魚野川万太郎本谷

山頂  
分類 上信越 / 沢登り
日程 2011/09/10-11
同行 ゴディーさん
概要 万太郎本谷を遡行し、一ノ滝上で幕営。翌日、二ノ滝と三ノ滝を越え、本谷を忠実に詰めて肩ノ小屋近くに抜け、天神尾根から天神平へ下山。

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一ノ滝。上の画像をクリックすると、魚野川万太郎本谷の遡行の概要が見られます。(2011/09/10撮影)

二ノ滝。右から簡単に上がれます。(2011/09/11撮影)

三ノ滝。複数のパーティーで渋滞が発生していました。(2011/09/11撮影)

谷川岳北面の沢を代表する万太郎本谷は、私の手持ちのガイドブックによれば「登攀的な沢が多い谷川連峰の中では、ゆったりとした沢登りが楽しめる」沢ということになっていました。そこで、昨年巻機山の米子沢にご一緒したゴディーさんに声を掛けて、癒しの沢を楽しむことにしました。

2011/09/10

■08:40 土樽駅 ■09:25-45 入渓点 ■11:20 オキドウキョのトロ

始発の上越新幹線の中でゴディーさんと落ち合って、越後湯沢から在来線で土樽駅に到着。ゴディーさんは車内でスタミナドリンクを飲んで、気合十分です。駅前のポストに登山届を投函し、強い日差しにあぶられながら徒歩45分で入渓点の堰堤に到着しました。

沢装備を着けて、いざ入渓。私は以前、井戸小屋沢を遡行するために万太郎谷に入ったことがありますが、ゴディーさんは初めて。そしてゴディーさんはあらかじめ、こんなことを言っていました。

カナヅチなので足つかない所はお助けヒモよろしくお願いします(>人<)

この沢、泳ぐ場面が多いんだけど……。

出だしは明るい渓相にゴディーさんも私も大喜び。水温も低くないので、水につかるのもそれほど苦になりません。エメラルドグリーンの釜を渡って小滝をへつったり、きれいなナメ床でウォータースライダー(といっても全然滑らない)をしたりしているうちに、前方に谷川岳の勇姿も見上げられるようになって、俄然やる気が上がってきました。

やがて、少しずつ登攀的な小滝が出てくるようになってきました。どうどうと水を落とす威圧的な滝は、釜を渡って滝の左側のカンテ状を甘いホールドを使って上へ。関越トンネルの換気口をやり過ごした先に出てきた斜めの滝は手前の壁の直登ですが、取り付きがちょっとトリッキー。いずれも念のためロープを出しました。

そうこうするうちに、オキドウキョのトロに到着。ちょうど奥の方では先行パーティーが数人で壁にとりついており、派手に背中から落ちたりしていました。まず手前の流れの急なパートは、わずかの距離ですが私がロープを引いて泳いで対岸の一段高いところに渡り、ゴディーさんを引っ張ります。続いて左岸の壁を上へ抜けるのですが、前に苦もなく登ったはずのところがまったく記憶に残っておらず、あれやこれやと試行錯誤して無駄に冷や汗をかきました。それでも何とか壁の上に這い上がり、ゴディーさんには傾斜が立った階段状のところを確保された状態で登ってもらって一件落着。

日の当たるところで行動食をとりながら休憩しましたが、この先、井戸沢を右に分ける前後から水につかる場面が増えてきます。釜を泳ぎ渡って取り付いたり、壁に沿って横に泳いだり、さらに奥に小滝を擁するミニゴルジュが現れたり。

足が底につかない場面ではロープを出すようにしましたが、ゴディーさんもカナヅチとは言いながらしっかりついてきていました。しかし、谷川岳北面の沢でよく見られるスラブ滝になると、渡ったはいいものの壁に乗り上がるのがたいへん。そこで苦労しているうちに、体温と体力をどんどん消耗してしまいます。天気もだんだん悪くなってきて、沢の中が薄暗くなってきました。

