子持山獅子岩

山頂  
分類 上信越
日程 2013/05/10
同行 セキネくん
概要 群馬県の子持山の岩峰・獅子岩で、7ピッチのマルチピッチクライミング。

子持山獅子岩全7ピッチ。ほとんどのピッチで、トポに載っているグレードよりワングレード上に感じました。(2013/05/10撮影)

獅子岩全景。確かに獅子のような狛犬のような形をしています。お尻のあたりに子獅子を乗せているのもキュート。(2013/05/10撮影)

朝6時にセキネくんに自宅近くまで来ていただき、関越自動車道を目指したところ、高井戸あたりの環八に入る手前でたいへんな渋滞。セキネくんは「ここはいつもそうなんですよ」と動じる様子もありませんでしたが、それでも業を煮やして別ルートへ向かう車が後を断たなかったので何かヘンだなと思っていたところ、交差点には警察官が大勢出ていて、その向こうではあろうことか、15tトラックが仰向けになっていました。これにはびっくり。

後で調べたところ、この日の午前3時15分頃に起きた事故で、事故処理は11時前までかかったそうですが、幸い運転手は無事だったそうです。

2013/05/10

■08:55 7号橋登山口

そんなアクシデントはありましたが、あとは順調に北を目指し、関越道を下りた後も『日本マルチピッチ フリークライミングルート図集』の記述伊熊北から左に子持山への農道に上がる。台地上に出た所で子持神社へ右折し、そのまま神社を通り越して7号橋の駐車場(ミニダムの下)まで入るに従って登山口へ進みます。3月に八ヶ岳で痛い目に遭っているので「四駆でなくて大丈夫ですか?」と一応聞いてみましたが、セキネくんは「雪がないので大丈夫」と真面目に答えてくれました。そりゃそうだ。

どんづまりの駐車場に車を停めて、おもむろに登山道を登り始めると、すぐに現れるのが屏風岩。これは立派です。見上げるときっぱり垂直の壁がどこまでも高く聳えていて、てっぺんを見通すことができないくらい。足元には役行者の像もあって宗教的な雰囲気が漂いますが、その上にはリングボルトのラインがあって、ここが人工登攀時代から登られていたことがわかります。

さて、登山口から獅子岩までは40分程の歩きということになっていますが、何しろここは、あの常吉さん現場監督氏というベテランコンビにリングワンデリングを強いたという恐ろしい山。我々も慎重にルートファインディングを重ねながら登山道を登ったところ(←ウソ。実際は一本道です)、上部で尾根筋に出る手前に赤字で堂々と「この先危険」と書かれた指導標があり、これを目印にその「危険」な方向へトラバースすれば、わずかの歩きで獅子岩の基部に達しました。

■09:35-10:00 獅子岩取付 ■12:55-13:25 獅子岩頂上

エプロン状の岩場基部の安定したテラスでまずはヘルメットを装着、ついでハーネスを身に付けて、セキネくんとジャンケン。買った私が1-2ピッチ目を担当することになりました。このルートは、ピッチを全部切れば7ピッチですが、各ピッチの間隔が短く、特に1-2ピッチ目と5-6ピッチ目はつなげて登られることが多いようです。そして核心部となるのは4ピッチ目、ということは1-2ピッチ目を引き当てた私が核心部もリードすることになるはずだったのですが……。

1ピッチ目(15m)、私のリード。すぐそこにラペルステーションが見えているし傾斜は寝ているし、楽勝ちゃう?と思いながら取り付いたら痛い目に遭いました。ホールドは全体に外傾していて安心してつかめるところが少なく、しかも中間のワンポイントで左手引きでそちらに身体全体を乗り上げていくところがあり、そのときバランスをとるための右手を預けるホールドがなくて往生。ラインが違うのか?しかしハンガーボルトはこっちへ来いと言っているし……と涙目になってしまいました。後でわかったことですが、この岩場はおおまかな岩のパターンの連続のように見えて、キーホールドは細かい(しかししっかりした)カチであることが多く、ここも右手のカチを見つけて足はスメアを信じればOKだったのでした。ここを何とか突破して1ピッチ目の終了点についたところで、早くも喉はカラカラ。ハイドレーションの水を飲みながら下でビレイしているセキネくんに「ここでピッチ切って、いい?」。

……セキネくんは、難なく1ピッチ目を抜けてきました。しかし、トポに書かれた「5.7」ってことはないでしょう。

2ピッチ目(20m)、セキネくんのリード。概ね直上ですが、このあたりから傾斜が立ってきます。途中に左足のハイステップがあり、そのときの手がそれほどよくはないので戸惑いますが、私の身長(足の長さ、と言った方がいい)でも、思い切って足を上げて乗り込んでいけばOK。ここも5.8くらいかな?

3ピッチ目(15m)、私のリード。ここは楽しかった。ブッシュ沿いに左上して頭上のフレークの左側に上がっていって、左手のちょっと甘いカンテ状をつかみながら右のフレークに手を伸ばし、フレークの下の方へのスメアも使って身体を右へ預けられるような態勢を作って、最後はフレーク上のガバを取って大胆に身体を引き上げます。1-2ピッチ目とはタイプが違いますが、体感5.8でしょうか。3ピッチ目の上は土のテラスになっていて、ここでシューズを脱いでしばし休憩。ここまでの思わぬ奮闘に、アルパイン用のバラクーダではなくスポート用のミウラーにしておいて良かったと心から思いました。

