剱岳源次郎尾根

山頂 剱岳2,999m
分類 北アルプス / アルパイン
日程 2007/10/06-08
同行  
概要 黒四ダムから内蔵助平、ハシゴ谷乗越を経て真砂沢ロッジ泊。翌日、剱沢を遡って源次郎尾根に取り付き、剱岳へ抜けて剣山荘へ。三日目に室堂へ下山。

剱沢から源次郎尾根を経て剱岳へ、そして剣山荘へ。(2007/10/07撮影)

紅葉のI峰ルンゼ。ルートは手前の尾根から上部で右上の主稜線に合わさります。(2007/10/07撮影)

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II峰全景。懸垂下降は下部のテラスまで50mロープ1本でぴったり足りました。(2007/10/07撮影)

8月に膝を傷めてから、9月は山行はおろか、ジョギングや階段昇りなど日常のトレーニングもまったく行っていなかったのですが、さすがにこれではまずいと心を入れ替えて、ソロでも行けて体力・技術両面での負荷も少ないルートを物色した結果、剱岳の源次郎尾根に照準を定めました。いわばリハビリ山行です。

2007/10/06

■07:25 黒四ダム ■08:30 内蔵助谷出合 ■10:30 内蔵助平 ■12:25-35 ハシゴ谷乗越 ■14:05 真砂沢ロッジ

新宿を金曜日の22時半発の「爽やか信州号」で、一路扇沢へ。この夜行バスはこれまでも何度も乗ったことがありますが、今回はなぜかひときわ寝心地が悪く感じられ、ほとんど眠れないままに目的地に着いてしまいました。季節の変わり目のこの時期はレイヤードにも悩みますが、少なくとも早朝の寒気の厳しさには、長袖クロロファイバーのアンダーウェアをチョイスした自分の読みを褒めてやりたいと思いました。

立山黒部アルペンルートのトロリーバスは臨時で6時半に始発が出ており、ターミナルの食堂で朝食をとってから列に並んで7時発のバスに乗りました。トンネル内の黒部ダム駅でダム方向には向かわず少し直進してから左折すると、ダムのやや下流の高い位置に出ます。ここから黒部川に向かって急下降し、観光放水中のダムを振り返りながら板橋を左岸に渡って、下の廊下に続く川沿いの道をしばらく行くことになります。

内蔵助谷出合で、大半の登山者は右手、下の廊下へ向かいます。こちらは左手へ曲がりわずかに登ると、すぐに道の左手に小さな広場が現れ、クライマーのパーティーがテントを設営しているのに行き当たりました。なるほどこれが、丸山東壁を登る際のベースキャンプになる広場なのか、と記憶にとどめることにしました。ここは、遠からぬうちに利用することになるかもしれません。そして、さらに進むと左手に「黒部の巨人」と呼ばれる丸山東壁が見えてきました。黒部三大岩壁と言えば奥鐘山西壁、黒部別山大タテガビン南東壁、そしてこの丸山東壁ということになりますが、何段ものハングを連ねる奥鐘山は難しすぎ、大タテガビンは岩が脆すぎるのに対し、この丸山東壁を代表する緑ルートは初・中級者向けの人工登攀ルート。私も3年ほど前から狙っているルートです。それにしても立派な岩壁です。濡れて黒く光った東壁は、左右に深い切れ込みを伴ってぐいと正面に突き出しまるでモアイの顔のよう。途中の三日月ハングや中央バンドもよく見えて、登攀意欲を大いにそそられました。

こちらは後日の楽しみにとっておくことにして、今日はとにかく真砂沢ロッジまでのんびりと歩くことにしよう……と思いながら薄曇りの空の下徐々に高度を上げて行きましたが、だんだん寝不足がこたえるようになってきました。内蔵助平の橋を渡った先、白岩・白ザレの涸れ沢を進んでいる途中でどうにも我慢できなくなり、手頃な砂地の上に石を枕にしてごろんと横になったら実に寝心地がよく、そのまま30分ほども寝込んでしまいました。気持ちよく寝ている間に青空が広がったらしく、夏の日差しにも近い直射日光の暑さに目が覚め、歩行再開。道はやがて沢筋から斜面に付けられた歩きやすい登山道に変わり、ハシゴ谷乗越へと導かれます。

ハシゴ谷乗越のちょっと東側には見晴らしのよい展望台があり、そこから振り返れば内蔵助平の全景が、そして反対側には待望の剱沢側の景色が眺められ、遠くの鞍部には池ノ平小屋も見えています。また、ハシゴ谷乗越から少し下ると剱沢の雪渓、源次郎尾根、八ツ峰の末端も見えてくるようになり、いよいよ剱岳の懐に近づいたことが感じられて気合が入ってきます。

