塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

盆堀川千ヶ沢石津窪

日程:2015/08/22

概要:秋川水系の盆堀川支流千ヶ沢石津窪を遡行。市道山と臼杵山の間に上がって、臼杵山から荷田子峠を経て下山。

山頂:臼杵山 842m

同行:よっこさん

山行寸描

▲大滝25m。上の画像をクリックすると、石津窪の遡行の概要が見られます。(2015/08/22撮影)
▲ハマってしまったよっこさんを救出。どうなることかと思った……。(2015/08/22撮影)

先週末に2週間のシャモニー旅行から戻ってきたばかりではあるものの、軽い沢登りで身体を日本の山仕様に戻しておきたいとよっこさんに付き合っていただいて奥多摩へ。夜には飲み会があるというよっこさんの都合と疲労が抜けきっていない私の事情とが重なり、手元のトポの中から短いながら大滝登攀もある石津窪をチョイスしました。

2015/08/22

△07:20 採石場 → △08:00-15 石津窪入渓点 → △09:20-55 大滝25m → △10:35-11:00 遡行終了点 → △11:35-55 臼杵山 → △12:55 荷田子峠 → △13:25 瀬音の湯

武蔵五日市駅に7時待合せ。タクシーでアプローチを省略しようとしたのですが、運転手さんとの意思疎通がうまくいかず目指す千ヶ沢林道入口のずっと手前(伝名沢手前の採石場あたり)で降ろされてしまいました。そこから千ヶ沢林道まではよく整備された車道を30分ほど歩くことになりましたが、かえって足慣らしには良かったかもしれません。

千ヶ沢林道の入口には明瞭な標識があり、ここから路面はダートになって緩やかに蛇行しながら奥へと続きます。

10分ほど進んだところで道の右側の千ヶ沢に顕著な支流が入ってくるあたりにピンクのテープがいくつか下げられており、その支流が目指す石津窪であることがわかります。沢床までは明瞭な踏み跡がついており、これを下ったところで沢装備を身に着けました。

狭く暗い雰囲気の石津窪の中に入ると、すぐにちょっとした小滝を越えるようになってきました。沢登りは私は今年2回目、よっこさんに至っては2年ぶりなので、沢靴のフリクションを確かめながら慎重に登ります。

最初のポイントは末広がりの滝10m。これは2段になっていて、下段は簡単に水流沿いを登ることができるものの上段は見た目やや微妙です。よっこさんは水流のすぐ右を登れるのではないかと見てとりましたが、まだこの辺りの岩の強さ・脆さがわからないので右壁に垂れているトラロープを使って巻き上がることを選択しました。

続いて現れる2段滝は下段の顕著なスラブの左寄りに水流を走らせていますが、乾いたスラブではなく黒光りする水流の中の方がホールドが豊富です。ここはロープを使わず、まずよっこさん、ついで私の順に登りましたが、上部の傾斜が立ったところでは左上にあるガバホールドを見つけて身体を振りながらダイナミックに登ることができました。

上段は垂直で、水流沿いは絶望的であるものの右壁の端にそちらが登路であることを示すロープが垂らしてあり、我々は自前のロープを出してよっこさんのリードで挑むことにしました。壁に近づいてまず1段上がり垂らしてあるロープにプルージックでランナーをとったよっこさんは、浅い凹角の中の凸凹をつかって巧みに登りここをクリア。セカンドの私も1段上がったところでランナーを回収してからホールドを探ってみると、凹角の左側のホールドはやや甘いのに対し、右手を思い切り伸ばしたところには絶好のガバがあり、これを使って凹角の上へ強引に乗り上がりました。

