塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

バレエ・スプリーム(パリ・オペラ座バレエ団 / 英国ロイヤル・バレエ団)

2017/07/26

後楽園の文京シビックホールで「バレエ・スプリーム」と題した公演のAプロを観ました。ここに足を運ぶのは、昨年のあの「バレエの王子さま」(何度読んでも恥ずかしいタイトル……)以来です。

この「スプリーム(supreme)」とは「至高の」という意味。パリ・オペラ座バレエ団と英国ロイヤル・バレエ団からエトワール、プリンシパルクラスのダンサーが出場するガラ形式ですから、料金もスプリームではあるもののやはり見逃すわけにはいきません。あいにく、出演が予定されていたサラ・ラム(英)とフランソワ・アリュ(仏)が負傷のために参加できなりましたが、自分の期待は一番にスティーヴン・マックレー、そして昨年「ロミオとジュリエット」で鮮烈な印象を残したフランチェスカ・ヘイワードと今年3月の「ラ・シルフィード」終演後の舞台上でエトワールに任命されたばかりのユーゴ・マルシャンでしたから、さほどの落胆はありませんでした。

会場ロビーには、演目変更の告知とサラ・ラム、フランソワ・アリュからのメッセージ。2人には早い時期に来日の機会を作ってほしいものです。

ラプソディ

フレデリック・アシュトンがミハイル・バリシニコフとレスリー・コリアに振り付けた作品。ラフマニノフの輝かしい「パガニーニの主題による狂詩曲」に乗ってヤーナ・サレンコ(ベルリン国立バレエ団から客演)とスティーヴン・マックレーが技巧を存分に見せつけます。特にマックレーの、手足が巻き付くような高速回転や高い跳躍力による540、トゥール・ド・レンが圧巻。

アスフォデルの花畑

プーランクの「2台のピアノのための協奏曲」第2楽章をバックにフランチェスカ・ヘイワードと マルセリーノ・サンベによって踊られるパ・ド・ドゥ。柔らかい上体を生かした2人のシンクロから男性が女性を宙に保持しての流れるような旋回へと滑らかにつながり、コンテンポラリーな動きの中に情感のこもった美しい作品でした。この作品を観ると、コンテンポラリーを踊るフランチェスカの姿をもっと見てみたくなります。

ジゼル

高田茜さんとベンジャミン・エラによる第2幕のパ・ド・ドゥ。十字架のセット、背景に暗い森の情景。アティテュードで回ってから突然のジャンプの高さにびっくり。でも2人ともどんなに跳んでも回っても、悲劇性を損なわないところがすごい。

アイ・ガット・リズム

スティーヴン・マックレーがガーシュウィンの曲を使って自分で振り付けたタップダンス・ソロ。彼の徹底したエンターテイナーぶりにほとほと感心。

ロミオとジュリエット

フランチェスカ・ヘイワードとフェデリコ・ボネッリで、バルコニーのパ・ド・ドゥ。サラ・ラムとフェデリコ・ボネッリによる「アポロ」の代わりに導入された演目ですが、おかげでまたしてもフランチェスカの魅力にノックアウトされました。あの清純さの中の高揚と浮遊感、この少女のためなら死ねる……か?フェデリコ・ボネッリも力強い回転や安定の片手リフトでジュリエットの心をゲット。

ここまでが英国チームで、休憩をはさんで今度はフランスチームです。

白鳥の湖

ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンによる第2幕のパ・ド・ドゥ。どこまでもノーブルというかエレガントというか。とても美しかったのですが、トウシューズの音がちょっと気になったかな。しかしこの組に限らず、この日の文京シビックホールの舞台はシューズのひっかかるキュルキュルという音や硬いコツコツとした音が妙に響きます。

白鳥の湖

レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェによる第3幕のパ・ド・ドゥ。第2幕のパ・ド・ドゥと共にヌレエフ版で、ここは本来はフランソワ・アリュを加えたパ・ド・トロワの予定であったものですが、2人とも昨年末に「白鳥の湖」の舞台上でエトワールに任命されたばかりですから、ぴったりの演目です。その期待通り、王子を翻弄する黒鳥の邪悪でいてコケティッシュな演技としなやかな腕の動きを伴うきれいなターン。黒鳥の1-1-2のグラン・フェッテを途中から王子がおおらかなグランド・ピルエットで引き取り負荷軽減。

