塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

スワン・スラブ / サニーサイド・ベンチ

2017/08/23

クライミング2日目、今日は2カ所の岩場を回る予定です。出発は昨日と同じく午前8時ですが、サマータイムのおかげでこの時間帯は朝日がまだ斜めに渓谷の中に入り込んできており、見上げる岩場はいずれも早朝の風情を漂わせています。

Swan Slab

ありえないほどの高さから水を落とすヨセミテ滝Yosemite Fallの姿を見上げる駐車場から10分ほどの歩きで、この日の最初の目的地であるスワン・スラブSwan Slabに到着しました。

Within a 5-minute walk of Camp 4, Swan Slab offers the most convenient moderate routes in Yosemite. It's not a single slab as the name implies, but a broad cliff composed of many one- and two-pitch climbs ranging from near-vertical cracks to slabby face climbs. It has everything from 5.1 to 5.11 with emphasis on 5.6-5.8.

Grant's Crack 5.9 ★★★
This is a great first 5.9 crack lead or toprope. Do a few laps to build finger crack skills.
保科ガイド曰く「見た目より難しいですよ」との御託宣通り、斜上クラックは出だしがフィンガーでちょっと戸惑いますが、右壁に積極的に足を出してゆけば安定した態勢を作れ、後は登るほどに傾斜が緩くなっていきます。最初はテンションをかけてしまいましたが、この足遣いに気付いたところで改めて下部をトライしたところ、今度はうまくいきました。
Penelope's Problem 5.7 ★★
Steep 5.7 hand jams lead to a short traverse.
トポの解説の通り、垂直のクラックを横引きで奮闘系に登りたくなりますが、実はハンドジャムもフットジャムもよく決まります。その後はバンドの易しいトラバースで凹角の奥に入り終了点へ。それにしても「Penelope's Problem」というネーミングの由来は何なんだろう?
Unnamed Thin Crack 5.10a ★★
This popular toprope develops thin crack and face technique.
先ほど登った「Grant's Crack」の右側のフェイスを細かいホールドとピトンスカーが目立つ細いクラックを頼りに登る課題。実はここは足の置き場所が解明できればそれほど難しくない(←TRなら)のですが、これが1登目ではやはりわかりません。そして一度ぶら下がって探してみれば「なんだ、ここに足を置けばよかったのか!」と悔しがることになるのですが、これこそフリークライミングにおいてオンサイトの価値が高いとされる所以ですから仕方ありません。
Lena's Lieback 5.9 ★★★
The first pitch involves sustained and polished liebacking with good protection and is a great toprope.
この岩場の最後は、右奥の日陰の位置にあるコーナークラック。少々足が滑りますが、ホールドは大きくて持ちやすく、レイバックの形になってぐいぐいと登ることができました。本来は3ピッチのルートですが、上の2ピッチはrarely climbedだそうです。
←これがLenaちゃん?

スワン・スラブは初心者向けの講習会でも使われる岩場らしく、ガイドが保護者同伴の少年たちにクライミングを教える場面にも出会いましたが、日が昇ってずいぶん暑くなってきたので我々は一足先に退散しました。

ヨセミテ・ヴィレッジのストアで昼食を買って屋外ステージの周囲のベンチでのんびり食事をしてから、今度はヨセミテ滝の東側にある岩場サニーサイド・ベンチSunnyside Benchに向かいました。

駐車場からの遊歩道は、ヨセミテ滝を見に行く観光客で大賑わい。途中には賽の河原のような場所があって皆は不思議がっていましたが、この光景を見た時点で私にはある仮説が生まれていました(後述)。

これがヨセミテ滝の近影ですが、これはUpper Yosemite FallとLower Yosemite Fallの2段になっているヨセミテ滝の下段に過ぎません。実はUpperが落差436m、Lowerが落差98mで、その間にCascade Falls206mを挟んでおり、Lowerの規模はUpperの4分の1にも満たないのですが、それでもこの迫力!もし本当に観光で来ているなら、トレイルを辿ってヨセミテ滝の上まで行ってみたいところです。

Sunnyside Bench

East of the (seasonally) thundering Lower Yosemite Fall, Sunnyside Bench features a great introduction to Yosemite cracks in the 5.4 to 5.10 difficulty range.

