鎌髭 / 黒塚 / 川連法眼館 / 宇和島騒動

2000/07/09

歌舞伎座の7月は毎年恒例の猿之助劇団。今年は歌舞伎座七月公演連続三十年と初代猿之助誕生から百三十年記念の口上つきです。

鎌髭

歌舞伎十八番のひとつながら澤瀉屋の家の芸といってもよい演目。30年前に澤瀉屋がとりあげたときは猿之助丈の良門、弟の段四郎丈の小藤太という配役だったそうですが、今回は段四郎丈が良門に回って右近丈の小藤太。見どころは鎌で髭を剃るくだりで、良門の不死身振りを後ろに回った小藤太ともども息の合った芝居で見せつけるのですが、さぁこれから剃る(首を斬る)ぞ、というところで良門の段四郎丈が「30年前に兄貴がやるのを見て以来だからな」。これに応じて小藤太の右近丈も「十八番といってもめったに演らないからな」。どちらも貫禄があり、息も合って、今日一番のいい芝居でした。

黒塚

「口上」の後、休憩ののちに能にルーツのある「黒塚」。基本は舞踊劇なので、鬼女が月光の下で自分の影とともに踊る第2場が美しい……のですが、幕見席から子供(まだ5歳くらい?)のむずかる声がときどき聞こえて舞台に集中できません。連れてくる方も連れてくる方ですが、通す方も通す方。ここの悲しみがこの芝居の核心部なのに……。しかし、阿闍梨の従者に閨の内を覗かれたと知った鬼女がススキの原へ消える場面、バック転のように真後ろへ飛んだのにはびっくり。その後阿闍梨たちとの戦いも迫力がありました。

さて猿之助丈といえば宙乗り。宙乗りといえば通称「四の切」こと「義経千本桜・川連法眼館」。

川連法眼館

ケレンの集大成のようなこの芝居では、正面のきざはしに一瞬のうちに現れる「三段」(このとき花道の揚幕から「出があるよっ!」と大声でフェイントがかかります)、廊下の床が抜けて姿を消してから引き抜きにより狐の衣装に変わって床下から這い出る早替り(この間たったの2秒!)、欄間から抜け出て一回転して着地、そのまま舞台上まで飛び下りる「欄間抜け」など見どころのオンパレードです。といっても単にアクロバティックな体育会系のお芝居というわけではなく、狐忠信が親の皮で作られた鼓を慕う気持ちがストレートに伝わってけっこう泣けるところがみそ。ここがあるからこそ、悪僧たちのユーモラスで全力を振り絞ったアクションや、最後の宙乗りが嫌味なく楽しめるわけです。ちなみに、猿之助丈が宙を伝って三階席のブースに吸い込まれる瞬間、中から桜吹雪がどっと吹き出して観客から歓声があがりましたが、後で花びらを拾ってみたらちゃんと桜の花びらのかたちに切り込みが入れてありました。

宇和島騒動

この芝居、ストーリー的な見どころは胴助の報われない無私の忠義ということになるでしょうが、それぞれの幕にはっきりした見どころがあります。序幕では山辺と和気のおよそ歌舞伎らしからぬスピーディーな殺陣、旅籠での山辺と胴助のあっと驚くほど巧みな早替わり。二幕目では歌六丈の7歳の長男・米吉と5歳の次男・龍之助の達者(しかしちょっとハラハラ)な演技。劇中に猿之助丈・歌六丈が二人を間にはさんで初舞台の口上をするのですが、そつのない長男に対し、やんちゃな次男はあくびをしたり背中を押してお辞儀を強要する父の手を押しのけたりで、観客は大喜び。三幕目は養老の滝の場でどうどうと落ちる豊かな本水を頭からかぶっての滝つぼでの立ち回りと、立ち腹を切る際のあまりにもリアルな血しぶき(後ろの席から「うわ〜!」「やりすぎよね〜!」と悲鳴が聞こえてきました)。大詰でもスモークの中をすーっと現れた山辺の霊の猿之助丈が真上にエレベーターのように上がって後ろの壁に引き込まれたと思ったらあっという間に伊達遠江守に替わっていたりと、まさにこれでもかという感じです。たださすがに体力勝負の演目がこれだけ続くと、最後の方はセリフ回しが若干よれていたようでもあります。ともあれ、猿之助丈のパワーに圧倒される、なんとも凄い芝居でした。

配役

鎌髭 将軍太郎良門 市川段四郎
俵小藤太 市川右近
源満仲 中村歌六
 
黒塚 老女岩手実は安達原の鬼女 市川猿之助
阿闍梨祐慶 中村梅玉
 
川連法眼館 佐藤忠信
源九郎狐
市川猿之助
源義経 澤村宗十郎
静御前 中村芝翫
 
宇和島騒動 山辺清兵衛
乳母滝乃
中間胴助
伊達遠江守
市川猿之助
大橋右膳
奴萬平
中村歌六
小鮒の源五郎
結城主税
市川右近
和気三左衛門
山猫の権六
市川猿弥
鞠岡郷内
越智武右衛門
市川段四郎

あらすじ

鎌髭

先祖の命日に試行宿の奉仕をした主人西宮島之丞は、実は源頼義で、泊り客の六部の妙典が実は前から尋ねていた平将門の一子相馬の良門と知る。この家の下男に化けた俵小藤太が大鎌を手に良門の髭を剃り、首を斬ろうとするが、良門は不死身だった。結局、良門は頼義に戦場での再会を約して、去っていく。

黒塚

安達原の鬼女の化身、老女岩手の家に宿った阿闍梨祐慶ら一行は、「閨の内を見るな」という老女の言葉を裏切り、のぞき見て老女の正体を知る。一旦仏法に感じ昔の罪業を悔いていた鬼女だが、人間の不実を怒り一行に打ちかかる。だが祐慶の祈りに力おとろえ、闇の中に消えていく。

川連法眼館

兄頼朝に追われる身となって、吉野の川連法眼の館にかくまわれている義経のもとへ、佐藤忠信が訪ねてくる。都で預けた静御前のことを訊ねるが知らないとのこと。そこへ静御前ともう一人の忠信がやってきたため、不審に思った義経の命で静が鼓を打つと、最初の忠信が忽然と現れる。静と来た忠信は、鼓にされた狐の子で、親恋しさのあまり忠信に化けてこの鼓を守りながら来たと語る。人間にもまさる親子の情愛に感じた義経は、鼓を忠信に与える。狂喜した狐忠信は、義経を捕らえようとする横川覚範たちの来襲を神通力で苦しめ、中天高く飛び去る。

宇和島騒動

宇和島城主伊達遠江守が江戸参府の留守中、悪家老の大橋右膳が、殿の愛妾お辰の方と密通する。二人はお家横領を企て、一味の和気三左衛門に命じて、御用金を護送中の宇和島家の忠臣山辺清兵衛と越智武右衛門を刺客に襲わせ、清兵衛を殺し、武右衛門を捕らえる。清兵衛の忠僕胴助が戻ったときは既に主人は無念の最期を遂げていた。武右衛門の妻で若君の乳母である滝乃は、難を避けるため若君と山中に身を潜め、山姥となって悪人一味を追い散らしながら山を下る。胴助は亡き主人清兵衛の妻初音と母千寿を故郷へ引き取り養っていたが、悪人一味の小鮒の源五郎が初音を殺し子供を奪って去ろうとする。胴助は自ら立腹を切り、念力で子供を取り戻し、ついに源五郎を討ち果たして息絶える。清兵衛の亡霊が遠江守の宿所に現れ、右膳の悪業を告げ、右膳一味は討たれてお家騒動はめでたくおさまる。