吉宗のときの有名なエピソードである天一坊事件を扱った作で、講釈(今の講談)から歌舞伎に移し替えられたものだそうです。

今回の見どころは菊五郎丈(天一坊)・仁左衛門丈(伊賀亮)・團十郎丈(大岡越前守)という三巨頭の豪華な顔合わせにあります。まず菊五郎丈は、最初は紀州の実直そうな小坊主が、御落胤の証となる形見を見ているうちに大悪人に変貌し、ついで天一坊を名乗って将軍の係累らしき品の良さを装い、さらには早替りで忠義の臣・池田大助も演じる四重人格の演じわけが見どころ。仁左衛門丈はなんと言っても奉行屋敷の場での團十郎丈との「網代問答」が品格と迫力があって素晴らしく、中盤の見せ場を作りました。一方の團十郎丈も、この二人を圧する存在感を示して最後は見得の要に大きく立ちはだかってみせます。また序幕でのお三婆の東蔵丈が、孫ほども歳の離れた法澤に言い寄ったりおいしそうに燗酒を飲み干したりと世話な芝居で笑いをとりながら客の耳目を舞台に惹き付けました。

動きの派手さこそないものの十分に面白く満足のいく芝居でしたが、今でも不思議なのは二幕目。法澤あらため天一坊が伊賀亮を味方に引き入れることに成功し、祝いに伊賀亮の女房が鯉をまるまる一匹運び込みます。この鯉にあやかって見事大望成就を図らんものと悪党一味の台詞が回り切ったところで、舞台の真ん中に置かれたつくりものの鯉が突如ぴくぴく身をよじりました。何度かばたついた末に伊賀亮にはっしと押さえられて動きは止まるのですが、あれはどういう仕掛けだったのだろう?

配役

天一坊 尾上菊五郎
池田大助
山内伊賀亮 片岡仁左衛門
お三婆 中村東蔵
下男久助 尾上松助
僧天忠 片岡芦燕
大岡越前守 市川團十郎

あらすじ

紀州の感応院の小坊主法澤はふとしたきっかけから将軍吉宗の遺児の形見を手に入れ、悪党共を手下に従えて将軍御落胤の天一坊を名乗り、江戸に出る。奉行屋敷で大岡越前守の吟味が行われたが、知恵者山内伊賀亮に論破された越前は、十日を限って腹心の池田大助を紀州に遣わし事の実否を糺す。日限が迫り切腹を覚悟した越前だったが、危ういところで池田大助の復命が間に合い、ついに天一坊一味に悪事の証拠を突きつける。