太刀岡山 / 小川山廻り目平

山頂  
分類 関東周辺 / 黒澤敏弘ガイド
日程 2001/08/18-19
同行  
概要 初日は太刀岡山で登ってから廻り目平のバンガローへ。小川山での二日目はガマスラブでのスラブ練習と、八幡沢左岸スラブの2本。
「トムといっしょ」(5.10a)。中央の人がいるあたりが核心部の小ハング。(2001/08/19撮影)
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「春のもどり雪」(5.7-4P)。上にかっしいとアイコが見えているのがわかるでしょうか。(2001/08/19撮影)

先日職場の同僚のエイジを広沢寺での岩登り講習に連れていったところ、そのときの写真に触発されて自分もクライミングを体験してみたいという同僚が何人かでてきてくれました。そこで『猫の森』の黒澤ガイドに相談して、小川山2日間のフリークライミング体験講習を企画してもらいました。私は北鎌尾根から生還してまだ1週間というところだし、同僚たち(オグ、亮及びかっしいとその友人のアイコの計4人=全員20代なかば)は皆ハーネスをつけるのも初めてという全くの初心者なので、保護者モードでつきあってあげればいいだろうと気楽にかまえていたのですが……。

2001/08/18

■10:30-14:30 太刀岡山ハサミ岩下部岩壁

9時に甲府駅前で黒澤ガイド・ほなみさんと合流。黒澤ガイドの車とレンタカーの2台に分乗し、小川山へ向かう途中のモスバーガーで腹ごしらえをしていると、ほなみさんの携帯にメールが入りました。なんと小川山は朝から雨とのこと!台風11号の影響で東京は天気が悪かったが甲府盆地に入ったら青空が広がって安心していたのに。そこで急遽予定を変更して、今日は太刀岡山で練習をすることになりました。太刀岡山は私がクライミングの練習を始めて3回目に行って精神的にボロボロになったところで、図らずもリベンジ戦となってしまいました。

懐かしいハサミ岩の下部岩壁。各人ハーネスを着け右手の岩場の前に勢ぞろいして、ATCを使ったビレイの仕方やシューズの履き方などを一通り習ってから、手始めに「新人さんいらっしゃい」(5.9:グレードは「山梨県フリークライミング情報」の記述に準拠)にTRで挑戦しました。このルートは出だしから5m登ったところからの左へのトラバースがけっこう恐く、さらにトラバースした先から身体を引き上げる一歩がホールドは細かいカチだし足はスメアだしで難しく感じられ、前回登れなかったところです。ところが、アイコ、オグ、亮という順番で登ってみると、驚いたことに皆テンションをかけながらも何とか突破して終了点まで到達してしまいました。前の3人の成功に、ふだんはボーイッシュなくらい元気のいいかっしいがプレッシャーのため死にそうな顔をしながらシューズを履きはじめましたが、実はその後ろでもっと青ざめていたのが私でした。かっしいも無事にクリアしてしまい、とうとう私の番になって「うわ〜、これでは保護者モードどころではないじゃないか!」とドキドキしながら慎重に登り、ノーテンで抜けて辛うじて面目を保ちました。

次に同じフェイスの左のカンテを登る「阿行小」(5.10a:同前)。最初にほなみさんがお手本を示しましたが、ほなみさんの女性とは思えないパワークライミングを生徒たちは呆れて見ているだけ。続いて今度は私がトップバッターを務めましたが、こちらの方は出だしのフラッギングでの乗り込みからレイバック気味にぶらさがるような姿勢で上がっていくムーヴがスムーズにつながって余裕のよっちゃん(死語)で登り、「塾長さん、スゴイじゃないですかー!」と同僚諸君の賞賛を浴びてたいへんいい気分(笑。といってもTRですから)。しかしここでも驚いたのは、男性二人がレイバックの姿勢を決められず途中で力尽きてしまったのに、女性二人はテンションをかけまくりながらもちゃんと終了点まで到達してしまったことです。身体の軽さや柔軟さといった身体的な強みもありますが、それ以上に、決してギブアップしないで下からのアドバイスに従いつつ動く素直なタフさといったものが感じられました。

この後、私だけ「新人さんいらっしゃい」のリードに挑戦しましたが、残念ながら例の場所で落ちてしまいR.P.はお預け。しかしトラバースの最後に足を中継フットホールドで踏みかえることなく大外のフットホールドに伸ばしても届くことを見つけたので、次回こそ!

