塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

エギュイ・ド・ラ・グリエール「Modern Time」

2015/08/02

昨夜はかなり早い時刻に眠りについたため、夜明け前には目が覚めてしまいました。そこでバルコニーから外を見てみると、右手の高い位置にミディの展望台の灯りが見えています。どうやら快晴の一日になりそうです。

身支度を済ませてホテルを出る頃にはあたりはガスに包まれていましたが、これは明らかにシャモニーの谷底を霧が埋めているだけで、クライミングには支障はないはずです。この日はまずは身体を慣らすためにエギュイ・ルージュのマルチピッチの乾いた岩を登ることにしており、昨夜選んだルートはグリエール下部バットレスの「Modern Time」。これは昨年登った「Mani Pulite」の隣のルートです。

バスに乗ってレ・プラまで移動し、ロープウェイ駅でゴンドラが降りてくるのを待っていると、一時的に霧が晴れて、高いところにランデックスの鋭い岩峰を見上げることができました。やはり、上空は快晴のままの模様です。

しめしめと思いながらロープウェイに乗り、霧の上に完全に抜け出たフレジェールから対岸のモン・ブラン山群、ドリュとエギュイ・ヴェルト、そしてそれらの奥に屏風のように聳えるグランド・ジョラスの大展望を堪能してから、チェアリフトに乗り換えてランデックス駅まで上がりました。

ランデックス駅から正面に懐かしいランデックスとエギュイ・ド・ラ・グリエールが並び、さらにずっと右手にはフローリアが(現場監督氏曰く)剱岳のような姿を見せています。

ここでギア一式を装着してから目の前のグリエール下部バットレスを目指して進むと、目指す「Modern Time」には上部と取付とに先行するクライマーの姿が見えました。また、我々と同じロープウェイに乗っていた男女2人組はさらにその右の「Nez Rouge」に向かうようです。のんびりアプローチで「Modern Time」の取付に達してみると先行パーティーは女性2人組で、挨拶を交わして登攀準備を進め、先行パーティーのフォローが上に着いて次のピッチに取り掛かったところで我々も離陸しました。

1ピッチ目(50m/4c)、私のリード。出だしが外傾ホールドばかりで若干緊張したものの、後は草付も交えた和風アルパインっぽいピッチ。

2ピッチ目(15m/4c)、現場監督氏のリード。出だしの立った凹角を大股開きで越えるとすぐにホールド豊富な斜面になって、あっという間にテラスへ。

3ピッチ目(40m/4c)、私のリード。出だしは緩やかなカンテ状から徐々に立ってワンポイント身体を空中に乗り出すようなムーブが出てきますが、ルートファインディングが面白いピッチ。

ボルトはそのままカンテの上部へつながっていますが、先行の女性2人は左のバンドを10m歩いてからそこに立ちはだかるすっきりした壁を登っていました。ここでトポと見比べてみたところ、確かに「Mani Pulite」のラインの右隣を上がるように書いてあるので、現場監督氏に先行してもらってそちらにトラバースしたのですが……。

4ピッチ目(30m/4c)、私のリード。左隣の「Mani Pulite」を登るクライマーがドリュを背景にシルエットとなって登って行く姿に現場監督氏と「絵になるねえ」と感嘆してから、こちらもすっきりした壁を登ります。

角度は立っているもののホールドは豊富で、ぐいぐい高さを稼ぐことができる快適なピッチ。

ここから確保不要で右上していったところで、昨年「Mani Pulite」を登ったときにも渡った刃渡りを再び渡ることになったために、5ピッチ目が本来の「Modern Time」を外していることに気付きました。やはり、3ピッチ目終了点から左へトラバースするのは不自然という直感は正しかったようです。

5ピッチ目(45m/5a)、現場監督氏のリード。全体に立った壁で、出だしがつるりとした凹角になっていますが、そこを右から乗り込むようにして突破すると、後は豊かなホールドに導かれて自然に上へと登っていける快適なピッチ。最後の10mはぐっと傾斜が落ちて終了点に到達します。

下部バットレスの頂上でロープを外し、ほっと一息。見下ろせば目の前のランデックスの山頂には人が鈴なりになっており、あちらの岩峰の人気の高さを物語っています。

かたやこちら、先行していたのはノルウェイからの陽気な女性2人組で、一緒に記念撮影をして国際親善を果たしました。

ノルウェイ美女2人と写真に収まる現場監督氏(55歳・既婚)の図。ただし、彼女たちから現場監督氏に伝わってきた情報では、この夏の暑さのせいでモン・ブランのグーテ小屋経由のルートはグラン・クーロアールでの落石の危険度が増したためにクローズされているとのこと。それは困る……。

ランデックス駅に下り着いたところで、膝に不安のある現場監督氏はそのままぷらぷらしてから帰ることになり、一方の私はラック・ブランLac Blancまでハイキングすることにしました。

登ってきた壁を見上げてから、ランデックス駅から下界に向かって左方向へほぼ水平に続く道へ進みます。このハイキング道はよく整備されていて歩きやすく、そして何より常に右手にドリュやグランド・ジョラスの姿を眺めながら歩くことができる点がポイントです。

しかも、歩くにつれて角度が変わり、メール・ド・グラスの奥のグランド・ジョラスの右手に昨年登ったダン・デュ・ジェアンの姿も見えてきて、飽きるということがありません。

途中ではアイベックスを至近距離で見たりしながら1時間余りも歩き続け、最後に斜面をひと登りすると、そこにラック・ブラン=白い湖が広がっていました。

広がって……と言っても実際は小さな湖面が二つ、短い流れによってつながっているだけなのですが、白緑色に濁った湖面は確かに神秘的です。

そして、湖の岸辺から見るドリュやジョラスの姿は足元を隠されている分、宙に浮いているような錯覚を与えてなんとも不思議。

ラック・ブランからフレジェールへは下り一方の山道となり少々膝にこたえますが、ともあれ充実したハイキングができて満足です。そして、ロープウェイでレ・プラに降りてバス停に着いてみると、なぜかそこにははるか先に降りていたはずの現場監督氏がいました。いったい何してたんですか?と聞いてみたところ、ストックの忘れ物を取り戻すためのあれやこれやがあったようなのですが、その詳細は彼のブログに委ねることにします。

なお、この日はCOSMOジャズフェスティバルの最終日。メインステージでのリハーサルの様子だけ見ることができましたが、時間の都合で本格的な演奏を聴くことができなかったのは少しばかり残念でした。

▲この日の行程。