北岳バットレス第四尾根

山頂 北岳3,193m
分類 南アルプス / アルパイン
日程 2015/10/03-04
同行 ハマちゃん
概要 初日に広河原から一気に第四尾根登攀を終えて白根御池小屋へ。翌日はのんびり下山。

北岳バットレス第四尾根。バットレス沢から靴脱ぎ場まで。(2015/10/03撮影)

7月の連休の北岳山行は雨天のために収穫なしに終わってしまい、なんとか今年中に再訪をとハマちゃんとタイミングを見計らっていましたが、10月最初の週末が双方共に都合が良く、ここでリベンジを狙うことにしました。当初は月曜日も休んで二泊三日とし、その中日でピラミッドフェイスを登るつもりでいたのですが、私の仕事の都合で土日の二日しか使えないことになり、しかも2010年10月の第四尾根上部の崩落後初めてのバットレスとあって、ここは慎重を期してオーソドックスな第四尾根オンリー、それも渋滞に捕まらないよう土曜日のうちに登ってしまう計画としました。

2015/10/03

■06:40 広河原 ■08:30-09:00 大樺沢二俣

金曜日の夜に、ハマちゃんの赤い軽自動車で芦安温泉に入り、4時間弱の仮眠。目覚めてみると乗合タクシーは既に満員、バスも長蛇の列で、5時15分の始発バスには乗れたものの立ちっぱなしで広河原入りすることになりました。

今日はとにかく素晴らしい快晴。広河原からは青空の下に北岳バットレスが丸見えです。大勢の登山客に混じって大樺沢沿いの道を登りましたが、その内のかなりの割合は途中で白根御池方面へ向かい、大樺沢をそのまま詰める登山者はそれほど多くありませんでした。情報によれば大樺沢の上部は崩れが進んでいて危険とのことでしたから、そのせいかも知れません。

のんびり歩いて2時間弱で二俣に到着し、ここにテントや寝具をデポしてクライマールックに変身しました。さらに大樺沢左岸を詰めましたが、八本歯のコルまでの間にはもはや残雪は皆無で、周囲の草の黄色と相まって秋深しを思わせます。やがて大きなハングボルダーが目印のバットレス沢出合に着き、ここで水を汲んでからバットレス沢右岸の尾根筋に付けられた明瞭な踏み跡を奥へ進みました。ここを歩くのは6年振り、そして見上げると先行パーティーがピラミッドフェイスの頭付近を登っているのが目に入りました。

■10:20-40 Bガリー大滝取付

Bガリー大滝の取付では一段上がり、そこにカム#1をセットしてロープを結びました。

今回、最終ピッチではカムを多用するのではないかと思っていたのですが、上部崩落後にここを登っている常吉さんにお聞きしたところ要所要所に残置がありカムは不要とのことでしたので、持参したカムはこれだけ。そして実際、ここ以外にカムを使う場面はありませんでした。

ハマちゃんの60mロープはまだ新しくてキンクしやすく、出だしでロープを捌くのに時間を使いましたが、その代わり一段高い場所からスタートしたことも奏功して1ピッチで一気にBガリー大滝の上に抜けることができました。しかし、落ち口周辺の浮石にロープが触れてこれを落とし、ちょうど下に偵察に来ていたパーティーに向かって大声で「ラーク!」と叫ぶ羽目になってしまいました。すみません。

Bガリー大滝の上から草付を少し登って緩傾斜帯をトラバースする道に入り、すぐにCガリー。今回、ここのトラバースが一番緊張しました。以前はガラガラではあってもそれなりに踏まれていて安定していたと思いますが、上部崩落の後遺症でCガリーは足元からザラザラと崩れる岩屑の墓場と化しており、渡るのには神経を使いました。

どうにか無事に対岸のバンドに入り、すぐに出てくる湿った凹角を登っていけば、やがて展望にも恵まれた第四尾根取付のテラス。ありがたいことに、我々の貸切です。

■11:45-12:05 第四尾根取付 ■13:15 マッチ箱のピーク

この日の作戦は、テクニカルなポイントはハマちゃんにリードしてもらい、後はロープの長さを活かして時間を稼ぐというもの。よって出だしのクラックの岩はハマちゃんのリードとなります。

ロープを結び直して離陸したハマちゃんは、巧みな足捌きでクラックに足を入れることもなくすいすいと登っていってしまいました。ここはあまり長く伸ばさずに、支点が出てきたらピッチを切ろうと申し合わせてあったので、40メートルほどで1ピッチ目終了です。

続く私のリードは、スラブから尾根を右手へ回りこみ、少々ランナウトしながら白い岩のクラックへ。ロープを目一杯伸ばしたところでビレイ解除してもらってコンティニュアスに移りましたが、さすがにロープの重みと摩擦とが尋常ではなく、クライミングというよりは肉体労働という感じで三角形の垂壁の手前まで必死でロープを引きずりました。

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三角形の垂壁手前のテラスからは、左下にDガリー奥壁の核心部が見えており、そのまま視線を奥壁上部へ移すと下から見えていた先行パーティーが枯れ木テラスから城塞下をトラバースしているところでした。ガイドパーティーかどうかは定かではありませんが、赤い上衣の男性が終始リードして青い上衣の女性を引っ張っているようで、どうやらセカンドの力量がルートの難度に見合っていないために時間がかかっているように見受けられました。

