大洞川荒沢谷桂谷↑アシ沢↓

日程:2005/11/05-06

概要:雲取山北西面に突き上げる大洞川荒沢谷桂谷を遡行。途中テント泊を交えて稜線に抜けてから、雲取山荘の裏からアシ沢を下り、入渓点に戻る。

山頂:---

同行:ひろた氏 / きむっち

山行寸描

▲桂谷の15m滝。上の画像をクリックすると、初日の遡行の模様が見られます。(2005/11/05撮影)
▲桂谷上流の小滝。この辺りは易しい連瀑帯になっていて楽しい。(2005/11/05撮影)
▲アシ沢での懸垂下降。上の画像をクリックすると、2日目の遡行&下降の模様が見られます。(2005/11/06撮影)

10月下旬に草鞋納めをするはずがすっかりスベってしまった私。ひろた氏が珍しく「女子大生のいる沢に行こう!」プロジェクトを立ち上げるというので、草鞋納めのやり直しも兼ねて一石二鳥(?)と話に乗ったところ、いつの間にか企画は「焚火の沢」となり、しかもおよそ女子大生など棲息していそうにない奥秩父北面の大洞川支流となってしまいました。なんか話が違うんじゃないか?と忸怩たる思いを抱えつつ、しからばと久しぶりにきむっちにも声を掛け、3人で土曜日の早朝に西武秩父駅前に集合しました。

2005/11/05

△09:05 荒沢橋 → △09:45 桂谷出合 → △11:30-12:10 6段滝手前 → △13:30 幕営地

林道奥の駐車場のすぐ手前の荒沢橋右手から入渓。今日はよく晴れて明るい光が谷の中にまで射し込んできていますが、やはり落葉が両岸の斜面を埋め尽くしていて秋深しの感があります。ところどころのワイヤーがうるさいものの、透明度の高い水が流れる穏やかな沢筋を行くこと20分ほどで、立体的な滝の連続にぶつかりました。小さな釜や水路を持った複雑な構造がまるで明日香の酒船石を巨大にしたような感じで、最後の斜瀑は泡立つ水流の上を楽しく渡りました。キノコに詳しいひろた氏は遡行よりもキノコ採りに忙しく、倒木を見つけてはその裏に生えているキノコをビニール袋に詰めています。やがて大きな丸い石が良い目印となる最初の枝沢との出合に到着。左から入ってくるこの枝沢が目指す桂谷です。

桂谷に入ってすぐに現れるしっかり立った6m滝は、水流右を豊富なホールドを使って簡単に上がれます。その上に続く4m滝も右側から登ると、小さな釜とつるんとした壁を持つ5m滝が現れました。夏なら釜にじゃぶじゃぶ入って奥のディエードル状の流芯を登るところですが、季節も季節なので濡れるのを避けて右壁から簡単に越えました。休む間もなく現れる小滝は、水流左脇の壁のホールドが微妙に細かくて面白いところ。そしてこれを越えると小さな暗いゴルジュになっていて、私ときむっちは左岸のちょいと滑りやすいスロープから抜けましたが、ひろた氏は両足突っ張りで正面突破。やるなぁと感心しつつ左に曲がると、奥に15m斜瀑が現れました。

この15m斜瀑、見るからに壁はつるつるだし、ガイドブックにも「直登は無理で、左のルンゼから木の根をつかんではい上がりトラバースする」とあります。さて、どのルンゼのことかな?と左上に立った壁を見渡していると、やおらヤッケを着込んだひろた氏が「ちょっと見てきます」と突っ込んでいきました。そのままひろた氏は、左手の斜めの壁に足をフラットに置き、右壁に手を突っ張って横歩きの要領で徐々に高さを上げながら奥に入り込み、下から5mくらいのところから上を伺っていますが、どうやら水流の強さとホールドの乏しさに直登をためらっている模様。そりゃそうでしょう、無理せず巻こうよと両腕で「引き返せ〜」のサインを送ると、ひろた氏から返ってきたのは「上からザイル投げてもらえます〜?」のコール。そう来ますか……。

