塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

河原木場沢醤油樽ノ滝

日程:2016/03/05

概要:八ヶ岳西面の河原木場沢の醤油樽ノ滝へかっきーと共に。帰路に一ノ滝上流の支沢の氷壁でも遊んだ。

山頂:---

同行:かっきー

山行寸描

▲河原木場沢醤油樽ノ滝。またしても貸切りで遊ぶことができた。(2016/03/05撮影)
▲こちらは一ノ滝上流の支沢の氷瀑。バーティカルアイスのリード練習をした。(2016/03/05撮影)

春分の日の三連休に向けて軽めの日帰りアイスを行うべく、この日はかっきーが提案した「醤油樽」へ。八ヶ岳の中でも天狗岳の西麓にあり、唐沢鉱泉へ向かう林道からアプローチするこの奇怪な名前の滝がアイスクライミングの対象になっていることは前々から知っていたのですが、どんな滝なのか、そもそも具体的にどこにあるのかすらも言われるまで知りませんでした。

2016/03/05

△09:20 駐車スペース → △09:25 醤油樽入り口 → △09:50 一ノ滝 → △10:10-13:10 醤油樽ノ滝 → △13:25-14:15 一ノ滝上流の支沢の氷瀑 → △14:35 醤油樽入り口 → △14:40 駐車スペース

土曜日の始発電車でJR高尾駅に6時着。これはかっきーとの待合せのパターンなのですが、既に明るくなり始めていることで日の出が早くなってきたことを強く実感しました。ウインターシーズンも間もなく終わりです。

唐沢鉱泉・桜平分岐を右へ入り山の神に見送られて平坦なダートを進むと、やがて道が河原木場沢を渡る手前に数台分の駐車スペースがあり、そこにかっきー号を置くことにしました。その先、橋を渡ってひと登りした場所にも駐車スペースはあるのですが、そこまでの坂道が凍りついていそうなのでここに駐めるのが無難だろうという判断です。

桜平の先には夏沢鉱泉があり、そちらへ向かう登山者もいるのだと思います(夏沢鉱泉は通年営業。JR茅野駅〜桜平まで無料送迎あり)が、我々が向かう先は河原木場沢の上流です。歩き出して5分で出てきた立派な案内板によると高さ35mの醤油樽ノ滝までは徒歩30分で、そこまでの間に一ノ滝5m、二ノ滝10mがあるそうです。この案内板はアイスクライマー向けに作られたはずがありませんから、醤油樽ノ滝は無雪期の観光名所として人気があるようです。

沢の中の道は雪に覆われていましたが、踏み跡と赤テープとで迷う心配はありません。左岸・右岸の間を何度か行き来し、ところどころ高巻きも交えて進みましたが、雪の下に氷が隠れていて若干微妙なものを感じたので途中からアイゼンを装着しました。

やがて出てきたこの木の梯子の右が釜を持った一ノ滝で、アックスを出して登ることもできそうでしたが、水が表面を流れていて柔らか過ぎる感じ。梯子の左も緩やかなナメ氷となっていますが、それよりも一ノ滝の奥に見えている支流の直瀑が気になりました。ここは帰りに立ち寄ることにして、梯子を登った先から左に曲がる沢筋をさらに詰めました。

一ノ滝の先も高さのある氷瀑が右岸の斜面にへばりついていたり左岸の高巻きの途中から両岸が狭まった中に氷柱を青く光らせている二ノ滝を見下ろしたりしながら遡行を続け、やがて右岸の1段高いところから河原に降りるアルミ梯子の先に、目指す醤油樽の滝がありました。

醤油樽ノ滝は思ったより立派で、傾斜は緩いもののスケール感はなかなかのものがあります。時期が遅いだけに氷が不安定なのではないかと心配していたのですが、確かに下部に水流が見えているものの、右寄りの階段状を登っていけば氷の薄い部分は回避できそう。そして何よりもありがたいのは、他に誰もおらず貸切状態であることです。

リードは私。プラン通りに右からアプローチし、氷のしっかりしている場所を選んで左手(水流中央側)に短い間隔でスクリュー2本を決めてから、登るにつれて徐々に左側へ滝の正面に回り込むように登りました。途中で滝の角度が緩やかになる場所では安定したスタンスもあり、高度感はあるものの危険は感じません。さらに、アルミ梯子の上から観察したところでは氷が切れていそうに見えた落ち口までの間も実際には厚みのある氷がつながっていて、どうやら良い状態の滝に遭遇できたらしいことを感じました。この落ち口の辺りは遠目には草付風に見えるので、もし氷がつながっていなければ草付にアックスを打ち込んで登ろうと思っていたのですが、近づいてみるとそれは草付ではなく弱点の少ない岩のスラブだったので、氷がつながっていてくれて助かりました。

