塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Dream Theater

2002/04/19

2年ぶりのDream Theaterのライブを、東京国際フォーラムで観ました。今回は最新作『Six Degrees of Inner Turbulence』をフィーチュアしたツアーで、この日は日本での最終公演です。

会場に入るとステージ上はいつものように下手からJordan Rudess(Key)、John Myung、Mike Portnoy、John Petrucci。そして中央前列にJames LaBrieの立ち位置となっていて、キーボードとドラムが一段高い床の上、さらに右側にも謎の床(黒い幕がかかっていましたが、後でJames LaBrie用のパーカッションコーナーと判明)。キーボードは円筒状のスタンドの上にKurzweil、下手側のラックシステムの手前にKORGの赤いKARMA(これは最後まで手弾きされることはありませんでした)。

定刻の19時になって突然暗転、前作『Scenes from a Memory』から「Open your eyes, Nicholas.」というナレーションとともにノイズが流れ、その上に鐘の音が重なると後方の六角形のスクリーン上に「WORLD TOURBULENCE 2002」が浮かび上がりました。前作から新作への継続を印象づける演出です。明るくなったステージ上には、3バスドラの巨大なドラムセットの中からMike Portnoyが総立ちの聴衆を煽るようにスティックを振り回しており、13/8拍子のハードなギターのリフから新譜のオープニングナンバーである「The Glass Prison」へなだれ込みました。ギターとシンセの超絶ユニゾンからMike PortnoyとJames LaBrieのボーカルの掛け合いに続いてメインボーカルの存在感を見せるパートへ移りますが、今日のJames LaBrieは調子がいいらしく、音程が若干不安定なものの声の量も伸びも申し分ありません。強烈にパワフルで複雑な構成のこの曲に続いては、「Burning My Soul」が間に「Hell's Kitchen」をはさんで演奏され、さらにギターのアルペジオとベンディングを利かせたシンセのフレーズから懐かしの「Another Hand / Killing Hand」へ……とさらっと書いていますが、それぞれ15分くらいは続く曲ばかりで、聴いている方は既に膝に来はじめています。ステージ上のJames LaBrieは、ボーカルのないパートでは口に含んだボトルの水を時折真上に向けてクジラの潮吹きのように飛ばしたり上手の床の上にしつらえたパーカッションコーナーでタンバリンを叩いたりしていましたが、柔らかいシンセのアルペジオにベースのコード弾きが絡んで、彼らの曲の中でも特にお気に入りの「Surrounded」で最高の見せ場を作りました。まさかこの曲をライブで聴く日が来ようとは思いもしていなかった、というくらいボーカルの負担が厳しいこの曲をコンサートのこの位置に持ってくるのは勇気がいりそうですが、特徴的な9/8拍子のリズムに乗った「Light to dark, Dark to light」の後に続く高音部は、さすがにかすれてはいたもののパワフルに歌い切って会場大感動。やはりボーカルこそ最高の楽器だ、と思い知らされました。