ひろた氏の位置は水流をけっこうかぶっているので、時間がたつと彼の体温が下がってしまいます。これは急がねば、とあせってろくにルートファインディングもせずに右岸後ろのルンゼに取り付きましたが、これは失敗でした。滑りやすい土の急斜面を必死に登って木の根につかまりながら登りましたが、そこから右上へ巻き上がるラインはかなり脆くてとても体重を支えてくれそうにありません。かたや真上にはかなり立った岩壁が広がっていて、このまま行けば進退窮まりそうです。見れば目の前のしっかりした木の根には退却に使ったと思われるテープスリングも残置してあって、どうやらこのラインには無理があった様子。とほほ、ひろた氏を助けに行くつもりがこのままでは自分が助けを求めることになりかねない、と下降を模索していると、きむっちが私のラインより10m上流のカンテを登っています。聞けばその上にトラロープが見えているとのことで、きむっちナイス!ひろた氏にロープを出す役をきむっちにお願いして、自分はとにかく下降にかかりました。残置スリングは懸垂用だったようですが、手持ちのテープスリングを1本継ぎ足すとどうにか足で立てるところまで戻ることができて、幸い自分のスリングも回収できました。そこから先ほどきむっちが登ったカンテに登り返すと確かに少々心細いトラロープが下がっており、しっかりした木の根も出ていてそれを使ってなんとか上の比較的傾斜が緩い段まで抜けられました。そのまま抜けやすい笹の根やまばらな灌木をつかみながら斜面のけっこう高い位置を上流へ移動してみると、ちょうどきむっちが沢に降りてリュックサックからロープを出し、15m斜瀑上で支点をセットしています。一方のひろた氏は滝の中の多少安定した位置にいるようですが、やはり寒いらしく足踏みをしているのが見えました。滝の上と下では見通しが利かず声も届かないようなので、高巻きの途中で待機した私が2人のコールを中継。きむっちがロープを投げると水流に乗ってうまい具合にひろた氏の手元に届き、これでトップロープ状態となったひろた氏は勇気百倍。一気に滝を上がってきました。

奮闘したひろた氏に休憩を打診しましたが、身体が冷えているために少し歩きたいとのことなので遡行を続けました。どうということもない小滝やゴーロをひたすら越えていくと、前方の小さい滝の連なりの奥に右上から水が吹き出した多少落差のある滝が見えていて、これが30m6段滝に違いありません。とりあえずここで大休止とし、手早く枯葉や小枝を集めて焚火を熾してから行動食を口に入れました。

遡行再開。6段滝の下半分は手も使わずに簡単に登れます。続く4段目(?)が右上から水が吹き出しているのが下から見えていた滝で、ここで沢は右に屈曲していました。これは巻きでしょう?と見ていると、やはりひろた氏は虎視眈々とラインを読んでいて、やがて滝の左側の脆そうな垂壁を斜上し始めました。しかし、やはり多少際どいらしく「うっ」という感じでひろた氏が行き詰まりかけているのを見て、私ときむっちは無情にも「だめだ、こりゃ」と右から巻きに入りました。しかし、我々が巻き上がるより早くひろた氏はここも突破して抜けていました。

抜けたところからは正面に右俣の20m滝が立派で、この滝は登攀の対象にならないかもしれませんが一見の価値はあります。我々が向かうのはその手前を左上に上がっている左俣で、こちらも高さは15mほどありますが階段状で容易。その上に出ると、先ほどまでの谷底の暗さから解放されて明るい日が差すようになり、ところどころの紅葉が美しく照らされました。滝の方も出だしの5m右壁がちょっとしょっぱかったのですが、後は気分良く登れる4-5mの滝が続いていて、「では、ここは私が」などとトップを宣言しつつわざと濡れるラインをとったりしました。女子大生はいないけど、なかなか楽しい沢じゃないですか。

ナメっぽい斜面を越え、2本目の枝沢を左から迎えたガレガレの出合にテント1張り分の平地があって、標高的にもここがビバーク適地であろうとリュックサックを置きました。ちょうど鹿の群れがいて警戒の声を上げながら白いお尻を見せつつ上流へ逃げて行きましたが、我々は気にせず整地、テント張り、そして薪集めにいそしみました。秋枯れの森の中では薪集めに困るということはまったくなく、しばしの労働で手頃な太さの薪が文字通り山ほどに積み上げられて、明るい内から焚火を燃やして各自持参のつまみとお酒で乾杯。私は紙パックの日本酒を5合持ってきていましたが、きむっちも同じく日本酒を4合、しかもなぜかビンごと担ぎ上げてきていました。アルコールが入れば誰しもの口も滑らかになり、ひろた氏の目の前で起こった現●監●さんの15mグラウンドフォール無傷着水の話とか、きむっちがスラブ滝でルートファインディングを誤り人妻をひどい目に遭わせた話などで盛り上がりましたが、そうこうしているうちに9合の日本酒は飲み尽くされてしまいました。茹であがったマカロニをきむっちが水切りしようとして地面に大量にこぼしてしまい、それを一所懸命拾って口の中をじゃりじゃり言わせながらメインディッシュとしましたが、前夜3時間しか寝ていない私は19時すぎにお先にテントに撤収。しかしひろた氏ときむっちはその後も延々と薪を燃やし、二酸化炭素を排出し続けたようです。

