塾長の鑑賞記録

Simon Phillips

2018/01/05

Simon Phillipsのプロジェクト「Protocol」は、1988年に初のソロアルバムとして同名アルバムをリリースした後、四半世紀の時を経て2014年に『Protocol II』、2015年に『Protocol III』と立て続けに作品を発表し、そして昨年『Protocol IV』をリリースしました。

このアルバムの参加メンバーは『II』『III』と異なっており、ベースのErnest Tibbsは続投ですが、ギターがAndy TimmonsからGreg Howeへ、キーボードがSteve WeingartからOtmaro Ruizに変わっています。Greg Howeはこれまでじかにその演奏を聞いたことがありませんでしたが、Eddie JobsonのUltimate Zero Projectの2009年のツアーの一部に同行しており、私が持っているこのプロジェクトのライブアルバムではTrey Gunn、Marco Minnemannと共にSimon Phillipsとも共演して、Mahavishnu Orchestraの曲を演奏していました。一方、Otmaro Ruizの名前を聞くのは初めてですが、Simonのサイトでの紹介によれば、生まれ育ったベネズエラでキャリアを積んだ後1989年に米国に移り、Alex AcuñaやDianne Reevesなど主としてジャズ畑のミュージシャンをサポートしてきたようです。メンバーの変化に伴い音楽性も『II』『III』とは異なっており、洗練されたフュージョンという印象の前二作に比べ『IV』はよりファンキー、さらにはロック寄りと言ってもいいくらいのエナジーを感じます。

今回のブルーノート東京でのライブは、この『Protocol IV』収録曲をそのままセットリストとしたものでした。

Simonのドラムセットは、相変わらずの要塞。セッティングはここ数年変わっていないようです。

Steve Weingartは珍しくCASIOのキーボードを愛用していましたが、Otmaro Ruizはメインの二段がnord lead 4とnord stage EX、客席側がRoland JD-XA、そして上手側のピアノはスタインウェイでした。

定刻を少し回ったところで、リラックスした様子でメンバーがステージ上の所定の位置につき、しばしの静寂の後、おもむろに『IV』冒頭のSEが入ってきて、演奏が開始されました。

Nimbus
SEの上にGregがタッピングによるハーモニクスを重ね、オクタバンとハイハットのパターンからErnestの低音リフが加わって曲が開始。ひと呼吸あってダイナミックなユニゾンから演奏がパワーアップしてギターがメインテーマを奏で、その後、例によって変幻自在なポリリズムの上にシンセサイザーとギターのソロが踊ります。「Nimbus」とは神の周囲に漂う光雲、あるいは光輪といった意味ですが、そうした宗教がかったネーミングとは裏腹にSimonのドラムがのっけから熱い!特に、本当にここはブルーノートか?と思わせるほどのタムの音圧とパワフルなツーバス連打は圧倒的です。
Pentangle
ファンキーなギターのカッティング、滑り込むベース、そして一筋縄ではないドラムのリズムパターン。ところどころにキメを交えながらもひたすら驀進するリズムの上でギターとエレクリックピアノが飛翔し、後半ではメロディー楽器群がリズムキープする中でSimonのロール中心のドラムソロが展開します。そして最後はまたしてもツーバスで強力に押し切る力技を見せて一気に終焉へ。

ここでSimonのMC。手元の紙に目をやりながら「明ケマシテ、オメデトウゴザイマス」。ユーモラスに芝居掛かった抑揚でOtmaro、Greg、そして「Secret Weapon」ことErnest Tibbsを紹介。「『ぷろっとこーるIV』ノ新シイCDカラノ音楽ヲ演奏シマス。楽シンデ下サイ。Please enjoy.」と語ってSimonはドラムセットに戻りましたが、この時点では、まさか文字通り『Protocol IV』の全曲再現になるとは思ってもいませんでした。

Passage to Agra
アグラはもちろん、タージ・マハルのあるインドの町。シンセサイザーがエスニックなスケールと音色のメロディーを奏で、Simonはスナッピーを外した小口径のスネアでタブラを模した音を出した後、メインテーマはシンセサイザーとベースのユニゾンで印象的な可愛らしいリフ。そのリフを引き継いだギターがやがて流麗なソロに移り、ついでシンセサイザーにスペースを譲りますが、一曲を通して何やらインドの街角の喧騒を思わせるような賑やかなドラムのパターンとアジア的音階が楽しい曲でした。
Solitaire
Simonのカウントから7/4拍子の中にシンコペーションを効かせたシビアなリズム感を要求されるイントロ、そしてリフ。ダークな色彩の曲調の中で、Gregの高度な演奏能力が存分に発揮される音数の多いギターソロ、さらにOtmaroの超硬質なエレピソロ。さらにギターたちのリフの上にタムやスネアの粒立ちを転がすようなロールを聞かせる遊び心に満ちたドラムソロ。

