塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

The Spirit of Pink Floyd Show

2009/03/15

Pink FloydのトリビュートプロジェクトであるThe Spirit of Pink Floyd Showのライブを、昭和女子大人見記念講堂で。私はPink Floydにはどちらかというとそれほど思い入れがない方なのですが、公式サイトの画像などを見てみると、ライティングや映像などのビジュアル面もかなり充実している様子だったので、ショウとして楽しむ分にはいいかとチケットをとったわけです。

それにしても、今回のツアーの日程(関東)を見てびっくり。

3/13 東京国際フォーラム ホールA
3/14 川口総合文化センター リリア
3/15 昭和女子大学人見記念講堂(昼・夜)
3/16 すみだトリフォニーホール

連続4日間で5公演!それだけの集客力をこのプロジェクトが持っているのか?という心配がまず湧き上がりますし、ロックのライブとしてはこの過密日程は異常。普通だったら2日公演して1日休みを入れて、というローテーションにしないとヴォーカリストの喉がもたないはずです。いくらインストパートが多いPink Floydの曲だといっても、これは厳しいのでは?……などと余計な心配をしながら人見記念講堂に入ったのですが、前者の心配は現実のものとなり、客席は1階席だけでも半分弱の寂しい入りでした。これはプロモーターの責任でしょう。しかし、演奏の方は良い方向に裏切られて、非常にクオリティの高いものでした。

風の吹き荒れる音の中メンバーが登場し、あのベースのエコー音が鳴り響いて、「One of These Days」から演奏が始まりましたが、ベース、ドラムとも実にタイトでいい音を出していますし、下手に立った女性ギタリストStella Fairheadのスティールギターがまさに「あの」雰囲気。続いて不安をかきたてるシンセのリフレインから、ボーカルが入って「Dogs of War」。ボーカルは楽器を兼ねない専任ヴォーカリストで、声質もDavid Gilmourを彷彿とさせる違和感のないものですし、過密日程にもかかわらず声量・表現力とも十分。トリビュート・バンドだとどうしてもボーカルが弱点になるものですが、彼には非の打ち所がありません(見た目が若過ぎる点を除けば)。以下、オリジナルPink Floyd時代の曲とDavid GilmourのPink Floyd時代の曲とが取り混ぜて披露されていきましたが、「Time」のイントロのメロタムや「Wish You Were Here」の12弦アコースティックギター、「Comfortably Numb」の「ちくっとしますよ」の部分でのピアノ音など、細かい部分まで原曲に忠実なアレンジで再現していました。若干アレンジを変えてあったのは、サックスの活躍の場を織り込んだりギターの位置やフレーズを変えた「Young Lust」などわずか。リードギターもDavid GilmourのStoratocasterの音色を巧みにつくっており、「The Great Gig in the Sky」ではStellaが凄いスキャットを聞かせてくれました。

また、ビジュアル面ではライティングがとても美しく、後方中央の円形スクリーンの周囲と、舞台後方4基及び両袖2基のタワーの上に設置されたバリライト及びレーザー光線が、カラフルかつダイナミックに動いて曲の雰囲気を盛り上げます。さすがに本家のライトショウには及びもつかず、「Comfortably Numb」で円形スクリーンが前傾したり巨大ミラーボールが降りてきたりはしませんでした(そこまで期待もしませんでした)が、並のロックコンサートの水準は十分に超えていると思います。かたやスクリーンに映し出される映像の方は、ちょっとビミョー。「Comfortably Numb」のCGの色っぽい看護婦さんには制作者の趣味が窺えて笑ってしまいましたが、「Us and Them」で各種戦争シーンに混じって9.11のWTCに突っ込む飛行機〜ビル崩壊の連続写真が映し出されたのには驚きました。これらの映像は、少なくともアメリカのマスコミでは(遺族感情に配慮して)封印されたものだと聞いていましたが、ヨーロッパならいいのでしょうか。

しかし、こうしたビジュアルがどれだけ進んでいても、ショウとして成り立つかどうかは、やはり生身のミュージシャンたちのパフォーマンスにかかってくるもの。その点がおろそかになっていない、誠実なライブであったことを、高く評価したいと思います。特に「Hey You」や「Us and Them」でのリードボーカルの熱唱は特筆ものでした。そして彼らの演奏を通じて、Pink Floydの音楽が意外にもエモーショナルな要素を少なからず含んでいることを再認識したのです。

最後に、名義についてひとこと。プロモーターのテイト・コーポレーションは「OFF THE WALL 〜PINK FLOYD SPIRIT〜」という表記を採用していますが、今回の来日メンバーのものと思われるサイトは「The Spirit of Pink Floyd Show」を名乗っており、サイト内に

Welcome everyone to FloydSpirit.com, official website and home of The Spirit of Pink Floyd Show. This new show brings together seven former members of Off The Wall and a former member of Think Floyd to create the most exciting and innovative Pink Floyd show in the world.

とわざわざ説明されていましたので、このレビューでは「The Spirit...」を採用しました。

ミュージシャン

Neil Fairclough bass, vocals
Stella Fairhead guitars, vocal
Nick Radcliffe lead guitar
Andy Gibson lead vocals
Ben Appleby saxophone, vocals, percussion
Rick Benbow keyboards, vocals
Dave Cottrell drums
Adele Harley backing vocals
Carolyn Harley backing vocals

セットリスト

  1. One of These Days
  2. Dogs of War
  3. Time
  4. Learning to Fly
  5. Echoes(abridged)
  6. Money
  7. Hey You
  8. Run Like Hell
  9. Shine On You Crazy Diamond
  10. Young Lust
  11. Us and Them / Any Color You Like / Brain Damage / Eclipse
  12. Band Introductions
  13. The Great Gig in the Sky
  14. Wish You Were Here
  15. Another Brick in the Wall
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  16. Comfortably Numb