塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

ライオンキング(劇団四季)

2003/04/26

劇団四季のミュージカル「ライオンキング」を、四季劇場「春」で観ました。ストーリーは典型的な貴種流離譚で、主人公のライオン、シンバの誕生によりプライドランドの王位継承権を奪われた王弟スカーが、陰謀により兄王ムファサを殺し、シンバを追放する第1幕と、イボイノシシのプンヴァ、ミーアキャットのティモンに救われてたくましく成長したシンバが幼馴染みのナラ、呪術師ラフィキ、亡き父の亡霊に励まされて帰国し、スカーを倒して王位につくまでを描く第2幕からなります。

定刻になって会場が暗くなると、舞台上手にヒヒの扮装をした呪術師ラフィキがいきなり素晴らしい声量で独唱をはじめ、すぐに舞台下、客席の通路から呼応する歌がはじまったと思うと、会場の後方からどんどん動物たちが入場してきて客席の間を抜け、舞台に上がっていくのに度胆を抜かれます。ここで全員で熱唱されるのが、雄大なオープニング曲「Circle of Life」。続く王位継承権を奪われて面白くない王弟スカーと兄王ムファサの対峙では、ムファサの豊かなバリトンとスカーの邪悪で個性的な声質が、ともに迫力ある声で聞かせます。サイチョウのザズによる「The Morning Report」での道化ぶりはその後も随所で見られて面白く、ヤングシンバも「I Just Can't Wait To Be King」で達者な歌とダンスを見せてくれました。そして象の墓場!巨大な骨を組んだセットを縦横に駆使して、ハイエナ三匹組=シェンジ・バンザイ・エドがヤングシンバ一行を襲う場面ですが、この三匹がいずれも強烈に個性的な演技で楽しく、特にシェンジが最高でした。ムファサに一度はさんざんにやられたものの、ハイエナ一同スカーの奸計に加担することになる場面でのアンサンブルによる激しいハイエナダンスは、全体を通しても一番の見ものです。スカーの陰謀により峡谷に置き去りにされたヤングシンバが、重低音のきいた音楽を背景とするヌーの大暴走に巻き込まれる場面は、宙乗りも出てくるスペクタクル。そしてムファサの死に打ちひしがれ、スカーによって王国を追放されたヤングシンバが砂漠で倒れていたところを、通りがかったティモンとプンヴァに救われ、くよくよするなという意味の「Hakuna Matata」を歌う途中でヤングシンバとシンバが入れ代わって第1幕が終了。

第2幕の始まりは、これも会場をいっぱいに使ったアンサンブル「One By One」から。アフリカの民族衣裳を着たアンサンブルが頭上に鳥を回し飛ばしながら歌うこの間奏曲もまた、雄大でひきこまれます。そしてこの後に、王国に見切りをつけて旅立つナラの「Shadowland」、苦悩するシンバの「Endless Night」と聞かせどころが続きますが、この間にティモンがシンバに挑発されて川に落ちる場面があり、かろうじてひきあげられたティモンが口にくわえていた魚を放り投げるとプンヴァが巨大な口でぱくっと受け止めるところがあって大爆笑。一方ムファサの亡霊がシンバを励ますところでは、いくつかのパーツにわかれた巨大なライオンの顔が空中で形をなし、暗い中空にゆらゆらと浮かび上がって神秘的でした。最後はスカーを倒したシンバがナラとともにプライドロックの上に立ち、全員が舞台上に揃って「King of Pride Rock / Circle of Life」で大団円。

この間全24場とかなりめまぐるしく場面が展開するのですが、舞台上にらせん状にせりあがるプライドロックや瞬時に現れる滝の情景など大胆な舞台装置がテンポを緩めません。さらに凄いのは、マスクやパペットを巧みに駆使した衣裳です。ライオンは頭上に雄々しいマスクをかぶり、特にスカーのそれは前方に恫喝的にせりだしてきたりしてとても効果的。キリンは高い4本の足の上に人が乗って歩き、ハイエナは地をはうような位置に顔をもってきてなんともいやらしい感じ。ミーアキャットは衣裳というより人形を前で(文楽風に?)遣っている感じですが、その演技が実に巧みでした。爆笑だったのは「草」の演技で、成長したシンバが若いエネルギーを持て余し、今宵の寝床となりそうな草地に満足せず移動を主張するのですが、シンバがケチをつけるたびに草たちが慌てて気に入られようと姿かたちを変えるのが大ウケ。そして、ミニチュアのパペットや影絵も大胆に併用されていて、テンポよく情景が移り変わっていきます。

ストーリーはどちらかというとお子さま向けで実はあまり面白いと思えず、また音楽も舞台下にパーカッションブースを二つも置いていたわりにはリズムが弱く感じたのですが、出演者の演技と声の力は文句なく素晴らしく、また舞台装置や衣裳を含めたさまざまなアイデアが画期的。これはこれで観ておいてよかったと思えましたし、こうしてひと通り見どころを確認しておいてからもう一度観ると、また味わいが違うのかもしれません。

配役

ラフィキ 関口三千香
ムファサ 新木啓介
ザズ 雲田隆弘
スカー 早川正
シェンジ 高島田薫
バンザイ 中山大豪
エド 上田龍雄
ティモン  
プンバァ  
シンバ 友石竜也
ナラ 遠藤麻綸