この後、車に戻って一路廻り目平へ。金峰山荘近くのバンガローに入り、黒澤ガイド持参の七輪の上で肉2kgを焼き、深鍋一杯のサラダを作り、私が東京から背負ってきたワイン2本をあけて大宴会となりました。そこに乱入してきたのが黒澤ガイドたちのクライマー仲間のU氏。ほなみさんに小川山の天気を知らせてくれた「現地駐在員」です。既に出来上がっているU氏のセクハラ寸前のジョークに笑わされたり恐るべき身体の柔らかさに感心させられたりで楽しく過ごしましたが、やがてU氏が次なる乱入先を求めて去っていったのを機に宴会はお開きとし、シュラフを並べて爆睡しました。

2001/08/19

■09:30-11:00 ガマスラブ

窓の外の青空を見上げながらゆっくり起床。七輪の残り火でフランスパンをあぶり、コンビーフスープにつけて食べます。豚汁もあるし果物もあるしでふだんより充実した朝食をとってから、バンガロー内部を片付けて荷物を車に積み込み、クライミング用具だけ背負っておもむろにガマスラブへ移動。ここでは基本的なスラブでの動きを練習しました。実を言えば私もちゃんとしたスラブはほとんど経験がありません。広沢寺の弁天岩は一応スラブということになっていますがホールドが豊富だし、湯河原幕岩の悟空スラブなどは傾斜の緩いフェイスといった方が当たっている感じです。ここで長短2本ずつ登ってスラブの感じをつかんでから、八幡沢へ移動。

■11:30-13:30 八幡沢左岸=「トムといっしょ」

八幡沢の堰堤を二つ越えたところで右手(左岸)に見えてきた岩塔に人が登っています。「凄〜い!あんなところを登ってる!」と皆が感心していると黒澤ガイドはこともなげに「あそこを登るんです」。それが今日の課題「トムといっしょ」(5.10a)でした。

パーティーを二つに分けて、まず黒澤ガイドが女性二人を奥のマルチピッチ・ルートである「春のもどり雪」(5.7)に連れて行きました。残された男性3人はしばらく順番待ち。やがてほなみさんがTRをかけてきてから、いよいよ私がトライ。このルートは3つのパートに分けられ、下3分の1は立ったフェイスですが、右のカンテの足場を適当に混ぜて行けばさして苦労なくテラスに出ることができます。また上3分の1は小テラスから上に伸びるはっきりしたクラックの中にいかにもつかんで下さいと言わんばかりのホールドが続いていて簡単に登れます。問題は下のテラスと上の小テラスの間の小ハングの処理で、テラス上でまず右手のアンダーをとって身体を支えてから身体を回りこませて左足を小ハングの下のフットホールドに伸ばし、左手も正面のアンダーで身体を止めて右手を小テラスの縁に出ているホールドにかけます。このホールドが本来はガバと言える大きさなのですが、慣れないとかかりが悪く感じられて身体を上げられません。さらにそこから左手の処理がわからず、ここで数回落ちたところで前腕がパンプして1回目のトライは終了。下からオグ・亮の玉砕を見上げながら休憩して2回目のトライ。今度は試行錯誤しているうちに正解ムーヴを見つけることができました。左足を伸ばしてフットホールドに立ち、右手で上のホールドをとるのはそのままですが、そこで右足を一歩上げたときに、右手をホールドの右からかけているのを上からの向きに持ちかえると完全に止められる文句のないガバホールドに変身。そこで左手は右手の近くではなく左斜め上のホールドをとってやればちゃんと身体を引き上げられる状態になるので、右足で突っ張りながら左足を後ろの突き出た位置に上げることができます。その姿勢から右足を小テラスへ上げ、今度は小テラス上の壁にあるアンダークリングのホールドを使ってじわっと体重を移動させていけば乗り上がっていけるわけです。

