ビセンテ・アミーゴ

2000/05/28

フラメンコギタリスト、ビセンテ・アミーゴを聴きにBunkamuraオーチャードホールへ。去年見に行ったスペイン国立バレエ団の演目「ポエタ」が踊りも曲もとても良かったので、作曲者でギタリストのビセンテ・アミーゴのCDを買って愛聴していたところ、今回の来日の情報をキャッチしたためすかさず予約をとったものです。

1967年生まれの彼は早くから「フラメンコギターの貴公子」「パコ・デ・ルシア以来の才能」と高く評価されており、一足先に大阪での公演を聴きに行った友人からも「ホントにめっちゃサイコーによいステージ!」とのレポートが入っていたので期待に胸を膨らませていましたが、当日会場で配られたプログラム(右写真)は「フラメンコ界が待ち望んだ美貌のギタリスト」とミーハーな扱い。なんだかなぁと思いながらロビーを進みCDの販売コーナーへ行くと、ここでCDを買うと公演終了後にビセンテ・アミーゴのサインがもらえるとのことだったので迷わずベスト盤『ESENCIA』を買い、結局自分もミーハーだったことを自覚しました。

席は2階の右側、前から6列目でステージの上がよく見えます。定刻直前まで空席が目立って心配でしたが、5分ほど押して開演の鐘の音が鳴る頃には1、2階席はほぼ満員になっていて安堵しました。暗くなって舞台中央の椅子にスポットライトが当たり、ギターを抱えてゆっくりと出てくるビセンテ。椅子に座る前に軽く会釈すると大きな拍手が湧きましたが、すぐに静寂が戻ってギターのソロ曲が始まりました。フラメンコギターの奏法にはあまりなじみがありませんが、自由自在にギターを扱う彼の技巧の高さはすぐにわかります。もの凄い速弾きからゆったり歌うフレーズまで、音の強弱や硬軟が感情をこめて見事に弾き分けられ、しかも一つ一つの音の粒だちが極めてクリアです。

割れるような拍手を受けながら2曲目に入るところでビセンテが英語で「私は日本語が話せないし、英語も同様です」と断ってからスペイン語で何やら解説を始めましたが、会場のあちこちで彼のスペイン語に反応しているのはスペイン語圏から日本に来ている人たちも少なからずいるからでしょうか。ここから、カンテ(ホセ・パーラ)、パーカッション(パトリシオ・カマラ)、ギター兼フルート(ホセ・マヌエル・イエロ)のバンドが参加。特にパーカッションはカホンのほかにシンバル2枚と薄いスネアを手やブラシで叩いてビセンテとの息もぴったりでした。「ポエタ」からは「愛、甘き死よ」が演奏されましたが、初めて聴くその他の曲もいずれも魅力的です。そして中間のおそらくインプロヴィゼーションのパートで、4月にアントニオ・カナーレスの公演で見た美青年ポル・バケーロが出てきました。隣の席に座っているその筋の方々とおぼしき客たちが「あれ、誰?」「さぁ?」と顔を見合わせていましたが、彼がビセンテのギターをバックにドカドカくるくる踊ってみせると「おー凄いなー」と声に出して驚き「オレー!」と拍手を送っていました。

なお、一応プログラムには以下の曲目が書いてあるのですが、どうやら曲順は変更されている様子でした。

  1. 月の小径 - ティオ・アランゴ
  2. 白と黒
  3. メッセージ
  4. 魂の窓
  5. リモン・デ・ナタ
  6. 愛、甘き死よ
  7. インプロヴィゼーション アレグリアス / ルンバ / ブレリア
  8. ケリド・メセニー
  9. シリアの王国
  10. ビベンシアス・イマヒダナス

本編が終わって全員が挨拶し、舞台袖に引っ込むと会場からは大きな手拍子。ビセンテが再び舞台に登場すると歓声が湧くところはほとんどロック・コンサートのノリのようです。アンコールを1曲演奏して90分のステージが終了すると花束を抱えた女性が2人舞台下に歩み寄って花を差し出し、ビセンテから両頬にキスを受けて喜んでいました。

お待ちかねのサイン会にずらっと列を作ったのは概算250人程ですが、自分は首尾よく前から50番目くらいに並ぶことができました。待つこと20分ほどで拍手の中ビセンテが現れ、次々にCDにサインをしてくれます。近づいてみると先ほどまでの舞台上での厳しい面持ちとは打って変わってにこやかな表情をしており、私にも「ハロー」と声を掛けてくれ、差し出したCDにサインしてから握手をしてくれました。ここで本当は「グラシアス」とか言うところなんでしょうけど、自分はスペイン語を学んだことがないので「ありがとうございます」と日本語できっぱりお礼。アジア系言語なら「謝謝」でも「コックン・クラッ」でも「テリマカシ」でも平気で言えるのですけど……。