エスメラルダ

黒を基調としたスペイン情緒あふれる衣装に身を包んだオニール八菜とユーゴ・マルシャンによって情熱的に踊られるパ・ド・ドゥ。高々と掲げられたリフトから一気のフィッシュ・ダイヴ、アティテュード・アン・プロムナードからポワントでのバランスを三度繰り返して最後に素晴らしい安定からアラベスクへ。テープ演奏ではなく生オケだったらもっと見せてくれたことでしょう。ユーゴ・マルシャンのヴァリエーションは強靭さが際立ちましたが、オニール八菜のタンバリン・ソロは少しリズムに乗り切れておらずタンバリンの位置も低め。最後は恐ろしいスピードのサポーテッド・ピルエットから一瞬で静止してポーズ。客席から大きな喝采が上がりました。

マンフレッド

マチアス・エイマンによるソロ。詩人バイロンの劇詩に基づくチャイコフスキーの音楽をもとにルドルフ・ヌレエフが舞踊化した作品。暗めの舞台上で薄い青のタイツ姿のエイマンが、悲痛な記憶の忘却を願ってかなえられない主人公の懊悩を劇的な表現力で踊る。この作品も出演者の変更に伴い追加されたもので、したがって衣装も本来の姿ではなかったようですが、ダンサーの肉体の叫びに圧倒されました。

ドン・キホーテ

最後は、全員が舞台に上がってドン・キホーテのダイジェストを踊ります。キトリとバジルがぞろぞろと出てきて順繰りに踊ったほか、フランチェスカ・ヘイワードがキューピッド、オニール八菜がドリアードの女王。そのあとに金色の新郎新婦姿で出てきたのはレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ。高田茜さんのかっこいいアバニコさばき、フランチェスカ・ヘイワードのキュートさ、マルセリーノ・サンベとベンジャミン・エラの若手コンビによる540連発(マックレーに比べるとまだまだ低い)と逆行マネージュ(ぶつからずにきれいに交差)、そして舞台全体に目配りするようなスティーヴン・マックレーの貫禄。

終わってみればロイヤルのダンサーたちの溌剌としたダンスが際立っていましたが、オペラ座のマチアス・エイマンの「マンフレッド」にも突出した説得力があり、全体を通して見応えのある舞台でした。オペラ座チームは前週のニューヨーク公演から東京に移動してきてのステージで、タイトなスケジュールの中でのコンディション維持の難しさを感じさせる場面もなくはなかったのですが、それでもスティーヴン・マックレーとマチアス・エイマンがそれぞれに引き締めてくれた感じです。これならチケットを買った甲斐が十分にありましたが、さすがにBプロまでは手が出ません。残念……。

演目 ダンサー 振付
ラプソディ ヤーナ・サレンコ / スティーヴン・マックレー フレデリック・アシュトン
アスフォデルの花畑 フランチェスカ・ヘイワード / マルセリーノ・サンベ リアム・スカーレット
ジゼル
第2幕よりパ・ド・ドゥ
高田茜 / ベンジャミン・エラ ジャン・コラーリ
ジュール・ペロー
アイ・ガット・リズム スティーヴン・マックレー スティーヴン・マックレー
ロミオとジュリエット
第1幕よりパ・ド・ドゥ
フランチェスカ・ヘイワード / フェデリコ・ボネッリ ケネス・マクミラン
白鳥の湖
第2幕よりパ・ド・ドゥ
ミリアム・ウルド=ブラーム / マチアス・エイマン ルドルフ・ヌレエフ
白鳥の湖
第3幕よりパ・ド・ドゥ
レオノール・ボラック / ジェルマン・ルーヴェ ルドルフ・ヌレエフ
エスメラルダ
パ・ド・ドゥ
オニール八菜 / ユーゴ・マルシャン マリウス・プティパ
マンフレッド マチアス・エイマン ルドルフ・ヌレエフ
ドン・キホーテ
ディヴェルティスマン
全員 マリウス・プティパ