21st Century Schizoid Band

2002/11/06

高校時代にKing Crimsonの音楽にハマった私のアイドルといえば長い間John Wettonであり、フェイバリット・アルバムは『Larks' Tongues in Aspic』と『Starless and Bible Black』(『Red』ではなくて)だったわけですが、もちろん彼らのファーストアルバムである『In the Court of the Crimson King』も学校の部室に持ち込んだラジカセで繰り返し聴いており、特にアルバム冒頭の曲である「21st Century Schizoid Man」(邦題はやはり「21世紀の精神異常者」でなくては)のスピード感や最後に収められたタイトル曲での荘厳なメロトロンとGreg Lakeのドラマティックなボーカルには夢中になったものです(でも「21馬鹿」に関しては、後にアムステルダム・ライブを収録した『The Nightwatch』で聴かれるJohn Wetton - Bill Bruford組によるリズムの方が好きだったりするのですが)。この記念碑的なファーストアルバムの制作において、Robert Frippと共に、というよりむしろより重要な役割を果たしたと言われるIan McDonaldは、この1枚限りでKing Crimsonを離れ、その後Foreignerで活躍。しかし(たぶんMick Jonesに)あえなくForeignerを追い出された後の彼の姿を次にシーンの中に見たのは、1996年のSteve Hackettの来日公演においてでした。このとき同行したJohn Wettonとは2001年に再来日しており、実に慎ましやかな彼のステージぶりには思わず袖を濡らしたものです。

さて10月31日、会社からの帰りに書店に立ち寄って何気なく「キーボード・マガジン」をぱらぱらとめくっていたら、そこになぜかIan McDonaldのインタビュー記事。なんと、King Crimson初期の重要なメンバーであるMichael & Peter Giles兄弟、Mel Collinsらと21st Century Schizoid Bandというほとんど悪夢のような名前のバンドを組み、しかも日本でライブを行うというのです。日程は……11/5-6、あと1週間?懐古趣味に終わる危険のあるライブに、しかも平日につきあうことにはずいぶんためらいを感じましたが、閑散とした客席を見てうなだれるIan McDonaldの姿を想像すると、ここで一肌脱がない訳にはいかないだろうという義侠心が湧いてきて、翌日プロモーターに電話をかけ当日券の予約をしました(もっとも、幸いにしてこの想像はまったくの杞憂だったことが当日判明します)。

前置きがずいぶん長くなりましたが、そんなわけで11月6日、厚生年金会館で21st Century Schizoid Bandのライブへ。先に窓口で当日券をゲットしてから近くの長崎ちゃんぽん屋さんで腹ごしらえをして、6時頃に再び会場に着くと既に列ができ始めていました。係員が配っているフライヤーは来年2月のYes来日のものだし、目の前に立っている男性の携帯電話の着メロはTubular Bellsだし、と既に雰囲気は結界の向こう側。6時半より少し前に開場になって、まずグッズコーナーへ行って「チャリティー、チャリティー」とつぶやきながらTシャツを購入しました。柄は右上のフライヤーとほぼ同じです。席は2階の左寄り前から4列目で、ステージ全体を見渡すにはなかなか良い場所。ステージ上は、中央奥にツーバスのドラムセットがあり、その前にマイク2本が立っていてギターとベース用。両翼にシンセ(KORG)が1台ずつあって、さらに一番上手にはグランドピアノも見えます。驚いたのはステージの手前下で、横に渡されたレールの上にカメラがしつらえてあって、VTR収録される模様です。定刻が近づくにつれ席はどんどん埋まっていき、2階席の後ろの方を除いてほぼいっぱいになったようだったのは、うれしい誤算でした。

会場が暗くなってイントロのストリングス音が流れるなかメンバーが登場。その構成は、Michael Giles、Peter Giles、Ian McDonald、Mel Collins、Jakko Jakszykで、今回リードボーカルとなるJakko JakszykはKing Crimsonに在籍していたことはありませんが、Dave Stewartと仕事をしたりLevel42に在籍していたこともあるギタリストであり、Michael Gilesの娘婿でもあるそうな。このメンバーだととりあえず『In the Court of the Crimson King』『In the Wake of Poseidon』を押さえておいて、後は『McDonald & Giles』を予習できればOKと思っていたのですが、『McDonald & Giles』は残念ながら入手が間に合いませんでした。ともあれ、この思惑通り1曲目は「Pictures of a City」の原曲である「A Man, a City」。2本のサックスの強力なフレーズとキメの後のIan McDonaldのサックスソロでまずはIan健在を印象づけておいてから、続いて「Cat Food」!今回Peter Gilesがベースで来るということならぜひ聴いてみたいと思っていたのがこの曲で、シンプルながら非常に印象的なベースのフレーズがこの曲の核心と言えるでしょう。そのフレーズを、Michael Gilesのドラムと共にFender Jazz Bassで決めてくれました。ボーカルもよかったし、Keith TippettのピアノはIan McDonaldがシンセで雰囲気を出して(本当に器用)、Mel Collinsがサックスソロ。なかなかいい演奏でした。

