塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

一ノ倉沢衝立岩中央稜

日程:2010/05/29

概要:残雪の一ノ倉沢を詰めてテールリッジから衝立岩基部に達し、中央稜を登る。登攀終了後は同ルート下降。

山頂:---

同行:きむっち

山行寸描

▲一ノ倉沢の雪渓からテールリッジへ。上の画像をクリックすると、一ノ倉沢衝立岩中央稜の登攀の概要が見られます。(2010/05/29撮影)
▲3ピッチ目の高度感のあるトラバースを行くきむっち。この頃は日も当たって岩が乾くかと期待したのだが……。(2010/05/29撮影)
▲核心部のチムニーを見上げる。またA0にしてしまった。(2010/05/29撮影)

「谷川岳(のアルパイン)を登りたい」というきむっちの希望を聞いたのは、たぶん阿弥陀岳に登った帰路でのこと。一ノ倉沢で最初に取り付くとすれば南稜か中央稜が定番ですが、これらはもちろん私も既登。しかし私も一ノ倉沢にはまだいくつか登りたいルートがあるので、それでは中央稜と凹状岩壁、南稜とザッテル越えといった組み合わせで初夏と秋に登ろうということにして今回はその第1弾です。

私は金曜日の仕事を早引けして17時20分に渋谷を発ち、21時すぎにはベースプラザに入ってただちに就寝しました。きむっちは午前1時頃に車でベースプラザに着いたそうですが、爆睡中の私はさっぱり気付きませんでした。

2010/05/29

△04:20 一ノ倉沢出合 → △04:40 テールリッジ末端 → △05:20-05:40 中央稜取付 → △09:45-10:15 終了点 → △14:00-10 中央稜取付 → △15:00 テールリッジ末端 → △15:15 一ノ倉沢出合

3時起床、3時半ベースプラザ出発としましたが、きむっち号で一ノ倉沢出合に着いてみるとまだ真っ暗。車中で少し待機して、衝立岩の姿がある程度見えるようになった頃に車外に出て準備を始めました。我々の音を合図にしたように駐車場にいた他の車からもクライマー達が出てきましたが、幸いなことに我々が1番手となって雪渓に足を踏み入れることができました。

雪の量はたぶん平年並みといったところなのでしょうが、出合からテールリッジまできれいにつながっていてさくさくと進むことができました。テールリッジ末端にもいやらしいシュルントはなく、そのままテールリッジをアプローチシューズで登りましたが、前日までの雨で岩は濡れており、途中ワンポイントIV級となる箇所は残置ピンにクイックドローをかけて慎重に越えました。

中央稜取付でシューズを履き替えいよいよ出発。今日は奇数ピッチをきむっち、偶数ピッチを私がリードすることにしました。

1ピッチ目(IV):階段状ですが、きむっちは確実にロープを伸ばして行きます。

2ピッチ目(III):出だしを左奥に回り込むところが、ルートに慣れていないと見つけにくいかも。しかし私はこのルートを登るのは既に3回目です。

3ピッチ目(IV):最初のトラバースが際どいところですが、ここもきむっちは難なく進んでいきます(Good job!!)。その先は浮き石が多く神経をすり減らすフェース。

4ピッチ目(IV,A0):出口のチムニーが核心部で、過去2回A0している私は今回は途中で左のフェースに転進するつもりだったのですが、立ったフェースに余裕なく残置ピンを追ううちに気が付くとチムニーの中に吸い込まれていました。おまけに右壁はびしょ濡れでスメアが利かず、かといってバックアンドフットには狭く……と万策尽きて残置ピンの頭を踏んでしまいました。

5ピッチ目(III):易しい凹角を登ってリッジ上の顕著なピナクルまで。

ところでこの頃南稜の方を見ると、ちょうど烏帽子沢奥壁のトラバースバンドを渡っているパーティーの中で落石が起こり、同じパーティーの後続が手を傷めた様子。彼らはしばらく鎌形ハングの下に留まって治療や善後策の協議、さらには怪我人を置いて残りのメンバーが南稜テラスの見学(?)に行ったりしていましたが、高いところから見ているこちらはどうして早く下山しないのかとやきもき。幸い南稜フランケなどに人がいないとは言うものの、落石は人が起こすものとは限らないのに。

