マラング・ゲート - マンダラ・ハット

2001/12/30

今日はゆっくり10時出発の予定。しかし昨夜ぐっすり眠って早く目が覚めたので、7時には朝食前の散歩に出ました。すると同じツアー参加者のH氏とB氏が外から戻ってくるところに行き会い、ホテルから道を数分下ったところに格好のビューポイントがあってキリマンジャロがよく見えるということを教えてくれました。そこまではこのホテルに出入りしているトーマスという青年が案内してくれるようで、さっそくトーマスに声を掛けてホテルのゲートを外に出ました。トーマスは非常に若く見えますが、話を聞いてみると既に2人の子持ち。タンザニアの学校事情を聞いたり簡単なスワヒリ語を教わったりしながら5分ほど歩いて振り向くと、真っ青な空をバックにキボ峰とマウェンジ峰が大きく並んでいるのが見えました。その間の緩やかな鞍部が、明後日越えるサドルに違いありません。「うーん、素晴らしい」と唸ったまま立ち尽くしてしまいました。

ホテルに戻ってトーマスにチップ1ドル。朝の光の中で改めてこのカプリコーン・ホテルのたたずまいを見回してみると、豊かな緑の中の情緒豊かな建物でなかなかのムードです。キリマンジャロ登山を目的とせずこのホテルでゆったり過ごすことだけを目的にここに来ても楽しいかもしれない……などと思いながらぶらぶらと部屋に戻ると同室のA氏も既に起床していたので今しがたの顛末を説明すると、A氏も山の姿見たさにいそいそと部屋を出ていきました。「案内を頼まなくても大丈夫ですよ」と声を掛けたのですが、後から聞くと結局A氏もトーマスにつかまったようで、結局トーマスはこの朝同じツアーの客を同じ場所へ3回案内して3ドル稼いだことになります。しかし、後で一同のところに枝につかまった大きなカメレオンを持ってきたりしてフォローに努めていたあたりは、日本人の弱味を十分に心得ているようでした。

この日、我々は荷物を三つに分けました。一つは自分が背負う必要最小限のリュックサックで、行動中の水や貴重品、雨具などを入れるもの。次にポーターに持ってもらう大型の荷で、この中にシュラフや着替え、アタック時の防寒具などを入れておきます。最後にこのホテルにデポするスーツケースなどで、都市間の移動時に使う衣類など登山中は不要のものは全部ここに置いていきます。私の場合は、自分の身に着けるのはデイパック(上衣、雨具、水筒、テルモス)と少し容量の大きなウエストポーチ(財布、パスポート、手帳、ティッシュ、薬、カメラなど)。ポーターに持ってもらうものは使い古した50リットルのリュックサックにしてあります。

こうして万全の体勢で出発に備えたのですが、朝食後に早川TLから、今日入山する登山者が多くゲートが混んでいるので出発は11時にするとのアナウンスがあって拍子抜け。しかし、手持ち無沙汰でしばらく待っていたところ今度はゲートが空いてきたとの連絡が入り、再度予定を変更して10時15分に車に乗ってホテルを後にしました。といってもゲートは坂道をほんの少し登ったところで、たくさんの現地の人々(雇われるのを待っているポーター達)の間を抜けて駐車場に停まると、すぐにミネラルウォーターとビニール袋に入ったランチの配給を受けました。

三角屋根の受付で早川TLが手続を済ませている間、我々はいざ出陣といった面持ちで思い思いに記念撮影。しばらくして手続も終わり、今回の山旅の現地ガイド2人との顔合わせが行われました。メインガイドは、実に知性的な顔だちで人に命令することに慣れた厳しさと柔らかい笑顔とをあわせもったブライソン。サブガイドは長身で精悍な顔つきのジョワキム。ここからジョワキムを先頭に、早川TLとブライソンをしんがりに隊列を組んで、10時45分いよいよ登山開始!緩やかな坂道を歩き出しました。