ピアノのフレーズから静かに入ったのは『Scenes from a Memory』の「Through My Words」。そして引き続き「Fatal Tragedy」で3声のコーラスから例の「伸び縮みセクション」へ。これはEの小節とF#の小節を4小節+4小節→3+3→2+2→1+1→Bのユニゾン→1+1→2+2→3+3→4+4と伸縮させながら、その上でギターとキーボードが恐ろしく音域の広いソロを繰り広げるというもので、スタンドの上のキーボードをくるくる回しながらどんなフレーズも余裕で弾いていたJordan Rudessもこの前後ではMike Portnoyの方を見ながらタイミングを計りつつ弾いていました。聴いているこちらはあっけにとられるしかないほどのテクニックの応酬。そしてMCが入り、『Six Degrees of Inner Turbulence』から「The Great Debate」。スモークの中、キーボードがオレンジの淡い光に照らされ、薄いグリーンのサーチライトが無数に絡む幻想的なライティングの中を、怪しくスペイシーなシンセサウンドにベースとドラム、緊迫したナレーションが加わってやがてハードなリフへ移ります。中間部のドラムは何をどう叩いているのか「?」状態で、Jordan Rudessのシンセソロも全開。エンディングの低音のストリング音が伸びる中ステージ上が暗転していきましたが、ここで数秒間この音がぶちっと切れてしまうというトラブル(?)が発生しました。しかしすぐに復活して、そのままRushの「Xanadu」風のイントロから怒濤のインスト曲。バンドネオン(by シンセ)とガットギター(by ピエゾ)の掛け合い(Liquid Tension Experimentの曲)からギターのソロを経てシンバルがリズムを刻み始めると、ベースのコードが重なって「Scarred」になります。そして終わりにギターのリフからトリオ構成で突っ走りはじめて(なぜここで「About To Crash (Reprise)」が?)と訝しんだら、これがうれしい誤解で実はRushの『2112』から「Grand Finale」でした。しかもあの低音ナレーションをJohn Petrucciが再現してみせるお遊びつき。実に楽しい(!)のですが、さすがに疲れてきた……。

……と思っているところへ、今度はJames LaBrieがドラムセットの中に入ってMike Portnoyの右(向かって左)に座りました。この3バスセットは、リモートペダルで三番目のバスドラをコントロールするタイプではなく、通常の2バスのセットの右に1バスの別セットが併設されているようで、「Surrounded」などではMike Portnoyがわざわざこちら側に座って効果音的なパーカッションを鳴らしていました。この2セットにJames LaBrieとMike Portnoyが並んで叩き始めたのは、名盤『Images and Words』から「Take the Time」。マイクをもったJames LaBrieは冒頭のボーカルパートをMike Portnoyに歌わせてから、ドラムセットから外に出てステージ中央に戻ってきて伸びやかな声を聞かせてきます。こちらもダウン寸前ながら彼の呼び掛けに応じて「Take the time〜!」と声を張り上げました。ギターとシンセのユニゾンフレーズもリズムブレイクも見事に決まって、やがてドラムとベースがうねるようなフレーズでリズムキープを始めギターとシンセがツインリードのように弾き出したのは、これもRushの「By-Tor and the Snow Dog」のギターソロ!20年来のRushファンである私には至福の展開です。ドラムのキメも見せてから「Take the Time」に戻り、James LaBrieが15分後に戻ってくることを告げて第1部が終了しました。

……放心……この時点で時刻は既に20時45分。いったい彼らの体力はどこまで続くのだろう?

会場が再び暗くなり、いよいよ組曲「Six Degrees of Inner Turbulence」の「Overture」が鳴り響き始めました。といっても最初はステージ上にはメンバーはおらず、コンピュータで制御された音と光がいつの間にか降りていた紗幕にカラフルな模様を描き踊るライトショウです。そしてJordan Rudessがキーボードに向かいピアノのフレーズを弾き始めて、7/8拍子のメロディが美しい「About To Crash」。ダーティーな「War Inside My Head」は、冒頭のデス声はMike Portnoyだと思っていましたがステージ上ではJames LaBrieが歌っていたのが意外でした。そして3オクターブを直滑降してくる超高速ユニゾンフレーズ(John Myungのベースも同期している!)から超絶技巧なくしては弾けない「The Test That Stumped Them All」へなだれ込みます。メインのフレーズは7/16+6/16拍子、広い音域を駆け巡るギターとシンセのソロのパートは14/16+15/16拍子と解釈して身体を動かしましたが、聴いている方がついていくだけでも必死なこのリズムの中でステージ上の彼らは自在にソロを展開しています。この極度の緊張は、続く「Goodnight Kiss」のピアノによる優しい旋律(といっても歌詞は深刻なのですが)で癒され、再び7/8拍子のリズムに戻ってアコースティックギター(ダブルネックの12弦)によるカッティングから「Solitary Shell」へ。この曲は「Six Degrees of Inner Turbulence」の中でも最も親しみやすいパートで、珍しくJames LaBrieとJohn Petrucciの組み合わせによる2声のコーラスも聞かれました。ブラス音で転調し、John Petrucciがギターを替えてアコースティックソロとピアノソロ、そしてハードなリフから「About To Crash (Reprise)」〜「Losing Time / Grand Finale」で大団円を迎えます。40分にも及ぶ難曲を寸分の隙もない演奏で聴かせきった彼らの力量に心からの敬意を表しながら、「Losing Time / Grand Finale」の最後のシンセによる持続音の中ステージを去るメンバーに対して、聴衆は精いっぱいの拍手を贈りました。

