小川山の岩場

日程:2015/05/02-03

概要:小川山の岩場でボルダリングと焚火とポトフとマルチピッチ「春のもどり雪」。その後にチーズケーキとお風呂と蕎麦。

山頂:---

同行:よっこさん / チオちゃん

山行寸描

▲犬岩。手も足も出なかったが、久しぶりの岩の感覚をそれなりに楽しんだ。(2015/05/02撮影)
▲「春のもどり雪」最終ピッチに挑むチオちゃん。途中のクラックにキャメロット#1が使える。(2015/05/03撮影)

五連休の最初の2日は小川山で岩遊び、残り3日は北アルプスの雪稜というゴージャスなプランを立てた私。「北アルプス」のルートが異なるもののほぼ同じプランとなったよっこさんとチオちゃんと共に、金曜日の夜発で小川山に向かうことにしました。よっこさんは横浜市内の自宅を車で出て品川区内でチオちゃんをピックアップし、さらに渋谷区内で私を23時30分に拾ってくれる手はずとしたのですが、待ち合わせの時刻の少し前にチオちゃんから電話が入りました。

チ「あのー、エアマットって余分にお持ちじゃないですか?」私「ごめん、穴あきのしかないよ」

さらに数分後にもう一度電話。

チ「ピッケルの予備、あります?」 私「!?」

ま、アックス類なら数本あるので無問題。しかし、北アルプスに行くのにピッケルを忘れるとはチオちゃんいい度胸してるなと思いながら待ち合わせ場所で2人と合流したら、エアマットを忘れたのはチオちゃんでしたが「ピッケルとストックを忘れた」と恥ずかしそうな顔をしていたのはよっこさんの方でした。大丈夫?と言いつつ、実は私も危うく出掛けになってサングラスと地図を忘れかけていたことに気付いていたのでした。

そんなこんなはありましたが、無事に3時すぎに廻り目平キャンプ場に到着し、とりあえずはテントを張って就寝しました。

2015/05/02

△03:00- 廻り目平

8時に目を覚ましてみると、事前の約束通りセキネくんとオカモトくんがそこに待っていました。彼らはこの日の日帰りでボルダー三昧という計画です。

運転のためにほとんど寝ていないよっこさんは、しかし元気いっぱいで2人の男子を引率し林の奥へと消えていきました。一方の私は今回はリハビリ&のんびりモードでいくと決めているので、午前中はテントでまったりすることにしてそのままシュラフに戻りました。ところがこの日の廻り目平は(と言うより日本全国的に)季節外れの暑さ。意識を取り戻してみればほとんど熱中症寸前でした。これはイカンとテントから這い出し、しからばと薪集めを始めたのですが、倒木の太い幹を欲張って運んでいるうちに今度はそれだけで腕が終わってしまいそうになりました。

登らなくても廻り目平は過酷な環境なのだなと変に感心しているところへチオちゃんが戻ってきてくれたので重い腰を上げて皆の後を追うと、よっこさんと男子2人は「石の魂」にトライ中。長身のセキネくんならランジ一発で解決ではないのか?と思うものの私にとっては百万年早い課題なので、チオちゃんに頼んで犬岩へ連れて行ってもらうことにしました。

その名の通り犬の顔のような形をしたこの岩には以前一度取り付いたことがありますが、今回はそのときに触っていないトラバース課題に挑むことにしました。冬の間は足の故障のためにクライミングシューズを履くことができなかった私は、やっと先日4カ月ぶりにジム練を再開したばかり。まして外岩に触れるなんて何カ月ぶりだろう?……などと言う感慨はすぐに消えて、手も足も出ない自分にムカつくばかり。何度も挑戦を繰り返した末に「今日はこのへんにしておいてやる」と定番の捨て台詞を残して転進することにしました。

向かった先は分岐岩。こちらもやはり、これまで何度かトライしているトラバース課題にトライしました。今度はいい線まで行ったのですが、最後の左足への乗り込みができずに惜しいところで没となりました。

まあ、今日はこんなものだろうとマットに横になれば、頭上には爽やかな風が吹き渡る空。ああ、平和だな……。

翌日に腕力を温存したい私とチオちゃんは、ここで切り上げて薪を拾いながらテントに戻りました。よっこさんたちはヴィクターに移動していて、私たちより1時間後にテントの前に戻ってきましたが、目立った収穫はなくてもそれぞれに楽しんだ様子です。ここでセキネくん・オカモトくんとはお別れで、残る3人は宴会モードにスイッチを切り替えました。

着火するにはティッシュ1枚とライターで足り、今年最初の焚火は威勢良く燃え上がってくれました。

主婦力を誇示するよっこさんに対し私はあらかじめ「一升瓶を3本担いでいけばいいですか?」と打診していたのですが、そちらは固辞されたのでビール6本とワイン1本を供出しました。

チオちゃんは金峰山荘から借りたダッチオーブンで豪勢にポトフを作り、2本目のワインが空く頃には3人ともへべれけになっていました。

2015/05/03

△-14:40 廻り目平

5時半に起床すると、あたりはもうすっかり明るくなっていました。

各自用意した朝食に前夜のポトフの残りを加えて腹ごしらえをした後、全員ヘルメットやハーネスを身につけて昨日とは別人の重装備となりました。今日はマルチピッチを登ることにしており、それも親孝行な娘2人が私を引っ張ってくれることになっているのでした。

