尾白川黄蓮谷右俣

山頂 甲斐駒ヶ岳2,967m
分類 南アルプス / 沢登り
日程 2003/09/06-07
同行 Niizawa氏 / Sakurai氏
概要

click

女夫滝。上の画像をクリックすると、黄蓮谷右俣の遡行の概要が見られます。(2003/09/06撮影)

奥千丈滝のトイ状の滝。水流の右寄りをフリクションでぐんぐん登ります。(2003/09/07撮影)

甲斐駒山頂。背後には鳳凰三山と、その上に富士山。(2003/09/07撮影)

甲斐駒に突き上げる黄蓮谷右俣は前々から沢登りの課題として、そしてアイスクライミングの課題としても意識していたのですが、御存じNiizawa氏及びSakurai氏も興味を示してくれたので、9月の最初の土日に片付けることにしました。なお、われわれ中年戦隊の隊長・現場監督氏は「魚座BOYs」なる新ユニットを結成して前週に上越の沢三昧を堪能しておられたので、今回はヒラ隊員3名での遡行とあいなりました。

当初の予定では金曜日の夜に出発することにしていましたが、Sakurai氏が顧客のシステムトラブルではまってしまい、私も仕事が長引いたため、土曜日の午前4時にNiizawa号で出発することになりました。1週間のカナダ・ロッキーマウンテン旅行に行ってリフレッシュしてきたばかりのNiizawa氏の運転は快調で、途中ファミレスで朝食をとりながら、6時過ぎには出発地点の竹宇駒ヶ岳神社に到着しました。

2003/09/06

■06:55 竹宇駒ヶ岳神社 ■09:15-40 尾白川入渓点 ■11:05-20 噴水滝

尾白川に入るには尾白川林道を詰めてゲート前に車をデポするというパターンが多いようですが、これだと下山してからの車の回収に手間どるのと車上荒らしが横行しているとの情報があったため、Niizawa氏の提案で竹宇駒ヶ岳神社の駐車場に車を停め、そこから渓谷道を辿って尾白川を渡り、林道に達することにしました。神社を過ぎてすぐに右に分かれる渓谷道はハイキング道というには若干シビアな道で、これを1時間20分程で尾白川にかかる橋を渡り、そこから短いものの苦しい20分程の登りで林道に上がりました。林道は平らで歩きやすく、トンネルを3つくぐると行き止まりになって、そこからフィックスロープもある急な踏み跡をぐんぐん下ると尾白川に出ました。

沢装備に着替えてここから入渓。河原歩きからすぐに深いグリーンのプールを前に置いた小滝が現れ、すぐにガイドブックで見たことがある女夫滝が出てきました。ここは滝のすぐ左のテラス状の斜面を登れそうな気もして一瞬舌なめずりしましたが、先も長いことなのでさらに左からとっとと巻きました。ナメ滝の上に出て水流を見下ろしてみると、一枚岩に水が見事な流路を彫り込んでいて、まるで近代彫刻の趣きです。次は鞍掛沢が右から入った先の滝で、恐らく頭上を渡っていたのであろう太いワイヤーが滝の上に垂れているのが目障りですが、釜を突破して取り付ければ直登は十分可能そうです。しかし、左から回り込んでみたもののつるつるの岩に手がかりが見つけられず、かといって泳ぐのは強烈に水が冷たく、しばらくあれこれ試しましたが、結局左から巻きました。

続く滝は左奥に続く壁状になった不思議な形の滝で、これは右から巻きました。その奥に遠見滝らしき滝が見えていて、上段の方がつるつるでとても登れそうにないのでこれも右から巻きました。けっこう長い巻き道を、最後はフィックスロープを使って下るとすぐに三段のナメ滝。これが噴水滝です。噴水滝はスラブを流れてきた水流が釜に落ちたところで下から噴き上げているのでそういう名前がついているらしいのですが、見たところそれほど派手な噴水にはなっていませんでした。この釜の手前で昼食休憩をとりました。

■12:25 黄蓮谷出合 ■14:00 坊主滝下

長い河原歩きの途中にも小さな易しい滝やひたひたと足を浸すナメなどがあり、随所にピンクのきれいな花も咲いていてけっこういい感じなのですが、いかんせん曇りがちの天気で谷が暗く、いま一つ気勢が上がりません。そうこうするうちに黄蓮谷と尾白川本谷が分かれる二俣に到着しました。ここからの黄蓮谷はなんだか水量も少なく迫力がありませんが、まず間違えることはないでしょう。

click

黄蓮谷に入ってすぐの滝は一見して登れそうになく、左(右岸)のとんでもなく高いところにロープがかかっていてあれでトラバースは無理だろう?と思いましたが、実は反対側(左岸)にはっきりした巻き道がついていました。やがて前方に巨大な滝が見えてきて、これが千丈滝です。傾斜は緩やかで下部は直登できそうですが、これも左側に実に歩きやすい巻き道ができていて簡単に越えられました。千丈滝の上に出たところで左上を見ると五丈沢が下ってきていて、その上の方に千丈の岩小屋らしき大岩が見えました。前方にはハングした滝がかかっていて、このあたり倒木やゴーロ石などでかなり谷が荒れている感じがします。右手の巻き道に上がると、樹林の中の尾根状の道はふかふかの地面がよく乾いていて樹間も適度にあいておりツェルトを張るのに好適。沢筋からもほとんど離れていないので幕営には絶好の雰囲気ですが、すぐ近くの沢に降りるところにはなぜか大きな動物の白骨が数本、さらに白茶色の毛皮と焚き火跡もあってなんだか無気味です。猟師が獣を捌いたのだろうか?などと憶測しながら、そそくさと先を急ぎました。