2段滝からほんのわずかで本日のハイライトである大滝25mが見えてきましたが、思ったよりも大きく、そして思ったよりも立っています。この滝を登るために今日は40mロープを持参しているのですが、まずはオブザベーションをしてみると滝の上から4分の1くらいのところに小さいテラスが見え、そこにスリングが残置されているのが下からもわかるので、まずはそこまでどうやって登るかを考えることになります。水流は滝の左端をちょろちょろと落ちていてそのすぐ右のカンテが登れそうですが、私の見立てはカンテの右側の凹角です。ところがよっこさんはさらに右の白く膨らんだ岩の段々を登るラインを提案しました。言われてみればそちらも登れそうに思えるので「やってみなはれ」と送り出したのですがこれは失敗で、登り始めた途端によっこさんの表情に後悔の色が浮かび、さらに右端からテラスに向かって滝の中央へトラバースするところで予想外の傾斜とホールドの甘さのために行き詰まってしまいました。

よっこさんは何度か意を決して動きを起こそうとするものの、そこまでランナーがとれていないのでリスクが大き過ぎるためにやはり動けず、かといってクライムダウンも困難である上にハーケンもハンマーも持っていないのでセルフビレイをとることもできない状況になってしまいました。そういう目には私もこれまで何度か遭っているのでよっこさんの心理状態は手に取るようにわかりますが、そのままではいずれ力尽きてしまうのは必定です。そこで、よっこさんが多少安定した立ち位置にいることを確認してからビレイ体制を解き、私が凹角から登ってよっこさんより高い位置にあるテラスに達して上からよっこさんを引き上げることにしました。

凹角を登る途中でよっこさんの立っているところを真横から見てみると、行く手をハングで塞がれ、これと言ったハンドホールドもなく足も外傾している状態で、確かに進めそうにありません。これはつらかっただろうと思いながらさらに登ってテラスに達すると、そこには残置ピン2本にスリングがセットしてあり、安定したビレイ態勢に入ることができました。

これで安全を確保されたよっこさんは悪いトラバースをどうにかこなし、無事にテラスまで登り着くことができました。そしてここから滝の落ち口までは水流の中に細かいながらもしっかりしたホールドを得ることができ、難なく滝の上に立つことができました。

大滝の上には、もうこれと言った難所はありません。7m滝が大滝より上流では最大のものですが、これもやや脆い左壁から簡単に抜けることができました。

緊張から解放されて穏やかになった渓相の中をゆっくり登ると、こんなふうに岩を貫く木の根の生命力や、その木の梢の高さにも目が行くようになり、徐々に空が近くなってきたような気もします。

二俣を過ぎ、ツルツルの5m滝を難なく越えて少し進むと、行く手に植林地が見えてきました。そして唐突に水が枯れ、そこに明瞭なケルンが置かれていたのでここで遡行を終了することにし、左手の小尾根に上がって沢装備を解きました。ここから市道山・臼杵山間の登山道まではピンクテープの印に導かれ、ふくらはぎの悲鳴を聞きながらの急な登りとなります。

登山道に出てからきついアップダウンの後に臼杵山に到着。少々ぐったりですが、沢登りそのものよりもこの一般登山道でのアップダウンに絞られた感じです。夏の暑いさなかにこの低山をハイキングする酔狂な登山者はおらず、結局この日は山の中では我々以外の誰にも会うことがありませんでした。

臼杵山頂の一角にある臼杵神社には30年前に来たことがありますが、そのときにいた「カバみたい」な狛犬(猫?)は退役してはいたもののまだ祠の横に鎮座していました。

臼杵山からの下りは驚くほどの急降下でこれもまた沢登り以上に緊張しましたが、やがて道は緩やかになって荷田子峠に達し、さらに15分の下りで下界となりました。その出口には電気が流れているというネットが張り巡らされており、掲示されている「通りかた」の解説がいまひとつ意味不明だったために決死の覚悟(?)で出口を開けることになりました。

最後は十里木の「瀬音の湯」で風呂につかり、生ビールで乾杯して〆。終わってみれば石津窪は、コンパクトな中に歯応えのある滝を次々にかけて面白い沢でした。よっこさん、お付き合いいただきありがとうございました。