三角形の垂壁もあっさり越えていったハマちゃんの後を追ってリッジを詰め、マッチ箱の先端から左手、Dガリー奥壁側へ懸垂下降。下降支点はしっかり作られ、カラビナも2枚残置されていて至れり尽くせりです。

下り着いたバンドから下を見れば、かつて常吉さんと登った上部フランケ。ルートはもちろん上を目指しており、ここでも60mロープの長さを活かしてハマちゃんは枯れ木テラスまで一気に登っていきます。八本歯のコル近くを歩く女性登山者からの「あんなところ登ってるわよ!」「すごいわね〜!」という黄色い声に、ハマちゃんはガッツポーズで応えました。

そして後続した私は、枯れ木テラスで世にも恐ろしいものを目にすることになります。

■14:10-15 枯れ木テラス

2010年10月の崩落で枯れ木テラスの奥側の岩壁がごっそりCガリーに落ち込んだということは知識としては知っていましたが、実際に目の当たりにしてみると、そのあまりの変わりように思わず「なんじゃこりゃー!」と驚きの声を上げてしまいました。かつてDガリー奥壁を登った後に内面登攀を楽しんだチムニーの右側が完全になくなっており、露出した赤い岩肌はまるで火傷の痕のように痛々しい様子です。相変わらず健在な枯れ木の右側の岩に立ってそうした光景をカメラに収めていた私はふと、自分が立っているこの岩もいつ崩落するかわからない状態であることに気づいてぞっとしました。

かつてはこの枯れ木テラスから一段上がって岩の斜面を緩やかに進み、水平のクラックをまたぎ越して終了点の靴脱ぎ場へ達したものですが、今はここから左へナイフエッジに手をかけてトラバースし、城塞のかぶり気味のクラックを登らなければなりません。

トラバースのパートは私がリードしましたが、見た目には恐ろしげなトラバースも実際には手がかりや足場が豊富で、途中には少ないながらも残置ピンもあり、またナイフエッジの縁をうまく使えばロープを掛けることもできて思ったより安全です。

ナイフエッジの向こう側に落ち込んでいる崩落跡を見下ろすのはあまり気持ちの良いものではありませんでしたが、それでもゆとりを持ってトラバースを終えてハマちゃんを迎えました。

城塞のクラックの手前に作られていた支点から、最後のピッチはハマちゃんのリード。これを越えれば登攀は事実上終了です。

出だしのぐらつく赤い残置ピンにクイックドローをとり、その先の右奥の壁に隠れたガバを見つけたハマちゃんは、身体を壁の外に張り出して気持ち良さそう。多少チムニーの狭さに手こずりながらも、問題なく抜けていきました。

■14:55-15:25 靴脱ぎ場 ■15:45-50 北岳山頂 ■16:35 八本歯のコル ■17:55-18:15 大樺沢二俣 ■18:40 白根御池小屋

チムニーの上でビレイを解除し、そこから靴脱ぎ場までの緩傾斜は私がロープをずるずると引きずって先行しました。

がっちり握手を交わして登攀終了、お疲れ様でした。相変わらず周囲の展望は素晴らしく、八ヶ岳、鳳凰三山、奥秩父、そして遠くには富士山もはっきり見えています。

アプローチシューズに履き替えてから、北岳肩の小屋のブログで今年の8月に紹介されていた中央稜への懸垂下降点を覗いてみました。以前中央稜を登ったときは枯れ木テラスの近くからCガリーへ降りたのですが、今は靴脱ぎ場奥のハイマツにセットされた下降点からノーマルルートの途中(おそらく2ピッチ目の起点)へ下るしかないようです。ここは来年、ぜひともトライしてみたいものです。

寒風吹き荒れる稜線に出て、わずかの登りで9回目の北岳山頂。居合わせた登山者と写真を撮り合って、早々に下山を開始しました。八本歯のコルへ下る途中からは既に日陰になっているバットレスがよく見え、その寒々しい光景の中をまだ登り続けているクライマーや、第四尾根取付に張られた黄色いツェルトが目につきました。

八本歯のコルから大樺沢沿いのガラガラの登山道を日没と競うようにして下り、テント等をデポした二俣にはかろうじてヘッドランプを使わずに降り着くことができました。

白根御池に着いてハマちゃんのテントを張り、ビールで乾杯!結局この日はちょうど12時間行動でした。

2015/10/04

■07:50 白根御池小屋 ■09:25 広河原

ゆっくり朝寝してほとんどの登山者が出払った後にテントの外に出ると、朝日が白根御池周辺を明るく照らしています。

この日はのんびり下るだけ。せっかくの好天が少々もったいない気もしましたが、その代わり周辺の黄葉の森が輝くさまを存分に楽しむことができました。

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美しき哉、日本の秋……。

朝食を済ませ、テントを畳んで下山を開始します。この日登ってくる登山者も少なからずいましたが、概ね静かな山道下りです。

広河原に着いても北岳は相変わらずクリアに見えており、まるで「またおいで」と誘ってくれているようでした。

芦安温泉で風呂に入ってさっぱりした後、甲府でおなじみの「美味小家」で厚切りヒレカツ定食をいただきました。アイスクライミングの後の習慣としてかっきーと何度も通ったこのお店は、当たり前ですが冬でなくても美味。それでも「次は冬に来ます」と告げておばちゃんににっこりしてもらって、満ち足りた気分で帰路につきました。