Jakko Jakszykの日本語のMCの後にIan McDonaldのソロ『Drivers Eyes』から「Let There Be Light」。ギターなしのツインキーボードで、1カ所Mel CollinsとJakko Jakszyk(!)のツインフルートになる、ゆるやかな曲。Michael Gilesの曲でドラムがどかどかと忙しい「Progress」をはさんで、あのドラムのフィルインから「The Court of the Crimson King」が演奏されたときは会場にどよめきが走りました。ドラムのフレーズも、フルートやメロトロンの音も、コーラスも、あのままの感涙ものでした。続いてPeter Gilesのダブルベースを模した短いベースソロは脳軟化症を一瞬疑わせましたが、Ian McDonaldのグランドピアノにMel Collinsのフルートが重なり、静かな歌いだしからインテンポになって聞こえてきた歌詞は「Formentera Lady」。しまった!Mel Collinsがいるのだから『Islands』もチェックしておくべきだった。しかし、初めて聴きましたがこの曲、叙情的ないい曲で気に入ってしまいました。

MCが入り、Michael Gilesがヘッドセット・マイクをつけて始まったのは『McDonald & Giles』から「Tomorrow's People」。思わず手拍子したくなるような楽しいリズムの曲で、Michael Gilesのボーカルもツボに入った感じだし、途中には「Bonzo's Montreux」みたいなパートもありました。しかしフロントはけっこう忙しく、ファンキーなフルートの掛け合いから2サックスになって、その前後にPeter GilesとJakko Jakszykがそれぞれワンポイントでキーボードを弾き、さらにIan McDonaldもオルガンの音を弾いて……と目まぐるしく楽器が入れ替わります。次にIan McDonaldがグランドピアノに向かい、『Drivers Eyes』から「If I was」を自身のボーカルで演奏。残念ながらピアノの音は割れており、曲もなんということもなかったのですが、歌詞が何となくよさそう。そして再び『Islands』からまさかの「Ladies of the Road」で、Bozそっくりの変幻ボーカル(原曲よりは少し行儀良かったが)、間奏部のビートルズ風コーラス、引きずるようなMel Collinsのサックスともまさにあの世界。そして2フルートでの「I Talk to the Wind」の後メンバー紹介があり、「サイゴワコノキョクデ」とMCが入って「Epitaph」はキーボードの入りがおかしかったような気がしますがまぁいいか、と思いながらMichael Gilesがツーバスを繰り出すのを聴いていたら、エンディングのキーボードが大きくベンドアップしてからフェードアウトするところで、最後の最後にわずかにベンドダウンする音が残ってしまってIan McDonaldが恥ずかしそうな顔をしていました。VTRの編集ではちゃんと消せるのでしょうか?

アンコールを求める手拍子に応えてステージ上に戻ってきたのはまずIan McDonald。そのままピアノに向かってぽろぽろと弾き始め、ベース、ドラム、シンセ、ギターが徐々に加わり、インストのまま短く終了。『Drivers Eyes』に入っている曲なのかな?と首をかしげている間に(実は『McDonald & Giles』から「Birdman」の一部だったようです)4カウント入っていきなりの「21st Century Schizoid Man」で、こっちにも心の準備が必要なのに!とあわてましたが曲はギターソロ→Melのサックスソロ→Ianのサックスソロとどんどん進みます。そして、プログレ少年の誰もが一度はコピーに挑戦したであろう(もちろん私もギターで練習しました)あのユニゾンフレーズ。ここを彼らがアイコンタクトもなしに全員でぴったり合わせてくれて感動。この曲が終わればコンサート終了ということは聴衆もよくわかっていて、客席のほぼ全員が立ち上がってリスペクトの拍手を送りました。

自分としては、あと「In the Wake of Poseidon」あたりも聴いてみたかったのですが、そこまで言うと贅沢かもしれません。伝説的なアルバムを作ったミュージシャン達が30年以上の時を経て姿を現してくれて、ちゃんと現役の演奏を展開してくれたことに素直に感謝しながら、会場を後にしました。

ミュージシャン

Jakko Jakszyk vocals, guitar, flute
Ian McDonald saxophone, flute, keyboards, vocals
Mel Collins saxophone, flute, keyboards, vocals
Peter Giles bass, vocals
Michael Giles drums, vocals

セットリスト

  1. A Man, a City
  2. Cat Food
  3. Let There Be Light
  4. Progress
  5. The Court of the Crimson King
  6. Formentera Lady
  7. Tomorrow's People
  8. If I was
  9. Ladies of the Road
  10. I Talk to the Wind
  11. Epitaph
    -
  12. Birdman
  13. 21st Century Schizoid Man

この日、Web仲間のfruuppさんも会場に来ていて、「それっぽいプログレ・スキッツォイド集団」を最前列に見掛けたらそれがfruuppさん達だと教えられていました。そのようなあやしい集団がいないかと2階席から目をこらしてみましたが、なるほど1階最前列左寄りの席に座っている髪のさらっと長い赤い服の女の人がそれかな?と思ったものの確証なし。しかし、その女性の隣に座っている男性の背中が思い切りUriah Heepしていて、ということはJohn Wettonつながりが想定されるから確度は高いんじゃないかと思いますけど、どうでしょうか?せっかくそれらしい人を見つけたのだから終演後にダメもとで挨拶に行ってもよかったのですが、こちらは思い切りジャパニーズ・ビジネスマンの格好で、しかもその後また職場に戻らなければならないし、などと逡巡しているうちにいつの間にか人込みに押し出されてしまって、結局お会いできなかったのがちょっと残念。