塾長の鑑賞記録

Simon Phillips

2019/06/05

ブルーノート東京で、Simon Phillips。彼の最初のソロアルバムである『Protocol』(1988年)のリリースから30年のアニバーサリーという位置付けでのツアーで、参加したのは初日のファーストセットです。

『Protocol』はドラムに加えその他のすべての楽器(ギター、ベース、キーボード)もSimon自身が弾き、セルフプロデュースを行った完全ソロ作品で、その後それこそ綺羅星のような数々のセッション活動の合間に『Force Majeure』『Symbiosis』『Another Lifetime』といったソロ作品をコンスタントに出していたのですが、2000年代に入ってからはそうした動きは鳴りを潜めていました。その彼が「Protocol」をプロジェクト名として再活用しだしたのは2013年のことで、以後2年おきに『Protocol II』『Protocol III』『Protocol IV』とバンド形式でのアルバムをリリースし、日本でもツアーも行ってきていました(2014年 / 2015年 / 2018年)。

『Protocok II-IV』の三作はドラム、ベース、キーボード、ギターのフォーピースバンド形式だったのですが、今回はサックスを加えた5人編成。Simon以外のメンバーは、『II』以降一貫してベースを弾いているErnest Tibbsと『IV』でキーボードを担当したOtmaro Ruiz、そしていずれも若手のギタリストAlex SillとサックスプレイヤーJacob Scesneyです。

ホールに入って、まずは楽器のチェック。SimonのドラムセットはおなじみTAMA Star Mapleの要塞キットですが、よく見ると右手側にチャイナシンバルが1枚追加されていました。そしてその手前にはサックスがテナー、アルト、ソプラノの3本。キーボードはNord Lead 4とNord Stage 2、そして左手側にノブやスライダーの赤い光が美しいRolandのJD-XA。右手側にはMacBook。そしてバンド全体のボトムを支えるように、ど真ん中後方にMark Bassのベースアンプとキャビネットが屹立していました。

ギタリストの足元にはご覧のエフェクター。セットリスト表はともかく、楽譜まであるのには驚きです。演奏中にこれを参照できるものなのでしょうか?使用ギターはAlex Machacekを連想させるヘッドレスのソリッドボディ。アンプはFender Deluxe Reverb。

客席が暗くなると共にブルーノート東京にしては珍しく豪勢にスモークが炊かれて客席に霞がかかったような状態になり、ガムラン風の音楽(『Protocol』のタイトルチューンのイントロを半分のテンポでスペイシーにした感じ)が流れ出したところで、左右二手に分かれてメンバーが拍手の中を登場し、それぞれ所定の位置についたところでギターのアルペジオが始まりました。

Celtic Run
『IV』から「Celtic Run」。アナログシンセ調のリフがひとしきり繰り返された後に、ギターのパワーコードとサックスの明快なリフが曲を組み立てていきます。いったん音量が下がったところでポルタメントを効かせたシンセサイザーの高速ソロからロックスピリットを感じる熱いギターソロへ。そしてJacob のブロウとAlexのギターが絡み合い、リフを奏でてビシッと終わりました。のっけからこれは凄い。Simonのドラムは驚くほどにラウドでパワフルで、前列の若い二人がその細身からは想像できないエネルギッシュな演奏でこれに応えています。
Solitaire
間髪入れず『IV』から「Solitaire」。まず滑らかで音数の多いギターソロ(ほとんど手元を見ない!)、ついでサックスが超高速タンギングで妖しい雰囲気を作ってからギターとは対照的に生々しい高音で激しく吹き上げるソロ。このあたりになると二人の実力を認知した客席も惜しみない拍手を送るようになってきます。Otmaroのエレピソロの背後でSimonがチャイナシンバルをバシャバシャ鳴らし、いったんメインリフに戻ってからSimonのソロコーナー。まるでタムの鳴り具合を10倍速で確かめているような間と手数の積み重ねが続きましたが、まだ序の口という感じ。

ここでSimonがアンチョコを手に前に出てきてMCタイム。「ミナサーン、コンバンワ」から『Protocol』30周年であることを告げた上で、メンバー紹介をしました。衣装は皆が白黒のモノクロ調なのに、ベースのEarnestだけが色物、それも身体の右半分と左半分で異なる柄という代物。その主張(?)の通り、この後の曲では彼のソロが存在感をアピールするようになってきます。

