塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

玄倉川同角沢

日程:2006/07/15

概要:丹沢湖の東端・玄倉から林道を車で進んで小川谷出合の先のゲートから徒歩。同角沢を遡行して東沢乗越に達してから同角山稜に上がり、ユーシン経由で下山。

山頂:---

同行:現場監督氏

山行寸描

▲不動の滝20m。上の画像をクリックすると、同角沢の遡行の概要が見られます。(2006/07/15撮影)
▲名無しの滝25m。そっけない名前に似合わずなかなかの難関。(2006/07/15撮影)
▲遺言棚45m。下段は易しいもののこの先が脆く立った壁となる。(2006/07/15撮影)

今年の海の日の三連休は北アルプスに行くつもりでしたが、雨男の私はどうもこの時期お天気との相性が良くありません。一昨年・昨年に引き続いて今年も雨模様の予報に、直前になって北アルプスは断念し、丹沢の沢に転進することになりました。行き先については「雨男だから雨棚(大滝沢本流)なんてどう?」という話もありましたが、結局前から気になっていた玄倉川流域の同角沢に行くことにし、土曜日の午前8時半に小田急線新松田駅前で待ち合わせました。

2006/07/15

△09:15 林道ゲート → △10:15-35 同角沢出合 → △11:00-10 三重の滝 → △11:15-12:10 不動の滝 → △13:20-14:10 名無しの滝 → △14:30-15:40 遺言棚 → △15:50 東沢乗越 → △15:55-16:15 同角沢河原 → △17:10 同角山稜登山道 → △17:30 大石山 → △18:10-15 ユーシン → △18:40 同角沢出合 → △19:35 林道ゲート

玄倉の先、小川谷出合の分岐を過ぎてすぐのところにあるゲートの前に車を駐め、リュックサックを背負って歩き出しました。今日は少なくとも午前中は良い天気らしく、気温もかなり上がってきています。舗装路とダートが交互に現れる道を歩くこと1時間、六つ目のトンネルを抜けたところで道が右に曲がるカーブに立っている柱に「同角沢出合」と書いてあって、ここで沢装備を身に着けました。

針金やロープも設置された斜めの道を下ると玄倉川の河原。白い岩がとても綺麗で、そのちょっと下流の方向に同角沢の出合の滝がありました。2段15mということになっていますが、下段はほとんど傾斜がないので実質上段だけです。見たところ水流中央のリッジが傾斜はきついながらホールドが豊富そうなのですが、その最初のホールドに手を伸ばすもののちょっと遠くて届きません。最初に私が左からトラバースしようとしましたが適当な手だてがなくNGで、次に現場監督氏が果敢に釜に入って正面から挑戦しましたがこれもあえなくスリップ。現場監督氏はこれが今シーズン最初の沢登りですが、のっけから頭の先まで水没してみせるとは気合の入り方が違います。もっとも、この日は2日続いての真夏日(神奈川県で36度超を記録)で水温が低くなかったのが幸いでした。

結局、瀑心突破は諦めて右壁に取り付いてみると、こちらはうまい具合に階段状になっており、III級程度の登りで簡単に滝の上に抜けることができました。上に抜けたところで落ち口を見てみると岩が磨かれてホールドが乏しい感じで、まぁ滝の真ん中に固執しなくてよかったのだろうと現場監督氏と互いに慰め合いました。

明るい斜滝や小さな堰堤を越えると、10分ほどで早くも三重の滝20mが目の前に現れました。落ち口から滑り台のような岩を上を勢いよく滑り落ちてきた水流が下部のハングで水を空中に吹き出していて、水圧がありそうだし岩は滑りそうだしで直登は難しいだろうと思いながら観察すると、滝の右側に鎖が垂れているのが目に入りました。そこで下段の水の吹き出しの下を右上バンドに乗ってくぐり抜け、鎖は出だし完全に腕力頼みのゴボウで登ると、後はしっかりした鎖に導かれて滝の上まで抜けられました。そして本当にあっという間に、次なる不動の滝20mが目の前に現れました。