その名の通り梯子の多い下降路を膝をかばいながらひたすら下り、剱沢に到着。左岸に渡って、これまた歩きやすい道を、しかし案外長い時間歩いて、やっと真砂沢ロッジに到着しました。早速受付に向かい宿泊を申し込むと、「予約は?」「してません」「うーん。池ノ平ならまだ今からでも間に合いますよ?」「あっちには行きません。源治郎が目的なんで」。予想されたことではありますが、この時期の剱岳周辺の山小屋はどこも激混み。真砂沢ロッジもご多分に漏れず、というわけだったのですが、それでも小屋の御主人は何とかやりくりしてくれて、布団1枚に2名という割当てではありましたが今宵の寝床を確保することができました。

とりあえず荷を置いて、小屋前のベンチに座って缶ビールを飲みながら剱沢上流の山や雪をぼんやり眺めました。こののんびりとした時間は、久しぶりに味わう単独行の醍醐味です。もっとも、あまりの客の多さに食堂にも登山者を収容しているため、夕食も朝食もお弁当。そんなわけで16時過ぎに配給された夕食をさっさと食べてしまうと、まだ明るい内に寝床にもぐり込みました(ちなみに宿泊代も500円引きになっていました。小屋の御主人の対応も含め、良心的な経営の山小屋だなと好感をもちました。そのせいか、常連客も多いようです)。

2007/10/07

■05:25 真砂沢ロッジ ■06:25 源次郎尾根取付 ■09:10-30 I峰 ■10:05 II峰

5時起床。朝食のお弁当をそそくさといただいて小屋を辞し、薄明るくなってきた剱沢を遡りました。道は左岸に付けられ、ところどころ硬く凍った雪渓の上を行きますが、赤い旗やペンキマークのおかげで迷う心配はありません。

やがて、5月に登った長次郎谷の前を過ぎました。今日もたくさんのクライマーが八ツ峰を登るためにこの谷に入って行くのでしょうが、こちらの行き先は、長次郎谷とその先の平蔵谷に挟まれた源次郎尾根です。尾根の正面からは大きなルンゼに向かって登るラインも見てとれますが、今回のプランではその左手の尾根ルートを行くことにしているのでさらに平蔵谷側に回り込むと、明瞭な踏み跡が尾根末端の草付の緩斜面についているのがわかります。ここで装備を調え、ヘルメットをかぶって登攀開始。

まずは最初の緩斜面を登った突き当たりにかぶり気味の涸れ滝があって、踏み跡はそれを避けるように右にも続いていますが、涸れ滝にピトンが打たれているところを見るとこれは直進せよとのご託宣に違いないと解釈して取り付きました。念のためピトンにデイジーでセルフビレイをとってからよっこらしょと身体を引き上げましたが、ワンポイント体感IV級、朝一番で厳しく感じたきらいもあるものの、この日最も難しく感じた場所となりました。

その後は、草付の中の立った涸れ沢状の登路から、やがて樹林の中ほとんど木登り状態での登高が続き、ややあって開けた場所に飛び出すと右手にすっきり上部まで開けたルンゼが見えるようになりました。目指すI峰はずいぶん高いところにあって見応えがあるし、紅葉の盛りにはまだ早いようですがそれでも黄色や赤に色づいた草木が白い岩に映えて、なかなか綺麗です。ここから右手にトラバースしてルンゼ内を行くコースどりもあるようですが、このまま尾根を上へ詰めていくことにして、ワンポイントIII+くらいの岩登りから概ねよく踏まれた道を辿り、ルンゼ上部で右手の主稜線に合流しました。この間、I峰上部岩壁を目指す3人パーティーと前後し、また、なぜか20mくらいの短いロープでスタカットで行動する男女パーティーを追い抜きました。

I峰上部からは、真砂沢ロッジがずいぶん下に見えました。そして前方にはI峰の頂稜が伸び、その先にII峰、そして剱岳の本峰。とりあえず前方の平らなピークをI峰のてっぺんと見定めてそこまで移動し、大休止をとりました。このI峰からII峰にかけての稜線は、八ツ峰の全貌を真横から見渡す格好の展望台です。無雪期の八ツ峰をまじまじと見るのは初めてですが、こうして見ると八ツ峰は単にギザギザの稜線というわけではなく、巨大な岩の板がドミノ倒しのように何枚も重なり合ってできていることがよくわかります。なるほどこの偉容が、八ツ峰あっての剱岳という評価につながっているのでしょうが、もちろん源次郎尾根も、剱岳本峰にダイレクトに突き上げる岩稜という点で独自の価値をもっていることは間違いないでしょう。