4ピッチ目(25m)、セキネくんのリード。ルート全体の核心部。ここまで弱音を吐くことがなかったセキネくんが、中間部でかなり逡巡している様子にビレイしているこちらも緊張しましたが、若干の試行錯誤(もちろんノーテン)の末にここを右上へ抜けて、最後に数メートル左へトラバースして終了。後続する私は、核心部でのセキネくんの登りを下から見ていて「なるほど、あの小さい突起に右足を乗せればいいのだな」と頭に入れていたので、我ながらスムーズにこのピッチをこなせました。というわけでオンサイトしようとすると体感5.9も、ホールドを瞬時に見つけられる目があればムーヴ的には5.8ということなのでしょうが、ちょっと厳しい。ともあれセキネくん、さすがです。

5-6ピッチ目(30m)、私のリード。5ピッチ目は左側から傾斜が寝たスラブの登りで、出だしの数メートルは浅いカチをとらえてスメアっぽく登っていくのですが、先月末の小川山でのスラブ登りの感覚が残っていてここは楽勝。ここで調子に乗ったのがいけなかった。見上げてみると一見ホールドが豊富そうな岩壁が目の前にあって、ボルトも短い間隔で打たれているので、クイックドローの残りを数えた上で「そのまま行っちゃえ!」と突っ込んだのですが、いざ取り付いてみれば壁はほぼ垂直で、ホールドも思ったほどガバガバではなく、「こんなはずでは……」と思いながらも際どく登っていきました。ところが、最後に壁を乗り越す手前の高さへ身体を引き上げたときに、何やら下から引っ張られる感覚。後ろを向いてセキネくんに「ロープ一杯?」と聞くと「まだあります!」という返事で、そのコールを聞きながらロープをチェックすると、ひとつ下のボルトに掛けたクイックドローにギアラックに掛かっているもう一つのクイックドローのスリングが掛かって、身動きがとれない状態になってしまっていました。仕方なく、最後のボルトに掛けたクイックドローを手でつかんで体重を支え、下から引っ張られているギアラックのクイックドローをはずしました。嗚呼、痛恨のA0!ここで緊張の糸が切れてしまい、目の前の岩壁を乗り越す気力もなく、左から巻き気味に土の斜面を経由してこのピッチの終了点へ。A0にしたからと言う訳ではありませんが、6ピッチ目も4ピッチ目と同程度の難しさがあるような気がします。

7ピッチ目(10m)、セキネくんのリード。6ピッチ目の終了点は獅子岩頂上部から一段下りたところから歩いて回り込める安定したテラスになっていて、ここで登攀を終わりにすることもできますが、せっかくなので最後の短い凹角を登ってきっちり獅子岩のてっぺんへ抜けました。ここは出だしワンポイントだけ5.7。

ここまで、真夏なみの暑さに息を切らせながらの登りでしたが、上に抜けてみれば風が強く、一枚余分に羽織りたくなる気温でした。しかし、山頂の岩は日に照らされていたために熱を蓄えており、シューズを脱ぎザックも下ろして背中を岩にもたせかければ気持ちの良い温かさ。トカゲの気持ちが良くわかります。また、獅子岩の上からの眺めは広闊で、遠景こそ霞がかってはっきりしなかったものの、子持山の複雑な山容の面白みが楽しめました。この岩が安山岩でできていることからわかるように、子持山は火山で、獅子岩はその主火道であったものが侵食によって岩塔状に残ったもの。また、見下ろすと崩れかけた家屋のような板状の岩壁が散見されましたが、それらも主火道から溶岩が山体の割れ目を放射状に広がった名残りの岩脈です。

それにしても、この獅子岩の絶巓はすごい高度感で、自分もそれなりに高いところには慣れているはずなのに、下界を見下ろすと足が竦んでしまいます。それでも獅子岩の最高点である岩の上に立とうとするセキネくんの背中に向かって、つい告白。

「今まで黙っていたけど、実は私はセキネくんに高額の生命保険を……」

クライミングパートナーをなくしたくなければ、こういうジョークはやめておきましょう。いつ本当のことになるかわからないし。

■14:40 7号橋登山口

子持山山頂まではかなりの距離があるので登頂は後日の機会に譲ることにし、登山道を急下降しました。そして、登攀途中での落とし物を回収するために、セキネくんは岩場の取付へ。

帰路は、獅子岩の足元から標識のない尾根を下ることにしました。こちらを下ると獅子岩の全景が見られるというのはいず姫と常吉さんが登ったときの記録を読んで承知していましたが、しばらく痩せ尾根を歩いて一段高くなったところから振り返ると、なるほど確かに獅子の形。ライオンにしてはちょっと頭が小さいような気もしますが、左のハングは口、最高点は耳、そして後頭部のブッシュはたてがみのように見えます。お尻のあたりに相似形の子獅子をちょこんと乗せているのも、何気にキュート。

この痩せ尾根、左右がすぱっと切り立ち、ところどころに岩壁を露出させているところからすると、上述の岩脈のひとつであることは間違いなさそうです。折しも花を咲かせ始めたツツジを愛でながら、しかし一向に高度を下げる気配のないことに「このままどこへ連れて行かれるんだ?」と多少不安にも思いましたが、どうやらこの尾根道は屏風岩の上へ続いている様子。ということは、登り始めに見上げたあの立派な屏風岩も実は相当に薄いのかな?

やがてひときわ露出した小岩峰の手前から左へ下って、ロープ頼みに下るちょっとした岩場を過ぎれば、すぐに登りに使った登山道に合流しました。

子持山獅子岩は、トポでは5.7〜5.8とありますが、体感は各ピッチともワングレード増し。しかし、支点は整備されており、岩も堅くて安心。フリクションもよく効き、終わってみれば楽しいルートでした。現場監督氏のアドバイスを受けてクイックドローは二人で12本を用意しましたが、適正な数であったと思います。ラインが若干屈曲するので、ダブルロープが有効。そして、私のチョンボで全ピッチOSとならなかったのは返す返すも残念でしたが、いい勉強になりました。