この滝は何本か横に逆層の節理が走っており、それが左壁では顕著な2段のハングになっていて、そのどちらにも残置スリングが見えています。ここは事前に調べた記録類の記述をもとに、1段目のハングをアブミで越えたら次のハングは越えずに右にトラバースして滝を横断し、右の草付を登る作戦としました。現場監督氏の「リードします?」の声にここは志願して私がリードすることとし、ちょっと上がったところにある残置ピンを使って現場監督氏が確保態勢に入ってから「じゃ、行きまーす」と発進しました。ハングの残置スリングは比較的しっかりしているもののさして新しくないので、極力衝撃をかけないようにそろそろとアブミに乗って身体を引き上げ、次の残置スリングに2台目のアブミをかけたらその最上段に立って上のバンドに乗り上がりました。2台目のアブミは後続のために残置……と言えば聞こえはいいのですが、実は回収が難しそうなので手を抜いたのでした。2段目のハングの下にはハーケン3本と6mmスリングで確保支点が作られており、さらに上からもスリングが垂れていてここを直登するラインがあるようにも見えましたが、予定通りハング下のバンドを右に進むとこれも滝の裏側を通る感じで難なく向こう側に抜けることができました。ところがこの滝の核心部はこの後の草付で、いまいちはっきりとつかめるホールドがない上に足元もざらざらと崩れ、ランナーをとれる灌木も頭上の手が届かないところにしかないので怖くて仕方がありません。下でビレイしている現場監督氏に救いを求める視線を送ってもどうにもならないので、ランナウトの恐怖に耐えながらじりじりと身体を引き上げ、なんとか2m上がったところで残置スリングにクイックドローを掛けることができて一安心。そこからも決して足場が良くはなかったのですが、残置ピンに助けられA0も交えて落ち口まで達することができました。

滝の音にコールがかき消されて若干意思疎通に苦労しましたが、登り出してみれば現場監督氏の登りはスムーズ。しかしその現場監督氏でも、この草付はイヤな感じだったと感想を漏らしていました。とはいえ、落ち口から右岸の直登ルートを見下ろしてみると上部は岩が磨かれてホールドに乏しい感じでしたから、やはり我々がとったラインの方が無難だったようです。

小滝をいくつか越えた先の年代物の堰堤を現場監督氏は左から巻き、私は左寄りにかろうじて残っている鉄梯子(横棒がほとんど腐食していました)を登りました。さらに、正面から見ると確かに達磨さんのようなダルマ岩の横を過ぎ、高さ2mの行水の滝は正面突破しました。この滝は沢を塞ぐように左右から押しくら饅頭をしている岩の間を通るためどうしても濡れてしまうので行水の滝というのですが、現場監督氏が倒木も利用してうまく上に抜けて行ったのに私の方はなかなか越えられません。落ち口の水流の中にホールドがあるはずなのですが足の置き場が見つからずに困ってしまい、とうとうヤケを起こして「膝ジャミング」を決めて、やっと上に抜けられました。

続くゴルジュはつるつるの壁に微妙なステミングやバックアンドフットも駆使して抜け、5mほどの滝を左のリッジから越えると、今度は名無しの滝20mが現れました。まずは滝を見上げながら腹ごしらえをしましたが、そうこうしている間に滝の左手ちょっと高いところに遭難者のレリーフがとりつけられているのを見つけてしまい、しかもこの頃から上空のさほど遠くないところでしきりに雷が鳴り響くようになっていてなんとも不穏な雰囲気です。

名無しの滝の登攀ラインは一目瞭然で、この滝の右上から左下にかけて、まるで剣の達人に袈裟掛けに斬り下げられたみたいにクラックが走っており、このクラックに沿って左下からとりつき、滝に打たれながら右上して落ち口の右手を目指して上がっていくことになるわけです。「リードはどうします?」「どうぞどうぞ」で今度は現場監督氏が先行となり、ヤッケを着込んで完全武装の現場監督氏は果敢に水流に向かっていきました。まず、易しいと思えた水流左側も微妙なバランスを求められるらしくホールドを手探りしながら進んでいましたが、滝を横断するところは本当に水流もろかぶり!そして右に抜けてから核心部の数mを絶妙の動きで突破すると、そのまま上へ抜けていきました。手本を見せてもらって今度は私の番で、確かに左壁も水流近くになると胸を圧迫される感じで立ちにくいですが、探せばかちっとしたホールドが見つかります。水圧に叩き落とされそうになる滝の突破は「気合」オンリーで、そしてその先の立った数mは残置スリングをお助け紐とし、さらにカチとガバの中間くらいのよく利くホールドを丹念に拾い、足も大胆に左右に出していけばなんとか登れました。この滝は確かに難しくはありますが、不動の滝の草付のような脆さ=不確定要素がない分、純粋にクライミングを楽しめました。