I峰からII峰へは、いったん大きく下ってから岩とハイマツの接点を登り返します。それもさしたる苦労はなく、すぐに平らな岩でできたII峰の頂上に達し、その先本峰寄りに少し下ったところにいきなり垂直に切れ落ちたII峰の突端に到着しました。

懸垂下降の支点には太い鉄杭・鉄鎖、そして何本かの残置スリング。そのうち状態の良さそうなスリングを選んでこれだけのために持参した8.5mm50mロープをセットし、投げ下ろしました。幸い風もなくロープは真っ直ぐに落ちていきましたが、その末端が着地点に届いているかどうかは上からではわかりません。それでも、以前剱沢小屋に泊まったとき小屋番さんから「源次郎尾根は50mロープ1本で大丈夫」と言われた言葉を信じて下降を開始しました。岩壁の途中にも懸垂支点があって2ピッチに分けて下降することも可能でしたが、そこで空中に止まったまま下のロープを引き上げ落とし直してみるとロープの末端が下のテラスを叩く音が聞こえたので、どうやらロープは下まで届いているらしいと判断して下降継続。降り着いてみれば、やはりロープの末端に作った8の字のコブがちょうどテラスの床に着いている状態でした。

あとは、剱岳までの緩い斜面をひたすら登るだけ。基本的にはガラガラの砕石の斜面ですが、ところどころ手を使う岩場も出てきて飽きることはありません。しかし、この最後の斜面ですっかりバテてしまいました。息はあがり、足は上がりません。3,000m近い高度のせいでもあり、この2ヶ月のトレーニング不足のせいでもあるのでしょうが、20歩登っては息を継ぎ、を繰り返してやっとの思いで剱岳山頂に到着しました。

唯一の救いは、昨日膝に感じていた違和感が、今日の登りでは消えていたことです。

■11:40-12:00 剱岳  ■14:25 剣山荘

剱岳の山頂には10人余りの登山者が、思い思いの位置を占めて周囲の大展望を楽しんでいました。秋空の澄んだ空気の中に後立山の山並みがくっきりと見え、その向こうには台形の富士山のシルエットをはさんで左に八ヶ岳、右に南アルプス。南の方には箱庭のような剱沢のカール跡と立山、北アルプスの南部の山々の中でも笠ヶ岳の円錐が特徴的です。また、室堂の彼方に白山、そして富山湾も霞んではいるもののよく見えました。

実は今回のプランは当初、源次郎尾根から北方稜線に継続する予定で、小窓雪渓の下降に備えて軽量ピッケルとアイゼン、さらに火器を含む最小限のビバーク装備まで持参していたのですが、三日目は荒れ模様の天候となることを真砂沢ロッジで聞いた時点で計画短縮を決意し、この日のうちの下山を目指すこととしていました。しかし、先ほどのバテようではどちらにしろ北方稜線に踏み込むのは無理だったでしょう。ああ、情けない……。

剱岳からの長い下降もつらい思いをしました。カニのヨコバイや梯子場を過ぎ、浮き石に気を使いながら下り続けている内にだんだん「もう一泊していくか」という甘い考えが湧き上がってきました。なんとかかんとか剣山荘に着いて、それでも受付のお兄さんに「室堂から長野方面への最終バスは何時ですか?」と聞いてみましたが、「16時半が終バス、今からでも頑張ればなんとか」と言われたときに糸が切れて、「宿泊をお願いします」と申し入れていました。

2007/10/08

■06:25 剣山荘 ■07:30 別山乗越 ■09:00 室堂バスターミナル

夜半からの風雨は、朝には暴風雨となっていました。レインウェアを着て雨の中に乗り出し、剱御前下のトラバース道を別山乗越へ。そして室堂側の斜面をところどころ濁流を飛び石で避けながら下り、称名川上流部の橋を渡って雷鳥平キャンプ場に達すると、そこからは割り石で舗装された歩きやすい道が室堂バスターミナルまで続いていました。

今回の登山はリハビリが目的、と最初に書きましたが、その意味からすると膝の回復具合は80点、スタミナの点では50点と言ったところ。軽装短行程のクライミングならほぼOKと言えるものの、重装備で体力勝負の要素が強い冬季登攀に向けては大いに努力の必要があることが確認されました。しかしそれはそれとして、紅葉の剱岳の最高の展望コースである源次郎尾根の登高は、単純に楽しかった。今年は猛暑のせいで紅葉が遅れていたそうですが、平年なら10月の三連休は錦秋を満喫する山旅が楽しめる時期。この時期の源次郎尾根の登攀は、お勧めです。