滝の前を通り過ぎて少し進んだところから遊歩道を離れて壁に沿って上がったところが、サニーサイド・ベンチです。

Lemon 5.9 ★★
This route is strenuous to protect on lead and is much more appealing as a toprope.
これは厳しい!……だろうと思っていたのですが、出だしをアンダークリングで思い切り身体を岩から離しながら右に移動し、縦ホールドに入ってからもスメアリングを効かせながらレイバックでじわじわと上がっていけば、意外に快適に上へ抜けることができました。
Jamcrack 5.9 ★★★
Because of its solid pro and short crux, Pitch 1 of Jamcrack is the first 5.7 crack lead for many Yosemite newcomers. Consequently, be prepared to wait in line unless you're starting early in the morning. As the name suggests, this is the perfect crack to enhance your hand and finger jamming techniques.
この壁の代表的な1本。岩壁をすぱっと断ち割る美しいクラックが真っすぐ上に伸びていて、しかもフレアしていないので安心してジャミングを決められます。ルートグレードは5.9とされていますがそれは2ピッチ目があるからで、この1ピッチ目だけなら5.7です。
ヨセミテに来ておきながらこういうことを言うのもどうかと思いますが、正直に言うとクラックは苦手意識が強くありました。しかし、このクラックは本当に楽しい。ハンドジャムもフットジャムもばっちり決まり、ぐいぐいと気持ち良く登ることができて「ジャミング最高!」と思わせてくれます。ここはぜひともリードしたいルートですが、保科ガイドにそのことを話すと「リードすると意外に怖いですよ」と脅されました。この花崗岩は不意にスリップすることがあるからだそうですが、そうなんですか?言われてみれば確かに、トポにもsustained polished handsとありますが……。

再びヨセミテ滝の前を通り、その右上に細く突き出しているロストアローLost Arrow Spireを見上げてから駐車場に戻りましたが、時間にゆとりがあるので、そのままキャンプ4Camp4見学に向かうことになりました。

かつて1960年代の黄金時代や1970年代のストーンマスターたちの時代に管理されることを嫌うクライマーたちの住処だったキャンプ4は今でも予約不要ですが、その代わり早いもの勝ちのキャンプ場で、朝の受付開始を待つための列の先頭はここからと指定されています。値段も安いので人気が高く、ここに泊まりたい場合は前夜から並ばなければならないようです。保科ガイドも若かりし頃に自分のクライミングのためにヨセミテに滞在したときはここで暮らしたそうですが、1990年代には7日間ルール(滞在できるのは1週間限り)が導入されていたはずなのにどうやって?実は、当時はおおらかな時代だったので受付時の名前を変えたりして規制をかいくぐっていたそうですが、やがて写真チェックが入るようになり、メガネで変装したらバレてしまったとのこと。今ではパスポートチェックまで行われるようになってしまったそうですから、現代においてクライミング・バムというのはここでは成り立たないのかもしれません。

さて、キャンプ4と言えばもちろん「Midnight Lightning」(V8)です。『岩と雪』72号(1980年)に掲載されたジョン・バーカーJohn Bacharのボルダリングの写真は当時の岳人にセンセーションを与えたとされ、日本人にとってこのプロブレムは特別の意味を持っています。

1980年というと私自身は山登りすらしていない時代ですから、そうした時代の動きは後付けの知識として知っただけなのですが、それでもこの氷河時代の置き土産の岩を目の前にすると、何か自分が触ってはいけないもののような威厳を感じました。

こちらはリン・ヒルLyn Hillが登る「Midnight Lightning」の映像です。実際に岩を下から見上げれば誰でも「あそこへ手を飛ばすのが遠いな」と思うであろうポイントを身長157cmの彼女がダイナミックな動きでこなす瞬間をはっきり見ることができます。

夕食は初日と同じくフードコートへ。ここのディナーセットは、我々の胃袋のサイズにマッチしていて安心です。