塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

マンマ・ミーア!(劇団四季)

2003/02/01

劇団四季のミュージカル「マンマ・ミーア!」を、四季劇場「海」で観ました。

新橋駅から歩いて5分ほどの位置にあるこの劇場は、ロビーが狭いのが気にはなったものの、客席の勾配が急でかなり上の方から見下ろす感じのつくりが群舞の様子を見たり装置の動きを知るのに都合よくできています。また、舞台の真下にはミュージシャンのブースがあって、自身キーボードも弾く指揮者だけが舞台上を見ることができる位置に客席に背を向けて立っています。バンドのメンバーの姿はステージ手前の隙間からしか見えませんが、音から判断してもう1人以上のキーボード、ギター、ベース、ドラム、パーカッションがいるようです。そしてそれぞれの目の前に楽譜とともにモニターが設置されており、そこには舞台上ではなく指揮者の姿が映し出されているようでした。また舞台上の装置は、コンクリート打ちっぱなし風の彎曲した壁が2組で、それらが位置や角度を変え、そこに家具が運び込まれたり上から木が吊るされてくるだけで、ホテルの外・中庭・室内と次々に情景を変えていきます。

それはさておき、「マンマ・ミーア!」は御存じ1970年代のスウェーデン最大の輸出産業とまで言われたボーカルグループABBAの曲をふんだんにちりばめたミュージカル。といってもABBA自身のお話というわけではなく、オリジナルのストーリーの随所にABBAの曲を巧みに組み込んでいくという構成で、あれだけ強烈な印象を残したヒット曲の数々が日本語化されて歌われることに一抹の不安を感じながら開演を待ちました。

あらすじは、エーゲ海の小島のホテルを切り盛りするシングルマザーの母をもつソフィが母・ドナの日記で知った父親候補3人に結婚式の招待状を送ったことから始まるさまざまな再会と新しい出会い、親子・昔の恋人同士の対立と和解を、楽しく、ときにしんみりさせながら描くというもの。ストーリーを引っ張っていくのは若いソフィなのですが、主役はむしろ母のドナであり、そこにドナのかつての3人の恋人やかつてのバンド仲間の女性2人といった中年世代が加わっていきます。ABBA世代は今から20年以上前に青春を過ごした世代なので、この設定はごく自然。観客の多くは、「ドナの物語」を自分たちのこととして受け止めることができるわけです。保坂知寿の演技・歌はさすがのもので、樋口麻美もとてもチャーミングでした。ドナのバンド仲間の2人であるターニャ・ロージーのエネルギッシュな活躍ぶりも目をみはらせるものがあります。反面、男たちは全体に存在感が薄くて、例えばソフィの婚約者スカイは中途半端な役柄で気の毒でした。しかし、何よりもこのミュージカルの主役は、やはりABBAの曲。ストーリーにしても、もともとばらばらに作られた歌詞をいかに破綻なくつないで一つの物語にはめ込むかが見せ所で、そういう意味でシナリオライターの職人芸を感じます。

ドナたち3人の元シンガーが歌う「Dancing Queen」「Super Trouper」は最高に盛り上がるし、ソフィの可愛らしさ全開の「Honey, Honey」、ディスコティックな照明と群舞で踊り歌われる「Voulez-Vous」、そして「Chiquitita」「Gimme! Gimme! Gimme!」「S.O.S.」などなど全22曲が次々に歌い継がれていきます。歌詞はキメのフレーズを除き日本語化されてストーリーと一体化していますが、もちろん日本語の限界というのはあって、たとえばドナが3人の元恋人のうちの1人サムに怒りを叩きつける「The Winner Takes It All」でのサビの部分の「♫あなたは勝った」のような促音はどうしても納まりが良くありません。もっともこれは通常の日本語の歌でも作詞家を悩ませるところだし、それよりもなによりも、素晴らしいメロディラインと生身のシンガーの力強い歌唱が、こうした些細な違和感を吹き飛ばしてくれていました。やはり、音楽の力(もっと言うならメロディの力)は凄い!と感動させられてしまいます。

ストーリーの最後は、サムとドナとの結婚という意外なハッピーエンドと、月に向かってしずしずと歩んでいく若い2人の旅立ちで終わるのですが、もちろんそれでこのミュージカルがしんみり終わるはずがなく、豪勢なカーテンコールでいくつもの明るく賑やかなABBAナンバーが歌われました。あいにく膝の上のコートが邪魔で立ち上がることができなかったのですが、そうしたもどかしさは他の観客も同様だったようで、これが夏だったら客席は巨大ディスコと化していたかもしれません。

ところで、最後の結婚式の場面でちょっと面白い発見。全員揃って写真をとるときに参列者から頼まれてカメラを構えたのは、意外な登場人物(?)でした。これは、ご自分で見にいって確認してみて下さい。

配役

ドナ・シェリダン 保坂知寿
ソフィ・シェリダン 樋口麻美
ターニャ 森以鶴美
ロージー 久野綾希子
サム・カーマイケル 芝清道
ハリー・ブライト  
ビル・オースティン  
スカイ 阿久津陽一郎