塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Kansas

1999/03/14

川崎のクラブチッタでKansasのライブ。

アメリカン・プログレハードの雄として70年代に活躍したKansasは、中学・高校の同級生の勧めでけっこう聴き込み、1979年のMonolithツアーでの来日の際には日本武道館へライブも見に行きましたが、ステージ上でいきなり柔軟体操を始めたSteve Walshやツーバスでの強烈なドラムソロを見せたPhil Ehartの姿は今でも目に焼き付いています。あくまでもドラマティックなそのスタイルは渋谷陽一氏に「厚塗りの化粧をした女性が迫ってくるような音楽」と言われましたが、そのとき体験したライブは実にハードに引き締まった素晴らしいものでした。その後KansasはSteve Walshの脱退を皮切りにメンバーの相次ぐ交代によって低迷の時期を経ていましたが、今回の来日メンバーはオリジナルメンバーのSteve Walsh、Robby Steinhardt、Rich Williams、Phil EhartにBilly Greerを加えたもの。Kansasサウンドの要であるヴァイオリンとセカンドボーカル担当のRobby Steinhardt復帰がこのツアーの目玉ですが、一方でツインギター / ツインキーボードでのスリリングな展開を可能にしコンポーザーとしてもKansasのコンセプト面を担っていたKerry Livgrenを欠いた状態でどのようにステージを運営するのかにも興味がありました。

この日は全席立ち見ですが、整理番号が比較的早い順番で入場できたため右寄りの比較的前の方に位置を占めることができました。ステージ上を見ると、機材やマイクの配置からフロントは向かって左からギター / ヴァイオリン / ベースだとわかり、また後方にはキーボードとドラムがセットされています。私はこの会場でのライブは初めてのため、天井が高いのはいいとしても壁はほとんどコンクリート打ち放しでPAさんは残響処理が大変ではないのかなといらぬ心配をしました。やがて定刻に客電が落ち、歓声の中メンバーがステージに現れてSEが入り、オープニングは意外ながらノリの良い「Fight Fire with Fire」。当然サビの部分では会場が大合唱でボルテージは思い切り上がり、続く名曲「Song for America」にノックアウトされてから、エンディングまで90分のステージがあっという間でした。

Kerry Livgrenの抜けた穴はほとんど感じることがなく、Steve Walshが全てのキーボードパートをカバーし、Rich Williamsのギターもバッキング / ソロとも充実していました。また高音で歌えるBilly Greerが加わったことでボーカルハーモニーが厚くなり、Steve Walshの負担を軽減していたことも見逃せません。我々の位置はベースのBilly Greerの目の前で、ドラムのPhil Ehartの左手がスネア上で細かくゴーストノートを刻むのもばっちり見えました。

それにしても20年ぶりに見た彼らはやはりそれなりの年輪を重ねていたようで、Steve Walshは筋肉質の締まった身体こそ変わらないものの顎には白いヤギのようなヒゲをたくわえ、また声もかすれ気味でしたし、Rich Williamsはさらに膨張していました。ところが今回も強力なドラムソロを見せてくれたPhil Ehartは、一時期ひどく後退していた前髪がなぜか復活して若々しくなっていました。そして何より今回聴衆に暖かく迎えられたのは15年ぶり(パンフレットによれば「after a 15-year "vacation")の復帰となるRobby Steinhardtで、ヴァイオリンのボウをぶんぶん振り回しながらステージ狭しと暴れ回る姿は最も生き生きとしており、少なからぬ曲でリードボーカルもとっていました。中でもRobbyとSteve Walshがダイナミックなボーカルコンビネーションを聴かせる「Miracles Out of Nowhere」はまさに感涙ものです。

最後の曲は誰もが「Carry on Wayward Son」と予想しており、Steve Walshの「Are you ready!? 1234」のカウントで会場の全員が「♫Carry on my wayward son. There'll be peace when you are done.」と大合唱。終演後には聴衆の祝福に気を良くしてRobby SteinhardtやBilly Greerが最前列の客と次々に握手を交わすところはクラブ・ライブの良いところです。「今回は歌わない」とあらかじめ宣言していた私も、終わってみればやっぱり喉を枯らして会場を後にしていたのでした。

ミュージシャン

Steve Walsh vocals, keyboards
Robby Steinhardt violin, vocals
Rich Williams guitar
Billy Greer bass, guitar, vocals
Phil Ehart drums

セットリスト

  1. Fight Fire with Fire / Sparks of the Tempest / Fight Fire with Fire
  2. Song for America
  3. Miracles Out of Nowhere
  4. The Wall
  5. Cheyenne Anthem
  6. Hold On
  7. Eleanor Rigby
  8. Point of Know Return
  9. Play the Game Tonight
  10. Drum Solo
  11. Portrait (He Knew)
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  12. Down the Road
  13. Dust in the Wind
  14. Carry on Wayward Son