終了点にタッチしてロワーダウンで下り、涸れた河原に座ってオグ・亮の再トライを眺めていましたが、ふと左上を見るとずいぶん高いところにロープが伸びているのが見えました。耳をすますとコールの声も聞こえてきて、どうやら黒澤ガイドとかっしい・アイコの3人のようです。やがてあちらもこちらが見上げているのに気づいて、大きく手を振ってきました。

■14:00-17:00 「春のもどり雪」

高度感のあるマルチピッチに生まれて初めての懸垂下降も体験して、女性陣はけっこう恐い思いもしたようですが(かっしいは懸垂下降でブッシュに突っ込んだらしい!)、二人ともとても明るい表情。戻ってきた先発隊と交代して我々も「春のもどり雪」へ。ガレ気味の道をわずかに登って樹林帯に入りしばらく歩くとスラブの岩が押し出してきている場所に出て、ここがスタート地点です。終了点まではここから4P。ロープ3本を使って黒澤ガイド・オグ・亮・私の四重連になり、次々に登っていきます。クライミングシューズのフリクションが信じられれば危険はない傾斜ですが、ほとんど手がかりらしい手がかりのない純粋のスラブというのは新鮮に感じられます。オグ・亮ともここでは順調に高度を上げていって、2ピッチ目から3ピッチ目に移るところで先行のオグが登るのを見送っている間に、下の河原に豆粒のように小さくかっしいの姿が見えました。お互いに手を振り合うと、下からかっしいのよく通る声が聞こえてきました。

かっしい「登ったよぉ!」

げっ、彼女「トムといっしょ」を完登したのか?クライミング体験二日目なのに?オグも亮も登れなかったのに?隣でセルフビレイのスリングにつながれている亮も明らかに動揺しています。続いてアイコがこちらを見上げて、

アイコ「登れなかったぁ!」

「どんまーい!」とコールを返しながらも「いやー、粘って登っといてよかった……」と安堵の吐息を漏らしました。

3P終了点までは、ひたすらスラブの斜面をぐんぐん高度を稼ぎます。最終ピッチは、短いがぐんと突き出た岩塔のディエードルをレイバックで上がって終了。てっぺんからの眺めは抜群で、この高度感こそマルチピッチならではの楽しみです。しかし、そうしている間に黒澤ガイドはエイト環にロープをセットしてオグと亮のハーネスにつけるとさっさと下っていってしまいました。懸垂下降未体験の二人が「あのー、これの使い方は……?」と質問すると、黒澤ガイドは下りながら「下を引けば止まります。緩めれば下れます」と実に簡潔な説明(といっても実際これだけなのですが)。そこで次に下る私が「下の手は絶対に離さないように。姿勢はブランコに座る感じでハーネスに体重を預けること」と補講をしてから下りました。続くオグもなかなかいい姿勢でスムーズに降りてきましたが、最後の亮の下降でアクシデント。終了点での待機姿勢から下降に移るときにエイト環上でロープがクロスしてしまったらしく、ロープがロックされてほとんど下れない状態になってしまったのでした。しかし、なんとか岩塔の下まで降りてもらったところへ黒澤ガイドが登り返してロープを整理することができ、そこから後は全員問題なく下ることができました。

下り着いたのが17時。ここから速攻で車に戻り、信州峠越えの道を飛ばして甲府の駅レンタカーに車を返したのは営業終了時刻ぎりぎりの19時半でした。最後はちょっと冷や汗をかきましたが、皆の素晴らしいガッツに感動し、自分自身もフリークライミングに取り組むモチベーションを得て、実り多かった2日間を終了しました。