落ち口の上にはしっかりした支点(カラビナつき)があり、この滝の人気が高いことを窺わせます。ありがたくこれを使わせていただくことにしてセルフビレイをとり、セカンドのかっきーを迎えました。

相変わらず右肘が不調のかっきーもここは問題なく登ってきて、ついでにと上流探検もしましたが、ゴルジュ状の地形が50mほど続いた先は開けた樹林帯の中になって、ぱっとしない景観に終わっていました。地図によればこの沢は最後は西天狗岳に突き上げることになっており、そこまで登れるのなら山行としては充実しそうですが、もちろん我々にはそうした気はさらさらありません。

か「しょうゆうことで……」
私「しょうゆうことか……」

懸垂下降で河原に降りて一休み。冬の八ヶ岳の特徴である凍った浸み出しがこの醤油樽ノ滝を受け止める岩壁のあちこちで透明な光を放っているのも、面白い光景です。

懸垂下降したときに引き抜かずに残してあったロープを使い、トップロープで2本目。先ほどは右寄りからのアプローチでしたが、今度は水流が覗いていて氷が脆そうな滝の正面に取り付くことにしました。ところが水流のやや左の厚めの氷を選んで登ってみると、見た目とは裏腹に十分に厚くしっかりしている上に、適度な柔らかさでアックスとアイゼンの前爪を受け止めてくれて実に快適に登ることができます。傾斜は多少立ってきますが、リードするなら最初からこちらを登るべきでした。こういうラインを読む目を養うことも今後に向けた課題の一つです。

私とかっきーが1本ずつトップロープで登ったところで、醤油樽ノ滝は終了。アルミ梯子を登り返したところにある展望台から滝を眺め、その威容に満足しました。

なぜ「醤油樽」という名前が着いたのかは最後までわかりませんでした。この滝の下から見上げた巨大なシャフトのような地形が、醤油樽の中にいるような感覚をもたらしたからなのでしょうか?それとも、落ち口から勢いよく落ちてくる水流が、醤油樽の下部の注ぎ口からほとばしる醤油のように見えるからなのでしょうか。

醤油樽ノ滝は沢登りの対象になるか?……という観点からも眺めてみたのですが、氷のベールを剥いでしまうと手掛かりのない直瀑になりそう。可能性があるとしたら右からのランペを使って滝の途中の傾斜が変わる箇所にアクセスする方法ですが、それではわざわざ登る価値がありません。

まだ時間が早いので、一ノ滝上流の支沢の氷瀑でさらに遊ぶことにしました。5mほどの顕著な氷瀑は傾斜が立ち、バーティカル・クライミングの練習にうってつけ。その奥のえぐれた部分にはきれいな透明の氷柱が立っていましたが、誰かがアックスを打ち込んだらしく、途中にヒビと傷が入っていました。これもまた氷を見るとアックスを打ち込みたくなるアイスクライマーの本能のせいなのでしょうが、無粋の極みと言うほかはなく残念なことです。

……などと偉そうなことを言うのは10年早く、このバーティカル部のリードでは、途中で腕をパンプさせ、スクリューはなかなか決まらず1本取り落としてしまうなど、なんとも格好の悪いクライミングになりました。とりあえずノーテンで抜けはしましたが、要修行です。

以上をもってこの日のプログラムは終了とし、車に戻りました。醤油樽ノ滝を訪れたのはこれが初めてでしたが、アプローチは抜群に良い上に滝は難しくなく、しかもスケール感があって楽しめました。さらには一ノ滝周辺でいろいろな遊び方もできて、さながらこじんまりとした氷のテーマパークのよう。混み合っていたら印象が変わったかもしれませんが、ここなら来年以降も練習のために訪れても良いという点でかっきーと意見が一致しました。

「鹿の湯」で温まってから甲府に向かう途上、かっきー車載のカーオーディオはランダム再生の設定になっているのにひたすらEaglesの曲をかけるEagles祭り状態になってしまいました。「もしかして(今年亡くなった)Glenn Freyが後部座席に座っているんじゃないのか?」と気味悪く思いながら走り続けましたが、甲府の行きつけのとんかつ屋「美味小家」ではサプライズが待っていました。

冬の間の常連になった我々のために、「美味小家」のお内儀さんが専用箸を用意してくれていたのです。常連カードに記帳すると箸箱に名前を書いたシールを貼り付けてくれて、これで今後は「美味小家」に来るたびにこの箸を出してもらえるという次第。これは八ヶ岳方面のアイスクライミングにますます精を出さないわけにはいかなくなったなと思いながら帰路に就きました。