尾白川鞍掛沢

山頂 鞍掛山2,037m / 日向山1,660m
分類 南アルプス / 沢登り
日程 2016/07/30-31
同行 かっきー
概要 尾白川を鞍掛沢出合まで遡行して、出合からわずかに鞍掛沢に入ったところで幕営。翌日、鞍掛沢を遡行して途中で出合う乗越沢を抜け、鞍掛山に立ち寄ってから日向山経由下山。

鞍掛沢を少し入ったところで竿を出すかっきー。世の中、ままならないものです。(2016/07/30撮影)

鞍掛沢の滝。フリクション頼みで登ることも、左から簡単に巻くことも可能。(2016/07/31撮影)

鞍掛山展望台からの眺め。甲斐駒ヶ岳を遥拝する場所であったものと思われます。(2016/07/31撮影)

シャモニー旅行から帰ってきて最初の山旅は、実に日本風な沢登り。それもかっきープロデュースの「癒し系岩魚釣行」です。かっきーはこの一週間前にも上州の沢へ行く予定を組んでくれていたのですが、あいにく直前になって仕事上のアクシデントのために私はキャンセルを余儀なくされ、今度こその遡行でした。

2016/07/30

■09:00 日向山登山口 ■10:25 尾白川入渓点 ■11:10 鞍掛沢出合 ■11:40 幕営地

6時ちょうどに高尾駅で待ち合わせ、かっきー号で中央道をひた走って、8時半頃に日向山登山口。この時刻には既に多くの車が登山口周辺に駐車しており、かっきー号は登山口を過ぎて数分のカーブに置くことになりました。

ここからの林道は沢登りでの黄蓮谷右俣尾白川本谷遡行のときにも歩いていますが、相変わらずかったるい歩きが1時間ほど続き、その後に思いがけないほど急な下降を経てやっと河原に降り立ちます。我々の前には既に竿を出している親子連れと本谷を遡行するというベテランパーティーがいましたが、挨拶を交わして先行させていただきました。

歩き出してすぐの釜でかっきーが竿を出すと、なんとわずか3投ほどで早くも1尾が釣り上りました。この早業にはびっくり仰天。そんなに手際よく釣れるものなのか?

後ろにパーティーがいるからとここでの釣りは早々に切り上げて、徐々に前に進みながらさらに竿を出すかっきーと、今度は動画をとってやろうとカメラを構える私。しかし、こちらの意気込みとは裏腹に魚は反応を示してくれません。投げる、構える、首をひねる、落胆する、前に進む、後を追う……を何セットも繰り返しているうちに、いつの間にか女夫滝に着いてしまいました。ここは右岸のつるりとしたランペを登るのが一応定石なのですが、今日のコンディションはやや滑り気味。ここで無理をする必要はないので、途中から右岸の樹林の中に逃げて小さく巻き上がります。

なおも竿を出しながら前進を続けると、あっという間に鞍掛沢出合に着きました。前方の本流筋には梯子滝が見えていますが、我々は左岸寄りを歩いて自然に鞍掛沢に入り、なおもじわじわと前進を続けました。

かっきーによると今日の鞍掛沢ははっきりと渇水で水位が低く、そのため釣りとしては悪条件であるそうです。もしこのまま1尾で終わってしまっては、「岩魚三昧を味わう」という今回の沢旅の目的が果たせません。かっきーの顔にもあせりの色が出てきました。

鞍掛沢に入って少しのところで、沢が左に曲がっているあたりの右岸にタープを張るのに格好の高台を見つけ、ここで私は待機(というと聞こえがいいですが、実態はただの昼寝)。釣り道具だけを持ってさらに上流に向かうかっきーを見送って、トカゲにちょうどいい岩の上で惰眠を貪っていると、後から比較的若手の数名のパーティーがやはり竿を片手に通過していきました。

直射日光を避けて寝場所を移動しながら2時間ほどの昼寝の後、いつまでも寝ているのも芸がないと薪集めを始めたところへ、かっきーが戻ってきました。魚籠の中にはプラス3尾。かっきーとしては満足できない釣果ですが、とりあえず岩魚料理のバラエティは確保できそうだと切り上げてきたようです。高台にタープを張り、薪に火をつけて、いよいよ岩魚宴会の始まりとなりました。

魚籠から岩魚を1尾ずつ取り出しては、頭を岩に叩きつけて気絶させ、手際よく捌いていくかっきー。そのナイフが腹に入るたびに、仲間の悲劇を察知したかのように魚籠の中の岩魚たちがじたばたと暴れるのが不思議というか哀れというか……。

委細かまわずかっきーは刺身を作り、天ぷらを作ります。先ほどまで能天気に沢で泳いでいた彼ら・彼女ら(卵を腹に抱えていた個体もいました)には気の毒ですが、刺身はぷりぷり、天ぷらはほくほくで、いずれもすこぶる美味!