向かった先はヴィクターの先の八幡沢の左岸。懐かしい「トムといっしょ」の左手高いところに見えている岩塔を目指す「春のもどり雪」(5.7-4P)が今日の目当てです。ここはクライミングを始めてすぐの頃である2001年にガイド登攀で登ったことがあり、それからもう14年がたつのですが、岩の形などはしっかり記憶に残っていました。

最初の2ピッチはよっこさんのリード。ロープを2本引いて離陸していきましたが、スラブ登りに慣れていないためにずいぶん怖い思いをしたようです。出だしの階段状を登ったところでクリップして、そこからの数mが摩擦係数頼みで確かに勇気を要しますが、この日も前日同様によく晴れて空気も乾いており、クライミングシューズのフリクションは抜群に利きました。

もっこり膨らんだスラブの右に上まで続くルンゼの途中で一度ピッチを切って、続く2ピッチ目もやはりスラブです。

途中の段差にあるたった一つのハンガーボルトにクリップしたら、左へダイクを辿るトラバースで頭上の薄いフレークを使えるようになり、そこからは安心して進むことができますが、リーチがないとつらいかもしれません。よっこさんも、クリップしてから目の前の凹角を進むか左へ出るかでずいぶん逡巡していました。

3ピッチ目からはチオちゃんのリード。やはり手掛かりのないスラブの洗礼を受けて出だしの何でもないところで右往左往して時間を使ってしまいましたが、そこを突破した後はスムーズにロープを伸ばしていきました。

4ピッチ目は岩塔の基部から垂直に伸びる短い凹角を登るだけ。その足元にある木がグラついているので、よっこさんは手前のしっかりした木にセルフビレイをとって確保態勢に入りました。

見栄えのする立ったオープンブックを颯爽と登るチオちゃんとよっこさん。1歩上がればガバがあり、また中間の安定して立てる位置(左の写真)にあるクラックにキャメロット#1を利かせられました。

これで登攀終了。最後のラペルステーションの上は広場状になっており、そこまで進んで腰を下ろして休憩としました。ほっと一息ついて「いやー、怖かった」という表情のチオちゃんでしたが、実はこれで終わりではありませんでした。ラペルステーションに戻ってロープを捌き、半分を私、半分をよっこさんが持ってまずよっこさんから投げてもらったのですが、そのロープの束は見事に眼下にある木の枝に引っ掛かってしまい、引き抜こうにも絡みついて動きません。もう少し右に落とせば普通にスラブを滑り落ちてくれたはずなのに……。仕方なく、私が下って空中からその木に取り付き、木登りの要領で手を伸ばすとどうにかロープの結び目をほどくことができました。

ちょうどこの頃に後続の男女2人が2ピッチ目を登ってきており、4ピッチ目と3ピッチ目をつないで下る我々と交差することになったので、先に2ピッチ目終了点のラペルステーションに着いた我々はその2人が上に抜けるまでそこで待つことにしました。ところがこのうち女性の方がなかなかファンキーな人で、3ピッチ目を登っていった男性が上から「あと何m?」と問い掛けてきたのに対し、足元に積み上がったロープのかたまりを眺めて「ぐしゃぐしゃでよくわかんないな。あと7m!」と適当にコール。えっ?どう見たって半分くらい残っているけど、と思っているとよっこさんがロープのマーキングを目ざとく見つけて「その黒いのは半分の印では?」と指摘し、それを聞いてくだんの女性は「あっ、そうですね。あと20m!」といきなり残りの長さを3倍に修正しました。すごい度胸だ……と感心しているうちに上からコールが掛かり、どうやら男性は無事に終了点に着いたようでした。

後は2ピッチの懸垂下降を残すだけ。結局、登り2時間余り、下りにも2時間近くをかけることになり、これでお腹いっぱいという感じです。「癒し系」のつもりで取り付きましたが、2人にとっても大いに楽しめた(?)模様で何よりです。

テントに戻って荷物を片付け、満杯の駐車場の中でテクニカルな切り返しを多用してここを脱出するとフリーモードは終了です。天気予報では翌日の夜に前線が通過するため北アルプスは雨。よっこさんたちは松本で1日レストして残り2日で西穂高岳を目指すことにしましたが、白馬岳方面に行くつもりだった私は相方と連絡を取り合ってあっさり中止にしてしまいました。雨の中でのテント泊がいやだったということもありますが、それ以上に今年の北アルプスの雪稜ルートはどこも雪解けが進み過ぎているという情報を得ていたためで、そこに雨が降ったのではますます藪のうるささや腐った雪の処理に苦しむだろうと諦めたのでした。

「清里チーズケーキファクトリー」でおいしいチーズケーキをいただき、「たかねの湯」で快適な風呂に浸かり、「そばきり祥香」でコシのある蕎麦をいただき(本当は3人とも焼肉LOVEモードだったのですがどこも満杯で入れず)、そして小淵沢で2人と1人に別れました。よっこさん・チオちゃん、ありがとうございました。西穂高岳はくれぐれも気をつけて。