塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

ベジャール・ガラ 2003(東京バレエ団)

2003/01/19

東京文化会館(上野)で、東京バレエ団「ベジャール・ガラ 2003」。座席は1階席の12列中央やや右寄りという絶好のポジションで、これまでこの会場でこんなにいい場所に座ったのはちょっと記憶にありません。一応ガラということなのでいつもより少しフォーマルっぽい出で立ちで会場に着いたのは開演10分前で、今回の演目は「ギリシャの踊り」「ドン・ジョバンニ」「ボレロ」の三つ。

これらの中でとりわけ期待していたのは何といっても「ギリシャの踊り」です。1982年にフランスのアルル闘技場で初演した「タラサ、われらの海」からミキス・テオドラキスの音楽を使用したパートを独立させたこの作品は、ギリシャの海と太陽、若者や娘たちの生命力に満ちた原始地中海讃歌といった趣きで、そのうちの男性ソロの部分を1985年に20世紀バレエ団の花形ダンサーだったミシェル・ガスカールが鮮烈に踊ってみせた第4回世界バレエフェスティバルのガラ・パフォーマンスのビデオを見て私はすっかり魅せられてしまい、以来いつか全体を通して観たいと思っていたものです。ちなみにこのとき私はミシェル・ガスカールの「ライト」を生で観ており、さらに彼がジョルジュ・ドンと競演した「コンクール」なども観たりして私のフェイバリット・ダンサーだったのですが、その後一線を退いたのを残念に思っていたら、今回の東京バレエ団による「ギリシャの踊り」の振付指導ということで昨年来日していたそうです。プログラムには現在の彼の姿が載っており、かつての彫刻のような美青年もさすがに年齢相応の風貌になっていましたが、それでも感慨無量……。

さて、開演時刻になって会場が暗転、潮騒の音とともにギリシャの海のブルーがバックに広がり、大勢のダンサーがゆったりとしたリズムで腕を広げ、片足を上げたり下げたりしながらフォーメーションを変えていくイントロダクションから、ギターを中心とした民族音楽的なリズムと旋律が流れてきて「ギリシャの踊り」が始まりました。群舞が海の諸相を象徴的に示し、ソロダンサーはベジャール独特の巻き込むような踊りを展開して徐々にテンションを高めていきます。背景が上から下りてきた黒幕に覆われて続くパ・ド・ドゥでは2人の若者が上半身の筋肉を誇示しながらエネルギッシュな生命の輝きを示し、娘たちの踊り、若者の踊り、パ・ド・ドゥ、ハサピコと次々に情景が展開します。特に二つ目のパ・ド・ドゥを踊った吉岡美佳さんの、しなやかな身のこなしや目の動き、豊かな表情が魅力的でした。そしてテーマとヴァリエーションで、後藤和雄はかつてミシェル・ガスカールが踊ったソロを存在感溢れるダンスで踊って見せてくれて感激。続くパ・ド・セットも7人の女性ダンサーが典型的なクラシックのパで音楽に合わせ物凄いスピードでの踊りを一糸乱れず踊り通し、自分としてはこちらも喝采ものです。フィナーレは全員が舞台上に現れて爆発的なダンスの後、冒頭の潮騒に戻ってドラマの永劫回帰を暗示して終わります。作品(振付・音楽)自体の素晴らしさもさることながら、東京バレエ団のダンサーたちの力量も想像をはるかに超えるもので、観てよかった、と思わせてくれました。

「ドン・ジョバンニ」はある種コミカルな20分ほどの小品。モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」のテーマによるショパンの曲を使用し、一脚の椅子とスポットライトだけで暗示される架空のドン・ジョバンニに想いを寄せて踊りを競い合うバレリーナたちの姿が描かれます。ここでは、五番目のヴァリエーションを踊った長身の遠藤千春さんが印象的で、身体の真横へ180度上がるすらっとした足は異彩を放っていました。最後に劇場の裏方がステージ上を横切ることで、バレリーナたちは現実に引き戻されがっくりと肩を落としてしまうのですが、そこに突如真っ赤なユニタードと18世紀風の白いかつらをつけたドン・ジョバンニが登場(ここが今回新演出らしい?)!ひとしきり大胆に踊った後、喜びに涌くバレリーナたちを引き連れて退場します。

最後の「ボレロ」は、これまで何度となく観てきた作品なので論評不要……のはずですが、それでもこちらの視点がこれまでの見下ろす位置ではなく、テーブルの平面と水平の位置にあったことから新鮮に感じられる部分もあったのは事実で、テーブルから反射した照明が上で踊る首藤康之を薄赤く染めていたのを不思議な気持ちで眺め、「リズム」の振付では「ここでこんなことをしていたんだっけ?」と何度か思いながらもリズムの反復を身を委ね、最後のカタストロフィーでいつものように涙腺を刺激されながら、大きな拍手を送りました。

配役

ギリシャの踊り イントロダクション    
2人の若者 大嶋正樹 / 古川和則
娘たちの踊り    
若者の踊り    
パ・ド・ドゥ 吉岡美佳 / 中島周
ハサピコ    
テーマとヴァリエーション    
- ソロ 後藤和雄
- パ・ド・セット 早川恵子 / 荒井祐子 / 太田美和 / 高村順子 / 門西雅美 / 小出領子 / 長谷川智佳子
フィナーレ 全員
ドン・ジョヴァンニ ヴァリエーション 1 早川恵子 / 高村順子 / 門西雅美
ヴァリエーション 2 荒井祐子
ヴァリエーション 3 太田美和 / 井脇幸江
ヴァリエーション 4 佐野志織
ヴァリエーション 5 遠藤千春
ヴァリエーション 6 吉岡美佳
シルフィード 福井ゆい
ドン・ジョヴァンニ 後藤晴雄
ボレロ 首藤康之
飯田宗孝-森田雅順-木村和夫-後藤晴雄
東京バレエ団