骨せんべいもかりかりと美味しく、焚き火の上にかざされた2尾は遠赤外線で徐々に色が変わっていきます。

たっぷり時間をかけて焼きあがった塩焼きの1尾は、ありがたく私がいただきました。実は、沢の中でこうして魚をいただくのはこれが初めてです。

小ぶりな1尾は、こうして骨酒に。独特の芳香が酒の味を引き立ててくれて、こいつを飲み過ぎたせいかどうか、「へべのみすぎ」Tシャツを着たかっきーは、自分がすっかりへべれけになってしまいました。

2016/07/31

■06:55 幕営地 ■08:20-40 乗越沢出合

5時起床。既に周囲をすっかり明るくなっています。

あっという間に火を熾したかっきーが作ってくれた蕎麦を朝食としましたが、昨夜の酒が過ぎたようでかっきーは体調不良のようです。

それでもどうにかこの日の遡行を開始。昨日通り過ぎて行ったパーティーが焚き火をしている横を通過して、どんどん上流へ進んでみると、ところどころのナメや滝がよいアクセントになっていて、この沢は純粋な遡行対象としても捨てがたい魅力をもった沢だということがわかりました。

不肖・わたくし撮影「鞍掛沢の滝たち」。

巨匠・かっきー撮影「鞍掛沢の花々」。

1時間ほどの遡行で顕著なハング滝を右から巻くともうその上には魚はいないだろうと思われたのですが、乗越沢が右から10メートルほどの幅広の滝で落ちてくるあたりで魚影発見。ここで一本立てることにし、かっきーは竿を取り出して上流に向かっていきましたが、残念ながら成果はなかったようです。

■10:20-30 コル ■10:45 鞍掛山 ■10:50-11:05 展望台 ■11:15 鞍掛山 ■11:30 コル ■11:45 駒岩

乗越沢出合の滝は、右手の踏み跡を使って簡単に巻き上がることができました。

その後に出てくる小滝も、状況を見ながら巻いたり直登したりして、楽しく遡行していきます。

……と言いたいところですが、思わぬ伏兵が待ち構えていました。それは、とげとげの葉で完全武装したアザミです。特に半袖で歩いているかっきーは被害が大きく、滝を巻くときにもアザミたちの機嫌を損ねないようなラインどりを心がけるのですが、何度も悲痛な叫びをあげていました。

最後の大きな滝を右から巻き上がった先の二俣を右へ進んですぐに、実に立派なツノをはやした牡鹿に遭遇。カメラを構える暇もなく身を翻して跳び去っていきました。

しかし、我々は鹿のように軽やかに進むことはできません。沢筋が細くなるにつれて、敵意むき出しのアザミを避けることは難しくなっていき、ほとんど有刺鉄線をかきわけるような状態での遡行(?)が続きました。それでも我慢の登高の末についに傾斜が緩んで笹が目立つようになり、行く手に奥壁が見えたところで左手の小尾根に上がれば、はっきりした踏み跡が前方に続いてました。

辿り着いたコルは、主稜線とそこから派生した鞍掛山との鞍部です。ここにザックをデポし、鞍掛山に登ってみることにしました。

鞍掛山の山頂は樹林の中で展望ゼロでしたが、そこから数分進んだところには白ザレの明るく開けた展望台があり、ここからは正面に甲斐駒ヶ岳の姿を眺めることができました。石の祠や不動明王像などがあったことから、ここは甲斐駒ヶ岳の遥拝場であったのだろうと想像がつきますが、アイスクライミングをする我々は、甲斐駒ヶ岳の山腹に食い込む黄蓮谷の沢筋を目でなぞることに忙しく、宗教的な厳粛さとは無縁でした。

コルに戻ってザックを回収し、主稜線の駒岩(鞍掛山分岐)までは一投足。日向山方向に少し下って開けた場所からは、樹林に覆われた鞍掛山の山頂部とその向こうの甲斐駒ヶ岳を眺めることができました。

■13:00-20 日向山 ■14:05 日向山登山口

地図では日向山までコースタイム2時間とされていましたが、歩きやすい登山道をぐんぐん歩くと1時間ほどで日向山の白ザレの斜面を眺める位置に着きました。

砂礫を踏みながら斜面を登り、日向山の山頂に到着。その名の通りかんかん照りの山頂を避けて樹林の中に身を沈め、しばし休憩としました。

小休止の後、緩やかでよく踏まれた登山道を下りました。日向山は大勢のハイカーを集める人気スポットらしく、次から次へと人が登ってきます。

登山口に降り立ってみると、一騒動がおきていました。登山口のわずかに奥に駐まっている静岡ナンバーの車のせいで、さらに奥にいた車が出られなくなっており、先に下りていたかっきーが指揮して皆でその迷惑車両を動かそうとしていたのでした。私もザックを置いて手伝おうとしましたが、その前にかっきーたちは迷惑車両の後部を山側へ寄せることができて、どうにか出られる状況を作ることができました。やれやれ。

そんなアクシデントはありましたが、今回のゆったりした沢旅は実に楽しいものでした。沢自体も良かったし、鞍掛山展望台や日向山も良かったのですが、もちろん何よりも沢で釣り上げた岩魚を味わうことができたことが、一番のポイントです。釣ったのもかっきーなら調理したのもかっきー、しかし自分は先週さんざん岩魚を食べているからとほとんどを私に譲ってくれて、ありがたいやら申し訳ないやら。次回は、晩餐作りに何らかの貢献を果たしたいと思います。

甲州の山から下りてくれば、ここに立ち寄らない訳にはいきません。なじみのお母さんも我々専用の箸を用意して待っていてくれました。

かっきーはもちろん厚切りロース、私はもちろん厚切りヒレ。岩魚のお礼に、ここは私もちとしました。

それにしても、今回の山旅ほど「いのちをいただく」という言葉の重みを感じたことはありません。ありがとうございました。