ここでSimonが前に出てきて、再びメンバー紹介。どうやら時差ボケで眠い様子ですが、次の「Celtic Run」の前に、Otmaroの美しいキラキラを……的な説明。

Piano Solo / Interlude / Celtic Run
まず上手側に置かれたスタインウェイに向かったOtmaroの、その立派な体格に似合わない(?)叙情的なピアノソロ。そこから「Interlude」へ移るために身体を反対側へひねって単音連打に移ったところで、ペダルを踏む態勢が不自由だったらしくしばらく身体をごそごそさせた末に、OtmaroはSimonと顔を見合わせて大笑い。やがてストリングスとギターが曲調を変化させた後に、一転してリズミカルなシンセサイザーのリフから始まる「Celtic Run」へ。やはりライブだと、曲の雰囲気が原曲とは大きく異なって極めて力強く聞こえます。また、ベンディングも多用したシンセサイザーソロは音色もフレーズも70年代風で、Patrick Morazを連想します。シャッフルビートのツーバス連打から全楽器ユニゾンでぴたっと終わるエンディングには、客席から驚愕を混じえた歓声が上がりました。
All Things Considered
スティックを打ち合わせてかなり長めのカウントからリズムを合わせて、マイナースケールのスタイリッシュなフュージョンナンバー。中間に怪しげとも牧歌的ともつかない摩訶不思議なシンセサイザーソロが入り観客を煙に巻いた上で、伸びやかで気持ちの良いギターソロと変態シンセサイザーソロの応酬へ。両者のバトルが徐々に音数とボルテージを増した後、唐突に終曲。
Phantom Voyage
ピアノとストリングスに情感をこめたロングトーンのギターが絡むイントロから、ベースとドラムによる穏やかにたゆたうようなリズムの上でGregのギターが咽び泣き、後半はOtmaroの太い指がピアノの鍵盤上を上から下まで密やかに踊る、静謐な曲。
Drum Solo / Azorez
スネア二台のマーチ風ロールから始まる短いドラムソロをイントロに置いて、最後の曲は再びバスドラの音数・音圧がパワフルなロックテイストのナンバー。Gregのギターソロも指板上を縦横に駆け回るゴージャスなものでしたが、曲の途中でSimonがしきりに右手前方にあるクラッシュを気にしていると思ったら、とうとう後ろを振り向いてPA氏に何やら耳打ち。どうやらあまりのハードヒットにシンバルがお釈迦になったようで、しばらくしてPA氏が新しいクラッシュシンバルを持ってきて交換していました。そんなことにはおかまいなしに演奏は堂々と進み、何事もなかったかのように大団円へ。

いや、凄い演奏でした。初めて『IV』を聴いたときは『II』『III』に比べ音作りも演奏も少々荒削りな感じがして率直に言えばあまり好印象ではなく、また、この日の演奏でもAndy Timmonsの神経の行き届いたプレイスタイルに比べるとGreg Howeのギターにはラフさが見てとれる場面が少なくなかったのですが、Simon Phillipsのこれまでにない強靭なドラミングが、あらゆる難点を吹き飛ばした感じです。Simonは自分のこのパッションを表現するために、あえてメンバーチェンジしたのに違いありません。『IV』がこのように路線を変えてきたとすれば、次の『V』がどんな音楽を聞かせてくれるか予測がつきませんが、それだけに、再びこのブルーノート東京で「Protocol」を迎える日が来るのが待ち遠しくなってきます。

ミュージシャン

Simon Phillips Drums
Greg Howe Guitar
Ernest Tibbs Bass
Otmaro Ruiz Keyboards

セットリスト

  1. Nimbus
  2. Pentangle
  3. Passage to Agra
  4. Solitaire
  5. Piano Solo / Interlude / Celtic Run
  6. All Things Considered
  7. Phantom Voyage
  8. Drum Solo / Azorez

この日のセットリストはこのように、ピアノとドラムのソロを加えた以外は『Protocol IV』をほぼそのまま再現したものでしたが、ミキサーの上にあったセトリ表にはアンコールの記載もありました。その曲目は次の通りです。

  • Moments of Fortune(『Protocol II』)
  • Catalyst(『III』)
  • You Can't but You Can(『III』)
  • Wildfire(『II』)

しかし、この日は終演後にSimonが「明日の晩も日曜日の晩も演奏するから」とアナウンスしてアンコールはなし。まあ、アルバム一枚をまるまる堪能できたのだからよしとしましょう。