そして、右岸から合流するデトの滝沢を見送って釜の右側壁を歩いていたゴディーさんが、段差を降りようとしたところで足を滑らせて釜に落ちてしまいました。しばらくは手足をばたつかせながら何とか側壁に乗り上ろうとがんばっていたのですが、そこは水深はなくても緩やかに釜の底へ傾斜が続いていて手がかり足がかりがなく、そのうち浮いているだけでも必死の状態になってしまいました。あわててお助けスリングを垂らすこと二度三度、やっとスリングがヘルメットを叩いたのに気づいたゴディーさんがスリングにすがりつき、これを岸に引き寄せたところで腕をとって引っ張り上げることに成功しました。幸い水はさほど飲んでいなかったようで、岸に上がるとすぐに元気を回復してくれましたが、かなり危ない瞬間でした。

■14:20 一ノ滝 ■14:25-16:15 一ノ滝の高巻き ■16:20 一ノ滝上幕営地

気を取り直して遡行継続。時間的にもお天気の面でも、そろそろ行動を打ち切りたいところ……と思っていると、目の前に一ノ滝が現れました。大きい!写真で見るよりもずっと立派です。ここは滝の右を直登する記録もありますが、我々は最初から巻くつもり。しかし、滝のすぐ右手のゴルジュは立っている上に頭上を岩にふさがれているようで、どうもここから巻き上れる気がしません。しからばもっと手前の支沢か?ちょっと戻り過ぎの感もありますが、取り付くならこちらの方が容易そうに見えました。悩みながら手前の支沢を見上げていると、一ノ滝の落ち口に先行パーティー数人の姿が現れました。手を振り合ってから、「こっち?」と支沢を指差すと、先行パーティーは腕を振り上げる仕種。それを私は「Go ahead!」と理解したのですが、後で考えると「そこじゃなくて、もっとこっちだー」と言っていたのかもしれません。ともあれロープを結んで支沢を登り始めたのですが、途中でピッチを切りながら登るうちに沢筋の傾斜はどんどん立ってきます。人間の心理とは不思議なもので、一ノ滝の高さから考えてこんなに登るはずはないと思っていても、つい今登っているルートの中に先人の踏み跡を探してしまい、それらしい痕跡(のように見える凹凸)が目に入ると「やっぱりこっちであってるんだ」と自分を納得させようとしてしまいます。そして気がつけば支沢の突き当たりはぼろぼろのザレ壁で、進むも退くもできない状態。一歩進むたびに足元が崩れるようなシチュエーションにアドレナリンMaxになりながら、なんとか左の草付に逃げこんで灌木にセルフビレイをとりました。ああ、怖かった。しかしルートミスはもはや明らかで、こうなったら藪漕ぎで高巻くしかありません。ゴディーさんを引っ張り上げてから、密集した灌木や笹の中を漕ぐこと1時間。沢の上流の地形が見える尾根上に立ったところでだいたいの現在地が把握でき、そこから斜めに下って小さな沢筋にぶつかると、そのすぐ下が本谷でした。ちょうどそこに通りがかった4人パーティーに「ここはどこですか?」と間の抜けた質問をしたところ、一ノ滝の少し上だとの返事。どうやら距離的にはそれほど無駄な藪漕ぎはせずにすんだようですが、支沢を登り始めてからここに下り立つまでに2時間近くも使ってしまいました。先へ進むという4人パーティーと別れて手近な場所にテントを張ることにしたものの、折しも激しい雨が降り始めたため、増水に備えて一段高い草の中を踏み固めてスペースを作り、手早くテントを張ると中にもぐりこみました。

持参したビールで今日一日の奮闘に乾杯し、ゴディーさんが作ってくれたポトフで温まると、少しは人心地がつきました。しかし、とりわけゴディーさんはシュラフをはじめザックの中のものがほとんど濡れており、おまけにテントの中にも水たまりができる始末。明日はせめて雨だけでもあがってほしいと念じながらも、ゴディーさんが自分のことを「雨女」だと言っていたことを私は思い出していました。

2011/09/11

■07:10 一ノ滝上幕営地 ■07:30 二ノ滝 ■08:30-10:30 三ノ滝

不快な一夜が明けて翌朝、どうやら雨はあがってくれていました。神はいまだ我々を見放さず……。つらい思いをしながら冷たい沢靴に足を入れて出発すると、すぐに二ノ滝。ここは右の岩壁上に明瞭な踏み跡ができており、難なく上へ抜けることができます。ただ、落ち口を右岸に渡るところは水圧が強そうで、ここも念のためロープを使用。

