富士山

日程:2008/06/07

概要:富士スバルライン五合目から佐藤小屋経由吉田口頂上に登り、その日のうちに馬返しまで。

山頂:吉田口頂上 3710m

同行:---

山行寸描

▲八合目あたりから雪が道を覆うようになった。例年になく雪が多い様子。(2008/06/07撮影)
▲吉田口頂上の鳥居。狛犬も吽形の方が腰まで雪に埋もれている。(2008/06/07撮影)

1週間前、西丹沢の小川谷廊下に行くために待ち合わせた小田急線新松田駅から上半身を銀色に輝かせた富士山の姿を見て「この時期にしては雪が多いじゃないか!久しぶりに登ってみよう」と心に決め、帰宅すると直ちにバスを手配しました。これまでのパターンだと、土曜日の朝に新宿を発つバスに乗って昼前に富士スバルライン五合目に着き、その日のうちに吉田口頂上まで登ってから六合目まで下って佐藤小屋泊。日曜日に佐藤小屋から山頂まで登り返して、富士スバルライン五合目へ下る、というのが吉例なのですが、あいにくこの週末は佐藤小屋が営業しておらず、また日曜日の天気予報も悪かったので、土曜日の日帰りとすることにしました。

2008/06/07

△11:50 富士スバルライン五合目 → △12:10 佐藤小屋 → △16:05-20 吉田口頂上 → △18:45-55 佐藤小屋 → △20:00 馬返し

渋滞の影響で予定に対し30分遅れでバスは富士スバルライン五合目に到着。持参したパンと水でそそくさと昼食をとってから出発しました。水平道の入口にはでかでかとこの先富士山登山道はなだれにより大変キケンである為通行することは出来ません。と書かれていますが気にせず先に進むと、今度は泉ヶ瀧分岐から富士山安全指導センターまでの斜めの道が工事のため通行止めなので佐藤小屋まで迂回せよとの看板。はいはいわかりましたとさらに足を伸ばして、佐藤小屋からの歩き慣れた道を登りました。八角堂から上の樹林帯の中にも残雪が随所に見られましたが、安全指導センター近くの開けたところからはガス越しに上の方の雪の多さが見てとれます。

それでも七合目まではおおむね夏道通りに歩けましたが、その先は雪が道を覆うようになってきたので、古いミレーのリュックサックを下ろしてシューズを残雪期用登山靴に履き替えました。さらに八合目あたりからは登山道を完全に外れ、山頂に向かって左寄りの雪面を直登しました。最初のうちは快調に高度を稼いでいきましたが、徐々に風が強くなって時折身を屈めて風をやり過ごさなければならず、しかも3200mあたりから軽い高山病の症状が出始めてペースがすっかり落ちてしまいました。16時には引き返し始めなければと気ばかり焦りますが、足はなかなか上がりません。山スキーヤーがすいすいと下っていく姿を横目で見ながら、20歩登っては一休みを繰り返しました。

九合目の鳥居の上の斜面で3人のスキーヤーがつぼ足で下ってくるのと行き合いましたが、そのうちの1人がこちらに「登らない方がいいですよ。風が強い。危ない」とアドバイスしてくれました。「ありがとう」と返事はしましたが、それは最初から織り込み済み。最後のひと登りを頑張って寒風と残雪と暗い空の吉田口頂上に到着し、かじかんだ手を息で暖めながら行動食がわりのクリームパンを食べ終えたらアイゼンを着けて直ちに下降を開始します。幸い雪は柔らかく、傾斜も大したことはないので順調に下降することができました。その途中、上部の雪面ですれ違った単独の年配の男性はテント持参で今夜は山頂に泊まると言っていましたが、きっと相当寒い思いをしたことでしょう。

七合目の東洋館に下り着いたのが18時少し前。いくら日が長い時期だとは言ってもそろそろ日没を気にしなければならない時間帯ですが、そこで下から上がってきていた外国人の若い男性に声を掛けられました。

外「上まであとどれくらい?」
私「たぶん、3時間くらい」
外「雪は多いかな」
私「もちろん!風も強いし、第一もうこの時刻では下った方がいいよ」

彼は多少残念そうな顔をしたものの、一度下ってキャンプして、明日もう一度アタックすることにしたようです。富士山ではよくこのように、我々の感覚ではあまりに遅い時刻に上を目指す外国人に遭遇します。これまでは「計画性がないなあ」と半ば呆れていたのですが、もしかすると彼らはもともと高緯度地域在住で、その感覚で時間を計っているのかもしれないと思い至りました。たとえばツェルマットでは、夏は夜10時まで十分に明るいのですから。

ともあれ、これで遭難者を出さずにすんだと喜びながら一つ下の鳥居荘まで下りると、そこにも外国人2人組が待っていて私に声を掛けてきました。

外「上まであとどれくらい?」
私「……」

佐藤小屋から下界のタクシー会社に電話を入れて20時ちょうどに馬返しに迎えに来てくれるように頼み、すぐに登山道を下り始めました。しばらくは残照があって見通しがよかったのですが、20分ほども下るとすっかり日が落ちてヘッドランプの助けを借りて下るようになりました。歴史のある登山道であるこの道は随所に江戸時代の遺構や解説標識があって、明るければ飽きることがなさそうですが、夜の下降にはこれらもかえって不気味。幸いにも、以前この道を夜中に登ったことがあったので、なんとか約束の時刻通りに馬返しに下り着くことができました。