アンコールは『Scenes from a Memory』の「Home」から。出だしにゴングを何度か鳴らす場面があり、最後の一打ちのところでMike Portnoyがわざわざ前に出てきたと思ったら、大きなマレットをドラムセット越しに投げ入れて見事にゴングに命中させ場内の喝采を浴びていました。そして19/16拍子の中近東風フレーズからボイスとピアノのミックスに続いて荘厳な「The Spirit Carries On」。ゆったりと波打つようなリズムに乗って聴衆は高く掲げた腕をウェイブさせ、曲が終わるとMike Portnoyの求めに応じて会場の随所にライターの光が灯りました。いよいよ本当のラスト、ギターのイントロで会場が沸き立ち、『Images and Words』から「Pull Me Under」。リズムが入ってシンセが無機的なフレーズを入れ出すと会場内は「Hi!!, Hi!!,...」と縦揺れを始め、もちろんサビも大合唱となります。ところが曲の途中でJordan Rudessの前にスコアスタンドが置かれ「?」と思ううちに、曲はなぜかMetallicaの「Master of Puppets」へ。スクリーンには『Master of Puppets』のジャケットデザインが映し出されましたが、当然「Metallica」のところは「Dream Theater」に差し替えられ、墓標の上にはDream Theaterのロゴ。ギターとシンセはツインリードでフレーズを合わせているのですが、楽譜を見ているJordan Rudessは当然手元を見ておらず、それであの高速フレーズは何?そしてJames LaBrieの邪悪なボーカルに聴衆も「Master!!, Master!!」のコーラスで応えました。

興奮のうちに「Pull Me Under」が終了し、メンバーはステージの左右に散って前列のファンたちと盛んにタッチを交わしています。そして中央に戻ったバンドはこの日の聴衆、招聘元のUDOとバックステージのクルー達に感謝の言葉を述べて、深々とお辞儀をしてから大拍手のうちにバックステージへ消えていきました。終わってみれば時刻は22時15分。『Six Degrees of Inner Turbulence』はもちろんのこと、『Scenes from a Memory』や大好きな『Images and Words』からも豊富に選曲され、James LaBrieの声は最後まで張りを失わず楽器の方もテンションを一切失うことなく、Dream Theaterのプロフェッショナリズムの凄さに圧倒され続けた正味ほぼ3時間のステージでした。

ミュージシャン

James LaBrie vocals
John Petrucci guitar, vocals
Jordan Rudess keyboards
John Myung bass
Mike Portnoy drums, vocals

セットリスト

  1. The Glass Prison
  2. Burning My Soul / Hell's Kitchen
  3. Another Hand / Killing Hand
  4. Surrounded
  5. Through My Words / Fatal Tragedy
  6. The Great Debate
  7. Another Dimension (LTE)
  8. Scarred / Grand Finale(Rush)
  9. Take the Time(including By-Tor and the Snow Dog (Rush))
    -
    Six Degrees of Inner Turbulence
  10. Overture
  11. About To Crash
  12. War Inside My Head
  13. The Test That Stumped Them All
  14. Goodnight Kiss
  15. Solitary Shell
  16. About To Crash (Reprise)
  17. Losing Time / Grand Finale
    -
  18. Home
  19. The Spirit Carries On
  20. Pull Me Under(including Master of Puppets(Metallica))