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二ノ滝の上は開けた地形になっていて、なるほどここなら何ヶ所か幕営適地が見つけられそうです。実際、いくつかの幕営跡も目に入り、そのいずれも昨夜の我々のテントサイトよりはるかに快適そうでしたが、昨日のうちにここまで来るのは時間的にも体力的にも難しかったでしょう。ただしそれは、一ノ滝の高巻きルートを間違えた私のせいですが……。そんなことを考えながら遡行を続けているうちに、三ノ滝が見えてきました。奥に見えているのは三ノ滝沢、その手前に左から落ちて来ているのが三ノ滝で、そこには複数のパーティーが取り付いています。

三ノ滝は二段になっており、下流側の凸凹の壁を登るラインと奥の凹角を登るラインとのそれぞれに人が登っていましたが、我々はロープの長さ(30m)に不安があったので奥の凹角が空くのを待つことにしました。ちょうど取り付いているのは、昨日一ノ滝の上で現在地を教えてくれた4人パーティーでしたが、二人目の若者がかなり苦戦している模様です。単純に慣れていないということもあるのでしょうが、プルージックでの登りは確かに怖いもの。あせることなく、行動食を口にしながらのんびり順番を待つこと40分、ルートが空いたので行動開始。凹角を一段上がったところに残置ピンがあって、そこで最初のランナーをとり、ついで左のフェースに乗り上ってトラバースすると、そこに2本目のピトン。先行パーティーはそこから直上していましたが、手がかり足がかりが乏しくちょっと嫌な感じなので、さらに左へトラバースして3本目のランナーをとると、そこから上はホールドが得られて下段を抜けることができました。

ゴディーさんも難なく登ってきて、さて上段はどうしようと見上げたのですが、本来のルートである滝の左側は水量が多すぎて叩き落とされそうな感じです。先行パーティーも全て右の細い支沢を上がってから左へトラバースする作戦をとっており、我々もこれにしたがうこととしました。ここでも待つことしばしの後、まずは本流の斜面を少し上がって右上から左下へ走っているクラック状のバンドに達し、そのままバンドを伝って右上します。下からは危なっかしそうに見えたこのバンドも、実際に乗り込んでみるとしっかりしたフットホールドを提供してくれていて、途中に1ヶ所ランナーをとれる残置ピンもあり安心して登れました。

右上の支沢は樹林帯の中に入ってゆき、その適当なところで左へ転進。左へ入るところが明瞭ではなく見落として上がり過ぎかけましたが、どうにか軌道修正して最後はぴったり三ノ滝の落ち口に出ることができました。

■12:00 奥の二俣 ■13:40-14:00 稜線の登山道 ■14:05 肩ノ小屋 ■15:15 天神平

三ノ滝の上の狭い岩溝のような流れを越えてゆくと二俣になって、ここから先は地形と方角を見ながらの遡行となります。実は『ROCK & SNOW BOOKS 沢登り』の遡行図だと全ての二俣を右へ進むようにはっきりと書いてあるのですが、このとき手持ちの遡行図では二俣の扱いが不分明。このため、二俣に着くたびにコンパスを見て、とにかく南寄りへ向かうことにしました。

分岐は3回あって、その全てを右にとると沢筋は笹に覆われることなくどんどん高度を上げていきます。これはどうやら正解だったかな?と思いながら岩がちな沢筋をひたすら詰めましたが、さすがにゴディーさんは体力の限界にさしかかってきたようで、顔には玉の汗。足も上がらなくなってきました。これで最後に藪漕ぎが待っていたらたいへんだったでしょうが、幸いそういうことにはならず、最後の最後に膝丈程度の笹をかき分けると傾斜が落ちて、ひょっこり登山道に飛び出しました。

ガスのために現在地がはっきりとはわからなかったのですが、沢装備を普通の山装備に換装して山道を登り始めると、5分とたたないうちにガスの中に肩ノ小屋のシルエットが浮かび上がりました。やれやれ、もう登らなくてもすみそうです。それでも念のため、ゴディーさんに質問してみました。

私「山頂に行きますか?」
ゴ「行かなくていいです!」

天神尾根を下ってロープウェイ乗り場に着いたところで、山行終了。ゴディーさん、お疲れさまでした。溺れかけたり、藪漕ぎをさせられたり、水浸しのテントで一夜を明かす羽目になったりと盛りだくさんで、とても癒しの沢とは言えなかったでしょうけれど、これに懲りずにまた沢登りへ行きましょう。え、もうたくさん?