6ピッチ目(III+):岩が堅くて本来は快適なフェースですが、この頃には雲が稜線から下に降りてきて気温が下がり、気分もグレー。

7ピッチ目(III):カンテ状から凹角を登ります。ビレイ中に左手を見るとちょうど凹状岩壁6ピッチ目の崩壊地が見えていて、そこだけ岩の色が白っぽくちょうどセメントを吹き付けたみたいに見えました。明日はあそこを登ることも考えていましたが、見るからに濡れてところどころ水が流れてすらいる烏帽子沢奥壁を見て戦意喪失。明日登れるとしても、勝手がわかっている南稜に転進することにしようとこのとき決めました。

8ピッチ目(III):湿ったチムニー登りから階段状を登り、最後に右手に1段降りてII級程度のルンゼ。終了点まであと2mでロープいっぱいになったのでいったん灌木でピッチを切り、後続のきむっちが視界に入ったところで改めてロープを伸ばしました。

初めての一ノ倉沢での登攀を無事終えたきむっちと握手の後、シューズを履き替えて軽く食事。後続の2人パーティーが終了点に到着したところで、コップスラブの残雪を敬遠して北稜下降ではなく同ルート下降を開始しましたが、II級ルンゼを下りきったところの中間支点にさらに後続の2人組が着いていて、ここでしばらく待機することになりました。2人組のトップがII級ルンゼではなく正面のフェースに取り付いている間にビレイヤー氏に話を聞くと彼らの後ろにさらに数パーティーいるとのことだったのですが、待てど暮らせど後続は現れないのでビレイヤー氏が登り始めて支点が空いたところで下降を再開しました。ただしII級ルンゼのロープ回収時に結び目が岩に引っ掛かって落石を起こしてしまい、続く登り7-8ピッチ目の間も傾斜が緩く岩も脆い場所が続くので、ここから暫くは50mロープ1本での下降を重ねました。全ての下降はラインを把握している私が先行し、後続のきむっちが下降してきてロープを回収している間に私の方は次の懸垂下降のための支点が不安だと思えばスリングを付け替えるという手順で、そのために6mmスリングを多めに持ってきています。そして登り6ピッチ目はすっきりしたフェースになるのでロープ2本をつなぎ、ピナクルの横から凹角まで一気に下ったのですが、ちょうど登り4ピッチ目の核心ピッチを抜けたところのテラスにようやく、登りパーティーのトップが後続をビレイしている姿が目に入りました。

このためその手前のテラスでピッチを切り、きむっちにもそこまで降りてきてもらって下のパーティーが通過するのを待つことにしたのですが、なにしろただでさえ核心部で時間がかかる上に下のパーティーは実は3人組。ここで丸1時間も待つことになりましたが、山は登り優先だし相身互いです。登りパーティーがいれば下降は控えるのが基本です。下の3人が核心部を抜けきったところで「先に降りて下さい」と言っていただいたのですが、我々のすぐ後ろにも同ルート下降を選択した2パーティー4人が待機していて、それらが全て降りるのを待っていたら彼ら3人組は時間切れ敗退にすらなりかねません。そんなわけで3人にはさらに登ってもらって、すれ違い終えたところでいったん短く核心部の上、つまり先ほどまで3人がいたテラスへ下りました。

ここからはほぼ垂直の壁が下まで続いています。ロープを2本つないで一気に50m目いっぱい下ると、そこは登り3ピッチ目のトラバースを終えたあたり。そこからもう一度50m下れば、ぴったりトラバースバンドに達することができました。

後続からの落石を避けるために中央稜取付に直ちに移動してからロープを畳み、岩が濡れているので積極的にロープも出してテールリッジを下り、無事に雪渓の上に降り立ちました。

駐車場に戻ってギアをしまうと、何はともあれ湯テルメへ直行。風呂につかってさっぱりしてから夕食をとりに車を走らせたのですが、時計の針が17時を回っていないせいかめぼしい食堂はみな閉まっています。仕方なくどんどん南下するうちに、いっそ沼田の「山彦」まで行くか!ということになりました。

ここは以前、2007年に尾瀬の小淵沢を遡行した際の帰路に立ち寄って以来ですが、怒濤のボリュームは健在です。うまい!けど多い!と悲鳴を上げながらなんとか完食し、近くのショッピングモールで翌日の朝食と行動食を仕入れてベースプラザに帰還しました。しかし結局、その夜に降った雨が翌朝まで残ったため日曜日の登攀は中止となり、ゆっくり朝寝してから帰路に就きました。