塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

くるみ割り人形(東京バレエ団)

2016/12/18

クリスマスと言えば「くるみ割り人形」。直近では2014年にABTの版を観ていますが、今回は東京バレエ団なので2009年に観たものと同じです。今回はABTのときと同じく、ダニール・シムキンが王子役を踊るというのが自分としては見どころでした。

いかにもクリスマスな飾付けが施された東京文化会館のホールには、これまたいかにもバレエを習っていそうな女の子とその母親の姿があちこちに見られ、どうやら満員御礼だったようです。

さて、上記の通り東京バレエ団によるプロダクションで、演出も2009年と同じくワイノーネン版なので、ここでこまごまと舞台進行を追う必要はないでしょう。以下、特に印象に残った場面だけを挙げていくことにします。

  • 第1幕
    • 序曲の際に、赤い幕が上がって現れたのはプロジェクション・マッピング(以下「PM」)を用いたアニメーション。クリスマスパーティーの準備が進む客間に大きなねずみがちょろちょろと行き来します。
    • ドロッセルマイヤーは木村和夫。こういう一癖ある役を演じさせたら、彼の右に出る者はありません。
    • ピエロ、コロンビーヌ、ムーア人の人形振りがいずれも見事。特にコロンビーヌのぜんまい仕掛けのような回転は目を引きました。
    • 夜の場面では紗幕が下り、深夜と共にそこにPMにより妖しい渦が巻いて、ドロッセルマイヤーと3人の人形がクララと踊ったところでフクロウの時計が0時を告げると雪が下から上へ吹き上がっていく様子が映し出されると共にツリーと時計が巨大化!
    • ねずみの群れと人形の軍団の戦いの中で、面をかぶったくるみ割り王子がクララのスリッパに助けられて危うく勝利を得つつも倒れ込んだときに人形3人組に囲まれて舞台が暗くなり、やがて3人組が離れるとスポットライトの中にダニール・シムキンが素顔をあらわします。
    • ツリーの前での主役2人の優美なパ・ド・ドゥに続いて舞台が雪の国に移り変わる場面もPM全開で、月、オーロラ、そして視線が雲の中を下っていくと彼方に月明かりに光る山脈。
    • そして雪の国では、軽々としたマネージュを見せたダニール・シムキンが最後にクララを肩に上げて、第1幕が終了です。

  • 第2幕
    • ふしぎの国へ向かう舟はやはりPMによる海の上を渡り、紗幕が上がるとそこには例によってクリムゾン風マヤデザインのおどろおどろしい空間。これを見るのは3度目ですが、回を追うごとに違和感を覚えるようになってきました。
    • そこへ乱入してきたねずみたちを迎え撃つダニール・シムキンは、剣を片手に垂直に跳躍しての2回転や恐ろしく軸の安定した大きなピルエットを見せ、ねずみたちを下手に追いやって凱旋しました。第1幕でドロッセルマイヤーが見せた人形劇の筋書きが、この場面だったかも。
    • ディヴェルティスマンは、スペインの2人の華麗なフェッテ、アラビアのバランスと一瞬のダイヴ、中国の辮髪のトゥール・ド・レン、ロシア男子の元気な跳躍、フランスの3人による正統派のエレガンスなど、それぞれに見どころあり。一番拍手を集めていたのはロシアでした。
    • 優雅な花のワルツに続いて、薄いピンクのチュチュのクララと純白の王子のグラン・パ・ド・ドゥ。アダージョで、客席に背を向けた王子に舞台奥から駆け寄ったクララが高々とリフトされて両手を広げた姿には感動しました。そしてサポーテッド・ピルエットから真っすぐリフトされてフィッシュ・ダイヴへ。
    • 王子のヴァリエーションでは、余裕たっぷりのトウール・ザン・レールや、グランド・ピルエットの連続の中に半径を縮めての高速回転を交えた旋回技をシムキンが見せつけて、会場が大きく沸きました。そして、クララのヴァリエーション(「金平糖の踊り」の曲)からコーダへ。
    • 全員での踊りの中、主役2人は後方に消えましたが、最後に王子だけが戻ってきて花のワルツのメンバーにリフトされたところでスポットライトが当たってふしぎの国の場面は終了。再びPMにより雲の上を飛んで元の屋敷に戻り、エピローグとなりました。

クラシックの全幕上演なので、ダニール・シムキンのダンスには「バレエの王子さま」で見られたような奔放なテクニックの露出はありませんでしたが、王子としてのノーブルさ、どこまでも安定した跳躍と回転など、完成されたダンサーとしての貫禄が感じられた舞台でした。クララをリフトから下ろすところで十分に下ろしきれずに沖香菜子さんの足がばたつく場面があったのは気になりましたが、一方の沖香菜子さんは第1幕での少女の可憐さと第2幕での成熟した女性の魅力とを見事に演じ分けていましたし、上述のとおりディヴェルティスマンも楽しいものでした。そして東京シティ・フィルハーモニック管絃楽団の演奏は、チャイコフスキーの名曲たちを舞台上のダンサーの動きと調和させることに成功していたと思います。

……というわけで、今年最後のバレエ鑑賞はなかなかに満足度の高いものでした。

配役

クララ 沖香菜子
くるみ割り王子 ダニール・シムキン(アメリカン・バレエ・シアター)
クララの父 永田雄大
クララの母 奈良春夏
兄フリッツ 岸本夏未
くるみ割り人形 高橋慈生
ドロッセルマイヤー 木村和夫
ピエロ 河上知輝
コロンビーヌ 中島理子
ムーア人 吉田蓮
ねずみの王様 森川茉央
スペイン 二瓶加奈子-岸本秀雄
アラビア 政本絵美-ブラウリオ・アルバレス
中国 岸本夏未-高橋慈生
ロシア 伝田陽美-入戸野伊織
フランス 中川美雪-足立真里亜-山本達史
花のワルツ 吉川留衣 / 小川ふみ / 加藤くるみ / 崔美実-森川茉央 / 杉山優一 / 松野乃知 / 永田雄大
指揮 井田勝大
演奏 東京シティ・フィルハーモニック管絃楽団