そして千丈滝をぐっと立てたような急傾斜の滝が現れて、これが坊主滝です。あたりには焚き火跡がいくつもあって、比較的最近、大パーティーがここでテントを張ったらしいことがわかりました。時刻は14時とまだ早いものの、このまま先に進んで奥千丈滝を越えようとすると何時になるかわからないし、Sakurai氏も私も睡眠不足が続いていて特に私は注意散漫になっているのが自覚できていたので、今日の行動はここで打ち切ることにしました。

手ごろな木を立ててロープをわたし、それにスリングをプルージックで結び付けてビナでツェルトを吊るせば、快適な一夜の宿ができあがり。早速薪を集めて火を熾し、Niizawa氏が担ぎ上げてきたビールで乾杯しました。それにしてもこの日前後に人かげを見かけなかったのですが、誰も黄蓮谷に入っていないのでしょうか?

2003/09/07

■06:30 坊主滝下 ■08:25 黄蓮谷左俣出合 ■09:55 逆くの字滝(?)

日頃の寝不足がたたって目が覚めたら既に4時半を回っており、あたりはほんのり明るくなっていました。すぐに火を熾してから朝食をとり、朝のお勤めもして(キジ紙はちゃんと燃やしました)ツェルトを畳みました。焚き火のおかげでほぼ乾いた沢装備を再び身に付け、行動再開。

坊主滝は右手のガレを登り、十分高度を上げたところで左手の尾根に入りました。ところがここから踏み跡はどんどん樹林の中を高度を上げており、スラブ状の涸れ沢らしき地形を越えてさらに上へと続いています。さすがに坊主滝はずいぶん過ぎただろうと思われるあたりで沢が大きく右へ曲がっているのを確認し、懸垂下降まじりで沢へと降り立ったところ、そこは15m滝のすぐ下でした。この滝は左から容易に越えられそうな気がしましたが、取り付いてみると上の方は垂壁になっていて、そこに木の根が大きく張り出しています。ここでNiizawa氏に確保してもらって私がリード。いったんバンド状を右に回りこもうとしましたが草付の斜面が嫌らしそうだったので引き返し、III+の木登りで垂壁を正面突破しました。

この上には雪渓が残っており、見事にアーチ状の雪の下を、左から直角に左俣が合流しています。このあたりも岩がごろごろと乱雑に積み重なっている感じでずいぶん荒っぽい印象がありますが、ガスに覆われて上の方が見通せないまま沢は徐々に傾斜を強めていき、いつの間にか奥千丈滝へ突入していたようです。だいたい45度くらいの角度で水流が流れ落ちてくる右横を、細かい岩の凹凸を頼りに黙々と登って行きました。他のレポで見かけるトイ状の滝なども問題なく右から越えていき、延々と続く大きなスラブ滝も右横を高度を上げていきます。ここは下を見通せたら素晴らしい高度感があるのでしょうが、あいにく先程からガスっていて、どれくらいの高さを登っているのか、あとどれくらい滝が続いているのか、さっぱりわかりません。

奥秩父のヌク沢を思い出させるような城壁風の滝も難なく越えて、やがて「これが『逆くの字滝』?」と思われる滝を過ぎたあたりで失敗しました。前方には左右を壁に囲まれた細く急な滝が落ちていて、行けば越えられそうではありましたがあまり濡れたくない我々は左のスラブに走るクラック沿いに高巻くことにしました。途中にピトンが残置されているクラックをフリーで颯爽と登ったまではよかったのですが、そこから樹林帯に入って高度を上げていくうちに踏み跡はだんだん心細くなってきて、やがてどうやら道を誤ったらしいことがはっきりしてきました。仕方なくずいぶん登ったところから引き返し、途中でスラブの斜面をロープを出してトラバース。なんとか沢の上部に戻ることができましたが、ここで1時間のタイムロスとなりました。そこからも水量はずいぶん少なくなりましたが滝は続きます。正面に壁状の滝が現れたところでまたしても高巻き失敗。素直に滝のすぐ左手の草付をトラバースしていけばよかったのですが、ついさらに左手のシャクナゲとハイマツの樹林帯の踏み跡に誘い込まれてしまい、ここでも30分のロス。

■13:15-14:10 三段滝上段

やがて頭上が晴れてきて、上に三段滝が見えてきました。もはや水はほとんど涸れており、稜線も近づいています。かなり消耗してきた身体にムチ打って二俣からいったん右手に入り、そのまま左に続く巻き道を登ると、道は上段の滝のすぐしたに通じるバンドへの入口に出ました。そこからも左岸の巻き道は上へ続いていそうですが、我々はこのバンドを右岸に渡って最後の滝登りにチャレンジすることにしました。出だしがちょっとしょっぱい段差のあるスラブで、Niizawa氏にビレイをお願いして私がまたリード。