Circle Seven
『III』収録の、その名の通り7拍子の曲。ピアノの単音連打とパッド系の音の広がりの上にギターが乗り、ドラムとベースが入って7/8拍子のサックスソロから短いベースソロ、長大でエモーショナルなエレピソロ、7/4拍子による柔らかい音色で心のこもったベースソロ、またまた熱いギターソロと各人のソロが展開します。もちろんすべて7拍子、そして最後はSimonのツーバス連打がドカドカと音圧を上げてギターソロを飲み込んでいきました。
You Can't but You Can
再び『III』から、特徴的なユーモアを漂わせるメインリフを持つ曲。前半に登場する高速ギターソロでの音符の詰め込み具合には驚愕しましたが、Jacobの意欲的なサックスソロも負けてはいませんでした。若い二人の堂々たる演奏ぶりに拍手喝采です。

「You Can't but You Can」のファーストバージョンがMike Sternによって演奏されたものだったという裏話(Mike Stern(またはAndy Timmons?)の口真似あり)の紹介のあとに、今度は『II』に遡って「First Orbit」。

First Orbit
深いエコーを伴う繊細なスネアとハイハットがリズムを刻む比較的スローテンポでムーディーな曲。ところどころに挿入されるSEはJacobが目の前のパッドを操作していました。オーセンティックなアコースティックピアノのソロ、ソプラノサックスによる美しい高音がとりわけ印象的。
Kumi Na Moja
何やら懐かしい雰囲気を漂わせるアコースティックなピアノソロからようやくJD-XAの美しいパッドが登場。ここにソプラノサックスが重なったところへ打ち込みのイントロが入って『Another Lifetime』からの11拍子の曲(メインリフは6+5、ソロの部分は8+3を感じます)。ハイライトになったのはテナーサックスの咆哮、そしてその背後に立ち上がるツーバスとチャイナシンバルの音の壁。

ここが武道館ならいったんドレッシングルームに下がってからステージに戻ってくるところなんだが……とSimonがジョークを言って、そのままアンコールへ。

Azorez
『IV』の最後に収録されていた激しい曲。忙しく動くドラムとベースに呼応するようにライティングが乱舞し、いったん音圧が下がったところで意欲的なベースソロ、これまたトリッキーなエレピソロ(もっとアナログ系のシンセサイザー音を駆使する場面を増やしてほしかった気もします)、テナーの落ち着きを聞かせるサックスソロを経て、最後は怒涛のごときドラミングへ。


昨年の『IV』のツアーでも演奏のパワーに驚きましたが、今回はさらにラウドになっていて少々驚きました。スモークやライティングなど演出面も含め、このツアーへの力の入りようがひしひしと感じられるライブでしたが、安定した演奏力を見せつけるOtmaroとErnestを後ろに控えさせて、いずれも26歳の二人が62歳のSimonのバンドの一員として堂々たるステージ度胸を発揮していたことがとりわけ心に残りました。Jacobはどことなく「あどけない」という言葉を使いたくなるような親しみやすい笑顔から強烈なブロウを聴かせていましたし、かたやAlexは見た目に動きが見えないのにアンプからは膨大な数の音符を吐き出させているといった具合で、そのスタイルはAllan Holdsworthを彷彿とさせました。彼らの力量のほどを知るには一曲あれば十分ですが、堪能するためには七曲では不足です。

容易に予想がつくように、この日のファーストセットとセカンドセットでは違う曲が演奏されたそうで、時間とお金があれば両方聴きたいところでしたが、さすがにそこまでのゆとりがなかったのは残念です。かくなる上は、Greg Howeには申し訳ないですが、今回のこのメンバーで『Protocol V』を出してもらって、再び日本に来てくれることを期待します。

ミュージシャン

Simon Phillips Drums
Otmaro Ruiz Keyboards
Ernest Tibbs Bass
Jacob Scesney Sax
Alex Sill Guitar

セットリスト

  1. Celtic Run
  2. Solitaire
  3. Circle Seven
  4. You Can't but You Can
  5. First Orbit
  6. Kumi Na Moja
    --
  7. Azorez