塾長の鑑賞記録

NHK交響楽団(ストラヴィンスキー)

2019/02/21

NHKホールで、NHK交響楽団の定期演奏会。指揮はN響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。

明日からYESのライブが3日間続くので、ここでストラヴィンスキー(1882-1971)を予習だ!……というのはもちろん嘘で、曲目は「火の鳥」ではなく「春の祭典」だし、そもそも近年のYESはイントロに「火の鳥」を使っていません。それでも、スラブの土俗的な荒々しさに満ちた「春の祭典」はフェイバリットのひとつですから、少なからぬワクワク感をもってサントリーホールに向かいました。

ストラヴィンスキー:幻想曲「花火」作品4
師であるリムスキー・コルサコフの娘の結婚祝いとして書き始められたという曲。わずか4分間の小品ですが、火花が四方八方に飛び跳ねるような賑やかな冒頭部から大太鼓のドン!という一発でいったん摩訶不思議なムードの沈静部を経た後、次々に花火が打ち上げられては夜空に大輪の華を開かせる様子が描写されて、最後にとりわけ大きな一発が打ち上げられて終わります。なお、この曲の初演の場に居合わせたのが、のちにバレエ・リュスの座付き作曲家としてストラヴィンスキーを迎えることになるセルゲイ・ディアギレフだったそうです。
ストラヴィンスキー:幻想的スケルツォ 作品3
「花火」と同日に初演された12分ほどの曲。明確な主題を持つというより、次々にフレーズが立ち上がり絡み合ってゆく、カラフルな音のタペストリーのよう。途中に現れる穏やかな曲想は流麗でほっとしますが、細かい音符の連なりや動き回る旋律が聴衆をどこに連れてゆくかわからない行き先不明感をもたらします。
ストラヴィンスキー:ロシア風スケルツォ
これまた4分間の小品。1939年にアメリカに渡ったストラヴィンスキーがロシア民謡を素材に用いて1944年に作曲した作品。先にジャズ・バンド編曲版が作られ、その後にフル・オーケストラ用に編曲されたものです。金管楽器と打楽器を中心とするマーチ風のテーマが楽しく特徴的。途中でピアノとハープのひそやかな対話が気分を変えた後、いったんマーチに戻ってからますます民謡調の旋律とリズムの変化も見せながら、最後はマーチに回帰(A-B-A-C-A)して唐突に終わります。
ストラヴィンスキー:葬送の歌 作品5
1908年、リムスキー・コルサコフの死を悼んで作曲されたものの、その後の戦争と革命の混乱の中で楽譜が失われたと思われていたもの。2015年のサンクトペテルブルク音楽院の図書館改修工事の際に発見されて再び日の目を見ることになった「幻の曲」です。コントラバスの不気味な半音階的旋律の中に銅鑼が深く響き、死の厳粛な雰囲気の中に指揮者の饒舌な左手の指示に従って様々な楽器による特徴的なモチーフが葬列のごとく押し寄せては消えてゆき、ところどころに不穏な盛り上がりも見せながら、最後は遠く静かに全音符。これはすごい。
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
「火の鳥」「ペトルーシュカ」と共に三大バレエ曲を構成する問題曲。プログラムの解説に曰くこの《春の祭典》はストラヴィンスキーを20世紀音楽全体のアイコンにした。この曲の問題は、バレエ台本が先にありきだったのか、音楽が先に生まれたのか、という点ですが、作曲家自身が後者の立場をとるのに対し、曲の各部のタイトル(「乙女たちの踊り」「敵の都の人々の戯れ」や「乙女たちの神秘なつどい」「いけにえの踊り」など)と音楽の間に密な交流があること、バレエの舞台となるスラブ世界の民謡の引用が多数含まれることを考えれば、ストラヴィンスキーの主張には無理があるというのが解説の立場。ただし、「火の鳥」「ペトルーシュカ」が登場人物の所作を追うオノマトペを少なからず含んでいたために後にストラヴィンスキーはこれらをカットした組曲を作成したのに対し、「春の祭典」はあらゆる部分が全体を作り出す不可欠の構成要素としてそこにあり、これこそが「春の祭典」の凄みであって、見かけの不協和はその背後に存在するいくつものユニットの摩擦から発せられる火花にすぎないと解説者は主張します。
第一部「大地礼賛」。滑りこんでくるファゴットの超高音から、何かの予兆を告げる緊迫した管の旋律の組合せ、そしてこの曲の最も特徴的なパートである弦による最大音量の連打。その圧倒的な迫力に身動きもできずにいるうちにティンパニが咆哮し、土俗的なリズムとメロディーの洪水が速く、あるいは遅く、大きなうねりを伴って押し寄せてきます。第二部「いけにえ」でも、魅力的な民謡からの引用と唐突な展開、複雑な調性の魔法、暴力的な打楽器群がもたらす音圧といったこの曲の特徴が全編にみなぎる緊迫感をもたらし、終曲において吹き荒れる変拍子の嵐へとだれることなくつながっていきます。
最初に登場したときの謹厳な佇まいとは裏腹の、全身を使ったダイナミックな指揮でオーケストラの能力を引き出し尽くし、スラブの原始宗教の生贄の儀式の情景を眼前に再現してみせたパーヴォ・ヤルヴィ。終演後に熱狂的な拍手と歓声が送られ続けたことは、言うまでもありません。