地球温暖化が進むと西日本にはマラリアがはやるようになり、雪国では雪崩が増えるなどの影響が出ると言われています。もちろん山屋にとっても人ごとではなく、森林限界が上がってアルペン的な風景は狭められるし、雪稜登攀やアイスクライミングもシーズンが短くなるかもしれません。しかし、こと沢屋にとっては遡行の季節が長くなっていいことばかり。こうしてみると、沢屋というのは因果な人種なのかも……。

2005/11/06

△07:10 幕営地 → △08:25 登山道 → △09:15-30 雲取山荘 → △12:35 荒沢出合 → △12:50 桂谷出合 → △13:20 荒沢橋

朝、パチパチという音で目が覚めました。まだテントの外は暗く、最初は近づいた鹿が枯木を踏みしだく音かな?と思いましたが、テントの外に顔を出してみるとひろた氏が焚火を熾しているところでした。見れば、あんなにあった薪がほとんど跡形もなくなっています。やがてきむっちも起き出してきて、まずは焚火の周りでお茶タイム。続いて朝食はキノコ入りラーメン。これですっかり元気になって、スピーディーに撤収にかかりました。

ビバークポイントから上は滝らしい滝もなく、次第に沢筋が細くなるなか、岩小屋状の巨岩などを巻き上がったりしながら高度を上げていきました。上流のいくつかの分岐はいずれも左へ入り、岩峰が右手すぐ上に立つ標高1700mあたりで右の小尾根に取り付いて、そのまま柔らかい土の急斜面を登っていくことしばしで登山道に出ました。ここは芋ノ木ドッケの少し北側、左手に立派な木の階段が見える位置で、ここで軽く休憩してから歩きやすい道を雲取山荘に向かいます。木々の葉が落ちて明るくなった道はいかにものどかで、この季節のハイキングもなかなか気持ちの良いものだなと思いました。1時間近く歩いて着いた雲取山荘の前で再び小休止していると、居合わせた縦走登山者の一団が我々の大仰ないでたちに驚いていましたが、この後さらに沢を下ると聞いてもっと驚いていました。

さて、アシ沢は雲取山荘のすぐ上から右手、三条ダルミへの巻き道に入ってすぐの沢筋から下ります。急な沢形には古いゴミが散乱しておりなんとも興ざめですが、それも小屋から離れるにしたがって姿を消し、水が流れ出すようになると緑の苔に覆われた美しい滝も現れて心がなごみます。落葉に覆われた斜面を足元を崩しながらどんどん下降していきましたが、そのうち大きな滝が落ち込んでいる場所に到着しました。どうやらここを懸垂下降しなければならないようですが、手頃な支点がない……ときょろきょろしていたら、ひろた氏が「この木でいきましょう」と指し示したのは落ち口のすぐ左に立っているひょろひょろの若木。太さは指3本分くらいで「え、これで下るの?」と驚きましたが、そこは百戦錬磨の沢のエキスパートひろた氏のこと、そこからの下降が左の斜面への斜め懸垂で、支点への荷重を相当程度軽減できると踏んでの選択です。

おかげで無事にここを通過した後は、クライムダウンと懸垂下降が面白いように連続します。3m強の滝をクライムダウン、15mの滝を30mロープ2本つないでしっかりした立ち木で懸垂下降、続いてよく磨かれた流木を支点に5mの懸垂下降、そして最後の2段滝は上を右の土壁で下り、下は水流左をクライムダウン。これで滝場は終わりです。

滝場が終わった後の中流域の下りが単調で、なるほどこのせいであまり遡行対象として採り上げられないのかと納得。しかし、下降の沢としては実に好都合ですし、風が吹くと黄色い落葉が雨のように降り注いで沢の両岸を埋めていくのも風情があってグー。やがて空きっ腹をかかえての長い下降の末に、ようやく荒沢本流に合流しました。しばし下ると短いがきれいなナメ状のところがあって、土で汚れたお尻やリュックサックの底をきれいにしたい私は季節を省みずウォータースライダーに挑戦。といっても傾斜が緩すぎて残念ながらうまく滑れませんでした。

桂谷出合からは昨日のコースを逆に辿ります。きれいな連瀑地帯は右岸から巻き下り、浅いところでは沢の中をどんどん下りましたが、油断したつもりはないのにゴール間近で水苔で滑りやすい岩に足をとられてしたたかに左膝を打ち、しばらく動けなくなったりしました。それでもついに荒沢橋に到着し、駐車場でひろた氏・きむっちと握手を交わして楽しかった2日間の遡行を終了しました。

事前の天気予報ではこの週末は雨模様で「また自分が雨男か?」と凹んでいたのに、ふたを開けてみれば土曜日は快晴、日曜日も最後までもってくれて、車に乗った途端に降り出すというタイミングの良さ。これで気分良く今年の沢登りを終了することができました。ひろたさん・きむっち、ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。