しかし疲れきった私にここをフリーで越えようという根性などあるはずもなく、残置ピンにスリングを通してアブミがわりとし、上部のリスにもピトンを打ち足しスリングをかけて手がかりとして、よっこらしょと乗り上がりました。そこからは滑りやすいがはっきりした岩の凹凸を使ってロープを30m弱伸ばし、上部に残置スリングがぶら下がっているのが見える場所で灌木にビレイをとって後続を迎えました。続くピッチも私がリード。腐りかけた残置スリングを見るとどうやらこれもアブミがわりに使われたらしく、念のため自前のスリングでランナーをとってから残置スリングに体重をかけましたが、突然残置スリングが切れてびっくり。さらに自前スリングを足してトライしましたが背中の荷物が重くてバランスがとれず断念(ここで空身になっておけばよかった)。すぐ右手の壁に転進して、残置ピンにまたしてもスリングをかけ一段乗り込みましたが、大きな岩の隙間に足を突っ込んで身体を引き上げるところで適度なホールドが見つからず危うくセミになりかけました。

細かいカチホールドに指先をかけ、フリクションを信じて乗り込めばよいとわかってはいるのですが、背中の重荷、沢靴のフリクション性能への不信感、それにランナーをとった残置ピンの効きが甘いことをまさに登っている途中に発見していたことで、なかなか一歩が踏み出せません。しかし、ふと下を見てピトンの頭で右足を止め、クラックに入れていた足の左右を入れ替えてみるとずいぶん態勢が楽になりました。これで踏ん切りがつき、Niizawa氏に「落ちたらお願いしますねぇ〜」と声を掛けて気合一発、なんとか越えることができました。ぜいぜいいいながら上に抜けて後続の二人を迎えましたが、Sakurai氏もNiizawa氏も私が苦戦したところをあっさりと登ってくるのには愕然……。

■15:20 稜線 ■15:30-16:00 甲斐駒ヶ岳

ここを越えればもう滝らしい滝はありません。長い長い登りも徐々に源流の雰囲気が漂ってきて、やがて先行していたSakurai氏が頭上の陽光の中に姿を消してしばらくしてから「りょ〜せ〜ん!」という叫び声が聞こえてきました。Niizawa氏と私も後に続いて遂に稜線に達すると、驚いたことにガスはきれいにとれて目の前に巨大な仙丈ヶ岳の姿がくっきり見えて、思わず「うぉー!」「よっしゃ〜!」と声があがりました。ここからは、白ザレの道を10分で誰もいない甲斐駒の山頂に到達。やっと終わった、お疲れさまでした、とお互いに安堵とねぎらいの握手を交わしました。

爽やかな風が吹く山頂を我々3人で独占し、鳳凰や富士山、北岳、仙丈ヶ岳、それに懐かしい鋸岳の姿を眺めながらゆっくり沢装備を解いて、各自スニーカーに履き替えました。あとはこれも気の遠くなるほど長い黒戸尾根の下降が待っています。途中からヘッドランプ頼りになるのは必定です。

■17:20-30 七丈小屋 ■21:15 竹宇駒ヶ岳神社

黒戸尾根の下りは本当に長かった。七丈小屋、五丈小屋など要所要所で小休止をとりましたが、私もSakurai氏もヘロヘロになりながら元気なNiizawa氏の後についていくのが精いっぱい。Niizawa氏の辞書には「疲労」の2文字はないのか……。五合目あたりからヘッドランプでの下降となりましたが、それでも真っ暗な刃渡りや雨のぱらつく樹林帯を猛スピードで下って、山頂から5時間強で竹宇駒ヶ岳神社の駐車場に帰り着くことができました。

それにしても、これほど疲労しきった山行は記憶にありません。2度の高巻き失敗で消耗したことや黒戸尾根の一気の下降などもありますが、何よりガスのせいで滝の全貌がつかめず不完全燃焼気味だったことが大きいように思います。次はアイスクライミングの季節に挑戦して、あらためて黄蓮谷右俣の姿をしっかりこの目に焼きつけたいものです。何はともあれ、Niizawaさん、Sakuraiさん、本当にお疲れさまでした。

帰りもNiizawa氏の運転で、深夜0時過ぎに、あまりの疲労にしっかりしたものが喉を通らない状態で帰宅しましたが、自宅の冷蔵庫には強い味方が控えていました。それは「豆腐のオリーブオイル漬け」。数日前に人から教えられてあらかじめ作っておいたもので、強力に水切りをした豆腐に塩をしてニンニク、鷹の爪、ハーブ、アンチョビと一緒にひたひたのオリーブオイルで数日漬け込むだけのもの。おいしく、かつ食べやすいことはもとより、豆腐のタンパク質とオリーブオイルがダメージを受けた身体に優しい、まさに山屋向けの一品です。