塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

ベジャール=ディアギレフ(ベジャール・プロ)

2006/04/14

東京文化会館(上野)で、東京バレエ団「ベジャール=ディアギレフ」(ベジャール・プロ)。これは、タイトルの通りベジャールとディアギレフ(バレエ・リュス)という20世紀バレエの二大転機を比較して見せようという企画で、チケットがとれなかったディアギレフ・プロの方は「ペトルーシュカ」「薔薇の精」「牧神の午後」、そして今夜のベジャール・プロの演目は「ペトルーシュカ」「ギリシャの踊り」「ボレロ」の3作です。

この日のプログラムの中では「ギリシャの踊り」のソロをベテラン首藤康之が、「ボレロ」を上野水香がそれぞれ踊るのがポイントですが、しかし私がもっとも楽しんだのは最初の「ペトルーシュカ」でした。もともとストラヴィンスキーのバレエ曲の中でも、「春の祭典」や「火の鳥」以上にこの「ペトルーシュカ」が好きで、冒頭の謝肉祭の賑やかな情景から一転して全楽器がフォルテシモでロシア的な旋律のメインテーマに収斂する瞬間など、何回聴いても感動します。そしてベジャールの「ペトルーシュカ」でも、この曲の輝かしさを視覚的に見事に増幅する振付けの美しさに見惚れてしまいます。ダンサーの中では、主人公の古川和則が賞賛すべき頑張りでしたが、それ以上に井脇幸江さんが素晴らしいものでした。ストーリーは変えられていて、ペトルーシュカ、踊り子、ムーア人に相当する若い男女が出てきますが、そこに魔法使いが現れて主人公の若者を鏡の迷路にさまよわせます。ここで若者は次々に仮面(ペルソナ)をつけてみますが、その度に鏡に現れる彼の影が増幅しては若者をさらなる迷宮に引きずり込みます。この鏡の迷路の造形やグロテスクな仮面をつけた奇怪なダンスもまた、ベジャール全開で曲のシュールな雰囲気を際立たせています。再び明るい祭りの場に戻ったとき若者は、もはや恋人や友人、あるいは群衆の姿をありのままに見ることができず、ついに人格を失って魔法使いに連れ去られていきます。

「ギリシャの踊り」は昨年のシルヴィ・ギエム来日のときに観ていますが、それでも若者たちの踊りで10人の男性が一斉にジャンプ・回転して白いズボンの裾が海風に激しくはためくように見えたのが圧巻でしたし、パ・ド・ドゥでの高村順子さん、ハサピコでの吉岡美佳さんにいずれも見惚れてしまいました。ソロでの首藤康之は全ての動きに神経が行き届いた円熟のソロを見せてくれて他のダンサーとは一線を画していましたが、回転でわずかに軸がぶれる場面も。とはいえ、終わった後の観客の熱狂的な歓声はやはり首藤康之に向けられていました。

「ボレロ」は今回一番の話題です。長い髪を大きくなびかせ、あるいはかきあげながら踊る上野水香のメロディは確かにすてきで、とりわけグランド・スゴンドの足の高さとその動作の鋭さは彼女ならでは。とは言うものの、円卓の上から舞台上の大勢のリズム達を支配するそのオーラが曲のクレッシェンドにつれ舞台上から溢れ出して客席をも巻き込むに至るまでのカタストロフィを感じることは、自分にはできませんでした。

配役

ペトルーシュカ 青年 古川和則
若い娘 井脇幸江
友人 大嶋正樹
魔術師 高岸直樹
三つの影 高橋竜太 / 平野玲 / 中島周
4人の男 氷室友 / 辰巳一政 / 長瀬直義 / 小笠原亮
4人の若い娘 小出領子 / 高村順子 / 門西雅美 / 長谷川智佳子
ギリシャの踊り 2人の若者 高橋竜太 / 小笠原亮
パ・ド・ドゥ 高村順子 / 平野玲
ハサピコ 吉岡美佳 / 後藤晴雄
ソロ 首藤康之
パ・ド・セット 小出領子 / 田中結子 / 門西雅美 / 長谷川智佳子 / 西村真由美 / 乾友子 / 吉川留衣
ボレロ 上野水香
大嶋正樹-古川和則-平野玲-中島周