支沢を右に分け、小滝を二つ三つ越えると、最後の大物・遺言棚45mが登場しました。ここを登る前には遺言を書いておけというネーミングなのでしょうが、しかしそのわりには見上げる滝は水量が少なく、壁は青々とした草に覆われており、傾斜も立っていないように見えて迫力不足。もっとも、遠くからは傾斜が寝ているように見えても取り付いてみたら「こんなはずでは……」という目には何度も遭っているので、油断は禁物です。

遺言棚は3段になっていて、下段は右のバンドから広いテラスへ。中段は水流左の草付の壁を登りその上のテラス(?)まで。そして最後はルンゼ状を登ることになります。「また草付か……」と逃げ腰の私はちゃっかりビレイ態勢に入って現場監督氏にリードをお願いしましたが、下段は問題ないものの、やはり中段の壁では現場監督氏も慎重で、途中でハーケンを1本打ってランナーをとり、抜けそうな草もつかみながらのじりじりとした登攀を続けていきました。やがて現場監督氏は見事に中段を登りきり、傾斜が緩くなってテラスに達したところでロープの残りを確認すると50mロープの残りが10mを切っていたので、ここでいったんピッチを切ることにしました。私もただちに後続してみると、やはり中段の草付斜面は気を使うものの、それでも探せば少ないながらも欲しいところにホールドがあって手足の手順をうまく組み立てながら登り続けました。ただし、雑な足の置き方をするとザレた斜面に足を滑らせることになりますし、草を束ねてホールドにしても全部が全部体重を支えてくれるわけでもないので、確かにかなりデリケート。なお現場監督氏が打ったハーケンは回収しましたが、他に残置ピン&スリングが2カ所、そして現場監督氏の立っているビレイポイントにはハーケン3本が固め打ちしてありました。

私のリードになった最後のルンゼ状は、左手の灌木も使えば難しくなく、そのまま右岸のガレの中を進んで安定した灌木にスリングを巻き付けて終了点としました。

ロープを解いてガレを詰め、適当なところで右手の斜面から小尾根を登ると、そこが東沢乗越でした。左側の小川谷方面の道は踏み跡程度、モチコシ沢方面はそれよりしっかりした道に見えましたが、我々の行く手は同角山稜なので右手に下ります。いったん離れていた同角沢に下り着くとそこは泊まりたくなるほど雰囲気の良い庭園風の河原になっており、ここで沢装備を解いてしばし休憩としました。ついで同角山稜に向かって柔らかい土の斜面を登り始めましたが、ここから同角山稜に出るまでが意外に歯応えのあるアルバイトになりました。もっとあっさり登山道に出るのだろうと思い込んでいたこともあって最初のうち行ったきり来たりうろうろしてしまいましたが、実際には斜面をいったん下流方向にトラバースしてから方向を転じて尾根を上流方向へ登らなければなりません。赤と黄のテープが適切な間隔で道を示してくれているので間違いはないはずなのですが、時間がかかる上に下山方向とは逆方向となるので、もしやこれは同角山稜を逆走しているのではないか?と疑心暗鬼にかられてしまいます。結局、出だしの辺りで行ったり来たりしたこともあって、河原を出発してから1時間近くも費やしてやっと登山道に出ることができました。

登山道に出てしまえば、後はとっとと下るだけ。といっても時刻は既に17時を回っており、灰色の空の下で西の方角がオレンジ色っぽくなっています。大石山を越えて樹林の中の急降下の道を駆け下り、ユーシンロッジに到着したら自動販売機のファンタグレープで一息入れて、林道をてくてく歩いてゲートに辿り着いたときには既に真っ暗になっていました。

同角沢は、とにかく入渓点から終了点まで中だるみということがほとんどない密度の濃い沢でした。また現場監督氏のリードに助けられ、それでも多少肝を冷やしましたが、残置はしっかりしていて危険過ぎるということもなく、まさに「中級の沢」という感じで楽しめました。ただ、私自身は幸い無傷で下山できましたが、ジップロックでのパッキングでは防水が不十分だったらしく、下山してからチェックしたら携帯電話が名誉の戦死を遂げていました。この沢では、不動の滝や名無しの滝でどうしても水をかぶるので、濡らしてはならないものの防水はくれぐれも厳重に……。