今日の行程はおおむね樹林帯の中であり、気温も高いのでTシャツ1枚で歩きます。歩調はおおむねゆっくりですが、まだ高山病を心配する高度ではないので、ふつうのハイキングのペースより少し遅いくらいの感じ。道はよく整備されていて傾斜も緩やかで、両脇には側溝が掘られており、乾期ということもあってぬかるんだところもなく、実に歩きやすく快適です。下山してくる登山者とも頻繁に行き交いましたが、我々のような大部隊は少なく、単独か少人数でガイドを1人連れただけの日本人もけっこういました。あれはどういう人なのかとそのときは不思議に思いましたが、後で聞いたところでは、こちらに駐在しているJICAの職員の方などがオフをとって登りに来ることもあるようです。我々は1時間歩いたところで小休止をとり、次の1時間を歩いたところで昼食休憩となりました。入口で配られたビニール袋の中には、サンドイッチ、チキン、ゆで卵、とても皮が固い柑橘類、小さいバナナ、それにピーナッツなどの行動食が詰め込まれていました。

道はさらに続きますが、昼食をとったところから1時間も歩いたあたりから植生がはっきりと変わり、熱帯風の樹林帯を抜けて葉の細い樹木が多くなってサルオガセが増え、下生えにはシダが目立つようになってきました。その植生がいったん熱帯風に戻ったな、と思ったらひょいと開けたところに飛び出し、そこが緑の三角屋根のコテージが建ち並ぶ今宵の宿、マンダラ・ハットでした。

ここではひときわ大きな三角屋根が食堂になっており、その周囲に受付や宿泊棟の小振りの三角屋根がたくさん並んでいます。宿泊棟の構造は、三角柱を横倒しにして真ん中に仕切壁を設け、その両側の空間にそれぞれ下段三つ、上段一つのベッドがしつらえられていました。つまり、ひと部屋が4人部屋で、それがふた部屋で一つの建物を構成しているわけです。今日はA氏、K氏、M氏との相部屋となり、この中で一番若い(!)私が上段のベッドを使うことになりました(この後下山するまでずっと、私は上段のベッドを使う巡り合わせになりました)。

ポーターが運んでくれた荷物を受け取ってベッドにシュラフを広げ終えると、食堂に集まってまずはティータイム。ポットにたっぷりのお湯に、チャイのティーバッグやミロ、飲むチョコレート、粉ミルク、砂糖などがテーブル上に並べられ、好きなだけ飲むことができます。また、大皿にビスケットやポップコーンが盛られて食べ放題で、実に豊かなティータイムです。

ゆっくり休んで、16時30分から高度順化のために近くのマウェンジ・クレーターへ出向きました。ハットを出て樹林の中を進むと木の梢に全身が黒くて顔が白いサルを何匹も見掛け、道はやがて草原状に開けたところに出て、緩やかに登りにかかるとわずかの歩きでクレーターの縁に出ました。

ここは底まで草に覆われた顕著なクレーターで、反時計回りにお鉢巡りをするとケニア方面の雄大な大地の広がりも見えてきました。さらに大きな白っぽい花プロテアや樹木に咲く黄色い花エリカなどもあり、歩いていて楽しい道でした。ゆっくり歩いて20分ほどでお鉢巡りは終わり、17時40分にハットに帰り着きました。

18時からの夕食は、最初にとろみのあるスープが出てきて、その後トースト(マーガリンやピーナツ・バター等とともに)、ミートソースたっぷりのスパゲティ、茹でたポテトと炒めたタマネギ、バナナ、そしてティータイム同様好きなだけの飲み物というディナーでした。

食事が終わった後に各自の部屋に戻り、早川TLの往診待ち。この日から登頂日まで毎晩、血中酸素濃度と脈拍を計ることになっています。やってきた早川TLが取り出したのは人さし指をかぱっと挟み込むような黒く小さい装置(パルス・オキシメーター)で、上面に二つの数値が赤く表示されるようになっており、どうやら赤外線の働きで(?)必要とされる数値を測定することができるようです。ちょっと緊張しながら測ってもらった結果は、血中酸素濃度が91%、脈拍が94。けっこう脈が上がっているものだなというのが私の第一印象でしたが、現時点では特に問題なしとの御墨付きを得て、安心してシュラフにもぐり込みました。

▼この日の行程
10:45 マラング・ゲート 1860m
15:10 マンダラ・ハット 2700m