塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

くるみ割り人形(キエフ・バレエ)

2004/12/11

キエフ・バレエ(ウクライナ)の「くるみ割り人形」を、横浜の神奈川県民ホールで観ました。実を言えばオンラインチケット販売のイープラスから半額チケットの情報が出て、A席が5千円なら観にいくか、というあまり大きな声では言えない理由でチケットをゲットしていたのでした。そんなわけで、昼前から横浜のボルダリングジムで2時間余り練習してから、バスで会場へ。中に入るとオケが盛んに音を出しているところで、席はずいぶん後ろですが、このホールはどこに坐っても舞台が見やすいので不満はありません。

今回の振付はワレリー・コフトゥン。以前キーロフ・バレエで観た演出と違って、主人公の名前はロシア風のマーシャではなく原作通りドイツ風にクララだし、全三幕ではなく二幕で、二幕目の舞台は背後にクリスマスツリーが聳える人形の国。しかし金平糖の精は出てこず、グラン・パ・ド・ドゥを王子とクララが踊るのは同じです。

第1幕

序曲に続いて幕が上がると、雪の中をシュタールバウム家のクリスマスパーティーに集う人々。これがことごとく大仰なステップを踏みながらやってきます。室内に移ってクララ(タチヤーナ・ゴリャコーワ)登場、これものっけからよく踊ります。とてもきれいでしなやかな踊りなのですが、このお話はクララの夢と成長を描くものなので、最初は可愛く少女っぽくなければならないのに、しっかり大人の女性の様子なのはどういう解釈なのでしょうか?そして子供たちもまた、マイムの部分がことごとくダンスに変わっている感じでよく踊ります。さらに、怪しげなドロッセルマイヤーの魔法で子供の剣が伸びたりドレスに金色の帯が垂れたりしてから2体2組の人形が踊るのですが、先に出てくるコロンビーヌ&アレルキンでのきれのいいフェッテ(レシャ・マカレンコ)はとてもすてきでした。赤い明滅とともに時計が深夜を告げると、ドロッセルマイヤー(どうやら完全に悪役のよう)に導かれてねずみたちが出てくるのですが、かぶりものはなくてしっぽをつけ手を前に突き出すかっこうで、特にねずみの王様はいつもあごを前に突き出して見るからに邪悪そうです。人形らしく小柄なくるみ割り人形(このくるみ割り人形とフリッツは女性が演じていました)がねずみの王様と派手な立ち回りをしている間に舞台の後方を下手から中央へ消し幕が移動し、クララが靴を投げつけてねずみたちが退散すると、そこに凛々しい王子(マクシム・モトコーフ)が登場するという仕掛け。この後に王子とクララはミラーボール風の照明が雪を降らせる冬の森へ出て行くのですが、この場面が全体にテンポが早く、妙に賑やかに感じられたのは気のせいでしょうか?少なくとも幻想的という雰囲気ではありませんでした。

第2幕

装飾的で巨大な三日月の描かれた紗幕の向こうに船に乗って上手から下手へクララと王子。するとまたしてもねずみたちが現れて、このとき王子がクララに「あちらで待っていなさい」という感じでねずみから遠ざけるのが凛々しく、いいやつだなーと感心しました。ねずみの王様はあえなく王子の剣を突き立てられ、後ろにぴょんぴょん飛びながら下手へ消えて、いよいよ人形の国。巨大なツリーの前に各国の踊りを踊るペアたちが最初から舞台上に固まっていて、クララが次々に命を吹き込んで最後に残ったスペインのペアの踊りからスタート。ただし、曲も踊りもスペインっぽくなくて私としてはちょっと不満。アラビア風の東洋の踊りは最も美しくエキゾチックな旋律の曲ですが、この音楽に乗って日本人の田北志のぶさんがセクシーといっていいほどムードのある繊細なダンスを踊りました。ただ、男性の方がちょっとぞんざいな踊りだったかも。中国の踊りはワジム・ブルタンのバネのきいたダンスがよかったのですが、最後のキメが音楽と合わず残念。そしてロシアの踊りは、女性の方が気の毒になるほど男性(ルスラン・ベンチャノフ)がエネルギッシュな踊りで観客の視線を集めていました。ブーツで舞台いっぱいに大きくグラン・ジュテ・アン・トゥールナンを見せて、最後は房のついた赤いかぶりものを舞台にぺしっと叩き付けてキメのポーズ。おお、かっこいい!ひときわ大きな喝采を浴びながら引き揚げるときにも、そのかぶりものを投げ上げ横からつかみとって意気揚々と消えていきます。さらに踊りが続いた後、素晴らしい演奏の花のワルツに乗っての群舞は、やはり日本人にはない大きさと優雅さがあります。ただ、男性が4人ずつ4列に並んで一斉にアントルシャをするところで、中に手抜き(足抜き?)しているのも見えたりして苦笑しました。その間にクララは化粧直し。ティアラをつけてすっかりお姫様になり、グラン・パ・ド・ドゥ。クララのヴァリエーションは、ポワントで立つときの足の甲がとりわけ綺麗でした。その後も王子のグランド・ピルエットやクララのグラン・フェッテと続き、最後のリフトでのポーズをぴったり決めて大拍手。

休憩コミで2時間におさめた展開の早さは、子供連れの多い客席を考えれば妥当な演出かもしれません。舞台装置がちょっと寂しく、踊りも全てがブラボーというわけにはいきませんでしたが、やはりこの時期「くるみ」を観て幸せな気持ちに浸るのは悪くありません。12月23日には東京バレエ団で、こちらはワイノーネン版。改めて振付の違いなどを注意深く観てみることにしましょう。

配役

クララ タチヤーナ・ゴリャコーワ
くるみ割り王子 マクシム・モトコーフ
演奏 ウクライナ国立キエフ管弦楽団